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異世界トラック

いつものごとくふわっと設定です。

今までのジャンルとは異なりますがよろしくお願いします!


「<ラッキー・デポ>です! お荷物到着しましたァ!」

「こちらに荷下ろしさせていただきまァッス!!」


俺と相棒の若造は到着するなり声を張り上げて挨拶すると、丁寧かつスピーディに積み荷を降ろしていく。

所定の場所に次々と荷物を運び出し、受取人からサインを貰ってこの依頼は完了だ。


付近にいる別の依頼人のところまで向かい、今度はそこで荷物を受け取る。

そうしてまた次の街へ――これが俺たちの仕事であり日常である。


大抵は食料品や日用品などの運搬が主だが、見知らぬ品が多々あり、物珍しさに驚くことも少なくない。


俺、吉倉(ヨシクラ) 孝雄(タカオ)は元々この世界の人間ではない。

異世界転移というのだろうか、何故か全く知らない世界に放り出される以前は日本で大型トラックを乗り回す長距離運送ドライバーをしていた。


所謂ブラック運送会社というやつに長年勤めていたのだが……日頃の無理が祟ったようで、ある日深夜の高速道路で短い休憩を取るためにPA(パーキングエリア)にトラックを停めた際に意識を失ってしまった。

睡魔とは違う、ふわりと浮かぶような感覚に『あ、これはマズい――』と思ったのだが、もう遅い。

アノ世じゃないなら病院でチューブに繋がれているだろう……と思いきや、目が覚めると見知らぬ土地の冷たい石畳の上に丸裸で転がっていたというわけだ。


キチンと駐車したところまでは覚えているので、他人様や積み荷を巻き添えにするような事故を起こさなかったことは思い返しても我ながら良い判断だったと思う……が、一歩間違えていたらと考えると今でもゾッとする。

異世界にやって来たらしいとわかってからも神様とやらにも出会うことなく、特に何の説明もないまま放り出された45歳の中年のオッサンに何ができる――と、どうせあの日終わっていた命と思い、余生気分で過ごしていたのだが。


そんな俺も、今やこの世界初の魔導トラックの運転手兼小規模運送会社<ラッキー・デポ>の社長。


まさか異世界でもトラック運転手になろうとは予想外だったが、自分で依頼を選べるというのは想像以上に快適で。

ようやく長年の苦労が報われた……とでもいうのだろうか。

元の世界にいたころは考えたこともなかったが、今は他の仕事は考えられないくらいこの仕事を愛していると断言できる。


社名の<ラッキー・デポ>は、俺の苗字である吉倉から付けた。

縁起も良さそうで、そこそこ気に入っている。

この世界では聞きなれないだろうが、いつかは『運送といえばラッキー・デポ』と呼ばれるくらいにはなりたいものだ。


「今日はこの荷物で最後ッスね」

「そうだな。気を付けて運転しろよ」

「了解ッス!」


帰り道のハンドルを握るのは、相棒の若造――ティム。

彼とは転移後すぐに放り込まれた収容所で出会い、そこを抜け出してからは共に運送を行う仲間の一人だ。

お互い別々に配送に行ければ良いのだが、この世界では一人での長距離移動は危険な上に、あいにくトラックはこの一台だけ。

なので運送の際は二人制にして負担を分散し、半分はティムに運転させることで彼のドライビングテクニックの向上を図っている。

運送にかかる人件費を極限まで切り詰めている現代日本では考えられないことだが、荷物の積み下ろしを含めほぼ全ての作業を分担できるので、かなり快適だ。


<ラッキー・デポ>は、この異世界にあるエドガル王国のマニロという街に作った。

たまたま逃げ延びた先にあった街だが、首都ほどでないにしろ規模のそこそこ大きい街らしく、仕事に困ることは無い。

大抵は近隣の別の街や村に荷物を届け、マニロ宛ての別の荷物を回収して帰るのが一つのパターンになっている。

今積んでいる荷物も、マニロでそれぞれの届け先に配達予定だ。

それで本日の業務は終了となる。


明るい時間に出発し、夕方には帰路に就く。

基本的に長距離輸送ばかりだったせいもあるが、所謂『普通の時間帯』とやらに働けるなんて、日本でこの仕事をやっていた頃には考えられなかった。


***


「帰ったぞー」

「疲れたッスー」

「あぁ、お疲れーだぜぃ」


配達を終えて帰ってきた俺たちに労いの声をかけるのは、ヨれたビン底のような眼鏡をかけた小男――メカニックのマルクスだ。

俺たちがトラックと呼んでいるのは魔導エンジンに二人乗りの座席(キャブ)と木製のコンテナ(ボディ)もどきを取り付けただけの代物であるが、廃棄された魔導装置を拾ってきて修理し、トラックへ作り変えたのは何を隠そうこのマルクスである。

