激突
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」
自らの正義を背負わんとする男達の熱き思いに呼応したのか、月明かりがより一層彼らを照らし始めた。
「オマエを殺して睦を取り返す。それが教会の意思だ」
「それは出来ない相談だな。睦は僕に新しい生き方を見せてくれた。少なくとも、僕の新しい可能性が彼女の生きる新たな道標となるのなら、それは誰にも邪魔はさせない!!!」
「ほう、睦がそんな事を?いやはや恐れ入る。やはり彼女は我々の希望となる光だ。悪魔の子と言われながら人に希望を見いださせるのだから!!!!」
この力も彼女と出会って発言したモノだ、彼女は本当は人を救う力を持っているんだと言わんばかりに彼は高らかに宣言した。
「この高坂結人、神の使徒となりて悪魔の子、宮本睦、並びに八代湊の殲滅を開始する!!!」
大丈夫だ、と湊は思った。今、コイツは悩んでいる。自分の使命か欲望、どちらを優先するべきか。何も心配はいらない。この戦いで分かってもらえば良い、それが本望だ。
「出でよ、狂水の乱舞」
ゴォッ、と水が空中で湧き出した。高坂がそのまま叫ぶ。「見せてやるよ、アイツを切り捨ててまで教会に残った俺の覚悟を!!!」
無数の水の泡が湊を一瞬で覆う。
コイツは予想通りにマズいな。
そう感じながら、幾分かの余裕を持って回避を実行した。
分かっていた。その時、走馬灯らしきモノが湊の頭を駆け巡る。
この忌々しい呪いは、俺の隠していたココロを呼び覚ます。他人の全てに敏感だったあの頃と打って変わって、”はい、どうぞ”と言わんばかりに他人の全てを俺の頭に映し出す。これでもう、俺は他人に怯えて生きることがなくなった。
ふざけるな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
何度この言葉をあの子に投げつければよいのだろう。俺に呪いを与えて何がしたいのか見当も付かない。おかげで毎晩悪夢を見る。他人が何を考えて生きているのか。一生知るはずのないことまでも知ってしまう。俺の今までは何だったんだと呪いたくなるほどに!!!しかし、それも杞憂に変わるのかもしれない。睦が居れば。でも、それはもう無い。
幻想だった。
虚構だった。
それでも先程までは確かにココにあったんだ。
その事実だけが湊を突き動かす。
それだけで十分だ。この世にいて欲しいだの、違うだの他人に言われようが関係ない。この事実があったからこそ、八代湊は死への片道切符を迷うこともなく使えるようになるのだから。
”たとえ、これが歪んだ思いだったとしても、僕は僕を肯定する”
まるで呪いのように深く魂に刻み込む。
刹那、声の無い叫びがまた、脳内に響いた。あの子が呼んでいる。
それに対して、ありがとう、そう思った。遂に壊れてしまったのかもしれない。自分に危害を加えてしまった相手に対して感謝をするなんて。いや、元々コレが八代湊があるべき本来の姿なのだ。今の彼にとっては、自分の意見がぐちゃぐちゃであろうと関係ない。意見がコロコロ変わろうが知ったことか。それほどまでに彼は彼自身の大きな問題と今も一人向き合い続けている。
君が居なかったら、俺は呪いを手にすることはなかった。でも、君と出会わなかったから生きる意味を見いだせなかった!!!
これが今の切実な感想だ。
もう一度思う。俺は人生に恵まれていた。ただ、それから眼を逸らしただけだったんだ。後悔というま湯の中で反省したふりをするとんだ自己中野郎だった。虐められようが、俺には家族があった。住む場所があった。ネットがあった。本があった。ゲーム機があった。勉強道具があった。数え切れないモノがあったのに、俺は耐えきれなくなってソレらを勝手に捨ててしまった。
俺がもっと強ければ。
後悔が不協和音となって叫び出す。が、
後悔?遅ぇよ!!!後悔する暇があるのなら手を動かせ!!!このクソッタレな世界を一ミリでも良い方向へ動かすための努力をしろ!!!『無知の知』だろ?あの失敗はただオマエが知らなかった事に対する衝撃に耐えきれなかっただけだ。もっと考えろ!!!自分だけの答えを見つけるんだ!!!!!!!
声が、聞こえる────────。懐かしい、声が。
そうだ、そうだった。あまりにも簡単なこと過ぎて忘れていた。しかし、そんな事で悩んでしまうのが人間だ。だからこそ、美しいとも思える。
そうだ、それでいい。もう決まった。もう一度、言い聞かせるように声をあげた。
「俺は、俺を持って、オマエを倒す」
自らの正義を再確認した少年の魂の響きが、もう一度月夜に鳴り響いた。
注意を現実へと引き戻す。
眼前にはカッターナイフのように鋭さを増した水が迫っている。
「水行符、急急如律令」
迷い無く、言い切った。
「力比べだ。お手並み拝見といこう」
盾代わりに湊の手から投げ出された護符が水へと姿を変質させる。
すぐに双方の水がぶつかり合った。
ここからは、純粋な呪力と魔力の押し合いとなる。
だが、悲しいかな。高坂の狂水の乱舞は水を魔力へと変換させる能力を持っている。このままでは、敵に塩を送るようなものだ。
これでいい。そう思った。
これが、俺だ。
八代湊はもう泣いてはいなかった。
前置き: 投稿時期に間隔が開いてしまって申し訳ありません。読んでくださっている皆さんには何時も感謝しております。これからも精進いたしますのでどうかよろしくお願いいたします。
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