42
「月島さん、ありがとうございます。」
気を使わせてしまっている。
タクヤはもうすでに、月島や橘に対して、彼らがタクヤに害成す者だといった疑心は、抱いていない。彼らを信用しているという、タクヤは自身の心を確認済みだ。
「いただきます。」
と、タクヤは橘にも礼を言って、紅茶に口を付けた。
口にした紅茶は、タクヤがカウンセリングを受けるときに口にしていた紅茶と同じ香りが鼻を抜けた。
「美味しいです。」
世辞ではなく、本心だ。タクヤが月島のカウンセリングを受けだした当初からタクヤへ振る舞われていたこの紅茶は、紅茶のことはまるっきり解らないタクヤでも、美味しいと感じてしまう。
それは先日、橘の特殊能力が混じっているとの話からかも、とちらりと思わなくもないのだが、そう勘ぐってもこの紅茶を口にすることに今は拒否感はなかった。
「ニルギリ、ですか?」
先日、橘がふわふわと怒っていたときに月島がタクヤへ伝えたこの茶葉の名をタクヤは思い出し、橘へそう訊ねる。
タクヤからのその問いに、橘は嬉しそうに笑んで肯定した。
「クッキーとも、とても合いますよ。」
どうぞ、と橘はクッキーを紅茶の共に食するよう、勧めてくる。
それにもタクヤは礼を言って、橘が紙皿に取り分けそれぞれの手元に置いたクッキーを口にした。
そのクッキーを口にしながら、そう言えばこのクッキーはこの部屋のローボードに仕舞われていた、そのことをタクヤは思い出す。そして、先ほどの月島へのタクヤの印象の変化。その変化に対する、何となくの違和感。その後の、月島の銀色に光った瞳。加え、タクヤには意味がつかめない月島と橘の会話の内容。
訊ねても、良いのだろうか。
秘密、といった類ではなさそうな気はする。現に月島は銀色に変化した瞳をタクヤへ晒した後の、タクヤの驚いた表情、声に何かを言いかけた。その言いかけた内容は、説明、だったのではないかと思う。
それとも、やはり誤魔化そうとした内容だったか。
否。
タクヤは自身のその考えを否定する。先日の、この怪しげな内容を彼らがタクヤへ伝えた時からの、彼らの言動から考えると、ソレは無い。それに先日、誤魔化そうとしているのか、とタクヤが勘ぐったことに、月島は一瞬だけであったにしろ怒りを露わにした。それはタクヤが初めて見た、感情を大きく動かした月島の姿だった。
つまり、この話をタクヤへ伝えた時点で彼らの基本スタンスは、タクヤへは正直に話そうといったところなのだと思う。
そう考えに至ったタクヤがそれでも、タクヤが訊ねても良いものか、躊躇していることがわかったのだろう。橘が、
「センセは永良さんに、引きずられてしまっていたんです。」
とても珍しいことですけれどもね、とふわりと笑みながら、タクヤが訊かずとも、訊きたがっていた答えを彼女が口にした。
彼女のその言葉に月島もうなずき、
「永良さんは、コトネさんと比較的、相性が良いのですが、私は永良さんとは、ソレよりも更に相性が良いようなんです。」
と、彼は苦笑を浮かべる。
その月島の言葉に、タクヤは軽く首を傾げた。
そもそものところ、相性が良いから、タクヤは月島と橘の言う『浄化』という名の治療を受けることができたのではなかったか。それに、相性が良すぎることは、困ったことなのだろうか。タクヤにとっては相性が良かった故、治癒が進んだことになるので、良いことだと思ってしまう。タクヤ自身ではどうすることもできず、ただ、時間が経過することにより、闇が薄まっていくのを静かに待つしかなかった。その身動きが取れなくなっていたタクヤの状態を、月島と橘がゆっくりとではあるが、闇を払い、あの緑鮮やかな景色へと戻してくれた。
月島たちからの話だと、相性が良いからこそ、彼らが言う『浄化』を受けることができるのであり、相性が悪ければ上手くいかないようにタクヤは聞き取れていた。
「永良さんが今、考えている、その通りです。相性が良いから私たちは『浄化』を施行できます。」
月島はタクヤが言葉にしなかったにもかかわらず、タクヤの疑問の答えを口にする。
そのことに、タクヤの顔色が少し動いたのだろう。月島は続けて、
「コレも、相性が良すぎるからです。」
と、
「すべてではないのですが私は何とはなく、永良さんの考えていること、思っていることが、わかってしまいます。」
他の人とはこれほど迄ではないのですが、と言い訳めいたものを付け足しながらも、申し訳なさそうな表情だ。
しかし、けれども、とも続け、
「この間も言いましたが、永良さんが嫌がるところまでは、相性が良いといっても見えませんし、見えたとしても私はそのことを決して口にはしません。」
そう断言した。
タクヤはそう断言する月島を改めて見やる。




