表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタルシス  作者: つきたておもち
第7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/65

64

「体調に変調は、ないのですか?」

 月島のその問いにも、橘は頭を振り、否定する。

「本当に、何かがあった訳ではないので、大丈夫です。センセ。心配をかけて、ごめんなさい。」

 橘は月島へ心配をかけた、と謝罪をする。そして月島に、立ち上がるよう、手を差し出した。

 しばらく、月島は跪いたまま橘の顔色や表情の変化を観察していたが、小さく息を吐くと、

「話してもらえますか?」

 立ち上がり手近にあった椅子を引き、橘とタクヤに向かう形でそこに座った。

 座ると月島は、先にタクヤを見る。

 タクヤは月島からの視線に、小さく首を横に振った。

『彼』の深層で、何があったのか、と月島の視線はそう訊ねている。

 その月島の問いに答えられる何かに、タクヤは全く気づいていなかった。橘の身に何があったのか、タクヤにはさっぱりわからない。『彼』の深層は、前回に降り立った状態より、断然良くなっていた、とタクヤは感じたし、そう評価した。

 澱んでタクヤの肺を侵していた空気は、かなり清んでいた。気持ちの悪さを大して覚えることはなかった。

 景色は茶色一色であったが、昏さは薄れて、うっすらと光が射していたように感じた。

 そして何よりも、歪に曲がった一本の木に、一輪であったが小さな白い花が咲いていたこと。

 良い兆候が見られていたと思う。むしろ、悪い兆候は特に何もなかったと、タクヤは思う。

「負の何かがあったのでは、ないのです。センセ。」

 タクヤのその評価に同調するように、橘が口を開く。

「コトネさんに、負荷がかかってしまったのではないのですね。」

 橘に月島が再度、体調に異変はないのかと念を押した。そして、

「先ほど、『彼』をカウンセリングしていた私の感覚でも、『彼』の深層に、何か大きな負の変化が起こっていたようには、見受けられなかった。」

 月島は先ほどまでのカウンセリング対象者だった『彼』の状態を口にする。月島のその言に橘は、はいと賛同をした。

 つまり、橘もあの深層にイヤな感覚を覚えなかった、ということだ。

 なら、なぜ。

「なら、なぜ橘さんは、『浄化』をしなかったのですか?僕の『浄化』も止めてしまったし。何もしないまま、戻ってきてしまいました。」

 単純な疑問。

 イヤな感じはなく、むしろ良い方向への変化だったタクヤのその評価と橘の評価は一致している。そうであれば、更なる快復のために、あの場で『浄化』を施せば良かったのではないだろうか。その行為を否定する理由は、ないように、思う。

 けれども橘は、小さく首を横に振る。そして、タクヤを見て、

「あまりにも、変化がありすぎたのです。それが良い方向だったとしても、です。わたしが施している『浄化』は、急激な変化をもたらすものではありません。あくまでも、自浄作用を促すものです。」

 そして、月島を見て、

「それなのに、『彼』の深層は、自浄作用を促す以上の力が働いているようにわたしには思えて。そもそも。」

 彼女はそこでいったん黙った。

 が、すぐに、そもそも、と、続け、

「あの場は花が咲くような場ではないはずです。今まで『彼』は花を咲かせたことはないと思います。」

 だから、と、

「どうしたら良いのか、判断ができなくて。良い方向への変化だったから混乱してしまっただけ、なんです。」

 体調は大丈夫です、と弱々しくながらも笑みを見せた。

 月島は橘の言葉に大きくうなずくと、

「コトネさんの判断は正しかった。」

 と、橘の判断、対応をすぐさま肯定する。

「急激な変化は、良きにつけ悪しきにつけ、避けなければなりません。だから、コトネさんの判断は正解です。」

 コトネさんの身に何もなくて良かった、と安堵した表情を浮かべた。

 タクヤはその彼らへ、

「急激な変化、だったのですか?快復に向かっているように見えても、駄目、なんですか?」

 タクヤが月島と橘の会話の中から疑問に思ったことを、すぐさま口にする。訊ねて良いかどうか、と思案もせずに問うた。

 職場でなら、そのようなことはしない。口にする前に、言葉にして良いのかどうかをいったん自分の中で思考を巡らせてから、口にする。社会に出てからのそれが、良い意味でも悪い意味でもクセになっていた。

 だから、月島のカウンセリングの手伝いの話をもらった当初は、そのような対応をしていたように思う。けれども。

 この場の話は、タクヤにとって全く意味のわからない、理解できない会話の応酬だ。

 最近は少しなら、『浄化』を施す話であれば、理解できるようになった。それは、実体験に基づくものだからだ。『浄化』を施す内容であれば、何となくではあるが、月島と橘の会話を理解できるようになり、彼らの話の中に入ることができるようになってきていた。

 けれども、なんとなくわかるようになったのは『浄化』の話だけであり、その他のスピリチュアルな会話は、依然としてタクヤは理解できず、会話に入ることができなかった。

 このような質問をしてもいいのだろうか、と自身に問いかけている間に次から次へとタクヤにとって意味のわからない会話の応酬が続き、結局は理解できないまま話が終わってしまっていることが何度かあった。会話が終わったあとに月島が、彼らの会話の内容が理解できていないタクヤに気づき、結果、タクヤが理解できるように、彼らはタクヤへ最初から丁寧に説明をする、といった状況が何度かあった。それは、タクヤが月島たちの時間を大きく取ってしまっている状態になる。

 ゆえに。

 この手の話が始まったときは、タクヤは疑問を挟んで良いのかどうかの思案をすることを止めたのだ。

 それに、彼らはタクヤが話の腰を折るようなタイミングで、しかも彼らにとってたぶん突拍子もない、または初歩的であろう質問であってもイヤな顔を見せず、タクヤを邪険に扱うこともなく、むしろ反対に丁寧に答えてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