彼も収容所から共に抜け出した仲間だが、今も機械油に塗れながら何やら装置を弄っている。


この異世界は現代でいう電気機械の代わりに、魔導装置と呼ばれる魔石をエネルギー源とした技術が発達していた。

正確には魔素と呼ばれるものを持ち運べるように加工したのが魔石なのだそうだが、詳しいことは俺にはよくわからない。

俺にわかることといえば、電気や燃料の代わりに魔石を使うということくらいだ。


機械技術は現代ほどでないものの、郊外には列車が走っているそうなので近代くらいの技術力はあると見ているのだが、ここエドガル王国と隣接しているタッシール共和国は長い間一触即発の冷戦状態に置かれているそうで、技術力の大半は魔導兵器開発に充てられてしまっているせいもあり、民間の機械技術がなかなか発展しないという背景がある。


そのため人・物どちらも輸送に使われるのは列車を除けばもっぱら馬車という俺からすれば時代錯誤な代物で、魔導エンジンを詰んだ車は金持ち層のごく一部が使える移動手段といった程度が関の山だ。

もしかすると軍施設には兵士や兵器を大量に運ぶための魔導装置があるのかもしれないが、今のところ民間にその技術が還元される気配は無い。

そのため各地への大量輸送の基盤は確立されておらず、そのおかげでたった一台の木製トラックもどきでも仕事ができているのだが……住めば都とはいえ、なかなかに不便な世界だと思う。


輸送手段の問題以外にも、郊外の街道には魔獣と呼ばれる化け物が徘徊しているせいで、街や村を移動するハードルが非常に高い。

かくいう俺も命の危険に晒されたのは一度や二度では無いが、そのたびマルクスによるトラックの改良や俺のドライブテクニック、ティムの機転で今もなんとか生き延びている。


危険を繰り返したことで対応スキルも上がり車体の改良も加えられていき、今では毎日そこそこ安全に配送できているので胸を撫でおろすばかりである。


<ラッキー・デポ>を作ったときに驚いたのだが、起業はギルドと呼ばれる職業別組合の一つである商業ギルドの管轄かと思いきや、『荷運び』という職種になるため冒険者ギルドの管轄ということになっている。

俺は会社のつもりで運営しているが、この世界の考え方でいうと『近隣の街への危険を伴う荷運びを専門とした冒険者チーム』であり俺は社長ではなくそのリーダー――ということになっているが、ややこしいので仲間内では会社や社長で統一している。

……どうせ俺のことを社長と呼ぶ奴はいないので、気持ちの問題でしかないのだが。

そのため俺たちはドライバーやメカニックなのに冒険者(・・・)という不思議な状態になっているが、気にしたら負けだ。


「明日はアクサスの街とナロテ村への配達依頼が来てるぜぃ」


社屋兼倉庫兼仮住まいの小屋で、三人揃って晩飯を食べながら明日の予定を確認する。

俺とティムは日中配送に行くので、受付はもっぱらマルクスが対応している。


大抵は定期的に契約しているものや小口の依頼がほとんどだが、それ以外の緊急だったり大口の依頼は都度魔導無線を使って俺が判断している。

厳格な配送ルールの定められていないこの世界で決定権を持つというのは、なかなかに気持ち良い。

とはいえ、可能な限り迅速に対応するのだが……前世がブラックだったことを鑑みて、決して無理な依頼は受けないことにしている。


それなりの危険手当も含んだ配送料を設定しているが、危険な街道を馬車で時間をかけて届くか届かないか賭けのような運搬を行ってきたこの世界の人々が相手なこともあり、決まった日時に確実に届けてもらえると評判が広まり、売り上げは上々だ。

それでも、魔導エンジンを搭載したトラックをもう一台作るには全く足りない。

燃料代わりである動力源の魔石も、安いもんじゃないしな。

人手も三人だけなので、手を広げたくてもなかなか実行できないのが現状である。


まぁ、この辺りは急いても仕方ない。

スキルを活かし、生きて金を稼げているだけ儲けものだ。


ティムと近隣の街の旨い店や特産品について語り、マルクスとトラックの改造について議論する。

そうして夜は更け、俺のいつもの一日は終了するのだった。


ざっくり現状説明したところで次から過去編です。

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