第12話 お友達同盟(パーティー)結成
『~FIN~』
「いやFINじゃないけど!?!?!?」
目の前全面を覆い尽くしような文字列と、真っ白な背景を無理やり振り払う。
急に現実に引き戻された。
なんなんだいったい。
変に涙出てるし、さっきまでトリップしてたみたいだったし、知らない歌しっかり歌えてるし……。
「すごいすごいっ。すごいです~!!」
美少女の無邪気な歓声と。
「――ぐすっ」
従者の泣き声と。
「エイラさんが泣くのか……」
そっちが泣くのは想定外。
「ユーリ!すごいです!不思議なお歌でした!わたし……わたしのためのお歌でした?」
「うん。……そうみたい。僕ってアヤメちゃんと会ったの、初めてだよね?」
「はじめてです! わたしはエイラしか知りません。ずっと寂しかったです……」
「そっか……」
優しく頭を撫でてあげる。
つい手が出てしまったが、エイラさんからの文句は飛んでこなかった。
「ん……♪」
アヤメちゃんも目を閉じてうっとりしている。
「……」
正直、さっきの歌はよくわからなかった。
歌詞も情景もほとんど覚えていない。「いきなり知らない自分の記憶見せられても頭追いつけないよ……」状態である。
映画に置いてけぼりにされた視聴者の気分だ。さっさと忘れて頭の奥に放っておきたい。
けど。
「……」
「んぅ……?」
けど、この子を……目の前で寂しがっている可愛い女の子を放置はできないなと思う。
放置したくないって、歌の残滓が叫んでる。"僕"ならわかってるだろ、と。
「……まったく困った性分だよ」
自称神様から"他者目標"を授けられて、童貞を捨てると言う"自己目標"を掲げはしたけれど、まだ僕の人生に明確な"目的"はなかった。
目前の少女をもう一度見て、我ながら単純だなぁと苦笑してしまう。こんなんだから前世でずっと童貞だったのだ。
「……ねえ、アヤメちゃん」
「はいっ!」
眩しい。
この笑みを守りたいと思う。
自分由来の感情じゃない気もするし、魅了を受けているような気もする。それでもいいかと思う。
だって、年下の女の子を守って助けて一緒に冒険するなんて、絶対一人で旅するより楽しいから。
二度目の人生、楽しく行こう。
後悔せずに笑って死のう。
あの自称神様に、「最高に幸せだったぜー!」と言えるように生きてやろう。
「改めて、僕と一緒に冒険の旅をしない? 旅はきっと、一人より二人の方が楽しいからさ」
思うままに笑いかけて、一切飾らない素の自分で手を差し出す。
誘い文句は0点だ。それでいい。誠実に真っすぐ、彼女と向き合っていこう。
アヤメちゃんは。
「……」
目を丸くして、じっと僕を見つめた。数秒後。
「びっくり、です……」
「びっくり?」
「はいっ」
こくりと頷く。何故驚いたのだろうか。
「わたし、ユーリのこと良い人だと思ったんですっ」
「ありがと」
「ですけど、すぐにいなくなるとも思っていたんです」
「どうして?」
「人は、とっても儚い生き物って聞きました」
目を伏せる彼女に、僕もそっと目を伏せた。人生二周目野郎が言うことではないけれど、確かに人は……真実とても、儚い。
「……まあ、そうだね」
「だからあんまり、期待しないようにしようって。すぐばいばいしてもいいようにしておこうって。……そう、思っていたんです」
頬を掻く。
この子、思ったよりちゃんと考えていたようだ。少し甘く見てた。ごめん、アヤメちゃん。
「でも、ユーリのお歌を聞いて、ユーリとお話をして」
「ちょこっとだけ、期待してもいいのかなって……そう、思ったんです」
「……そっか」
外の世界に憧れて、色々情報だけは手に入る場所で長く過ごす。
そこで何を思うのか、僕にはわからない。
だけどこれで、一つはっきりした。
「いいよ、期待して」
彼女の期待には、存分に応えよう。
今の僕は前世の僕と違う。ちょっと特別で、ちょっと特殊で、到底ただの人間なんて言えない体だから。
