3. 青い奇跡
その日の夜、私(朝霧花蓮)はとある美術館に来ていた。今回のお目当ての品は海外の資産家が所持し、現在この美術館に展示されている【青い奇跡】と呼ばれる大きな宝石だ。放射状に広がる金色の枠に、直径30cm以上ある大きな青い宝石がはめ込まれている。私はすっかりこの宝石に魅了されてしまっていた。
「さてと、さっさとやることやって帰りましょうかね。」
私は準備しておいた予告状を博物館のポストに入れ、展示物の配置を確認した後、颯爽と帰宅したのだった。
翌日、テレビのニュースは怪盗フィアットの犯行予告があった件であふれていた。
「今回、大胆にも巨大な宝石を盗むと予告してきたわけですが、今まで小さな宝石しか狙ってこなかった怪盗フィアットは果たして本当に犯行に及ぶんでしょうか。」
「そうですね、今までの手口はまだ解明されていませんが何らかの形で仕掛けてくるということはほぼ間違いないでしょう。美術館は警備を増強し警察も万全の体制を敷くようです。特に前回、やられてしまったことをかなり根に持っている桐山刑事は先ほど会見で『今回は赤外線カメラを全員装着して警備する予定だ。』とかなり意気込んでいましたからね。警察VS怪盗、見物ですねぇ。」
ブーッ。私は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「赤外線カメラ⁉暗闇通じないじゃん!ウーン…。まあ大丈夫か。」
かくして少々不安げな怪盗の仕事が始まる。
犯行予告には以下のことが書かれていた。
「ごきげんよう、皆さん。明日の22時。当美術館に展示されている【青い奇跡】を頂戴したく参上いたします。怪盗フィアット♡」
警察は怪盗フィアットの正体はおろか、性別までも不明であると公言しているが、いかにも女性っぽい予告である。しかし、怪盗フィアットの情報は未だ何も得られていない。
予告日の21時。警察官総員100名超が美術館の周囲・内部を警備し、周辺の立ち入りを規制していた。現場を仕切るのは例の2人、そう鬼川警部と桐山刑事だ。
「いいか、皆の者。今日は前回やられてしまった憤りを胸に、何としても確保するんだ!」
「そうだ、警部の言う通りだ!今夜は絶対に逃がさん。明かりが消えたらすぐに総員赤外線スコープを使え。絶対に見失うなよ!」
「おおぉ!」
随分と気持ちが高ぶっている。髪を縛りポニーテールにしてフィットスーツに身を包んだ私は、その様子を通気口の中から見ていた。
「うへ~、本当に全員赤外線装置を持ってるよぉ。まあ、あれで行くしかないな。」
そう言うと私は準備を整えた。
予告10秒前、警察官らによるカウントダウン。「ゼロ」と叫んだ瞬間、館内の照明が一瞬で消えた。
「落ち着け。総員装備装着!」
警部の指示で全員がそろって赤外線スコープを装着する。すると、建物のガラス窓の向こうに怪しいパラグライダーが飛んでいるように見えた。目を慣らし、よく見ると大きな宝石を抱えている。
「まさか…。」
警部はあわてて展示ケースを見る。そこには、1枚のカードが残されていた。
「警備ご苦労様です。予告通り宝石はいただきました。それではまた~。怪盗フィアット」
警部は顔を真っ赤にして叫んだ。
「総員、追え―――!!」
展示室から70名あまりの警察官がどっと出ていった。もぬけの殻となった展示室に降り立つ影が1つ。
「ふぅ。何とかなったぁ。タイミングゲーだったわぁ。」
怪盗フィアットだった。そう、怪盗フィアットは警察官がそろって暗視スコープを装着するタイミングで、展示ケースを自分事鏡で囲い、一瞬でケースから取り出した。そして素早く通気口へと舞い戻り、鏡をたたんで回収したのだった。なんという手際の良さ。全く感動ものである。そうして警察官らは偽物を散々追いかけ、また苦い経験を積むのであった。
「チクショー!!」
桐山刑事の叫びが夜の街に響いた。
今回も無事に目当ての品を盗み出すことに成功した。私はまだ彼ら警察についてあまり知らない。多分長年の対決でお互いの性格や癖なんかを見つけていくものなのだろう。でも私が活動し始めたのはほんの1年前。ちょうど高校3年生の夏だ。
「なぜ私が怪盗になったか知りたい?語ってもいいけどとっても長くなるよ?それでも聴きたいって?分かった。じゃあ私が怪盗デビューするまでのお話を始めるね。」
今回も読んでいただきありがとうございます。
次話から新章突入です。
小説初心者なので「もっとこうしたらいい」などのアドバイスや評価、ぜひお願いします。