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元ブラック運送ドライバーのオッサン、異世界で運送屋を始める! ~異世界トラック野郎の成り上がり記~  作者: 汐乃 渚


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魔獣との遭遇


化け物が振り下ろした鉤爪は、俺ではなく隣にいたティムの肩から腰までを切り裂いた。

爪先が俺たちと荷車を繋いでいた腰元の鎖に当たり、ガキィン! と高くて鈍い音を響かせる。

火花が散ったようにも見えたが……錯覚だろうか?

その時見えた化け物は馬と鷲を足し合わせたような見た目をしていて、爛々と光るその瞳がやけに印象的だった。


そこまでがまるでスローモーションのようにゆっくりと過ぎていたが、ようやく俺はティムに言われていたことを思い出す。


――魔獣に出くわしたら、なりふり構わず全力で走れ!


瞬間、俺は脇目も触れずに足を動かした。

ぐったりと動かない様子のティムは心配だが、さっき見えた様子じゃ腰元はまだ鎖で荷台と繋がれている。

死んでいなけば、なんとかなるはずだ。

行きに比べれば、大した重さでも無い。

鎖に爪が当たって驚いたのだろうか、悔しそうな化け物の鳴き声はどんどん遠ざかっている。


全力で駆け抜けた俺は、夜明けの光に包まれ始めた収容所に滑り込むことに成功した。


「誰かっ!!! ティムが怪我をした! 早く治療を――」

「なんだ、やけに騒々しいではないか。……ふん、今度はコイツがやられるとはな」


俺の叫び声にのっそりと反応したのは昨日のチョビ髭だった。

ようやくティムに目をやると、どうやら怪我をしているが皮膚一枚のところで済んだようだ。

出血も思ったほど酷くなく命に別条はなさそうだが、パニック状態なのか瞳孔が開き、荒い息を繰り返している。

しばらく引き摺ってしまったせいか、足もボロボロだった。


「オイ、早く――」

「五月蠅いわ! 見たところ大した怪我では無いし……」


急かす俺の声に苛立ったのか、チョビ髭が目を剥く。

放置するようなことを言い出そうとしたところで、看守が遮った。


「所長」

「あ? なんだ一体」

「残っているのは役に立たなそうな連中ばかりです――コイツは足も速いし勘も良いので、治療してまだ使った方が得策かと……」

「チッ、……仕方ない。おい、誰かコイツを医務室へ連れていけ」


チョビ髭はやはりこの収容所の所長だったらしい。

提案した看守の言葉に眉をしかめたが、最終的にはティムを治療することに決めたようだ。


「ふん……。おいキサマ、こちらへ来い」


所長は連れ出されていったティムを見て鼻を鳴らすと、今度は俺の方を向き顎をしゃくる。

連れていかれたのは所長室らしく、デスクやソファーの置かれた個室だった。

棚には施設の模型や書類が並び、壁にはこの付近一帯が描かれた地図が貼られていた。


所長はドカっとデスクの椅子に座ると、壁に貼られた地図を手で示す。


「おい、さっき運ばれた奴が襲われたのはどのあたりだ? それから、魔獣の特徴を言え」


それなりの大きさの地図には脱走した囚人を捕らえるためか、周囲の森にある獣道まで詳細に記載されていた。


――道を覚えようとするのは職業病だろうか。

俺は地図をまじまじと見つめ、それを必死に頭に叩き込む。


暗闇の中では闇雲に進んでいただけだったが、記憶にある地形と地図を照らし合わせていく。

地図(コレ)を覚えておけば、必ず役に立つはずだ。


じっくり眺めるのを不審に思われないよう「暗くてよくわからなかったが」とあやふやなことを織り交ぜながら、俺が見た化け物の特徴と大体の遭遇位置を示すと、前日より出現ポイントが近づいていたのだろう、所長は短く舌打ちをした。


「やはりヒポグリフか……! 厄介なッ!」


額を押さえて激昂すると、数名の看守を呼び出し、入れ替えられるようにして俺は退室させられた。


離れていく間にも、付近に翼のある魔獣がいることの問題性について怒鳴り散らす所長の声が聞こえてくる。

鉤爪と瞳に目を奪われていたが、確かに背中に大きな翼があったような気がする。


障害物が何もないところで、あんなデカい奴に飛んで来られたらひとたまりもないだろう。

今回遭遇した化け物がその翼を使わなかったのは幸いだった。

ティムも俺も運が良かった、と心底思う。


マルクスに聞いたところによれば、魔獣被害の多いこの大陸では街や建物を囲むように魔獣除けの魔導装置が設置されているらしい。

規模の大きな害虫・害獣避けのようなものを想像しているが、実際はどんなものなのか俺には知る由もない。

しかしそんな魔獣除けも万全ではないようで各地の冒険者が魔獣狩りを行っているそうだが、この辺境の街には冒険者が居付かないそうだ。

――そのせいで危険な魔獣が出現した際、魔獣狩りをしてくれる冒険者を探すのが困難なのだと。


所長ではないが、これは非常に厄介な問題だ。


危険な深夜の森を荷運びのために行き来させていることといい、この収容所を管理している連中はモラル皆無の人権無視野郎どもだ。いつ収容者たち(俺たち)を肉壁にして魔獣狩りを始めると言い出してもおかしくない。


所長の声が聞こえなくなるくらい離れたところで、足早に自分の房へ向かう。


「マルクス、居るか!?」


息せき切って現れた俺に、マルクスが駆け寄る。


「おいおいタカオ! 戻ってこなかったから心配したんだぜぃ! 一体今まで何処に――」

「ヤバいぞ! ヒポグリフとかいう魔獣が出たし、俺も例の荷運び(・・・・・)に選ばれた。……予定より早いが、アレ(・・)を使う時が来た!」

「なっ……! アレ(・・)を使うんだぜぃ!? それに魔獣に荷運びってオメェ、一晩で一体何があったっていうんだぜぃ!?」


仰天した様子のマルクスに、俺は昨晩から今までに起きたことをかいつまんで説明する。


さっきの様子じゃあ、連中は今晩も俺とティムを荷運びに使おうとするハズだ。

今回は運が良かったが……出現場所が近かったということは、恐らくあの化け物は俺より前にティムと組んでいた囚人を襲った魔獣と同じヤツで、その際に知恵を付けたのだろう。

帰り道の収容所付近で、荷運び人が気を緩めた瞬間襲い掛かる――たとえ待ち受けていることがわかっていても、そう何度も逃げ切れるものじゃない。


魔獣狩りにしても同じことだ。

所長の怒鳴り声から察するに……実行のタイミングこそ読めないが、いつか必ずやらされる日が来る。

全員に武器が渡されるとは考えられないし、森には今回俺たちを襲った化け物以外にも魔獣はたくさんいるだろう。


無傷で生き残れる確率は、どちらも低い。


「――今夜だ! 今夜上手く行かなけりゃ、どのみち近いうちにあの世行きだ。それよりは、未完成だろうがアレ(・・)に賭ける!」


どうせ余生なんだ、死ぬなら手塩にかけた切り札に賭けて死にたい。


「……わかったんだぜぃ! 俺は残りの調整をするから、タカオは少し休むんだぜぃ。オメェ自分じゃわかんねぇだろうが、酷ぇ顔色してるんだぜぃ」


マルクスはそう言うと、俺をベッドに追いやる。

俺が横たわるのを確認すると、「任せとけ! バッチリ仕上げてやるんだぜぃ!」と言い置いて秘密の隠し場所へ走っていった。


俺は浅い眠りに落ちる瞬間まで、どうすれば全てがうまく行くのか考え続けた。


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