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カタルシス  作者: つきたておもち
第3章

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 月島の言葉に、タクヤの表情が強張った。それは、タクヤの心が最悪に不調だったことを示していたということか。

 なぜ、そのようなことになっていたのか?タクヤは、自身の心の変調や不調の、前もっての自覚はなかった。それはある日、突然、表出した。

 この世界がタクヤの心の深層というのならば、タクヤと連動しているというのならば、色鮮やかで透明なこの景色が一瞬で、白と黒でしかない世界、つまり死に絶えそうになったというのだろうか?

 それとも、徐々に蝕んでいったが故に、自覚することができなかったのか。

「それを、コトネさんが持つ『浄化』の力で以って、永良さん自身でここまで色を取り戻すことができるきっかけを作ってくれました。」

「橘さんが?」

 訊き返したタクヤに、月島は大きくうなずく。それは、肯定の意味だ。

「コトネさんが持っている、そして、永良さんも持っている力の結晶というのは、くすんだこの世界の膜を薄く剥いで、本来持つ色鮮やかな世界に戻すきっかけをつくるモノ、なのです。」

 月島はそこでいったん言葉を区切り、改めてタクヤの瞳を捉える。

「その作業を私たちは『浄化』と、呼んでいます。」

 タクヤの瞳を捉える月島の薄茶色の瞳は、力強くて、そして、優しい色だ。

「ただ、それだけのことです。私たちは元の色に戻すきっかけを作るだけであって、最終的に本来の深層に戻すのは本人だということです。」

 つまり、と、

「ここまで色鮮やかで透明のある景色に戻したのは、私たちではなく、永良さん自身ですよ。」

 柔らかな笑顔で彼はそう言葉を続けた。

「まぁ、きっかけを私たちが作った、というより、きっかけはコトネさんの『浄化』の力が主ですけれども。」

 その、月島の言葉からは、月島が言う『浄化』を施す力は、月島より橘の方が上だと聞こえる。

 それならばなぜ、橘は月島に傾倒しているのか。

 一昨夜、昨夜とも月島が橘に指示していたようにタクヤには見えた。月島よりも力があるであろう橘は、月島の命に従っていた。

 それに、昨夜、月島には見えていたタクヤを、橘は捉えることができなかった。

 タクヤから見る彼らの関係は、月島の方が上に見える。それは、現実においては月島が橘の上司にあたるから、だろうか。

 そう疑問に思いながら見た先の月島は、何も答えない。笑みを崩さず、タクヤを見ているだけだ。

 今までの月島とタクヤの遣り取りから、彼はタクヤが疑問に思っている内容について、わかっていると思う。けれども、彼は無言だった。今回は、彼はタクヤの持つ疑問への返答をしない。

 彼は、タクヤが疑っているように他人の心の動きを、タクヤの心を本当に見ることができているのだろうか。ただたんに、勘が良い、もしくはタクヤが当初思ったように、カウンセラーとしての技術力が高いだけか。

 読心術、などという小説や漫画にでてくる超能力者なんて者は、現存しない。するわけがない。と、そう考えるが。

 では、今、タクヤが立っているこの場所は、何なのだろう。

 タクヤは改めて、ぐるりと緑鮮やかな景色を見渡す。タクヤが見て、心地が良いと感じているこの景色は、どこなのか?月島は一昨日、この場はタクヤの心の深層、だと言っていた。

 それは、タクヤが今まで生活してきた常識からは、あり得ない現象。

 けれども、タクヤの足下の草葉が触れてくる感触は、現実、だ。

 再び、タクヤは混乱に陥りそうになる。理解が追いつかなくなってきた。

「そろそろ、戻りましょう。」

 5分は経ってしまいましたから、と少し混乱に陥りそうになったタクヤの腕を月島がとる。

 タクヤはあまりにもタイミング良く、タクヤの腕をつかんできた月島を思わず見た。

 タクヤの状態をわかった上で、腕をとってきたのか。それとも、ただたんに、この場に降り立って5分を経過したから、促してきただけなのか。

「これ以上、この場に留まることを、私はお勧めしません。戻りましょう。」

 月島がそう言いながら、タクヤの目蓋に彼の手を置き、強制的に閉じさせた。

 それは一瞬だった。月島はタクヤの目蓋に置いた手を、すぐに離す。置かれた手が離れて、タクヤは月島からの指示がないまま、反射的に閉じていた目蓋を開けた。

 と、そこは見慣れた月島の診察室だった。月島の指示に従い、目蓋を閉じる前と同じ体勢でタクヤは椅子に座っている。

「気持ちは、大丈夫ですか?」

 タクヤが目蓋を閉じる前と同じく、タクヤに横から向く形で椅子に座っている月島が少し心配げにタクヤを覗き込み、そう訊ねてきた。

 タクヤを案じる、薄茶色の瞳。その瞳を見返しながら、タクヤは自身の心を探ってみる。

「大丈夫、です。」

 月島があの場からタクヤをすぐに離脱させたせいか、タクヤの混乱は、ホンの一時だけ、のようだ。先日のような感情の大きなブレは、ない。

「それなら、良かったです。」

 安堵の表情と、笑顔。

 近くで見る月島の笑顔にタクヤは、月島は笑うと真顔の時よりも若く見えるな、と、以前から抱いていた月島への印象が深まる。タクヤと同じ年齢くらいか、少し上か、と思っていたが、彼の笑顔から受ける印象はやはりタクヤよりも年下に思えてしまう。20歳代半ば、といったところか。


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