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カタルシス  作者: つきたておもち
第3章

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20

 気が付けば、タクヤは昨夜と同じくあの、緑が鮮やかな草原の少し上空を漂っていた。

 見えている風景とこの自分の状態から、これは、昨夜のあの夢の続きなのだ、とタクヤはそう思う。

 そう思いながらタクヤが伸ばした手の先に触れたのは、やはり、昨夜と同じく硝子のような壁、だった。この状況からタクヤは昨夜のように、この場に降り立つことはできないらしい。この透明なガラス越しからでしか、この景色を眺めることはできないようだ。

 ふわふわと漂うこと少し。

 タクヤは昨夜と同様に、白のシャツに黒に近い灰色のスラックスといった出で立ちの月島と、黒に近い灰色のパンツスーツを着込んだ橘をその草原の中、見つけた。橘は昨夜、この地から溶け込むように消える間際まで持っていたランタンを、今日もその手に掲げ、立っている。

 あれは、何をしているのだろう、と。

 今更ながらタクヤは疑問を持つ。昨夜の夢の中でも、彼女はランタンをこのように掲げていた。

 しかし、タクヤが見ているこの風景は昼間のようで、とても明るく、明かりがいるような闇ではない。しかも橘が掲げているランタンは、確かにきらきらと輝くモノが入っているが、それでもその照度はこの風景の明るさには劣るものだ。

 それらから、橘のその行動は、この景色の、彼らが立つ周囲を明るく照らすため、なのではないのだろう。

 そうはいっても、彼女が掲げているその周辺の景色に、なんら変化も起こらない。橘がきらきらと輝くモノが入っているランタンをただ掲げているだけ、といった行動だ。

 アレに何の意味が、あるのか。

 疑問と好奇心を覚えたとたん、タクヤは昨夜と同様に、瞬時に月島たちの近くまで移動していた。気が付けばタクヤは、月島の肩の高さ辺りでふわふわと漂っていた。

 この位置なら、この地に降り立つことができるかも、とタクヤは地に足を下ろそうとするが、漂っているその場からは降りることができなかった。

 夢の中は、夢を見ている本人の意思や思い通りにはコトはすすまない。そういうものだよな、とがっかりしつつもタクヤは納得し、そこから彼らのやり取りを眺めることにした。

 橘が昨夜と同じくランタンをしばらく掲げたあと、おもむろに彼女はソレを懐に仕舞う。あの大きさのランタンが、彼女の着ているジャケットの懐に仕舞うことができるのが、タクヤは不思議に思ってしまう。

 どのようなからくりなのか。

 ただコレが、タクヤが見ている夢ならば、夢の中は荒唐無稽が当たり前なのであり得るだろう。

 そして、彼女がランタンを掲げることを止めても、周囲に何の変化も起こらなかった。

 なのに、彼らは昨夜のように周囲をぐるり、と見回し、月島にいたっては満足そうな表情を浮かべている。つまり、月島が満足に思う変化が、この景色の中にあるということなのか。

 タクヤが見ているこの風景は硝子越し、だから、もしかしたらタクヤには微妙な変化が見て取れていないのかもしれない。

 彼らの一挙一動、そしてタクヤから見て取れる緑映えるこの風景の、変化のないそれらから、タクヤは色々と推察をめぐらす。

 さまざまなことを考え、めぐらしているときにふと彼らを見ると、いつからか彼らは何かを話し合っていた。話し合う、というより、月島が指示を出しているように見える。

 しかし、この近さに居ながら昨夜と同様、彼らの話す内容、月島が発している言葉がタクヤには聞き取れない。

 少しもどかしく思っているところへ、橘の姿がゆらり、と揺れ始め、彼女の姿の輪郭がぼやけ、形を崩していった。

 このまま彼らはまた、この場から消えてしまうのか、とタクヤがそう捉えたとき、不意に橘がタクヤが漂っている月島の肩の斜め上方へ視線を移してきた。

 橘がタクヤに気が付いた、のかと思った。

 が、昨夜の月島とは違い、橘とは視線が合わない。タクヤが浮かんでいる方向へ顔を向けている、といったところだ。

 橘はゆらゆらと彼女のその姿の輪郭を不鮮明にして揺れながら、月島に何かを話している。月島は橘の言葉にうなずき、タクヤの方へ振り向いてきた。

 振り向いてきた月島とは、タクヤは昨夜のようにしっかりと目が合った。月島はタクヤと視線が合うと、にこり、と笑む。それは、タクヤを視認している証拠だ。そして、再び橘へと向き、何か言葉を交わしていた。

 月島と言葉を交わした橘は、再びタクヤがいる方へ顔を向けるが、やはりタクヤは橘とは視線が合わなかった。

 つまり、橘は、タクヤがそこに居るらしいといった認識のみで、タクヤが見えているわけではないようだ。

 橘はしばらくタクヤの居る方へ視線を向けてきたが、軽く首を横に振るとその姿はこの景色の中に溶けて、消えてしまった。

 その橘の後を追うように、月島の姿もその輪郭が不鮮明になる。月島もこの場から消えるのか、とタクヤが思ったとき、月島が振り返りタクヤを見て笑みながら軽く手を振ってきた。

 タクヤが思ってもいなかった月島のその行動に、タクヤも反射的に手を振り返す。

 と。月島はタクヤが手の振り返しをするとは思っていなかったのか、少し驚いた表情を一瞬浮かべた。が、次にとても嬉しそうに破顔する。そしてゆらり、と大きく揺れて景色に溶け込むようにその姿は消えた。


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