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第38話 蒼き剣に宿る名誉

とうとう13万字超えそうです……

一章を収めると言う目標は、どこに行ったのか。

まとめるのが下手ですみません(汗


評価、お気に入り登録ありがとうございます!

みなさんの見守りを糧にして、このまま終わりまで走ります!

 ハレの瞳が怒りに燃えた。

 一族の名誉を汚した仇敵――ライ・ユーファス。彼への憎悪が、剣先を乱すほどに彼の心を埋め尽くした。


「ライ・ユーファスッ! 貴様のような亡霊風情に、再び我が一族の名誉を踏みにじらせはせん!」


 先祖であるヘイヤ・ヴォーパルの名は、白兎騎士ハレにとってあまりに重かった。

 600年の長きにわたり、子孫たちは呪われた白獣の汚名を(そそ)ぐために戦い続けてきたのだから。


 今こそが機だと、ディーは気勢を高めた。


 聖女リリーを狙う刃が今だけでも逸れてくれれば、勝機が生まれるかもしれない。

 この一瞬のチャンスを生かすため、ディーとマフェットは素早く視線を交わし、同時に動き出す。


「マフェット、糸を張って!」

「ショータイム! いっちょ派手にいくわよ!」


 マフェットは蜘蛛足を広げる。

 本来、闘技場と言う広すぎる空間では、糸を張り巡らせるには適していない。


「ディーの命を削るとも、止まらぬこの殺意。(あがな)えっ、『苦輪瞋恚(アレクトー)』」


 それを、ディーの使う茨と組み合わせることで、状況を変える。


 ディーは生命力を削りながら、槍を地面に突き刺した。引き換えに生み出された魔力は、高き塔の如く茨を積み上げ、多頭の蛇のようにハレへ襲い掛かる。


 白兎騎士ハレは、剣では払いきれぬと弾けるように飛び退いた。


「不相応な力を振るうとは、血迷ったか。こんなもの当たりはせんぞ」

「血迷ったのは、あんたでしょ。あたしたちトゥイードルに手を出した以上、容赦しないわ」


 闇に立つマフェットは、宣言する。

 真っ黒なゴシックドレスが、どれだけ損なわれても、彼女は自身が華麗であることを捨てることはない。


「――悪夢に招待するわ、『黒蜘蛛巣城(ブラック・パレス)』」


 生み出された茨との連携。

 マフェットは、禍々しい茨に蜘蛛糸を絡めて、一瞬で結界を構築した。

 薄く輝く糸が戦場を包み込んだかと思うと、すぐに糸は闇に埋没し、ハレの動きを制限する罠となった。

 辺り一面に茨が生い茂り、密林さながらである。


「くっ、こんなもの断ち斬ればよいっ!」


 とはいえ、アラクネであるマフェットの糸は鋼鉄に近い強度と、蜘蛛糸の粘着性を併せ持つ。

 剣の達人である白兎騎士ハレであっても、簡単には切り抜けられない。


 血を吐きながら、ディーはその隙を逃さず突進し、槍の穂先を全力で突き出した。


「これで終わり」


 槍は正確にハレの胸元を狙っていたが。


「甘いな」


 キン、と水晶の剣が衝突、ディーの槍を弾き飛ばす。


 その勢いでディーは後方へ転倒したが、目に映るハレの表情は苦々しいものだった。

 足元に巻きついた蜘蛛糸が彼の動きをわずかに鈍らせていたのだ。


 ハレは糸を切り裂こうとするが、気が逸れた途端、間髪入れず、再びマルシャの矢が放たれる。

 矢は魔力をまとい、空気を切り裂いて一直線にハレの肩を射抜く。着弾と同時に破裂すると、より傷を増やす。


 余波は側頭にも新たな傷口を作り、流れる血がハレの白い毛並みに赤く染み込む。


「小賢しい……!」


 撃ち抜いたマルシャは、即座に茨の密林に隠れた。

