第14話 自宅案内1
少々の親密度上げタイムを挟み、自宅案内が始まる。
「まずは家の全体図についてエイラからお伝えしましょう」
「え、うん」
アヤメちゃんがするんじゃないんだ、とお姫様を見てみると。
「? えへへ~」
にこぱーと笑まれてしまった。大変お可愛く思います。笑顔万歳。
「アヤメ様の自宅は快適性を加味し必要以上に広くはしていません。玄関へどうぞ」
「うん」
「はーいっ!」
言うまでもなく、元気な返事はアヤメちゃんだ。
エイラに先導され玄関へ。
「玄関扉には自動靴脱ぎシステムを採用しています。最低限の回復と汚れの洗浄も含まれているため、屋内が汚染される確率は低いでしょう」
急にウルトラファンタジックな機能が来た。
詳しく聞くと「魔術の応用」云々。よくわからないけどすごい。
「玄関からは寝室とリビングに通じていますが、ネット閲覧用のパソコンも置かれています」
「わたしの遊び場です!」
「そっかー」
ニコニコで椅子に飛び乗りくるりと回った少女を撫でておく。顔を(>▽<)とさせ喜んでいる。可愛い。
「他に洗面台、緊急用ポーション一式が用意されていますが、使う機会はないので割愛します。次はリビングです」
ほうほうと頷きつつリビングへ。
水色絨毯の玄関から赤色絨毯のリビングへ移動である。
「こちらが食事、入浴、疲労回復、ゲーム、仮眠を行うスペースです。個々のスペースについてはアヤメ様が説明されるので、後ほど」
「はいはーい!わたしの出番もありますからねっ」
ぴょんぴょん跳ねて胸を張る。えっへんドヤ顔。揺れたお胸がとても良いと思います。だめだ。変態だ。僕は地蔵になりたい……。
「……えっと、ありがとね。じゃあリビング終わり?」
「いえ。もう少々説明を。窓に寄ってください」
「了解」
てくてく窓へ。カーテンをシャっと開けるが、先は霞がかって見えなかった。白い霧のような、謎のもやもやだ。見ていたら酔いそうな雰囲気。
「外界との接続が不安定なため外の景色は見えません。そのうち見えますが、見えるだけで断絶しているので注意を」
「へー。開けたらどうなるの」
「あなたは死にます」
「ええ……」
超展開過ぎるだろ……。
「エイラは存在強度が高いので死にません。アヤメ様はお可愛いので死にません」
「なんだよその理屈」
「???」
疑問符いっぱいお姫様。確かに可愛い。
「いくら上位の加護があろうと、所詮脆弱な肉体。エイラが改造してあげましょうか?」
「結構です」
「えー」
「なんで君が不満そうにするのさ……」
「えへへ~」
喜怒哀楽激しい少女の頭をうりうり揺らす。きゃぁきゃぁ叫んでいて可愛く、楽しい。
いやはや、この子と接してるの楽しいぞ、これ。グングン好感度が上がってく。
「リビングはこれで終わります。寝室に関してはアヤメ様のベッドと暖炉がある程度なので、説明は不要でしょう。目印は紫の絨毯です」
「それくらいは見ればわかるよ」
爪の腹で頬を掻き、まあまあと頷く。
「エイラ。色々ありがと。お姫様、部屋案内お願いしてもいいかな」
隣でキラキラ目を輝かせている少女へ伝えると。
「まっかせてくださいっ!」
太陽スマイルで頷いてくれた。
今度こそ、自宅案内の開始である。
――料理
「この部屋来た時から思ってたんだけど、この料理、何?」
リビングの中心。リビングは柱を挟んで二つに分けられているので、その一つだ。大きな長机にシチューの鍋が並べられている。
ちなみにキッチンらしき空間も設備も存在しない。
「シチューですよ」
「それはわかるよ。……これしか置いてないの?」
「そうですよ。この隔離空間にナマモノを持ち込むことはできませんから。栄養素が定まった完全シチューです」
実際食べてみて美味しかったから文句は言えないが……。
ご機嫌に鼻歌を歌う銀髪美少女を見る。
「~♪」
冷蔵庫を開けてシチューを取り出す姿に和んでしまう。
アヤメちゃんが僕の視線に気づいて、とてとて寄ってくる。可愛い。
「ユーリ? なにかご用です?」
「いやなんでもないよ」
可愛い問いかけに首を振り、「シチューお食べ」と言っておく。
返事は元気な「はいっ!」だった。いっぱい食べて大きくなりな。でも胸はもう育たなくていいからね。童貞にクリティカルだから。
「ねえエイラ。本当にシチューしかないの?」
「はい。ですからユウリ、アヤメ様の食生活を豊かにするため、たくさんの美味しいものを食べさせてあげてください」
なるほど……。
「もちろん。ご飯は大事だからね」
また一つ、目標が増えた。
アヤメちゃんにいっぱいご飯を食べさせてあげよう。必須事項だ。
――洗面台と鏡
「この家、結構いろんなところに鏡あるよね」
リビングだけでなく、玄関にも洗面台があった。
「ふっふっふー、気づいてしまいましたねっ」
ドヤってる。かわいい。気づいてしまいましたよ……!
