15
重量感はない。けれども質感はある、この輝くモノ。
現状のコレは夢、なのか、催眠、なのか。
どれにしてもタクヤの手のひらに収まっている、このきらきらと輝く水晶玉を粗末に扱ってはいけないよう気が、タクヤにはあったゆえの、問い。
タクヤからのその問いに、月島は、そうですね、と少し考えると、
「コトネさん。」
と、月島の隣に立つ橘に向く。
橘は月島から何を求められているのかが理解できたのか、一瞬、少し表情が強ばった。けれども、ため息を吐きながらも諾の返事のようにうなずいた。
そして。
彼女の服のどこにそのようなモノを隠し持つことができたのか。15cm位の高さがあるランタンをその懐から取り出した。そのランタンは火で灯っているように見えるが、目を凝らすとその光を放つものは、火ではなくタクヤが今手にしている水晶玉と同じように見える。
ただその水晶玉と思しき物は、そのランタンに納まるくらいの大きさなので、タクヤが手にしているこの水晶玉よりは小ぶりのようだ。小ぶりだが、輝きはタクヤが手にしている水晶玉と引けはとらない。
「力の結晶の保管方法は、人それぞれなのです。コトネさんはこのようにランタンを模したモノに保管をしています。」
そうタクヤに説明しながら、月島は少し考える様子を見せる。
「でも、月島さん。コレを、橘さんのようなランタンに容れるとしても、僕はそのようなものを持っていませんし、どこで調達をすれば。」
と、戸惑うタクヤの言葉に月島は反応せず、しばらく黙していたが、
「どのような形が良いのか、結晶に訊いてみるのが、一番良い。」
と納得したかのようにひとりごちて、タクヤを見た。続けて、
「そのまま持っていてください。」
と、月島はタクヤが持つ水晶玉にそっと触れる。
月島が触れたことで何か変化が起きるのか、とタクヤも自身が手のひらの上に置く水晶玉を凝視していたが、特に何かが起こることもなく。
「あの、月島さん。」
変化を待ちきれず、タクヤが顔をあげ再び視線を向けた先の月島は、タクヤからの視線に気づくと、タクヤへ静かに待つように伝えるよう、自身の唇に人差し指を置き、口角を上げて笑みを浮かべた。
と、そのとき。タクヤは手のひらに何かの変化を感じ取った。ゆえに、タクヤは視線を月島から手のひらにある水晶玉に移す。視線を移した先の手のひらの上にある水晶玉は変わらず輝きを放ってはいるが、心なしかその存在が薄くなったような気がする。
おや、と思うこと少し。
水晶玉は一気にその存在を薄くし、タクヤの手のひらの上で溶けるかのように消えてしまった。
なのに、手のひらの上で消えてしまった水晶玉に、月島は慌てることなく、
「あぁ。ソコを器にしたのですね。」
そう呟く。
「ソコ?器って?」
質感があったモノが、溶けるように消えてしまったことにタクヤは理解できず、月島の言葉に訊き返しながら、水晶玉を落としてしまったかと慌てて足元を探してみるが、見当たらない。
そのタクヤへ、月島はタクヤの胸元あたりを指差すと、
「力の結晶が選んだ器は『永良さん』です。永良さんの中に入ってしまいましたよ。アレはソコが良いらしい。」
と、そう答えた。
「え?僕?」
意味がわからない。理解が追いつかない。タクヤを器として水晶玉が選んだということか。
「そうです。」
理解できていますよ、と月島は爽やかな笑みを浮かべて、うなずく。
器として選ばれた、と言われても、この身体の中にあの水晶玉が入って行ったと言われても、特に身体に何かの変調は見当たらない。それよりも、身体よりむしろ。
「いや、わからないですよ。そもそも、ココはどこですか?僕の、心の深層?力の結晶?僕が、器?意味が、わからないっ。」
意味の理解できないモノたちの、情報量の多さ。それらは消化できずに、タクヤの中で疑心とともに蓄積されていく。
月島や橘とは、成り立たない会話の連続。
身体よりも精神の方が変調をきたす。呼吸が乱れ出す。
「詰め込みすぎたか。」
混乱と錯乱で呼吸を乱し、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまったタクヤの腕を、月島は取る。
腕を取られたタクヤが見た先の月島の瞳は、銀色に鋭く光っていた。けれどもそれは一瞬で、その銀色の瞳はすぐにいつもの薄茶色の瞳に変わった。




