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カタルシス  作者: つきたておもち
第5章

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 それは何故なのか。本来なら、自身を回復する術と同時に、タクヤに害成そうとするモノから、少しでも身を守ろうとする術を教えてもらっても良かっただろうに。

「永良さんが、考えているその通りです。」

 月島はタクヤの考えを肯定する。

 が、彼は、

「けれども、私は永良さんにそれらのことを今後も教えるつもりも、伝えるつもりもありません。」

 そう否定した。

 月島のその答えに、タクヤは反射的に目の前に座っている月島を見返した。

 そう言えば、タクヤはいつから月島と対面するような形で座るようになったのだろう。以前は、彼とは真正面ではなく、斜向かいで座り、カウンセリングを受けていたのに。

 見返した先の月島は、真剣な眼差しをタクヤに向けたままで、タクヤのその疑問には何も答えない。

 それは、タクヤが今、疑問に思っているそのことが、彼にはわからないのか、答えたくないのか。答えるに値しない、些末なものか。

 そうタクヤが見返した先の月島は、

「私は、永良さんの考えの何もかもをわかるのではないのです。」

 苦笑混じりで、

「今、私は永良さんが、何かを疑問に思ったようだ、とは感じましたが、それだけです。」

 そう返してきた。

「私は他人の心の中がはっきりと文字や映像などで見える、ではなくて、たぶん、その人の表情の変化や視線、場合によっては声のトーン、そして、話の流れなどから感じてのことです。一種の推測、のようなものなのかもしれませんね。」

 では、今までの月島がタクヤの心の中が見えているような会話の応酬も、そうだったのか。やはり、読心術などといった怪しげな力を持つ話は、タクヤが考えていたように空想の物語の中だけか。タクヤの面前に座ってタクヤを見ている月島は、心理職といったプロの技術で以て、タクヤの心を的確に推し量っていただけか。

 しかし、目の前に座っている月島は首を軽く横に振ると、

「それは一部分は正解ですが、永良さんの場合、大部分が不正解です。」

 タクヤが口にしていなかった疑問に答えた。そして続けて、

「私が永良さんへ、今までしてきたリハビリの間に気がついたのですが。」

 そう言い、そこで彼はいったん、口を噤んだ。が、すぐにタクヤを真っ直ぐに見て、

「永良さんは他人と同調しやすい性質のようです。」

 そう、口にする。

 同調?と問うタクヤに、そうです、と月島は、

「同調しやすい、ではなく、正確には、永良さん自らが同調してしまう、コネクトする、ですね。それが、永良さんの能力なのでしょう。」

 と、答える。

 意味が、わからない。

 リハビリに同意するまでのタクヤなら、怪しげな話だとそのまま捨て置いていたが、今、タクヤは月島のことを信頼している。彼の口にする怪しげな話も、空想物語ではなく、真実なのだと受け止めている。

 なんといっても彼がタクヤを立たせてくれた、緑鮮やかなあの場所は、現実だ。あの場はタクヤが月島から見せられた、夢や幻視、幻聴ではない。

 なので、

「僕は『浄化』の能力だけでなく、僕が自ら他人と同調してしまう能力も持っている、ということですか?」

 素直に問う。

 タクヤの問いにうなずく月島へ、更に、

「その同調とは、どういう意味ですか?同調してしまうから、僕の考えていることが、月島さんにわかってしまっているのですか?それとも、やはり月島さんには読心術のような、人知を超えた能力があるのですか?」

 理解できない部分と、もとから抱いていた疑問を口にし、タクヤは自身の目の前に座り、真剣な眼差しでタクヤを見ている彼へ改めて問い直した。

 タクヤの放ったその疑問に、月島は姿勢を軽く正す。それは、タクヤの疑問に、真摯に向き合おうといった態度に見えた。

 月島はタクヤの瞳を真っ直ぐに捉えたまま、人差し指を立て、

「永良さんの疑問の、まず、一点目、です。」

 と、

「永良さんは、他人の感情に敏くはないですか?」

 反対に問いかけてきた。

 首を傾げたタクヤへ、

「機微に敏感。共感力が高いと、言われたことがあるでしょう。」

 断言する、言葉。

 機微に敏い、共感力が高い、と面と向かって言われたことはないが、それらしいことは友人、職場の同僚や上司から言われたことは、ある。ただそれは、相手が嬉しい気分の時や楽しい気分の時よりも、不調の時に気づくことがほとんどだ。何かを吐き出したいような雰囲気だったり、吐き出したいがために話を聴いて欲しそうだったりする雰囲気を、目聡く察知してしまう。そしてタクヤはそれらに気が付いてしまったら、それを放置できない性質たちらしい。たとえ自身の心身とも体調が不調の状態であっても、頼まれれば、また頼まれなくても自ら、彼らの話に耳を傾ける機会を数分であれ、設けてしまう。


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