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カタルシス  作者: つきたておもち
第4章

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 意志の強さがうかがえる、薄茶色の瞳。

 先ほどタクヤが見た、鋭くて冷たさのある、強い銀の色ではないが、その薄茶色の瞳にも強さが見える。それらから、月島の再度のその宣誓は信用できる。

 タクヤが月島からのカウンセリングを受けていたときの彼は、穏やかな薄茶色の瞳と雰囲気が常だった。

 この月島の診察室は、いつも穏やかな時間がゆっくりと流れている、といった印象だ。それは、この部屋の主である月島の性質が反映されているからなのだろう、とタクヤは思っている。

 職業上とはいえ、穏やかで優しい雰囲気が常で、柔らかな耳に心地の良い声で、静かな笑みを絶やさない、月島。タクヤがこのカウンセリングを受けているときの、それが彼の本質の姿だと思っていた月島の姿だった。強い、であったり、圧がある、であったりはなかった。最初にこの月島の診察室の扉を開けたその時から、穏やかさ、安心感がある空間だといった、タクヤの印象だ。

 その点、タクヤの主治医であるツカサ医師は違った。

 身体の大きさもさることながら、少し張りのあるバリトンの声。顔の造形もどちらかといえば強面に近い。月島のような爽やかな好青年といったのとは、少し遠い方だとのタクヤの感想だ。初対面ならば緊張する者もいるかもしれないし、実際にタクヤはツカサ医師と初回に対面した時にはとても緊張した。

 が、ツカサ医師は言葉を交わしてみればおっとりとした雰囲気が醸し出され、最初の一言を交わすだけで印象が、がらりと変化してしまう不思議な魅力の持ち主だった。だからこそ、弱っていたタクヤは、ツカサクリニックの受診の継続ができたのだと思う。そして、ツカサ医師からの勧めだったから、月島のカウンセリングの扉を叩いた。

 タクヤが信用した医師からの紹介であった、月島。

 実際に出逢った月島へも、タクヤは信を置いている。この『浄化』という荒唐無稽の話により、彼への信はいったん揺らぎはしたが、その後のやり取りから、タクヤの中では月島に対しての信頼と信用は目減りせず、抱き続けている。

 そう言えば、と。ツカサ医師は月島と橘の、この荒唐無稽な話である心の『浄化』という、知らない者が聞けば胡散臭く思ってしまう治療をしていることを、知っているのだろうか、といった疑問が不意にタクヤの中に浮かんできた。彼は知っていた上で、タクヤに月島のカウンセリングを勧めたのだろうか。それとも全く、彼の関与しない事、なのだろうか。

 それならば、ツカサ医師の妻である『橘コトネ』が月島のカウンセリングの手伝いをしているこの現状を、どう捉えているのか。

 そのように考えながら月島を改めて見返したタクヤへ、

「橘も私の、この『浄化』を治療として施していることを知っています。」

 月島はそう答える。そして、続けて、

「彼はコトネさんにその力があることも、彼女が私の仕事の、つまり事務仕事ではなく『浄化』の一端を担っていることも承知しています。」

 とも、付け加えた。

 つまり、ツカサ医師はこの荒唐無稽な話を信じている、ということか。それは、月島がツカサ医師の友人、だからなのだろうか。また、彼の妻である『橘コトネ』も関与していることだから、だろうか。

 そのように推測するタクヤへ、月島とタクヤそれぞれの、斜め隣の椅子に腰をかけている橘が、ふわふわと、

「センセとわたしを繋いでくれたのは、ツカサですもの。だからセンセがこの『浄化』といった治療を施していることは、無論、彼も重々承知しています。」

 そう付け足す。

 月島と橘が知り合ったきっかけは、ツカサ医師、だと言うことか。そのきっかけとなったのは、月島とツカサ医師が高校の同級だから、か。

 と、考えたタクヤの脳裏に、先日の、月島に助けてもらったといった意の、橘が落とした言葉が蘇ってきた。

 その記憶から、

「もしかして、橘さんは僕と同じく、月島さんの患者、だったのですか?」

 たどり着いた推測で以って、タクヤはそう訊ねていた。

 それならば、医師である『橘ツカサ』が、月島の語る怪しげなスピリチュアルな内容を信用している事実に納得できる。

 しかし。

 月島はタクヤのその問いに、

「コトネさんは、私の『患者』ではありません。」

 と、即座に否定した。

 なら、月島と『橘コトネ』はどのような繋がりなのか。彼らの関係は、どこからくるものなのか。橘はなぜ、こんなにも月島に傾倒しているのか。

 しかし、月島の否定のその答えに橘が、そうですね、と、

「正確に言えば、わたしはセンセの『患者』では、なかったです。よく似た立ち位置ではありましたけど。」

 と、ふわりと月島の言に付け足した。そして、

「それに、センセはわたしのような『浄化』ではなく、」

 と、彼女が何かを言いかけたその時。

「そろそろ、次の方の予約時間がきてしまいますね。」

 彼女のその先の言葉をまるで遮るかのように、月島は間髪を入れずにそう言葉を挟み、おもむろに立ち上がった。

「あ。はい。」

 月島のその勢いに引きずられて、タクヤも椅子から立ち上がる。


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