#2 ビリビリ・ボーイ、その2
いつもと変わらないミズガネの日常に挑戦者が現れる。「ビリビリ・ボーイ」はただ高性能なだけではない。ミズガネの能力の隙を、こいつは知っている。
ミズガネの住む田沼町は、昔はどちらかというと田舎であったけれど、最近は景気がよくなり、都会化が進んでいる。
夕方の田沼駅前は少々混み合う。赤く晴れた空の下、ミズガネは道沿いの屋台で "芋フライ" を買っていた。塀のそばに座ると、串をしっかり持ってジャガイモを歯で横に引き抜く。箸で串から外すほうが安全だが、ミズガネはこれが慣れている。
「うん!」
この屋台の芋フライは「シャキシャキ」で、ミズガネの大好物だ。必ず、4つ刺さってるやつを3本買う。別に、「ホクホク」も嫌いではないけれど。
芋と油の香りを楽しみつつ、駅前の様子を眺めた。場所が場所なので騒がしいのは当たり前だが、今日は夜まで電気工事をしているそうなので、もう少しだけ雑音の舞っている感じがする。
さて、2本目の芋フライを取り出しながら、ふと気配を感じて右を見たのだが、居たのはただの学生だった。彼も芋フライを食べている。おじぎをしてくれたので、ミズガネもおじぎを返した。
では、左は?と思い、振り返ってみると、中空に漂うドローンをそこに見つけることになった。
「……」
ミズガネは2本目の串をプラパックにしまうと、腕につけていたミサンガで留めてかばんにしまった。ゆっくりと立ち上がると、人混みから離れるべく歩き出した。
このドローンは、このあいだ相手をした「ビリビリ・ボーイ」に違いない。閃雷の差し金なのであれば、今にでも攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
案の定、ビリビリ・ボーイのゴム弾がミズガネに放たれる。ミズガネは難なくゴム弾をキャッチした。そしてそれを投げ返そうと思ったのだが、はっとして周りを見回す。
「人が、いっぱいいるな…… モノ投げたりしたら危ないよね」
ミズガネは諦めてボールを捨てようとしたのだが、握った手を確かめるとボールが消えていた。呆気に取られているうちに、ビリビリ・ボーイからまた弾が放たれ、ミズガネの肩に当たる。
「痛…… こ、これは閃雷くんの力なのかな?」
肩をひねって痛みをごまかしながら、ミズガネは人気の少ない通りへ入っていく。
よく見てみると、ビリビリ・ボーイから白いビームのような光がミズガネに伸びている。更なる攻撃のため、狙いを定めているということなのだろうか。放ったゴム弾が消えるのは、ビリビリ・ボーイへ弾を戻す何かしらの効果が働いているのかもしれない。
「弾切れとかは期待できないのか」
そしてまた、ゴム弾が発射される。今度はミズガネの足元狙いだ。
(そんなの当たらないけどね)
発射を見ると、ミズガネは軽やかに飛び上がって弾をかわした。ゴム弾は地面に当たって弾み、やはり消え失せてしまった。
ところが、問題はその後だった。ミズガネが地面に戻ってくると、着地と同時に体の表面で何かが弾けるような、ビリビリした感覚に打たれたのだ。ミズガネは驚きのあまり仰向けに転んでしまった。
「痛っっ!」
目の前にビリビリ・ボーイが回り込んでくる。ミズガネはすぐに気を取り直して立ち上がり、敵を見据える。
(今のって、感電……だよね?)
ビリビリ・ボーイは今もビームをミズガネに当てながら漂っている。ただ、ミズガネが敵の出方を伺っていると、ビリビリ・ボーイは空へ上昇しはじめて、6階ビルの屋上より高くへ行ってしまった。
その高さくらいなら、ミズガネが飛び跳ねて届く距離だ。しかし今しがた、ジャンプしたことで攻撃を受けたわけだから、また高く飛び跳ねるのは憚られる。
そんなとき、ミズガネのスマホが音を鳴らす。こんなときにメールだなんて、と思ったが、このタイミングだからこそ気になって、メールを読んでみた。このメールは、なんとビリビリ・ボーイからだ。
✉--------
ミズガネ様へ
ビリビリ・ボーイの高度な戦闘力をご覧いただけましたか? オラ
当機は 閃雷様より、「勝てそうになったら勝ち誇れ」と指示されましたので、ご連絡させて頂きました オラ
当機が貴方より優れていることを強調するべく、わざと当機の性能をお知らせいたします オラ
--------
(なんかオラオラ言ってるけど…… 能力を教えてくれるんだ)
✉--------
当機はビームを当てた相手を「充電」することができます。地上にいる者には害はありませんが、対象が空中にいるときに当たると、貯まった電気が着地時に地面に放たれ、感電いたします オラ
貴方が私を捕まえるためには高くジャンプをして、より激しい感電を受ける必要があります。したがって私は一方的に攻撃を仕掛けることができ、勝利となります オラ
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(なるほど、こっちからは反撃できないんだ。この場所じゃ物を投げるのも嫌だもんね。
でも…… 私が屋内に入ればそれまでだね)
✉--------
当機は生物では無いため、心理作用のある貴方の能力は通用しません オラ
ミズガネ様を降参させたという成績を持ち帰ることが楽しみです。降参の際はご返信ください オラ
オラオラ団バンザイ ビリビリ・ボーイより
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メールはここまでだ。ミズガネはスマホをかばんにしまうと、ビリビリ・ボーイを見上げた。
ビリビリ・ボーイから弾が放たれる。ミズガネはまたそれを掴むと、足元に放り捨てた。
「ふーん、ビリビリ・ボーイを壊すのを諦めたら、それも降参?」
ミズガネは別にこのライバルを無視してもよかったが、メールを読んだ後となっては、ビリビリ・ボーイから「してやったり」といった表情を感じてしまう。ミズガネは、こうやって挑戦されるのは嫌いじゃない。ビリビリ・ボーイを勇敢な挑戦者とみなし、敬意あるまなざしを向けた。
「閃雷くんが私を負けさせるつもりなら、精一杯抵抗してから負ける方が嬉しいはずだ」
そんな独り言を道行く人が聞いたかもしれないが、ミズガネはビリビリ・ボーイとの1対1の世界に入り込んでいる。
「ジャンプが高ければ高いほど、たくさん充電されてしまう、か。どうするべきなのか? ジャンプを何回かに分ければ、一回の電撃には私は耐えられるのか?」
ミズガネは手のひらでビームを浴びながら少し考え込んだ。ビリビリ・ボーイがまた狙いを定める。
夜が近づき、辺りはだいぶ暗くなった。白いビームがくっきりと見えるようになり、逆にドローンの姿は暗くて見えづらくなった。
ふいに、ミズガネは足を屈めると、勢いよくジャンプした。ビームに正面を切って、ビリビリ・ボーイめがけて飛び上がっていく。
跳んだということは、これで決着がつくはずだ。ミズガネの攻撃は……
「喰らえ!」
ビリビリ・ボーイへの、直接の蹴り攻撃だ!
