プロローグ 『最悪の始まり』
もし、この地球上に生きている人々が消滅して、生きているのが僕だけになっているとしたら、それは死と呼べるのだろうか?
僕、八代湊は考え始めた。
いまから自殺しようとしているときにこんなことを考えているようじゃきっと死ねないのだろう。
困ったな、せっかくここまで来ることが出来たのに…。
これで、失敗するのは3度目だ。一度目は発見され、二度目は、単に運だった。救急車で運ばれ、一か月ほど安静にしていた。見舞いには誰も来なかった。
来てほしかった半分、来てほしくなかった半分。まだ、見舞いに来てほしいという気持ちがあるだけ僕は恵まれていたのかもしれない。でも、それも今日終わる、はずだった……。
せっかく、良い自殺スポットを見つけたというのに。自分の中での悪い予感は生まれてこの方外したことはないのだ。ここは一刻も早くこの場を退散したほうが良さそうだ。深夜に煌めく街の明かりを商業ビルの屋上から名残惜しく眺めながら、僕は踵を返した。
直後、はっきりと背後に何かがあるのを理解した。
嫌な予感がして振り替えると、僕の目の前に女の子が立っていた。いや、正確に言えば宙に浮いていた。
思わず声が出た。
それは誰だって驚くだろう。ともかく、ここからどうなるのだろうか?ビンタでもされて、無理やりでも止めるのだろうか?それとも、大声を出して、痴漢の冤罪でも吹っ掛けるのだろうか。それよりも人々はまず、宙に浮いていることに注目するのだろうが生憎ここには人はいない。何をされても大丈夫、どんとこいっっ!!の精神で彼女の第一声に耳を傾けたが、それは耳を疑うものだった。
「こんな時間に一人で何をしているのですか?まあ、大体予想は付きますけど」
そう言いつつ彼女は顔面に蹴りを入れようとしてきた。理由が分からない。それでも彼女が止まるわけがない。僕は蹴りを受け止めようとするが間に合わず、避ける態勢に入る。間一髪、体を仰け反らせて避けることが出来た。当然このまま引き下がることも出来ず、僕は戦うしかない他はなかった。戦いたくないなどとほざいている暇など無い。
チャンスは一瞬──────
ポケットから呪符を取り出し、唱える。「我を呪い給え、己を取り巻くこの呪よ。我を襲い来る全てをこの呪をもって迎え撃つ!!!」
刹那、僕の周りを何かどす黒いモノが覆い被さり囁いた。
「オイオイ、皮肉なもんだよなぁ!!!自分を守るためには自分を傷つけたモノで立ち向かうしかないんだからなぁ!!!アハハハハハハ!!!」
「うるさい」そう一喝し、再び呪符の方に意識を向ける。
コイツは今はほっといておく。相手は待ってくれない。先程の蹴りも女性とは思えないほどの威力だった。何かをかじっていることは間違いない。しかし、おかしい。普通ならば誰かに連絡するか、警察に通報するはずだ。それを慌てずにひどく落ちすいた様子で僕の前に現れた。それに、予想していたとなると…。自殺に対してひどく敏感過ぎやしないか。まるで、僕が死ぬことを分かっていたみたいに...!!!
あれ?
ふと彼女に目を向けると、胸元に何かきらめくモノが見えた。
十字架だ。ああ、と僕は思った。これは教会に目を付けられたなと。
自殺をするのも生き方の一つだと思うのに。僕は別に人に自殺を勧めようとしている訳では無い。自殺という人生における一つの選択肢に心を奪われているだけだ。
それよりも、今は一刻も早くここから脱出することが先だ。
呪力を込めた呪符を相手に確実に当てるにはじっと待つしか無い。
相手の攻撃を避けながら、ブラフを撒きながらやりくりするしか無い。
だが、このままでは埒が明かない。相手に何か特徴が有るはずだ。
もう一度、注意を彼女に向ける。
先程の宙に浮けるところを見ると魔術用具の類いを複数身につけているのだろうか。服装は一般人に紛れても分からないような物だし、正直胸元の十字架もアクセサリーといってしまえばどうとでもなるだろう。
一度考えを戻そう。確かに僕を追いかけるのには、空を飛べた方が良い。一度見つかってしまえばどうすることも出来ない。おまけに、もし僕が逃げられたとしてもある程度のアドバンテージは確約されている。他にも考えられるのは、飛び道具、それと、遠距離用の用具だ。
近接戦闘においては、彼女の自信を十分に感じることが出来た。彼女は体術面においてはトップクラスだ。それを最大限生かせるようなモノをセットしている。はず…。まあ、そっち方面も警戒しておくか。
そうこうしているうちに、呪力を込め終わった呪符が出来た。
「たった一枚で何が出来るというのです?あなたはとっくに包囲されているのですよ?」
ぼくの呪符を見て彼女が言う。確かにその通りだ。外せば終わり。だが、今はそれで良い。この一撃に僕の一生がかかっているのだから。
あえて、相手の攻撃を待つ。もう避けるのはやめだ。
予想通り、攻撃してこないことに堪忍袋の緒が切れた相手が突っ込んでくる。
しかし、相手もプロ。何をしてくるから分からない。完璧に対処されたらおわりだ。だから、罠が生きる。
「出でよ、式神!!!」
相手が動きを止める。その瞬間を見逃すわけにはいかない。
先程避けながら撒いた呪符に呪力を込めるふうに見せながら結界を作る。片手で刀印を結び五芒星を描き、印を結んだ後、之を散ずる。
結界で即座に相手を閉じ込め放つ。
「呪に呪に纏われたもうもの、その身を滅ぼし天へ還らんッ!!!」
オリジナルの呪文だ。どこまで通用するかなど知ったことでは無い。
ぶっつけ本番だろうが何だろうが、動きを止められたのであればそれで良い。
幸い、呪符をもろに食らった相手の体に亀裂が入り、メキメキと変な音を立てている。この様子では追ってきたりはしないだろう。相手が回復する前におさらばだ。
と思ったが、非常ドアに目をやるとあちら側の結界で覆われていた。
流石、プロ。抜け目がない。
もう僕には逃げるという選択肢すら神様に取り上げられたみたいだ。人生思い切りが重要。というわけで僕はビルから落っこちることにした。
これからどうなるのだろう。普通の生活が戻ってくるのだろうか?そもそも、戦ったところで終わりが来るのだろうか。
どのみちこうなる運命だったのだ、と一人納得した僕は爽やかな笑顔で誰も居ない歩道へと飛び降りた。
もし、誰かが自殺の邪魔をするのならその時は絶対に容赦はしないという思いを胸に。
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