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カタルシス  作者: つきたておもち
第3章

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 ぼんやりとした感覚。自分の今の状況が、タクヤには良くわかっていない。

 ベッドに倒れ込み、目蓋が下がってくるのを阻止しようと戦っていた記憶はある。その後の記憶がないので、たぶん、襲ってくる眠気に勝てず、寝てしまったのだろう。

 では、今は?

 起きた記憶は、ない。

 それに、今、起きているのだ、といった感覚もない。

 タクヤを取り囲む周囲は、薄暗く、何も見えていない。

 コレは、この状況は、夢、なのだろうか。まだ、眠りの中にいるのだろうか。

 と、思ったとたん。

 タクヤの視界が不意に拓けた。

 拓けた先、タクヤの瞳に飛び込んできたのは。

 眼下に広がる、緑色の映えた草原。

 一瞬で、あの場所だとわかった。ただ現状は、タクヤはあの時のようにその草原に立っておらず、上空から見下ろす形だった。

 だから、これは夢なのだと、思う。あの体験はタクヤにとって、とても鮮烈で、刺激が強すぎたから、だから夢を見てしまっているのだと、思う。脳が情報の氾濫や混乱から整理整頓をするために、タクヤは夢を見せられているのだと思った。

 それに、あの時に見せられた緑色鮮やかな風景より、今、タクヤが見ている草原は霞んで見える。まるで目の前に透明な硝子かなにかの壁があるみたいだ、とタクヤが手を伸ばした先に触れたのは、タクヤが思っていた硝子の感触だった。

 その壁にタクヤは両手を付く。このままこの壁が抜けられないかと力を入れてみたが、何の変化も起こらなかった。

 つまり、タクヤはここからこの風景を眺めることしかできず、あの草原に降り立つことは無理なようだ。

 そのことがわかると、降り立つことができないことを残念に思ってしまう。

 あの場は、気持ちが良かった。

 心穏やかで、なにか大きなモノに包まれる感覚があって、なんとなく安心感が得られる場所だった。

 けれども、アレは、あの風景は、月島がタクヤに暗示か何かで見せた風景ならば、タクヤは今後、あの場に降り立つことはもう無いだろう。

 そう考えながらタクヤが、ふ、と見下ろした先に、その草原に立つ、ふたり連れを見つけた。

 白のシャツに黒に近い灰色のスラックスの男性と、同じく黒に近い灰色のパンツスーツを身にまとう女性。

 月島と橘だった。

 彼らを視認したタクヤは、コレはタクヤの見る夢の中だと確信する。多分に脳が、昼間の出来事の再現をしようとしているのだ、と。

 タクヤが上空の遠くから見る月島と橘は、向かい合っており何かを話しているようだ。

 タクヤが、ふたりは何を話しているのだろう、と思ったとたん、気づけば彼らのすぐ近くの上空に浮かんでいた。距離は、そんなに離れてはいない。もし、これが現実のことならば、月島も橘も当然、タクヤの存在に気づける近さだ。しかし、彼らはタクヤがそのそばに居ることに、気がついていないようだった。

 彼らと近い距離であっても、タクヤにはふたりが何を話しているのか、その会話の内容は聞こえてはこない。

 夢の中の、あるあるだ。

 会話の内容はわからないが、彼らの表情から、月島が橘に何か指示をしているように、見える。

 これはタクヤが見ている夢だと、そうタクヤが現状に納得した時、橘がおもむろに、スーツの懐から例のランタンを取り出した。

 何をするのだろう、とタクヤが橘のその動向に注視する。注視した先の橘は、手にしたランタンを前に少し掲げるように持った。とたん、橘の周囲が輝きたして、なんていうことはなく、ランタンの輝きは変わらない。

 変わらないが、綺麗な輝きを放っている。タクヤが昨日、この不思議な空間で見せられた、あの、きらきらとした、惹きつけられる輝きだった。

 ほんの一時が過ぎた頃。

 橘は掲げていたランタンをゆっくりと懐に仕舞う。そして、月島とともにぐるり、と周囲を見渡した。ふたりはしばらく周囲を見渡した後、橘がひとことふたこと、月島に何かを告げる。月島はそれに了承の意でうなずいたのだと、とタクヤがそう見て取ったとたん、それが合図だったかのようにふたりの姿は、ゆらり、と周囲の風景に溶けていくかのようにその輪郭が不鮮明になっていく。

 溶けるかのようにふたりの姿が消えてしまうその直前、月島が不意にタクヤが浮かんでいる方向へ視線を向けてきた。月島から視線を受けたタクヤは、月島と目が合う。目が合った瞬間、月島はタクヤがそこに居ることに特段驚く表情を見せず、彼は端からタクヤがそこに居ることを知っていたかのように、タクヤへ親しげに笑みかけてきた。

 反してタクヤの方が彼のその反応に驚いてしまい、彼にどう返そうかと迷ったその一瞬で月島のその姿は橘とともに、この緑映える景色に溶け込むように消えてしまった。


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