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カタルシス  作者: つきたておもち
第3章

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「目を開けても、大丈夫ですよ。」

 タクヤは目蓋を閉じた、と思ったらすぐに月島からそのような声がかかった。

 タクヤがゆっくりとその閉じていた目蓋を開けると、そこは。

「あぁ。」

 緑が映える景色。

 座っていたはずのタクヤが、いつしか立っている足下には、膝下まで伸びている草葉がタクヤのスラックス越しに触れているのがわかる。

 頬を撫でる、柔らかな微風。

 感嘆の声が知らず漏れる。

 一昨日に見た風景。

 一昨日の夜と昨夜は硝子の壁越しからでしか、見ることができなかった、景色。

 とても、透明な世界。

 緑鮮やかで透明な、世界。

 その場に、タクヤは立っていた。

 そして、何故か、懐かしい、といった感覚をタクヤは抱く。

 懐かしい、なんて思うはずがない。懐かしがるような、知った景色ではない。一昨日に初めて見た、緑鮮やかな風景だ。

 それなのに、何故か、懐かしく思う。

「それは、永良さんのその身体に、この場で育った力の結晶が入ってしまったからかもしれませんね。」

 タクヤが気づかぬ間、いつしか月島がタクヤの隣に立っており、タクヤへそう声をかけてきた。

 今の、タクヤの気持ちをタクヤは知らず、声に出していたのか、と思うくらいの、タクヤが持つ疑問への彼の回答だ。

 思い返せば今までもそうだった。月島はタクヤが言葉にしなくとも、タクヤが抱く感情に対して、その答えを的確に発してきていた。それは、カウンセラーとしての力量の高さかと、そう捉えていたが。

「さぁ、どうでしょう。」

 タクヤの隣で月島はそう言いながら、いつもの爽やかな笑顔を浮かべる。

「プライバシーの侵害では、ないですか?」

 タクヤは思わず非難めいた言葉を月島へ投げていた。

 心を読まれているのか、見透かされているのか。

 タクヤの表情や態度からの推測、では説明がつかないくらいの、タクヤが考えていたことへの正確な月島の回答だ。まるで会話をしているかのように、自然だ。

「永良さんが本当にイヤがるところまでは、のぞきはしません。」

 タクヤからの非難めいた言葉に、月島は困ったような表情になり、そう答える。

「永良さんのそのような部分を、私がもし見えてしまっていたとしても、私はソレを口にはしませんし、永良さん自身が話してくれるのを、待ちます。これでも心理職の端くれですから。」

 そのようにタクヤへ言う月島からは、タクヤが月島へ放った、月島にしてみればとても失礼な発言に対して、怒りの色は見えない。ただ、困ったような表情のままだ。

 月島のその発言は、月島はタクヤの心がある程度読める、という意なのか。

 そのように捉えたタクヤは、イヤな感情を抱く。

 それは当然だろう。誰もが心に持つさまざまな感情や考えを、つまびらかにされることは絶対にイヤなはずだ。隠したいモノだってある。自分自身がソレを認めたくない、といったような感情だって、ある。奥底に隠した、誰にも知られたくない、自分自身も見たくない、認めたくない感情や思いの何もかもを、見透かされてしまうなんてことは、考えただけでも恐ろしさがある。当然、そのようなことができる相手には絶対に近付きたくない。

 イヤだ、といった感情より、排除したくなる。それは当然持つ感情であり、考えだ。

「イヤだ。」

 月島への否定。

 その言葉を素直に放ってしまったタクヤが、しまった、と思い見た先の月島は困ったような表情のままだった。

 傷つけたかもしれない。

 今まで職業とはいえ、親身にタクヤに対してタクヤの心に寄り添い話を聴いてきてくれた月島に対して、仇で返すようなことをした。

 タクヤが抱いた気持ちをタクヤはよく考えもせず、思ったまま言葉として相手に放ってしまったことに、自責の念がわく。

 というより、思ったまま、感じたままの感情を、考えも推考もなしに相手に放ってしまうといった、今自分がしてしまった行動が自分でも信じられなかった。

 まるで、子ども、だ。

「ごめんなさい。月島さんに対して、とても失礼でしたよね。」

 タクヤは反省し、素直に反省した気持ちを謝罪の言葉として口にした。

 疑心はある。

 月島の発言のタイミングと内容から、タクヤの心が読まれているのかもしれない、といった疑いはある。ただ、そのようなことを人が現実にできるかどうか、と言えば、それも非現実的な内容だ。

 あり得ない。

 おそらく、タクヤの表情や態度は、他人からはタクヤが何を思ったのかがとてもわかりやすいのだろう。


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