「いいのです……?」
「うん。大丈夫、僕、死んでも蘇るから」
厳密には不死身だとか、おそらく神様に強制蘇生されるだろうとか考えられるけど。それだけじゃない。
「そ、そうなのですか?」
「うん。それに、僕がもし死んじゃっても、アヤメちゃんが僕を蘇らせてよ。そうすればずっと一緒でしょ?」
この世界には蘇生薬がある。蘇生魔法もある。だから生き返らせてくれれば、僕はこの子と長い間、一緒に居られる。
普通の人は何度も何度も蘇生されたら魂が摩耗すると聞いたことがあるけれど、僕は前世のせいか、いくら死んでも簡単に蘇られた。まあ、蘇生してくれる人がいなければ死んで終わりなんだけどね。
「それは……! たしかにです……。わたしが起こしてあげれば、ずっと一緒ですっ!」
「ね。だから期待していいよ。――いっしょに冒険、しようっ!」
少しだけカッコつけて、ニカリと笑ってもう一度手を差し出す。
アヤメちゃんは僕の手を見て、僕を見て、もう一度手を見て。
「はいっ!!! 一緒にぼうけんですっ!!」
満開の笑顔で頷いてくれた。
重ねられた小さな手を握り返し。
『"雪妖精女王姫のアヤメ"が仲間に加わった!!』
謎のファンファーレを華麗に聞き流し。
「――話はまとまったようですね」
先ほどから静かにこちらを見守っていたエイラさんに向き直る。
なんとなく、雰囲気が柔らかくなっているような。
「うん。あなたのお眼鏡に適いましたか、エイラさん」
「敬語は不要です」
「えっ」
「敬称も不要です」
「え?」
「エイラはあなたを認めましょう。あなたの愛が時を超え、世界を越え、今この場に届きました。――お疲れ様です。ユウリ」
「――――ぇ」
はらり、と涙がこぼれる。
理由はわからない。意味がわからない。一滴、二滴で止まったそれの理由を、僕は知らなかった。
「涙の理由は平行世界の自分とでも思ってください。さあ、アヤメ様」
「はいっ。よくわかりませんが、エイラもユーリを認めたんですね!」
「はい。この男は……少々馬鹿で愚かで変態な童貞ですが」
「ひどい言い様だ……」
童貞はともかく、変態もともかく。馬鹿……もともかく。愚かは違うから。たぶん。
「何よりアヤメ様を想い、恒星より熱く輝く愛を死の先まで持ち続けた、唯一無二の存在です。ええ、アヤメ様の旅路にふさわしい人間ですよ」
頬を掻く。罵倒されたり褒められたり。感情が追いつかないぜ……。
「んふー、じゃあ決定ですね! ユーリ! これからわたしたちはお友達です!!」
ニッコリと。アヤメちゃんは眩しい笑みを浮かべる。
「長く険しいぼうけんの旅へ! 出発ですっ!!」
ぴょんと跳ねて、元気よく腕を振り上げる。
「おー!!」
叫んだのは僕ではない。エイラさん……エイラである。そういうこと言うタイプなんだね……。
「ユーリ? ほらユーリも!」
美少女に促され、僕も気持ちを入れる。これからはこの子と、エイラと。三人パーティーだから。
「出発でーーす!!」
「おーー!!」
「お、おーーーー!!!」
気恥ずかしさを抑え、声を合わせ拳を上げた。
『"アヤメ"との関係が"お友達"になった!』
『"エイラ"との関係が"終生の友"になった!』
――miniファンファーレ
「ええ……」
僕の頭はどうなってしまったんだ……。
「わぁぁっ!! ぼうけんっぽい音楽?です! これがお外の世界ですか……!」
「知ってはいましたが、やはり興味深いですね。さあ行きましょうか」
「二人にも聞こえるんだね!?」
音楽(BGM)じゃなくて音楽(SE)だけど、これも聞こえるらしい。
どんな仕組みだよほんと。あの神様、何してくれたんだ……。
溜め息を飲み込み、気を取り直す。
旅に出よう。アヤメちゃんとエイラと僕の、三人旅だ。色々忙しくなるぞー。
実はここまでがほぼプロローグ。
ゲーム的に言えばヒロインとの出会い……までの導入でした。




