第15話 自宅案内2
――姿見
すらいむ癒しベッドに近い、リビングの角っこ。こちらもまた床材が変えられている。小部屋のようになっている形だ。その手前に、大きな姿見はあった。
煙突ワープしてくる前に探索し、メイドとパンツ談義をした例の鏡である。
「アヤメちゃんって鏡見たりするの?」
大きな姿見の前で、ちょっとした余談。
「? ふむむ、あんまりです。見ていても楽しくないですから」
「そっか」
「ユーリはどうなのですか? 大きな鏡、見たりしますか?」
「うーん。僕もあんまりかな。外だと、こういう大きな鏡ってあんまり見る機会なくて」
「そうなのですか?」
「うん。アヤメちゃん髪の毛長いし、いつか僕がセットしてあげるね」
大昔、とぅるっとぅるのキューティクルヘアーに憧れていた時期が僕にもあった。
自前の髪を伸ばすのは大変で、諦めた記憶。
髪結んだりアレンジしたり、遊ぶのって憧れるよね。アヤメちゃんは髪長いから、どうせならいろんな髪型にしてあげたいものだ。
男だって乙女心は持っている。そこに下心はない。本当にない。
「わぁ! えへへー、楽しみにして……」
ぱぁっと表情が輝き。
「む、むむっ」
口元がむいっと曲がる。
「むぅ……」
そして考え込んでしまった。
百面相しているお姫様も可愛いらしい。
「だ、だめですっ。髪の毛をいじっていいのは、もっと仲良くなってからですっ。……そうでしたよね? エイラ?」
「はい。よく覚えていましたね。髪の毛を弄らせていいのは親しくなった方のみ。ユウリでは好感度が足りません」
「はい……。なのでユーリ、まだだめですっ」
「えっと、うん。いつかね、いつか」
ぽりぽりと頬を掻く。
確かに、女の子の髪にそう容易く触って弄っていいわけがない。
好感度システムはよくわかっていないが、いつかの話だ。
アヤメちゃんから許可をもらえるくらい、仲良し度を深めていこう。
――ちなみに。
『私奴は今、ご主人様の脳裏に直接話しかけております』
「うわっ」
びっくりした。
「?」
首を傾げるアヤメちゃんになんでもないと首を振る。
姿見で警戒してたけど、急に来たな、これ。
『ご主人様、その場のお二人はご主人様と異なり優れております故、私奴を察知される恐れがございます。故、手短に』
凛としたボイス。聞き覚えしかないメイドの声だった。
しかしこのメイド、暗に僕のこと劣っているって言ってないか。いやまあ事実かもだけど……。
『お二人との邂逅は後ほど用意しておりますので、少々お待ちください。メイドはいつでも演出を大事にする生き物にございます』
はぁ。なんでもいいよ。何か用があるんでしょ?
『いえございませんが』
「……」
『な・ん・で・も、一つ、ご質問にお答え致しますよ?』
「!!」
露骨に甘ったるい誘い言葉に、僕の背筋に電流が走る……!
見え見えな誘惑なのに……! 僕は……弱いッ!!
【選択肢】
1、好きな下着の色は
2、パンコレください>
3、ブラジャーコレクションはないんですか>
今後、パンコレマスターの称号を受け入れよう。
【2、パンコレください>】
『まったく欲しがりなご主人様にございますね。私奴のパンティはそう安くございません。ですが……うふ♡』
意味深な笑いしないで。いややっぱいいや。パンコレNGで。
『パンティヒントをプレゼントにございます。場所は沼、海、山、谷、にいる四つの看板をお訪ねくださいませ』
なんだかすごい聞き覚えのある台詞だ。というか看板相手って、ミサキでしょそれ。
『うふふ♡ あぁ、私奴のパンティを探し求めるご主人様の姿が目に浮かびます♡』
……一瞬、我に返った。
僕は変態だ……。
――シャワールーム
「ふふーん、ここがシャワールームですっ!」
「えっ」
メイドとの戯れを終え、数歩進んだツルツル床タイルな空間である。
相変わらずドアのない吹き抜けの部屋。
角に置かれた試着室のような構造物に、思わずアヤメちゃんを二度見してしまった。
「シャワールームです!」
「繰り返してって意味じゃないんだよね」
苦笑する。ドヤ顔銀髪美少女、可愛すぎるか。
「それ、どうやって使うの?」
「? ふつうに入るだけですよ?」
