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コンティニューか、ゲームオーバーか

作者: 最上優矢

 五年前、わたしはあるブラウザゲームのギルドマスターをしていた。


 ゲームでのわたしのアカウント名は「フォックス」。

 ギルド名は「夢叶むきょう」。

 あなたの夢が叶えられますように、そういう意味を込めてわたしはギルドを立ち上げた。


 もっとも、それはゲームとはなんの関係もないギルド名だったが、それでもわたしはこのギルド名が好きだった。

 きっと、それはわたしがこのギルド名に自分を重ね合わせていたからなのだろう。


 わたしは小説家を目指し、自分の夢を叶えるため、日々物語を書いていた。

 だから、わたしはこのようなギルド名を考え、ギルドメンバーの夢を応援しようという気になったのだ。


 結論から言うと、わたしはそれからわずか二十五日後にゲームを引退することになる。

 引退の理由だが、それはわたし自身がゲームをすることに疲れを感じていたからだ。


 実を言うと、わたしの引退騒動は二度あり、一度目はギルドメンバーの一人がギルドマスターを引き継ぐといったことで収束したのだが、その次の引退騒動ではわたしの引退する決意は揺らぐことはなかった。


 そんなわたしの揺らぐことのない引退決意を知った「夢叶」二代目ギルドマスター「グリーン」さんとわたしは、チャットで一時間以上も続く話し合いをした。

 向こうはわたしの引退を悲しみ、寂しがったが、とうとう話はまとまった。


 その日の午前零時、わたしはゲームを引退する。

 が、わたしの小説が受賞した暁には、わたしはこのゲームに再び戻ってきて、その作品名を「グリーン」さんに教える。

 そういう約束を「グリーン」さんと交わしたのだ。


 わたしはゲームを引退してから、これまで通り、物語を書き続けたし、これまで以上に小説家という夢を目指すことにした。


 それから五年後のきょう、わたし宛てに出版社の編集部から電話があった。

 もちろん、それは吉報である。


 わたしは編集者の方に五年前のことを話し、どうにか吉報を打ち明けてもよいという了承を得た。

 なんとも運がいいことに、わたしは五年前と同じノートパソコンをきょうまで使い続けていた。


 パソコンはオンボロだが、五年前にゲームのアカウント連携をしていたはずだし、きっとあのゲームにログインできる……忘れもしない「グリーン」さんに吉報を教えられる。

 いや、だが……まだ「グリーン」さんはゲームにログインしているのだろうか。


 例のゲームのサービスはまだ続いてはいるが、あれから五年後だ。

 もしかすると、最悪の事態が考えられる。


 パソコンのタスクバーには例のゲームがピン留めされていて、それはわたしの感情をあらゆる方向に連れて行き、わたしを散々なまでに愚弄し、どこまでも翻弄した。


 やがてわたしはすべての感情をクリアにし、新たな感情のみを受け入れた。


 それにより、わたしはコンティニューを選ぶのか、ゲームオーバーを選ぶのか、そのどちらかの覚悟が決まった。

 ゲームのアイコンをクリックするのか、パソコンのシャットダウンをクリックするのか、そのどちらかの覚悟が決まった。


 わたしは一粒、二粒の涙をこぼすと、それから嗚咽を漏らす。

 その後、わたしは震える手でマウスを動かし、かなり長い時間をかけて、静かに“それ”をクリックしたのだった。

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