 マフェットや、ディーも見当たらない。標的であった聖女リリーの居場所すらわからない。


 地の利を作り、攻め手を増やす。

 魔獣たちとの戦いで、こんな戦い方をされたことはなかった。

 闇に紛れた蜘蛛の糸は見えにくく、下手に動くことも出来ない。


 ハレが態勢を整えようとした瞬間、影から現れたマフェットが蜘蛛糸を放つ。再生を繰り返す糸は、彼の動きを封じた。


「させないわよ、ハレ兄さん。今度こそ!」


 マルシャの矢が再び放たれる。今度はハレの片膝に命中し、その体勢を大きく崩した。

 深追いしようとするも、ダムが先回りして待ち伏せる。態勢を低くして、水平に構えた槍で、急所を狙う。


 白銀の鎧で致命傷を防ぐように、最低限の身逸らしから、転じて切り返す。

 が、踏み込み切れない。


「ふ、ふふ。やるではないか、冒険者ども。それに、我が妹(マルシャ)


 そこに白獣の咆哮が場を震わせたのが聞こえた。

 それは最後の断末魔だった。徐々に咆哮は力を失い、ついに巨体が崩れ落ちる音が響いた。


 古き英雄、ヘイヤ・ヴォーパルは、かつての敵に討ち取られたのだ。

 悟った瞬間、ハレは叫び声を上げた。


「ああっ、燻り狂える白獣(バンダースナッチ)! ……クク、結局、私は先祖の屈辱を防げなかったか」


 怒りと共に、ハレの全身が白い光に包まれる。

 その光は、彼が持つ青水晶の剣をさらに輝かせ、魔力の波動が広がった。


「ディー、マフェット、気を付けて! 」


 とっさにマルシャが警告を叫ぶ。

 だが、ハレの放つ魔力は、彼女の声すらかき消さんばかりの勢いだった。


「――もういい。邪竜と戦うまで温存するはずだったが、見せてやる。このヴォーパル一族の真髄を!」


 ハレが剣を振り上げた瞬間、空間そのものを切り刻むような衝撃波が周囲を包み込んだ。

 縦横無尽に解き放たれた斬撃は、戦場を薙ぎ払い、茨も蜘蛛糸も霧散する。


 弓を構えていたマルシャも、蜘蛛糸を操作していたマフェットも跳ね飛ばされる。

 ディーは盾代わりに槍を掲げて堪えたが、膝を突いた。


「凄い、剣技。これがあの恐れられたヴォーパルバニー?」


 ディーの声はかすれ、戦場を覆う圧力に全身が軋む。


 ハレの周囲に閃光が舞い、彼の姿は神話の戦士さながらだった。

 青水晶の剣はさらに輝きを増し、その剣先に宿る魔力が一際強く脈打つ。


「見せてやろう、貴様らの命でな! ヴォーパルブレードの真理すら断つと言う、彗星の技を!」


 剣を天高く掲げたハレの目が、神々しい光を湛える。

 その額には輝く角が存在していた。

◎兎人騎士

 春暁の風に乗って翔ける兎人王国(クニークルス)の騎士たちは、かつて空を統べた鳥の末裔である。

 女神エオストレ(または女神オスタラ)の祝福により、彼らは翼を捨て、豊穣の地の守り手となった。


 騎士たちは「暁の三誓」を胸に秘める。

 敵前逃亡を禁じる「不退の誓い」、戦友の加護を説く「共生の誓い」、そして森と春の訪れを守護する「季節の誓い」である。


 彼らの軽やかな骨格は空の記憶を宿し、年に一度の産卵期には神聖な儀式が執り行われる。

 伝説によれば、最も優れた騎士の卵からは金色か、暁色の模様が浮かび上がるという。

 それは女神の祝福が色濃く宿った証であり、その騎士は生まれながらにして、「暁光の守護騎士」と言う名誉ある称号を与えられる。

 神の期待を裏切ることは許されない。それは種誕生以来、絶対の忠節である。

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