人狼族のふたりの子ども~お菓子はハイポーション~初めての……。
ドゴォォォォォォォォン……!!
「ひぇ……!!」
赤い稲光。
落雷が、すぐ近くの鬼族の村に落ちた。
僕ら人狼族には言い伝えがある。
赤い稲妻は炎の神ファイガ様で、魔大剣フーコ様を手に大地の魔物を突き刺すのだと。
「ひえぇ!!ショーゴ!?」
「大丈夫だよ。アカネ」
僕らは子供だけど近くの村を守っていた。
僕ら人狼族が、人間の村を守るのが、昔からの掟だ。
けど、村の人たちは突然現れた黒いフードの男に一瞬で攫われてしまった。
僕とアカネは、黒フードの男を追っていたんだけど、途中で不死人狼に襲われて、この山小屋まで逃げて来た。
傷の深いアカネを背負って……。
「ほら。怪我の治る魔法のお菓子だよ?」
「うん!ありがと!ショーゴ」
僕に抱きついて離れないアカネ。
アカネは、回復薬と呼ばれる人狼族秘伝のお菓子…いや、非常食を口一杯に頬張り、僕を見つめて無心に食べている。
「アカネ。もう治って来たよ?ほら!ショーゴのおかげだね」
「良かった……。けど、また奴らが襲ってくるかもしれない」
「うん……。でも、あの不死身の狼ってご先祖様でしょ?」
「そうだけど……」
ここら一帯を彷徨うのは僕ら人狼族の成れの果て。
ご先祖様の屍。
けど、流石に強い。
逃げるのが、やっとだった。
「ロアナールの更に東。王都は、婚礼の儀式に大人たちが借り出されてる。村人たちは僕らだけで探さないと……」
「うん。でも、アカネ…もう大人だもん」
「え……?」
アカネは、もうすぐ10歳。
けれど、人狼族は人間より強いから、早く大人になる。
見た目は子供でも身体は大人だ。
「アカネは、まだ子供だろ?成人の儀式を済ませてないじゃないか」
「ん~ん…。もう子供じゃないよ。ちゅう…して?ショーゴ」
「ちゅ…う?な…っっ!?」
人狼族の風習で……。
僕も、もうすぐ10歳になるんだけど、成人の儀式は、まだ済ませてない。
理由は……。恥ずかしいから。出来るはずない……。
僕は、アカネより早く生まれただけで、アカネの兄貴みたいにして来た。
僕とアカネ、血は繋がってないけれど……。
まさか、アカネから成人の儀式を申し込まれるなんて、僕も思わなかった……。
こんな山小屋で、雷だって鳴ってるのに……。ふたりきりで……。
「あ、アカネ……」
「なぁに?ショーゴ?」
「ちゅう…って……」
「分かんないよ……」
ドゴォォォォォォォォン……!!
「きゃっ!?」
「うっ!?」
突然の雷に、僕もアカネも、びっくりした。
僕とアカネ、お互い、ぎゅっとくっついていた。
僕は、アカネより年上だから、アカネを守らなきゃ……。
僕とアカネの顔が、くっつく……。
「ショーゴ…。ちゅう…して……」
目を閉じて震えているアカネ……。
僕も、震えている。
「ちゅう…するね。アカネ……」
「うん……」
山小屋で、ふたり。僕とアカネは、ちゅう…をした。
ぴたっと、くっついて……。
何かが、ムズムズした……。
アカネの何かも、ムズムズしてる……。
僕とアカネは、狼でも大人でもない、何かになろうとしていた……。