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カタルシス  作者: つきたておもち
第4章

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 そう考えると、タクヤだって、そうだ。

 タクヤは橘のように月島への心酔や傾倒感はないが、それでも感謝の念は抱いている。その感謝は月島だけでなく橘に対しても、だ。

 あの、昏闇の中、タクヤは膝を抱えて小さくなって、ただ時が過ぎるのを待つしかなかった。時間の経過がタクヤにとって唯一の癒やす方法だった。タクヤがツカサ医師や月島、橘のいる診療所の扉を叩かなければ、タクヤはいまだにあの昏闇の中でうずくまっていたはずだ。

 それを、ゆっくりではあるが、あの闇を彼らは薙ぎ払ってくれた。彼らは、いわばタクヤにとって恩人になる。

 その時、タクヤの後ろで橘が、

「永良さんに同調してってセンセは言っていますけど。」

 と、タクヤと月島の会話に入ってきた。

 何を彼女は語るのだろう、とタクヤが振り向くと、彼女はふわふわとした雰囲気で、

「センセの横着さは、永良さんに同調してが原因ではなくて、元々のものですから。開封してしまったクッキー缶をあのような場所に仕舞うことは、わたしからするといただけません。」

 口調はおっとりだが、その言葉の中身はキツイ注意喚起だった。 

 しかし、ただ、と、

「そのことをセンセに注意をしたわたしに対してのセンセのあの態度は、おそらく、永良さんに同調してしまっていた、はあったのでしょうね。」

 と、一応は月島の弁明をする。

「僕との同調、ですか。」

 それは、先ほど月島が話していたことか。タクヤとの同調というのは、タクヤがあの場所に立った時に、思春期の頃に戻ってしまっていたタクヤと同調してしまっていた、といったことか。

 つまり、月島はあの場所に立つタクヤに同調してしまったから、彼の態度が幼くなり、それゆえに、今までの月島の態度と比べて違和感があったのか。

 あの、若干拗ねたような態度だったアレは深層のタクヤに引きずられていたためで、そもそもの月島ではなかったということ、なのだろう。

「私が一瞬、目蓋を閉じたアレは、永良さんとの同調を断ち切るためのもので、おそらくその時に私の瞳が瞬間、銀色に変化をしたのでしょう。」

 カウンセリング時に見せる、爽やかな笑顔。

 彼が話すその内容は、今までと同じく荒唐無稽な内容だ。けれども、彼がウソや妄想の類の話をしているか、と言えば、そうではないことをもうタクヤは理解している。

「永良さん。明後日は9時頃に、お待ちしています。」

 出入り口でタクヤを見送りながら、月島は明後日の約束を口にする。月島が提案した約束の時間に、タクヤは、

「え。9時、ですか?」

 と思わず訊き返してしまった。

 今までは、午後からの約束だった。月島の休診日の午後、もしくは今日のように午前診療終了後の休憩時間か、だった。明後日は午前のカウンセリングの予約は入っていないのだろうか。

「私との面談の時間は、最初にも言いましたが、永良さんの社会復帰のためのリハビリも兼ねています。」

 月島は明後日の9時といった約束の時間の提示理由を、

「なので、診察室に来ていただく時間を、永良さんの出勤時間にあわせていった方が良いでしょう。この診察室でも、簡単な事務仕事はありますので、コトネさんを手伝って頂けると助かります。」

 カウンセラーの顔でそう告げる。

 そう言えば、と。月島がいったんのカウンセリング終了をタクヤに告げたあと、この『浄化』の話を持ちかけた際に、彼はタクヤへ今後の面談はタクヤの社会復帰のための『リハビリ』だと言っていたことを思い出した。彼は律儀に、本当に、この面談を、タクヤがタクヤ自身へ『浄化』を施すことができるように、だけでなく、心が落ち込む前までの生活に戻すことも視野に入れている。それに、生活リズムを整えろ、というのは、ツカサ医師からの助言でもある。

 最近のタクヤは本当に体調が良い。ツカサ医師からの助言もあり、早寝早起きをしているし、それが継続できている。夜間の中途覚醒なく、ぐっすりと眠れている。それにともない、早朝の軽いジョギングも続いている。この現状だと9時に訪院することは可能であり、苦ではない。

 けれども、

「永良さん。朝の9時の来室は、まだ難しいですか?」

 タクヤが月島の提案に即答せず押し黙ったので、月島はタクヤがまだ体調が安定しきっていないのかと、心配する。

「私の永良さん向けのこの面談は、永良さんにはやはり辛い、ですか?進め方が、性急すぎますか?」

 もう少し時間をかけた方が良いか、と最後にぽつりとそのような呟きを落とした月島に、

「いいえ。大丈夫です。本当に、体調はとても良いんです。早朝のジョギングも続けられていますし。」

 と、慌てた感でタクヤは、

「明後日、9時にお邪魔します。」

 よろしくお願いします、と頭を下げた。


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