運命の方程式
音が、する。
脳の奥で人に見られたくないモノが百鬼夜行のように群れをなして思考を黒で染め上げた。
ぐちゅっ、ぐちゅっ
何かをこするような音がする。
何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、
何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も
呪いはその音を聞くのを決して止めさせない。永遠に────
「救えなかった、救えなかったんだっ!!!」
湊ははただ声を張り上げて涙をこぼすことしか出来なかった。今は亡き少女に囚われながら────その夢を繰り返す。
あの事件の後、僕は自分のような辛い思いをする人をこれ以上増やしたくないという思いとこれからへの不安から、呪いについて知識を深め決意した決意した。
最初は、元々好きだったラノベやアニメを参考にしたり、それらのキャラクターのまねをすることから始めた。ものまねは楽しかった。実際に彼らのようになれた気がしてほんのちょっぴり嬉しかった。
次に取り組んだのが、情報収集と日々の鍛錬である。中学校は保健室登校を繰り返しながらもなるべく休むことはしなかった。動き出さなきゃ、変わらない。それは僕が一番よく分かっていた。吐きそうでもいい。鍛錬を続けた。師匠と呼べるような人物はいなかったので、古本屋で買った数冊の本を頼りにするしか無かった。学んだことはいっぱいある。何度読んでも理解に苦しむ内容が書かれているのは日常茶飯事だ。未だに、伝説とされている人物はどうやってコレをなせたのか疑問に感じる。やはり物事は一筋縄ではいかない。
ただそれでも分かったことが一つあった。僕は、呪術を使えるということだ。不幸中の幸いというべきか、あの時受けた衝撃、呪詛はどこまで僕を数奇な運命に巻き込むつもりなのだろうか?誰か教えて欲しい。
そういうこともあって、最終的に陰陽師になることを決意した。僕が陰陽師というものに強く惹かれたのはただ単にかっこよかった、おまけに呪いを祓ったり、相手に返したりも出来るというのもあるが、それ以上に”泰山府君祭”という秘技に惹かれたのが大きかった。
かの有名な安倍晴明が用いたことでも知られるようになったのだが、この術の凄いところは、万物・人間の生死を司る存在とされている泰山府君に働きかけて、人の生死に干渉する秘儀というところにある。例えば、寿命を操作したり失われた命を取り戻させたりなんてことが出来る。また、その上位版には六道冥官祭( 天曺地府祭 、天曹地府祭と言われたりするが)があるが、今はそれについて置いておくとしよう。とりあえず僕はこの秘儀を使ってもう一度彼女に会って話を聞きたかった。なんで彼女が僕に呪いをかけたのか。
彼女は僕に何かを伝えたかったのか、それとも他に理由があったのだろうか────
ああ、いつも通りだ。いつもここで目が覚める。
悔しいな。僕は何時までもその先を知ることは出来ない。
それでも足掻く。足掻き続けて今があるのだから。
いつかきっと本当のことを知るために…。
なぜか感動的な場面で終わらそうとしているところに突然悪いが、今日は高校の入学式である。本来ならば行くはずの予定なんか無かったのに・・・。
今思えば不思議だったんだ!!!本来ならば死んでいてもおかしくないとお医者さんに言われた自殺未遂!!!”そのとき不思議なことが起こった”で絶対に済ませちゃいけない案件ですよ、コレ。絶対に誰かが一枚噛んでいるはずだ!まるで名前を言ってはいけないあの方ばりに今の僕は思い込みが激しくなっている、いやそう思う方が普通だろう。
本日の料理コース
朝の支度~胸騒ぎを添えて~
うーん、実に美味しそうだ。本当に!!!
親の顔見ることの無い朝食はこれで何度目だろうか。寂しいといえば嘘になる。家に彩りは必要だと思う派だ。僕が病院にお世話になった時からあまり顔を合わせなくなったということは、両親なりの気遣いなのだろう。確かに僕も両親に心配させるような所は見せたくない。
はぁ、何で今になって情が頭を出してくるのだろう。少なくとも、自殺を防がれた時点ではそういった考えを思い出したりしなかったのに。
まさか教会のメンバーが僕になんかしてたりして…。
うん、止めよう!!!久しぶりの気持ちが良い朝だ。こんなことを考えていたって仕様が無い。何故か今日はこれから起こる頭痛にしても大丈夫な気がする。
歯を磨いた後に一度自分の顔を見た。酷い夢を見たにしては、なぜかすっきりした顔だ。青白かった。
冗談はさておき玄関へ向かう。
「行ってきます」
玄関先の廊下に声が響く。行ってらっしゃいは返ってこない。それでも良い、今日は入学式。新たな出会いで少しは親孝行でもしようか。
珍しく桜の花びらが彼の制服姿を見て舞い踊った。
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