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月島は、月島に合わせて立ち上がったタクヤに近づき、その隣に立って向かい合うと、
「永良さん。先ほどは失礼しました。」
カウンセリング時に見せる、いつもの爽やかな笑顔を見せる。
「永良さんに同調してしまったようで、あのような態度になってしまいました。」
驚かれたでしょう、と彼は話しながら診察室を出て、受付のある出入り口へ、タクヤを誘導する。橘も月島とタクヤの後ろから付いてきている。並びは、月島、タクヤ、橘の順だ。
「あのような態度って、」
と、タクヤはそこでいったん言葉を区切り、タクヤの斜め前を歩く月島を見やる。タクヤからのその言葉に、月島は出入り口へ向かうその足取りを止め、はい、と応いながらタクヤへと振り返った。タクヤへ振り返った月島は、タクヤがカウンセリングを受けているときの、カウンセラーの顔をした月島だ。穏やかな気を纏っている、月島だった。
なので、タクヤは思い切って、
「月島さんの瞳が、銀色に光った、ことですか?」
心に引っかかっていたそのことに触れた問いを、発した。
あのような現象は、普通、人には起らないはずだ。そもそも日本人の虹彩で、銀色に光る瞳を持つ者は、ほぼ居ないのではないだろうか。それとも月島のルーツに、海外の血を引く者がいる、ということなのだろうか。
それでも、今、タクヤを見ている彼の瞳の色はブラウンだ。グレイ、ではない。持つ虹彩が突然に変化することなど、人体であり得ない。しかも、あの瞳の色は『グレイ』ではない。冷たい、細くて長く鋭い刃物を連想させる『銀色』の瞳、だった。
「永良さんには、私の瞳がそのように見えましたか。」
タクヤからのその問いに、月島は動じることなく、淡々とした、普段のカウンセリングをしている彼のままで問い返してきた。彼の感情が動いている気配は、見られない。
「はい。月島さんの瞳が銀色に光ったのを、僕は見ました。」
ゆえに、タクヤも素直に肯定した。
先ほど月島が話した内容が本当ならば、今のタクヤが何を考え、疑問に思っているのか、どのみち月島にはわかっていること、だ。
「そうですか。」
月島はタクヤの肯定に、すぐに言葉を返さず黙す。
あのとき月島は、彼がいったん目蓋を閉じて開けた銀色の瞳にタクヤは驚き、声を上げたことを知っている。あの場でタクヤが驚いたことへ、何かを伝えようと月島は口を開きかけた。その内容は、タクヤへの説明、なのではなかったかとタクヤは思っている。
それとも。
アレは、タクヤの見間違いだ、とでも返ってくるだろうか。
または、違う話題へと転換するか。
タクヤの斜め後ろに一緒になって立ち止まった橘の気配に、特に変化はない。静かにこの場の成り行きを見守っている、といったところだろうか。
月島はタクヤの問いに一時黙したがすぐに、
「アレは、永良さんの見間違いではありません。永良さんが見たとおり、私の瞳は銀色に光っていたのだと思います。」
いつもの爽やかな笑顔でそれを肯定した。
「いわば、私の特殊能力のひとつ、といったものです。私が力を発揮しているときには、どうも瞳は銀色に光るらしい。」
この場の雰囲気は、いつものままだ。張り詰めた感もなく、普通に世間話でもしているようだ。だが、その内容はスピチュアルの方に向かっている。
タクヤは月島のその回答に、思わず橘へと振り向く。それは、さきほど橘が何か言いかけたのを、月島が遮り会話を強制終了させてしまった内容なのか、確かめるためだ。
振り向いた先の橘は、タクヤへふわふわとした笑顔を向けてくる。
それは肯定なのか否定なのか。彼女の表情からは、タクヤは何も読めなかった。
彼女のその様子から、タクヤは知らず軽くため息をつく。そして、月島へ再び向かい合い、
「その、特殊能力というのは、『浄化』のことではないのですか?」
問いを重ねる。
その、タクヤからの再度の問いに、月島は、
「『浄化』と言えば『浄化』の部類になるのでしょうが、私は自分には『浄化』能力は無い、と思っています。」
穏やかな雰囲気は変わらず、
「私はコトネさんや永良さんのような『浄化』は、できませんから。」
そう、答えた。
やはりそれは、タクヤには意味がわからない答えだった。
ただ、月島にも何らかの力がある、ということなのだろう。そう言えば当初、月島が話をするときの抑揚や声のトーンなどは、橘とその相手の深層に繋がりやすくする、というような意味合いの言葉を言っていたことを思い出す。月島の特殊能力は、彼らが言う『浄化』というもののその種類が、タクヤや橘のモノとは違う、ということなのか。『浄化』の補助的な能力なのか。
橘とは種類の違う特殊能力を月島が持っているから、橘は月島へ傾倒しているのか。種類の違う特殊能力保持者、といっただけではなく、どのような形かはわからないが、月島が橘を助けた事実があることも、彼女から月島への傾倒感に拍車がかかっているのかもしれない。