「そんな大事なことだった?」
「いいえ! わたしもなんでだか知りませんっ!」
はぁ。可愛いね。何も知らなくても可愛いからいいね。うん。
「――補足は必要ですか?」
二人で頷く。
「この家はエイラを創造した"博士"主導で作られたものです。博士は"水も滴る良い女"を常に意識している変人でしたので、暇なときはよく水濡れになっていました。そのため、家のあちこちに水場があります」
キャラが濃すぎるだろ。
「だから洗面台多いのか……」
「知りませんでした……! このおうち、作った人がいたんですねっ」
長く住んでいるだろうに、何も知らないアヤメちゃんにほっこりする。
「今まで気にしなかったことも、人が増えると気にしたりするからね。一緒にお勉強、させてもらってもいいかな?」
可愛いお姫様に、ニッコリとお願いする。
「ん……」
ちょっとだけ戸惑ったようにして、でもすぐ。
「はいっ! いっしょにお勉強ですっ!!」
眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。
しかし冷静に考えたら、僕ってこの家で暮らしていくなんて一言も言ってないような……。いいか。仲間だし。一緒に暮らすのは普通でしょ、たぶん。
――謎風呂
リビング……というより、リビングから通じる謎風呂だ。ドアも仕切りも何もない場所にオブジェのごとく置かれている。
「アヤメちゃん、このお風呂? みたいなの、お風呂? だよね?」
全部疑問形なのは仕方ない。だって部屋から直通で風呂場に繋がっているから。
普通もっとこう、引き戸とかすりガラスとか……お風呂ってそういうのでしょ。
「ふふー、残念です! そこはお風呂じゃありません」
「あー、そうなんだ……」
「(どきどきっ)」
キラキラと目を輝かせている何か期待している少女に「じゃあ、ここ何?」と尋ねる。
「ここは"すらいむ癒しベッド"です!」
「なんて……?」
「"すらいむ癒しベッド"ですっ」
「なんだそれは……」
ドヤ顔アヤメちゃんは可愛いが、言っていることは理解できなかった。
「"スライム癒しベッド"とは、言葉の通り心身を治癒する効果を持つ"癒しスライム"を独自に改良し詰めたベッドを指します。弾力のある濡れないお風呂だとでも思ってください」
するっと解説が挟まれる。さすがエイラ。さすエイ。
「なんだかすごそうだね……」
「ユーリも入りますか!? とぉっても気持ちいいですよ!」
キラキラだ。なんでそう、キラッキラな目で僕を見るんだろう。
童貞心的に拒否はできない。つまりやれ、ということ……。
「ふっ、いいよ。スライム癒しベッド。挑戦してみようじゃあないか!」
「わぁ! じゃあばーんと飛び込んでください!」
言われるがまま、しかし恐る恐るお風呂に入り込んだ。
感想は一つ。
「おお"ほ"ぅ"……」
気持ち良すぎてちょっとオホっちゃったよね!!