と、言いながらぴらりとカーテンをめくって入ってしまった。
数秒後。
「むふ~」
何やら満足そうな顔の少女が出てくる。
髪の毛しっとり、お肌ツヤツヤ、美少女がキラキラ美少女になって帰ってきた。
「今の数秒で何があったんだ……」
「魔法と科学の産物ですよ」
「……了解、未来ファンタジーね」
説得力しかない単語である。
その後アヤメちゃんに「ぜひ!」と無理矢理体験させられた。
よくわからなかったが、お風呂後の清涼感だけ残る不思議な感覚を味わえた。
これからも利用させてもらおう。
――ゲーム機
シャワールームの反対側。食事スペースより柱を挟んで向こう側だ。仮眠用のベッドとゲーム機、テレビが置かれている。
「ゲーム機だよね、これ」
目の前に鎮座するゲーム機。
僕の知らないメーカーのものだ。まあ異世界だし……剣と魔法のファンタジーはどこへ……。
「!!!」
「……え、なに、アヤメちゃん」
なんだかものすっごいきらっきらな目が僕を見ていた。
困ったな。今世の僕がイケ☆メン過ぎて見惚れちゃったか。
「ユーリ!!」
「はい!」
「いっしょにゲームがしたいですっ!」
「いいよ」
僕の妄言はさておき、アヤメちゃんは変わらず真っすぐ眩しかった。
急に呼ばれるから何を言われるかと思ったら、可愛いお願いだ。キラキラな目に可愛いお願い。叶えてあげねば男が廃る。
ということで、カチャカチャCDのようなミニディスクをセットしたアヤメちゃんがゲームを開始する。
最初は対戦ゲームだった。
「んふー、わたしはベテランなのでとってもつよいのですっ」
「そうだね(ニッコリ)」
満足げに息を吐く美少女に僕も嬉しい。
【選択肢】
1、その吐息を僕が吸って巡り巡って僕自身も美少女に……
2、その吐息、言い値で買いましょう
3、僕もアヤメちゃんの吐息になりたい……
拒否拒否断固拒否!!!
【Godhackingです。今回はあなたの心の奥底の欲望なので消してあげましょう】
「?!!?」
システム……いや神様さぁ。結局このシステムも全部神様のせいなんじゃん。はぁ……。
【※システム設計は私がしましたが、実装は"世界"に任せました※】
「…………」
考えるのは、やめておこう。世界とか……ね。よくわからないし。
いったん頭をリセットし、横を見る。
「~♪」
ご機嫌なアヤメちゃん。この子あんまりゲーム上手じゃない。CPUアリの対戦ゲームだけど、僕がフォローしないと普通に負けてるよ、これ。
「やたっ、またわたしの勝ちですねっ」
「そうだね(ニッコリ)」
可愛いからなんでもいいか。忖度する価値はある。あぁ、浄化される。
いくらか遊んで、次は協力ゲームとなった。
謎に逆立ちする花瓶入りのおじさんが登山するゲームだ。意味不明である。
「アヤメちゃんって、エイラとゲームしてこなかったの?」
崖上で厳めしいオヤジ(ロリ美少女操作)を待つ間、聞いてみた。
人間ではないが、エイラもゲームくらいできるだろうに。
「ん……」
急にしょんぼりしてしまった。しゅんとしている。
「ごめんね。聞いちゃだめだったかな?」
「いいえ。ちがうのです。エイラは……とってもゲームが得意なので、いっしょに遊んでも楽しくないのです」
「あぁ、そういう……」
納得しかない。
「補足しましょう。エイラはアヤメ様に最適解を掲示し、最善の道を舗装しているに過ぎません」
「これはエイラの存在理由――raison d'etreになるので改善は容易くありません。しかし、アヤメ様が真に望むのであれば」
「アヤメちゃんそこまでは望んでないよね!!」
矢継ぎ早に言わないでくれ。ゲームは緩くやろう。
「? はい。今はユーリがいますから。エイラはエイラのままでいいですっ」
チカチカと光ってエイラは再度浮遊し始めた。
心なしか満足げだ。僕も僕のままで良いって言われたいところ。
「まあ、うん。アヤメちゃんが満足するまでゲームに付き合うよ」
微笑む。これも姫仕え騎士の役割である。
アヤメちゃんは。
「えへへ、ありがとうございますっ。いっぱい遊びますよ!」
眩しい笑みを浮かべた。
この笑顔だけで、色々手をかける価値がある。




