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そう言えば昨日は、茶葉は橘から触ることを許されていないから、と言って月島からは紅茶ではなく彼がドリップをした珈琲を馳走になった。
橘は醸し出している全体の印象がふわり、としているので、彼女の発する言葉があまりキツく感じないが、よくよく吟味してみればこの場でも結構、強いことを言っていることにタクヤは気づく。ふわりとした雰囲気をその身に纏っているから気づきにくいが、彼女はあの場に立っている彼女のままの、芯をしっかりと持った人物なのだ、とタクヤは再認識した。
また、橘とやり取りをする月島のその姿から、タクヤの月島への印象も、変化した。
もともと月島へは、堅い几帳面な印象をタクヤは持っていた。それが昨日、彼も少し軟らかさもあるのだと知った。けれども今は、何となく子どもっぽく映る。若く見えるのではなくて、幼さが見える。月島はもっと落ちついた感の、大人の態度が平素だとタクヤは勝手に思っていたのだが。
タクヤからのまじまじとした視線を受けた月島が、ふと、何かに気づいたように、あぁ、と言葉を落とすと、
「失礼。」
と、突然に目蓋を閉じた。
ただ、目蓋を閉じたのは、一拍だけだった。彼はすぐに閉じた目蓋を開ける。閉じていた目蓋を開けてタクヤを見返してきたその瞳の色は、銀色に光っていた。
「あ。」
その瞳の色に驚き、タクヤは思わず声を発してしまった。
今までも何度か、彼の瞳が銀色に光っているように見えたことはあった。ただ、それは、光の加減かもと、タクヤは思っていた。
月島と初めて対面したときから、月島は涼やかな薄茶色の瞳の、爽やかな笑顔を浮かべる穏やかな人物だといった印象だ。それは月島のカウンセリングを数ヶ月受けてきた間、先日の件があるまでタクヤのその印象は変わっていなかった。もちろん、彼の瞳の色が銀色に光ることなど、なかった。
けれどもその、銀色に光る瞳は今回も今までタクヤが目撃した時と同じく、一瞬だけだった。驚きの声を発したとたん、月島の瞳の色は、銀色からいつもの薄茶色の瞳へと変化した。
ゆえに、光の加減だった、と言えなくもない。
言えなくもないが、ただ、今回は、ソレは光の加減などではなく、確実に彼の瞳は銀色だった、とタクヤは確信する。
タクヤを見返してきたソレは、タクヤに細くて尖った剣を連想させる、冷たく、鋭い、銀色の瞳、だった。
そして、強さのある色。
彼が普段見せている涼やかさではなく、力強い色の瞳。
そう言えば先日も、瞳の色は普段の彼が持つ薄茶色であったが、今と同じ強い力を湛えた瞳をタクヤへ向けられたことを思い出した。
そもそもが、彼は強い人物なのだろう。仕事柄、普段は人当たり良く、穏やかさを醸し出しているが、彼も『橘コトネ』と同じく、とても芯の太い強い人物なのだ。
月島の銀色の瞳を目の当たりにし、驚いてしまったタクヤに、月島が何か言いかけようとする、その様子を見せかけたそのとき、
「お待たせいたしました。」
と、橘がその手に花柄模様が入った小さいサイズの紙皿を携えて戻ってきた。
タクヤと月島の間に流れている微妙な空気に橘は気づかないのか、彼女はそのまま人数分の紙皿をテーブルに置くと、スプーンを器用に使い、クッキー缶からクッキーを取り分けていく。そして、紙皿に取り分けられたクッキーをそれぞれの前に置いた。
次に砂時計を確認し、
「紅茶も、ちょうど良い感じ。」
と、嬉しそうに呟くと、ティーポットからカップへと手際よく紅茶を注ぎ入れ、それもクッキー皿の横に添えた。
そして、センセ、と月島を見て、
「戻ってこられたんですね。」
と、月島へ笑んで、タクヤの左隣であり、月島の右隣になる、先ほどまで彼女が座っていた席に腰を下ろした。
橘からの言葉に、
「気づいていましたか。コトネさん。」
と、月島は苦笑を浮かべる。
「何とはなく、ですけれど。」
さぁ、召し上がってください、と橘はふわりと笑顔を浮かべると、タクヤへ、そして月島へ、紅茶とクッキーを勧める。
ふたりだけにしか理解できない、会話。応酬。
タクヤには、意味がつかめない彼らのやり取り。
まただ、と、タクヤは再び疎外感に包まれる。そこにあるタクヤの感情には、やはり、淋しさが少し混ざっている。
彼らの会話、彼らの世界に入ることができない淋しさ、疎外感といったその、自身の心情に戸惑っているタクヤへ、月島は先ほどまでの幼さ、ではなく、今までのような穏やかな雰囲気をまとい、
「私は永良さんとは、相性が良すぎるようです。」
そう言いながら、橘から紅茶とクッキーを勧められたが手を付けようとしないタクヤへ、月島が、遠慮せずにどうぞ、と再度勧め、自身も紅茶のカップに口を付けてみせた。
その月島の行動から、彼はタクヤが出されたそれらに、今までのように疑心を抱き、それゆえに口をつけることができないと思っているようだ。タクヤへ、これらの物も口にしても大丈夫だと言いたげに紅茶を一口飲み込み、タクヤへ笑んでみせる。




