#1 ビリビリ・ボーイ、その1
ミズガネが友達のコハクちゃんと一緒に町を歩いていると、謎のドローンからの攻撃を受けた。そして、ドローンの主である「閃雷」が現れ勝負を挑むのだった。
「えー!そんな事あったんだ!」
ミズガネが、ひとりの女性と一緒に街道を歩いている。
「アズマくんっていうの? 面白そうな特技をずいぶん持ってるんだね。」
「ハハ。嬉しそうだね、コハクちゃん」
「まあね! あ、でも何も企んでないよ!」
何か企んでいそうなコハクちゃん。オレンジ色のパーカーをよく着てて、ヘアゴムをたくさんつけている。理系の大学生だ。詳しいことはまた今度語るとしよう。
今日はふたりでショッピングモールへ通った帰りだ。ミズガネは何も買わなかったが、コハクちゃんは小さな手さげにアクセサリーを詰めている。
「それにしても、田沼町のヒーローさまは敵を作りやすいですな~」
「そうかな?」
呑気な顔をしているミズガネに、コハクちゃんが両手を広げて、事の重大さをアピールする。
「それはもう。ミズガネちゃんも分かるでしょ?ミズガネを降参させれば、あっという間に町の人気者だよ。」
「そっかあ。それは困ったね」
「そうだよ。というわけで、ここはひとつ、このコハクちゃんが力を貸して……」
何か話題が始まるところだったが、そのとき急に、ミズガネの背中を何かが強く叩く。
「うぐ!」
「力を貸して…… え、どうした!?」
ミズガネが振り向くと、足元でゴムボールが弾んでいるのが見えた。これが当たったようだが、いったいどこから来たのだろう?
「……あっ!」
ミズガネが辺りを見回すと、少し離れた空中にドローンが浮かんでいるのが見えた。よく見ると、砲塔のようなものを搭載している。
そのドローンはゆらゆらと揺れていたが、やがてピタッと姿勢を固めると、次のゴム弾を撃ちだした。
しかしミズガネの戦闘力を侮ってはいけない。ゴム弾は目で追える程度の速さなので、ミズガネは拳を握ると、ゴム弾に強く当てた。
上手い角度で当てたので、ゴム弾の動きはその場で停止してまっすぐ落っこちた。ドローンは射撃の反動でまた揺れている。
ミズガネはこの隙にと、コハクちゃんの安全を確かめた。あの子はもう逃げ出したようだ。それなら、早速ドローンに近づいて正体を確かめたい。
ミズガネがドローンに向かって足を踏み出した。そのとき……
「ちょっと待ったー!」
建物の陰から人が飛び出してきた。中学生くらいの少年で、片手にスマホを握っている。大きな丸いメガネがなかなか洒落ている。
「僕の大事なマシンに触らないでくれよな!」
少年が不敵な笑みでミズガネをたしなめた。おそらく彼が攻撃者なのだろう。だとしたら身勝手な言い分だ。
「えー…… キミは一体誰なの?」
「いい質問だ!」
少年が誇らしげに胸を張る。
「人は僕を”閃雷”と呼ぶ! だからお前もそう呼ぶがいい」
「わ、分かった! で、何をしにきたの?」
「もちろん、ミズガネに勝ちたいからさ。この、”ビリビリ・ボーイ”の性能を試す絶好の相手!」
人に弾丸をぶつける動機をずいぶんと楽しそうに語るものだ。だがミズガネはこの手の相手には慣れている。いつものローブが崩れていたのを直しながら、ドローンを見つめた。
「まあ、私に勝てたなら確かに強いね。じゃあ、まだ続けるの?」
「もちろんさ! いくぞ、ビリビリ・ボーイ!」
少年がスマホの画面をタッチした。しかしミズガネは手を腰に当て、余裕のまなざしで待ち構える。そしてそれっきり、ビリビリ・ボーイから弾丸が放たれることはなかった。
「システムを停止します。飛行を停止します。」ドローンから音声が流れた。
「おっと……」
閃雷が目を丸くした。ビリビリ・ボーイはゆっくりと高度を下げて着陸し、しんと静まり返ってしまう。ミズガネが得意げに笑った。
「ふふん、私の能力は効いているかな?」
閃雷はビリビリ・ボーイを拾い上げて、それと自分の手のスマホとを交互に確かめる。閃雷がいま、自分の手でビリビリ・ボーイの電源を落としたのは間違いない。しばらく静まっていたが、閃雷はミズガネを興味深そうに見つめて言う。
「これが、敵意を失くさせるという能力…… お前に勝つには、これを克服しなければ!」
「へえ、どうするのかな?」
「ひとまず今日は、さらばだ!」
それだけ言うと、閃雷はマシンを大切に抱えて走り去った。なかなか忙しい男の子であることだ。その場に一人残されたミズガネはしばらく棒立ちになっていたが、仕方が無いのでひとりでその場を立ち去り、コハクちゃんと合流することにした。
念のため、もう一度だけ閃雷がいた方を振り返ってみる。するとミズガネは、足元の異変に気付いた。
「ボールが、落ちてないな……」
地面に落ちたゴムボールは閃雷が手で回収したのだろうか? それとも、何か変わった能力によるものなのだろうか?
次はたぶん1日後に投稿します。