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邂逅

 夕焼けに沿って湊と睦、二人の頭上に影が伸びる。もし、この一面だけを切り取って絵にするとするのならば、いかにも春風駘蕩といった感じだ。この場面だけを見ればの話だが。二人が持つスーパーから買ったレジ袋の中にはこれから作ると思われるアクアパッツァの材料が入っていた。


 「う~ん、白身魚がもう少し売れ残ってたらおかわりも作れたんだけどなあ」湊が呟いた。


 まだ夕方だというのに、スーパーにある白身魚の在庫は売り切れ寸前だった。慌てて四人分買うことが出来たものの、もし材料とは違う魚しか売れ残っていなかったらと思うとゾッとする。今日は白身魚の日なのかもしれない。野菜類や酒などは家に在庫があるらしいのでそれを使おう。両親にはいつも以上に頭が上がらない。


 それは置いといて、と湊が横で上機嫌な睦の事を睨み付けた。


 「ところで睦さん?なぜ、明らかに可笑しい膨らみ方をしているレジ袋を持っているんですかねぇ!!!あなた絶対自分が食べるためだけのお菓子だけでレジ袋パンパンにしましたね。はあ、これだから変態は…。所構わずパンパンするのが大好きなようで、本当におめでたい頭をしていらっしゃる。人のお小遣いでよくもまあそんなに厚顔無恥な事が出来るよね!!!少しは加減という物を覚えてもらって欲しいのですが」


 「そ、それはそうね。私が悪かったわ。で、でも今のは明らかに言い過ぎよね。そもそも私まだ処女なんだから、所構わずパンパンなんてしたことないわよ!!!というかあなた、ワタシの印象どう思っている──────」


 はっ、と彼女の顔からいつも以上に血の気が失せるのが見えた。


 うん、おめでとう。


 勝利の女神様は悪魔の子という過酷な運命を背負った子羊に対して祝福を与えるどころか、地獄を見せた。


 「あー、すっきりした。さあ、家に帰りましょー!!!」


 「ちょっと待ちなさいよ!!!」叫び声がする。


 帰るまでは絶対に睦の顔なんて見てやらない。人のお小遣いでお菓子を買いまくった罰だ。全く、本当に反省してもらいたい。そんな事思う反面、湊は内心ホッとしていた。自分が女子相手に話せていること。これからどうなるかはまだ分からないが、睦とは良い関係が作れていると思う。こうなる度にこの思いを反芻する。始まりがあれば終わりもある。だけど、今はまだそれを気にする段階では無い。


 「どうしたの?湊クン」どこかよそよそしい感じで接してくる。まあ、良いだろう。


 「ああ、何でも無いよ。睦は先に帰っててくれないか。お菓子の件は不問にしてやるから。荷物は…ほら、この子にお願いするから」


 キュイ、とかわいらしい声が睦の頭上から聞こえた。頭に目をやると、なんとも可愛らしい雛鳥が居るでは無いか。


 「任せたぞ、相棒。ああ、それと帰りは遅くなるから、大丈夫、式神を変化させてどうにかやりくりするから。親孝行は絶対だしな」


 「ちょっと!!!どこに行くのよ、いくら何でも怪しいわよ」


 「お菓子のことバラされたくなかったら、真っ直ぐ家に帰ってくれ。うちの母さんに心配掛けたくないんだ。母さん、睦のことすごい信頼してくれてるみたいだし」


 じゃあ、と言って湊は夜へと変わっていく町へ旅立った。


 湊が行った方向を呆然としながら見送った私は嫌な予感を拭いきれずにいた。あの人を思い出す。私を守ると言って私の目の前で死んでいったたった一人の騎士(幼なじみ)。彼もまたこうなってしまうのだろうか。いや、しっかりしなさいワタシ!!!今日は歓迎会なんだから。”幸せを幸せと正しく認識しろ”湊の日記に書かれた言葉を思い出す。


 「幸せ、か…。アイツにも何かあったのかな。後悔が…。」


 そう言って彼女は家路についた。料理の最中には彼女の圧倒的な有能っぷりに両親は驚かされっぱなしだった。気になるアクアパッツァのお味は家族全員*(一人人外)を入れてだが、舌鼓を打つほどであった。今度こそは絶対食べよう。


 うちの両親曰く、睦を一家に一台欲しい。それにしても父さんの適応力はどうなっているのだろう。某式神以上に適応スピードが化け物じみていると思うのですが…。ちなみに、式神が自分に化けているのは気づかれなかった、らしい。もしバレてしまっていたら、以前のような自殺ルートに再突入しかねなかった。いや、それ以上に悲惨だっただろう。両親だけは嘘をついてでも絶対にこの戦いには巻き込んではならない。それが俺が自分に課した呪い(約束)なのだから。



 











 アイツに掛けた暗示がキチンと効いていると良いけど…。湊は夜の空に浮いたまま片手で刀剣を作り、呪文をかれこれ数十分ほど唱え続けている。

 「仮初めの幸せ、即ち栄華と破滅の始まりなり。この説 幸せの架け橋とならんこと候」


 空模様はあっという間にオレンジから黒へと移っていった。


 式神を通じて己の認識を乱すように家に居る全員へと呪を送り続けている。睦はアレでも、正真正銘悪魔の子だ。どんなことがある分からない。念には念を入れよ。大事な言葉だ。


 ふう、と一度一息つく。これぐらいすれば良いだろう。僕は嘘は嫌いだが、人を幸せにする嘘も時には必要だ、とも思う。正直だけがこの世の正解では無いのだから。先程感じた違和感はここら辺だけど…。この周囲の警戒をしながら、呪を送り続けるのは一苦労だ。


 「おい」呪力を少しでも減らしたタイミングを見計らって声が掛かった。


 相手は自分と同じく宙に浮いていた。求めていた声が風に乗って伝わる。


 「これはこれは、大層なご登場で」


 「御託は良い、オマエのような独りよがりのバカに掛ける言葉は一つも無い。ただ一つ、この質問に答えろ、睦はどこに居る」


 「知ってても教えるかよ。そういうことが分かっているからオマエもこんな場所に来ているんだろうが。後、独りよがりって言うのは止めてもらいたい。それは、以前の()だ。今じゃ無い。掛かってこい、高坂結人。宮本葵の唯一の騎士(幼なじみ)。独りよがりにしか出来ない戦いってモノを見せてやる!!!」


 「上等だ。ところで、オマエは教会(おれたち)についてどこまで知っている?」



 「|何も?《()()()()()》」

 空中で戦いの火蓋が切って落とされた。



 


 






 

 

 書いているうちにアクアパッツァを作ってみたくなりました。


 もし皆さんの好きな料理など有りましたら、コメントで教えてください。


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