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カタルシス  作者: つきたておもち
第5章

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 月島のタクヤを買ってくれているその気持ちはありがたい。タクヤを認めてもらえているのだと、嬉しい感情がじわり、と、心を満たしてくる。

 けれども。

「月島さんのその話だと僕は結局、月島さんたちの手伝いができない、ということになるのでは、ないですか?」

 月島が求めているのは、他人の心を『浄化』する力。

 タクヤのその能力は月島のお墨付きであり、問題はない。自分の心を『浄化』することも、月島からできている、と合格点をもらっているため、その力を発揮することも問題はないはずだった。

 ただ、防御することができなければ、月島が求めている手伝いはできない、ということにならないか。

「そのことなんですが。」

 月島はタクヤの言葉に、自身が組んだ両手に顎を乗せて視線を落とし、考えるかのように再び黙してしまう。

 月島のその態度に、やはり、リハビリは卒業となり、この月島の診察室を辞去しなければならないのか、と感じてしまう。

 そう考えるタクヤの心には、一抹の淋しさと、ホンの少しではあるが悲しみで痛む気持ちがない交ぜでわいてくる。

 月島のカウンセリングやツカサ医師の診察が晴れて終了となれば、タクヤは彼らの診療所の扉を叩くことは、もうない。あったとしたならば、それは再びタクヤが心の不調に陥ったときであり、そのような再会はしたくはなかった。

「永良さん。」

 と、月島から彼のいつもと違う硬い声音でタクヤは名を呼ばれ、やはりこのまま卒業となるのか、と、少し緊張した面持ちで月島を見遣る。

 月島は落としていた視線を上げると、

「私を、信用してくれていますか?」

 タクヤへそう訊ねてきた。

 ソレは、何を今更な、問い。

 月島を信用していなければ、このような胡散臭い話にタクヤは耳を傾けていなかった。タクヤがリハビリと称して、タクヤの心の深層に降り立ち『浄化』をする行為は、たんなる月島からの催眠か何かにかかったからだ、として、どちらかと言えば現実主義者であるタクヤは切り捨てていたはずだ。そもそも、最初のカウンセリング終了の話がでたところで、残念に思いながらも、結局のところ月島の診察室に通わなくなっていただろう。

 タクヤが月島から問われたそのことに抱いた感情が、タクヤの表情に現れたのか。それとも、タクヤの心の内を読み取ったのか。

 月島はタクヤの返事を待たずして苦笑を浮かべ、申し訳ない、と小さな声で謝罪をする。

 そして、

「永良さんのその稀有な力をお借りしたい。是非とも、私の手伝いをお願いしたい。」

 と、彼は改めて強い口調でタクヤへ申し出た。

 それは、タクヤにとって嬉しい彼からの回答だ。タクヤがそう望み、タクヤから申し出た事柄だ。

 けれども、

「僕の手伝いは、月島さんの迷惑では、ないですか?」

 防御ができない。ということは、己を護る術がなく、丸腰のままだという意味だ。月島や橘の手伝いで被支援者の深層に降り立ち『浄化』を施している際に、タクヤ自身がその被支援者から貪られてしまう危険性があるのではないか。

 無意識に無自覚にコネクトしてしまうのであれば、なおさらだ。そうなったときに、月島たちの手伝いどころか、迷惑になってしまわないのか。

「だからこそ、私を信用しているのか、という問いです。」

 月島からそう返され、タクヤは弾けるように月島を見返す。

「永良さんの、その綺麗な力の結晶をそのまま維持して欲しいという、いわば私の我がままで永良さんに防御の方法を敢えて教えないのですから。私の手伝いをしていただく以上、永良さんを護るくらいは、します。」

 そのように笑顔で言う月島の瞳は、いつしか銀色の虹彩だった。

「護ることができる自信がなければ、永良さんの申し出を受けはしませんし、永良さんのその相手に同調してしまう能力を確信した時点で、私はこの話は白紙にしています。」

 月島は銀色の瞳のまま、タクヤの瞳を捉えて、にこりと笑み、

「コトネさん同様に、永良さんの身の安全も私が保証します。」

 そう言い切った。

 月島の強い感情がその心にあるときに、彼の虹彩は銀色に変化するのか。その瞳の変化は、彼の強い負の感情のときだけでなく、強い前向きな感情のときにも現れるのか。

 ポジティブな感情のときの、銀色の虹彩とは言え、それでもその瞳の色は、タクヤにはやはり細く鋭く長い剣を彷彿させるモノだ。けれども今は、その瞳に恐怖感は覚えず、それよりも心強く感じている。

 タクヤが心強く感じているその銀色の瞳は、とても綺麗だと思う。月島はタクヤの『浄化』の力の結晶が、またタクヤの深層の景色は澄んでいて綺麗だと言ってくれているが、月島のその銀色の瞳こそ力強く、尚且つ澄んでいて、とても綺麗だ。

「でも、副業申請はしばらく待っていただけますか。」

 副業申請をしなければ、月島の手伝いを、タクヤはできない。副業申請をせずに職場へは内緒で月島の診察室へ通い、そのことが職場にバレてしまったときの処分は軽くはないだろう。そう考えると、タクヤは副業申請をし、職場の許可を得たうえで月島の手伝いをしたいのだが。

 月島の言う意図が掴めず、不安気に少し首を傾げたタクヤへ、

「他人の深層の『浄化』となれば、永良さんが今、自身の深層に施している『浄化』とは、また少し違います。しばらく慣れるまでは練習期間が必要となるので、その練習期間もリハビリとしましょう。橘には私から、報告します。」

 カウンセリングの終了ではなくて、まだ治療中ということにした方が良いとのことのようだ。

「それに、永良さんは、主治医の指示で今は時短勤務です。時短勤務の期間に副業申請は、心の病に理解のある会社であっても通らないでしょう。」

 いつの間にか銀色から普段の、薄茶色の瞳の色となった月島から、そのようにも指摘される。

 そう言われれば、タクヤも月島の指摘するその通りだと思う。月島のカウンセリングから卒業だといった宣言により、タクヤは月島たちとの縁をつなぎ止めるために、咄嗟に口から飛び出た、副業申請だ。熟考した末に、満を持して出した案ではない。

 ゆえに月島からのその提案に、

「そうですね。月島さんの言うとおりです。」

 と、タクヤは素直に了解すると、月島は柔らかく笑んだ。

「では今まで通りに、次回も永良さんの都合の良い時間に来室してください。」

 お待ちしていますね、との月島からの依頼に、タクヤの小波打っていた感情が、徐々に凪いでいく。先ほどまでとは全く違う、心落ち着いた気持ちとなる。

 けれども。

 そういえば月島が持つ、タクヤと橘とは違う『浄化』の能力とは何なのか。それを月島から聞かされていないことをちらり、と頭の片隅を掠めた。

 が、それは月島にとってタクヤへわざわざ伝えなくても良い内容だと判断したからなのか。それとも、敢えて伝えたくないのか。

 これまでの月島とのやり取りから、タクヤには後者に思えてしまう。

 なので、

「月島さん。これからもよろしくお願いします。」

 と、そのことには触れずに、タクヤは来週にも来室する旨を月島に伝え、出入り口まで送ってくれた月島からの手の振りに応えてその場を辞去した。


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