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トラッキング開始

 獲ったキツネのうち、綺麗に毛皮にできるものを獣達に荒らされないように手近な木にまとめて吊し、残りは適当に穴を掘って埋める。同じルートで帰ってくるので、帰り道で回収するらしい。


「ここから先はお前の試練本番だ。途中までは一緒に行ってやるが、狩りはお前1人でやれ。私たちは手助けしない」


 再出発の準備が整った時、エルクがこちらに向き直って宣言した。


「・・・キツネは成績に入らないの?」


「ふん。あんなもの小手調べに過ぎない。それに、お前は3人分の働きをしなきゃ合格じゃないんだぞ。来てない2人の分までお前が責任を取るんだ」


「えー」


「えーじゃない。しかし一歩譲って、だ。大物の四つ脚が2頭取れたら合格としよう」


「えー。だいぶキツくね・・・」


 今までの経験だと忍び猟で山に入っても、2頭も獲ることはなかった。


 複数頭の群れに出会っても、今の自分の腕では射掛けて倒れるのは1頭だけだ。連射で複数倒すスキルはない。もちろん1発射掛ければ他の獲物は逃げるし、1頭獲れたら後はその獲物の運び出しと解体だけで手一杯になる。


「つべこべいうな。さっさと行くぞ」


「大丈夫だよハル。君と、その魔法の弓矢なら獲れるさ」


 厳しいエルクと対照的に、ポンと肩に手を置いてターミンが穏やかな顔で励ましてくれる。


「・・・まあ、やってみるよ」


 どうしたもんかと思案しながら出発し、キツネ狩りをしたところから少し森の奥に進むと、とうとう道らしいものもなくなった。


 一応迷わないように目印としてダークエルフ達が木の幹にナイフで印をつけているので、それを目印に前に進む。


 一際大きな木に差し掛かった時、エルクが歩みを止めた。木の幹にはおおよそ目線の高さに目印が目立つように掘り込んである。


「ハルト、ここからはお前一人だ。私達は姿を隠す。この先は獲物の気配が濃い場所だ」


「わかった。仕留めたら来てくれるんでしょ?」


「ああ、獲れれば、な」


「獲れなかったら・・・?」


「お前はここから出ることはない、とだけ言っておく」


「なるほど・・・」


 肩にかけた銃のスリングを握る手に自然と力が入る。未知の森で、得体の知れない獲物を相手にたった一人で挑まないとならない緊張と、原始的な高揚感で鼓動が早鐘を打つ。


 頼れるのは自分の腕と、一挺の相棒だけだ。


 エルク達が本当に姿を消し、一人で薄暗い森の中に取り残された。正直なところ、かなり不安を感じている。ただでさえ理解不能なことが多すぎるのに、勢いと状況に飲まれてここまできてしまったのだから仕方ない。


 その上、初めて来た森の中で、一人でハンティングを成功させろという高難易度クエストを課されて頭がパンクしそうだった。


「はぁ、まあ、やるしかないんだよな・・・」


 嘆息しつつ、銃を肩から下ろして薬室に弾を1発放り込み、ボルトハンドルを押さえながら静かに薬室を閉じる。追加でマガジンチューブに2発、12番のスラッグ弾を装填して準備完了だ。


 普段であれば自動銃の薬室に弾を込めて歩き回るなんてしないが、何がいつ飛び出てくるかわからないここでは、弾を込めずに歩く方が危険だと判断した。


 ここからはいつでもすぐ銃を構えられるように両手で保持して歩く。


 いつも通り、耳と目を凝らし、なるべく音を立てないよう慎重に足を運ぶ。数歩進んでは立ち止まって自身の気配を殺し、周囲の気配を探る。忍び猟はそれをひたすら繰り返しながら獲物を探すのが基本だ。


 この森の地面は比較的シケていて音が出にくく、歩きやすい。が、逆に言えば獲物の出す音も微かになり、耳で探す難易度が高いということでもある。


 普段自分達が忍び猟で行っている山はカリカリに乾いた落ち葉と、割れた礫岩が多く歩くのに気を使うが、獲物の出すガサガサ音も捕らえやすい場所だ。


 しかもここは初めての場所、地理感もなければ普段使っているスマホのGPSアシストもない。難易度MAXの状態である。


 こうなると頼りになるのは目と鼻しかない。

ここにいる獲物がどんな姿かわからないが、とりあえず動物の痕跡を探す。


 しばらく周囲と地面をゆっくり観察しながら進むとーーー


「あった。鹿?っぽいな・・・」


 小声で呟き、しゃがんで足跡を確かめる。どうやら新しいもののようだ。昨日の夜から今朝にかけてと言ったところか。まだ足跡の縁が崩れず、エッジが立っている。副蹄がないので鹿だと判断したが、正直自信はなかった。


「で、でかいなこれ・・・」


 残っていた蹄の足跡は、春人がよく目にするニホンジカのものより遥かに大きな足跡だった。少なくとも目にしたことのないサイズだ。

エゾシカより圧倒的に巨大なんじゃないかと思う。


「とりあえずコレを狙うかー」


 改めて気を引き締め、立ち上がって足跡の続く方へゆっくりと歩を進める。この大きな足跡の主がどんな相手であれ、今はこいつを追いかけて狩るのが生き延びる近道だ。

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