52
ただ、タクヤが少しでも彼らの言葉に耳を傾けると、彼らは元気を取り戻すように見え、そしてタクヤへ嬉しそうな笑顔を見せてくれるので、ソレがタクヤには単純に嬉しかった。
タクヤの自己満足だといえば、それまでの行為。その行為はタクヤの承認欲求を満たすためなのかも、知れない。
疲れている彼らの話に耳を傾けるそれらを続けて行ってしまえば、タクヤ自身の体調が崩れてしまうことについては、三十路間近まで繰り返し経験していれば、とうに気が付いてはいた。気が付いてはいたが、タクヤの体調が不調に陥ってしまう原因の一端であろうその行為は、彼らの負の感情に中てられた的なモノだと、タクヤの気分的なものだとタクヤは捉えてはいた。
けれどもタクヤが心の不調に陥るそれら行為は、月島からは、タクヤの浄化する力を、延いてはタクヤが持つ水晶玉の力を彼らが貪る行為によるものだ、と告げられた。そして、今日までそのことによる不調を自らで復調させるための『浄化』の方法を、月島と橘から学んでいたのだ。
そう言えばタクヤは月島から、タクヤ自身が自ら、彼らにその力を分け与えてしまっている、と言われていなかったか。
そのことを思い出したタクヤは思わず、目の前でタクヤを見ている月島を改めて見遣る。
タクヤからのその視線を月島は受け止めると、
「そうです。永良さんは、自らの力で相手の心にコネクトしてしまう。また、それが出来てしまうんです。だから、コトネさんとも初手から同調しやすかった。」
と、タクヤの考えていることを肯定するかのようにうなずき、
「彼女が淹れた紅茶の効果など、ちょっとした補佐的な意味合いでしかない。彼女が淹れた紅茶を口にした者が全て、コトネさんと繋がりやすくなるわけではないのですから。」
続けてそう話す。
月島の放つその内容に、緊張のためか知らず生唾を飲み込んだタクヤへ、畳み掛けるように、
「私の今のこの答えが、永良さんの疑問の、二点目の回答につながります。」
人差し指と中指を立てて見せた。
「私も怪しげな能力保持者です。」
月島のそのストレートな物言いに、タクヤの表情が動いたのだろう。
「今更、永良さんに対して、誤魔化すことに意味はありません。すでに私の銀色の瞳を晒していますから。」
月島は苦笑を浮かべる。
「ただ私が持つ能力は、コトネさんや永良さんの持っている能力と少し種類が違います。またコトネさんや永良さんより少しだけ能力が高い、ということだけです。」
違う能力、というのはやはり読心術のようなものなのだろうか。
そのタクヤの疑問に、月島は違います、と軽く頭を振り、
「永良さんが他人と同調しやすい性質で、加えて私の能力が高い、というところが、永良さんが考えていることが私にはわかってしまうのだと、私は分析しています。こんなにも同調しやすくて考えが読み取れてしまう人は、私も永良さんが初めてですから。」
何とも言えないような表情を見せた。
つまり、月島も戸惑っていた、ということか。
「永良さんの深層に同行して、永良さんに引っ張られてしまったあのことは、私としてはかなり衝撃的な出来事でしたよ。」
それは3か月前のあの出来事のことを、月島は指しているのだろう。あのときは確かに月島らしくない、子どもっぽさがあった。あのときの彼は、深層の中のタクヤに似ていた。ゆえにタクヤに引っ張られていた、と言われればそうだったのかもしれない。確かあのとき、子どもっぽさを見せた月島はその瞳を銀色へと変え、タクヤとの同調を断ち切った、と橘に話していた。
けれども。
「僕の共感力の高さと、僕の防御力を高める訓練をしない、ということの繋がりが、僕には見えないのですが。」
月島が言うように共感力が高く、何もかもを受け入れてしまうからこそ、それを防ぐ力を得る必要があるのではないだろうか。タクヤが望むとも望まざるとも自身の力を分け与え、また貪られくすんでしまったあの景色を、元の緑鮮やかな心地よい景色に戻すため、タクヤを器にしたというきらきらと輝く水晶玉の力を使い、微風を渡らせ浄化する。だけではなく、力を分け与えてしまうそのことを制御できれば、また貪られるそのことを防ぐことができれば。防御と浄化を併用できれば、もっと良いのではないかとタクヤは考えるのだが。
タクヤのその考えを月島は否定する。
「それは諸刃の剣なんです。」
月島のその言葉はどういう意味か。
「防御というのは、いわゆる永良さんの、共感力、同調するといったその素晴らしい力を閉じる方向に働きかけてしまいます。その力を閉じることにより、今、永良さんの持つ、その澄んで美しい『浄化』のその大きな力を、永良さんの手元から無くしてしまうことになりかねません。」
そう言った後、月島は大きく首を横に振った。
「無くなる、まではいかなくても、弱まるのは確実でしょう。そうなれば、今の永良さんで無くなる可能性が零ではない。」
だから、と、
「私は永良さんに、防御の方法を教えないのです。教えたくない、といった私個人の感情ですけれども。」
月島は困ったような表情で、防御をタクヤへ教えなかった理由を口にした。
「私は以前にも永良さんに言いましたが、永良さんが持つその『浄化』能力の高さ、清浄さは稀有なもの、です。長年、さまざまな人の深層に降り立ってきましたが、永良さんのような、あれ程に澄んだあの大きさの力の結晶を持っていた人はいませんでした。」
月島は、タクヤを真っ直ぐに見て、
「防御、つまりコネクトする力を閉じることで、あの澄んだ結晶の力が弱まり、永良さんの永良さんらしさを損なうことを、私は良しと出来ないのです。短所と思えるモノは、反すれば長所ですから。」
柔らかい笑みを浮かべながら、そう言う。
月島のその言葉にタクヤはドキリとした。
短所だと、タクヤは思っていたし、思っている。他人に寄り添える、と言えば聞こえが良いが、都合の良いように使われている、といった感はあった。それでも、友人や同僚達の元気な姿を見ることはタクヤの喜びではあった。タクヤが気にかけることで、もしかしたら彼らは元気を取り戻したのだ、と思えることは純粋にタクヤは嬉しかった。
タクヤも、自己肯定感を得るために、彼らに寄り添うといった行動を起こしていたということは否めない。同僚や友人達に寄り添い、耳を傾けるといったタクヤの行為はたんなる自己満足だ。そう考えれば、お互い様だ。
タクヤの持つ『浄化』の力を、己の心の修復のために貪っていた彼ら。自分から弱ってしまっている彼らのその心にコネクトして、『浄化』の力を分け与え、それを自己肯定感を得るために利用していたタクヤ。違う視点からでは、ウィンウィンの関係だろう。
永良さん、といつの頃かタクヤの対面に座るようになった月島が、タクヤを優しげなトーンで呼ぶ。
「永良さんが自身で短所だと評価しているその部分は、私から見ると長所、なんです。私個人の意見で申し訳ないですが、その永良さんの長所を、私は失いたくない。」
それは、カウンセラーの月島のカオ、ではなかった。
「永良さんの心の健康のことを考えると、私のこの思いはカウンセラーとしては失格です。」
つまり、月島個人の思い、考えだということだ。




