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カタルシス  作者: つきたておもち
第6章

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 初めてタクヤが他人の心の深層に降り立ったそこは。

 彩りは全くなく、茶色の世界だった。

 砂漠のような景色に似てはいるが、砂漠なら陽光により濃淡があり、照らされた砂の輝きも見られる。

 けれどもココは、濃い茶色の、単色の景色だ。

 砂地の合間に所々に見える木々は、ひょろり、と幹だけが長く、その先に葉はない。つまり、幹だけの木々があちらこちらに立っていた。その幹だけの木は、まっすぐに立っているモノもあるが、いびつに曲がっているモノも一定の割合で混ざっている。それらが一層、この風景の不気味さに拍車をかけていた。

「死にかけた、世界?」

 この場に降り立ってみたタクヤには、この場の命の息吹が感じられない。

 ゆえの、こぼれ落ちた、問い。

「これくらいの状態では、そうは言いません。」

 隣に立つ橘が、事務的な口調でタクヤへ答える。

「永良さんのときは、この場とは比較にならないくらいに、もっと澱んでいました。まだここは、綺麗な茶色の風景です。」

 いつものように、感情が読めない表情と、凛とした雰囲気をまとっている。

 月島の診察室で見る橘とは真逆の雰囲気は変わらずで、そのギャップにタクヤは一向に慣れなかった。

「僕はここよりも、もっと澱んでいたっていうことなんですね。」

 この場の状態でも、この場に立つタクヤはあまり良い気持ちではなかった。なのに、タクヤが月島のカウンセリングを受け始めた当初のタクヤの深層は、もっと悪かったと、橘は告げる。

 と。

「橘さん。僕、なんだか気持ちが悪いです。」

 息をひとつ吸うごとに、よどんだ空気が肺に入ってくるような、感覚。

 そもそも深層に肉体を伴わない精神だけが降り立っている状態で、息を吸う、という行為が必要なのかどうかはわからない。タクヤは自身の深層で『浄化』の微風を渡らせているときに、そのようなことにまで気が回っていなかった。

 けれどもこの場に立って、気持ち悪さを覚えて初めて、この場の空気がタクヤの肺に入る感覚を自覚した。精神領域の話であれば、息をしなくとも支障は無いだろうが、やはりなんとなく、呼吸はしなければ、と思ってしまう。

 そのように訴えるタクヤを、橘はちらり、と見ると、

「早々に、終わらせましょう。」

 と、彼女はジャケットから例のランタンを取り出し掲げた。

 コレが彼女の『浄化』の方法。

 とは言え、劇的に何かの変化が見られるわけではない。

 タクヤの視点からでは、この場には何の変化も感じられない。

 けれども。

「初回はこれぐらいでしょう。」

 橘はそう言うと、手に掲げているランタンを、その懐にしまう。そして、そのままこの場を引き上げてしまいそうな雰囲気の橘にタクヤは慌てて、

「あの。僕は何をすれば。」

 いいのか、と。訊ねようとしたその先を橘は、

「いつものように、すれば良いことです。」

 ちらり、とタクヤを一瞥し、答えた。

 いつものように、と言うのは、タクヤが自身の深層で渡らせている微風を、この場でも吹かせれば良いと言うことか。

 タクヤは橘の言葉にうなずくと、タクヤを器としてタクヤの中に入ってしまった自身の力の結晶である水晶玉に意識を集中させる。

 今でこそタクヤは、タクヤを器としている、タクヤの力の結晶である水晶玉に意識を向けることができるが、初めてのときは、どのように集中すれば良いのかさっぱりわからなかった。

 その後の、橘や月島の指南を受けながら練習をしてみたが、それでも最初の1か月位は、さっぱりわからないままだった。

 けれども、練習をし始めて2か月が経つ頃、それは前触れもなく突然に、タクヤの周りに微風が吹いた。吹いた、といってもホンの少し風がふわりと、タクヤの頬を撫でた、くらいのものだ。

 ただ、タクヤにはそれがタクヤの『浄化』の力だとは思わなかった。タクヤにとって心地の良い風が吹いた、くらいに感じただけだ。そのような心地の良い風は、タクヤが自身の深層に降りると、この緑鮮やかな場所には時折吹き渡っているからだ。

 それでも、心地の良い風が吹いた、が、タクヤの意思で吹かせることができたのだと、隣に立っていた月島の表情からすぐにタクヤは気づいた。

 以降、少しの風ではあったけれども、とは言え何かこれといったキッカケを掴んだ訳でもなく、タクヤは立っている深層に微かではあるものの、風を渡らせることができていった。何がどうなってそうなったのか、といったことは、タクヤにはよくわからない。何らかのコツを掴むことができたのだろうとは思うが、何がコツだったのか。

 ソレは感覚だった。頭で考えてのモノではない。

 深層に立つタクヤの身体を器にした、という、タクヤの力の結晶に意識を巧く向けることができたのだと思う。タクヤが力の結晶である水晶玉に意識を向けることができたことで、水晶玉がそれに反応したのだろう。


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