第13話 自宅(拠点)案内前
アヤメちゃんがパーティーに加わった!
のは、いいんだけど……。
「……」
「♪」
ちらと銀髪美少女を見て、楽しそうな姿に頬を緩める。
しかしである。
しかし、これからどうしようか。
僕の目的を振り返ろう。
第一目標、童貞卒業。
第二目標、謎狂団の撲滅。
終わり。
「ふーむ……」
とにもかくにもダンジョンを脱出して、この世界のことを知らなければならない。なんだよ男装乙女エロゲ世界って。今のところ片鱗一切ないぞ。
……嘘をついた。割と片鱗はある。アイテムとか、装備の見た目変化なしシステムとか、技名とか。
「ユーリ、なにを考えているのですか?」
「え、うーん。えっとね。これからどうしようかなって」
アヤメちゃんは、むむっと考え込む。
誤魔化しが通用する。なんて優しい世界だ。
「ふむむ。冒険の理由探しですか?」
「まあそうだね」
一緒に考えてくれる可愛いアヤメちゃんに、ふよふよ光玉が寄ってくる。
「で、あればアヤメ様。今後のためにもアヤメ様ハウスの紹介を行うのはどうでしょうか。家を見て回っているうちに方針も決まるでしょう。友人を家に招いた時はルームツアーがマナーです」
「!」
「どこのマナーだ……」
僕の発言はスルーされ、アヤメちゃんがぶん!と髪を揺らし僕を見た。ふわりと、何やら甘めな香りが漂う。良い匂いだ。
どんなシャンプー使ってるんだろう。
「シャンプーではなくアヤメ様の体臭ですよ」
「ナチュラルに僕の心を読まないでくれる!?」
最悪だ。まるで僕が変態みたいじゃないか。あ、変態だったわ。ハハッ。
「失礼。変態なユウリであれば考えそうなことだったので。思考外であったのならば謝罪しましょう」
「……謝らなくていいよ」
事実だからね……。
「そうですか」
嫋やかな微笑を幻視した。くそぉ、考えちゃった僕が悪い……!
「ユーリ、ユーリ」
「うん、うん。なに?」
そわそわしている少女を見る。可愛いか。
なんでもいいけど、年下の可愛い女の子に名前呼ばれるのっていいよね。くすぐったい。
「わたしのお部屋をご案内ですっ!」
きらんと笑みが眩しい。僕もニッコリした。
「ふふ、うん。お願いしよっかな」
「はいっ!」
色々気にはなっていた、謎めく未来ファンタジーっぽいルームツアーが今、始まった。
――が。
「ユーリ、ユーリ」
移動も束の間、お姫様に呼び止められる。
「はい、はい」
なんだろう。急に可愛く呼びかけられるとドキッとするよね。
「わたしのお名前を呼んでくださいっ」
「え、アヤメちゃんでしょ?」
呼ぶと、むむっと唇が曲がる。可愛いか。
「わたしたちはお友達になりましたっ」
「そうだね」
「そうですっ。なのにどうしてユーリはわたしを"ちゃん"と呼ぶのですか」
「アヤメちゃんはアヤメちゃんでしょ」
ご不満姫である。頬が膨れていて大変愛らしい。この子は"ちゃん"付けするのにふさわしい可愛さだと思う。
しかし当人はとても不満そうだ。
「ではエイラを呼んでみてください」
「うん。エイラ?」
「はい、友よ。何か御用ですか?」
エイラからの好感度が上限突破している。身に覚えのない好意は畏れよって僕の前世の本にも書いてあった。あぁでもラノベだから信じなくていいか。
「ううん。用はないよ。アヤメちゃんに呼んでみてって」
「ええ。理解しています。しかしエイラは友の呼びかけに応えたいと思っているのです。理解しなさい」
「ええ……」
優しいのか理不尽なのかどっちなんだ。
表情のない光玉だけど、普通に真顔で言ってるのが目に浮かぶ。
「むぅぅっ! わたしは"ちゃん"なのにどうしてエイラは呼び捨てなのですかー!!」
かわいい。膨らんだほっぺたもちもちしてあげたい。
「や、エイラにはそうしろって言われたからね……」
別に深い意味はない。可愛い女の子を急に呼び捨てはちょっと童貞的に難易度が高いから、というのはあるかもしれないが。
「アヤメ様、ユウリは童貞なのでアヤメ様を呼び捨てにすることが気恥ずかしいのですよ。彼の惨めな羞恥心を汲んであげてください」
「言い方!」
なんだ惨めな羞恥心って。いやほぼ事実だけど……だめだ、童貞という事実が僕のすべてを破壊する。やっぱつれぇわ……。
「どうてい?」
可愛い仕草で危険なワードを言う。この子にはまだ早い。年齢知らないけど。
「いやなんでもないよ。とにかく……呼び捨てで呼べばいいの?」
それなりに気合を入れて尋ねる。我、童貞ぞ。アヤメちゃんは。
「はいっ!」
イイ笑顔で頷いた。息を吸う。
「すぅ……ふぅ……」
ついに僕も女の子を呼び捨てにする時代が来たか……。
「あ……アヤメ……ちゃん」
「む~~」
僕は、童貞だ…………。
「アヤメ様、今少し、ユウリからの好感度が足りないようですね。これから好感度を稼いで呼び捨てにさせましょう」
「!!」
「なるほどです! ユーリ!」
「え、うん。なに?」
やばい、何も見てなかったし聞いてなかった。アヤメちゃんがやたら元気になってる。何があったんだ。
「これから毎日わたしと冒険ですからねっ!」
太陽みたいな笑顔が僕を照らした。眩しい、尊い……。
「うん。こちらこそよろしくね」
生温かいエイラの視線を避けて頷いた。