ミズガネは意識を研ぎ澄ますと、辺りがスローモーションに見える。蹴りを喰らったビリビリ・ボーイが、ネジやケーブルを散らしながらバラバラに壊れている。
「よし、こいつに触れても感電はしなかった…… なら、もしかすると……!」
ミズガネはビリビリ・ボーイの中から四角い箱が飛び出すのを見つけた。ドローンを動かす電力が貯まった、大きめの充電池……バッテリーパックだ。
「バッテリーだ! ひょっとしたら、私に充電された電気をバッテリーに充電し返せるんじゃないか? バッテリーに電気が十分溜まってるなら、私からの放電はゆっくりなんじゃないだろうか?」
ミズガネは体を捻ってバッテリーを太ももに乗せた。感電しなかったから、充電し返せているはずだ。体が落下し始める。両腕でローブを広げて空気抵抗を大きくした。地上に着くまでにいい感じに充電し返せれば、あとは着地の心配だけで済む。
人通りの少ない路地に、ミズガネが背中から着陸する。ゴロゴロと跳ね回る派手な受け身をとって、落下の衝撃を逃した。
最後に、両手をついて地面の上に静止した。あたりにナットだのケーブルだの、それからLEDディスプレイが落ちてきた。誰か無関係の人に当たっていないといいのだが。
「はあ、ふう〜……」
作戦がうまく行ったようで、着地でも感電はしなかった。勝負ありだ。これの持ち主である閃雷はここに居ないので、あとはゆっくり帰るとしよう。
ミズガネがゆっくり立ち上がると、誰かが駆けつけてくる音が聞こえてきた。お巡りさんだろうか?と思ったが、息を切らせて機械の破片を見にやってきたのは、閃雷だった。
「はあ、はあ…… まじか、ビリビリ・ボーイが負けるなんて……」
「キミの方こそ、私の能力をずいぶん持ち堪えたね」
ミズガネが誇らしげに腰に手を当て、表情を澄ます。そして相手の使ったトリックを言い当ててみた。
「つまり、ビリビリ・ボーイは自動操縦。敵意を無くす私の力が閃雷くんに届いても、マシンを止めに来るまで時間がかかる。とても厄介な作戦だ」
閃雷が素直にうなずく。
「僕は急に、ミズガネへの攻撃をやめたくなって、2駅も離れたところからビリビリ・ボーイを止めるためにここまで来たわけ」
「閃雷くんは、私の能力にかかるとビリビリ・ボーイを回収したくなるって所まで予想できてたんだね」
「でも、まさかこんな超射程だなんて…… 完敗です」
「ふふ、射程に囚われていたらいけないよ。私の力は地球の裏側にも届くからね」
「そ、そんなズルな……」
「わはは!ま、キミのビリビリ・ボーイも強かったよ。でも私以外にやったら死んじゃうからやめてね」
それだけ言うと、ミズガネはローブをひるがえして颯爽とその場を歩み去った。閃雷は仕方なく、飛び散ったビリビリ・ボーイの破片を拾い始めるのだった。
「芋フライ、冷えちゃったよね」
夜道を歩くミズガネが、パックに残っていた芋フライを串から抜いて頬張った。ビリビリ・ボーイの電撃でホクホクになっていないか心配したが、ちゃんとシャキシャキだ。
「おいしー!」
カロリーで体がじんわりと温まった。運動した後のおやつは格別。なのだが……
「ん?」
ミズガネのダーリンから、メッセージが来ていた。夕ごはんを準備しているとのことだ。
「やば!」
ジャガイモは夕飯前のおやつに食べるものではないだろう。ミズガネはスマホをしまい、軽やかに建物の上を駆け抜けて家路についた。
スマホを閉じるとき、ふとビリビリ・ボーイからのメールを思い出した。なにやらオラオラと言っていたが、「オラオラ団」というのは一体なんなのだろう?
「ビリビリ・ボーイ(おまけ)」もぜひ読んでみてね。