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転移、そして邂逅

---突き上げるような揺れ。


ニュースなんかだとよく聞くフレーズのとおり、本当にそうとしか言えない衝撃がなんの前触れもなく3人を襲う。


「ーーお、おおお、マジか。2人とも!テーブルの下に!」


そう言って、普段の鈍臭い感じからは想像もつかない素早さで社長がソファーからすっ飛んでき、事務デスクの下に隠れた。


凄まじい揺れで店中のものがガチャガチャと暴れ回る中、社長に言われるままに先輩と一緒に応接テーブルの下に隠れる。


こんなに必死で身を隠すほどの揺れは人生で体験したことがない。


---これは大変な事になった


最悪の事態が次々に脳裏を過ぎる。


停電したのか一瞬店内が真っ暗になり、予備電源が作動してまた明かりがつく。この建物は商売の関係上、防犯カメラや警備会社のシステムのために数時間は停電しても大丈夫なようになっているのだ。


「お、おさまった・・・?」


揺れを感じなくなったので、何となく慎重にテーブルの下から顔を出してみる。

ガッチリと壁にロックしてある銃と銃のショウウィンドーはとりあえず無事なようだ。あんなデカいガラス割れなくて良かった。どうせ掃除するの俺だし。


「二人とも大丈夫かーい?」


「こっちは大丈夫ですよ。社長の方は?」


「俺も大丈夫ー。だけど棚の品物とかめちゃくちゃだね。いやぁヤバかったねー、とりあえずテレビつけてみよう」


のそのそと出てきた社長が、散らかった色んなものの中からリモコンを取り出して応接に置いてあるテレビに向ける。


が、映し出される映像はなく、ただ電源がオンになった印の緑色のランプが小さく光るだけだった。


「あれぇ?揺れで壊れた?」


「あ⁉︎スマホも圏外になってる!」


まだテーブルの下で丸くなっていた美奈が、目を丸くしながらスマホの画面を差し出してきた。


「ほんとだ。あー、俺のもですね」


確認したら社長のスマホも圏外だったし、店の電話も、ラジオもダメだった。


「うーん。なんかすごい事になってるのかね。とりあえず外確認してみる?近所で火事とかだとヤバイし」


「そうですね。俺見てきますよ」


ドアから外に出る前に、とりあえず店のドア横にある店舗部分唯一の窓のブラインドをチラッとめくってみた。防犯の関係上、1階店舗部分の窓はここにしかない。


「・・・?あれ?」


おかしい。窓から見える景色が明らかにバグってる。


普段なら目の前が道路で、向こう側は住宅街のはずだが---


「ん?どした?」


不安げな社長の声を無視してドアノブに手をかけ、うっすらとドアを開けてみる。


「え・・・?森?」


幻覚でも見ているようだった。

いや、幻覚じゃなきゃおかしい。そんなあり得ない景色が目の前に広がっている。


---白い巨木が立ち並び、その枝葉が天を覆い尽くすような薄暗い森。


匂いも、景色も、見まごうことなき森そのものだ。


「意味わかんねー・・・」


思わずふらりと一歩、外に踏み出した瞬間--ー


ヒュ、ガン!


わずかに空を裂くような聞こえ、何かが店のドア付近に直撃した。


「なっ‼︎なに?」


続けざまにまた二度、ガンガンとドアの近くに直撃して地面に落ちたのはどう見ても"矢"だった。


慌てて引っ込んで鍵をかけ振り返ると、店内の二人が不審な顔をこちらに向けていた。


「なに今の?どした?なにがあった?」


「いや・・・俺にもよくわからないんですけど・・・店の外が森になってて・・・」


「はぁ?ちょっと言ってる意味がわからないんだけど」


社長が怪訝に眉を潜めているが、事実なんだから仕方ない。


「そんで、矢が飛んできまして・・・」


「ど、どういうこと・・・?」


「「「・・・・・・・・・」」」


暫し沈黙ののち、社長がドアの覗き穴から外を確認し、無表情のまま二人を振り返る。


「どうしよう・・・本当に森になってる・・・」


「とりあえず落ち着きましょう!外はわけわかんないけど、施錠して、三階から地下まで室内でおかしなことが起きてないか確認しましょう!」


「ねえ、本当に、本当に外が森なの?なんで?意味わかんない・・・。帰れないの?外出ちゃだめなの?」


普段から白い美奈の顔が、見たことないほど青白くなっている。

パニックになっているのを必死で抑えているのだろう。


「矢が飛んできたってなに?誰がいるの?なんで攻撃されてるの?ここ日本だよね?」


「先輩、とにかく今は落ち着いて。先輩はソファーで休んでて大丈夫ですから」


俺は俺で平静を保とうと必死だった。体験したこと無いほどの地震に加え、この状況は意味不明過ぎる。


何かの作業をして気を紛らわせる意味も兼ねて、とにかく建物内の状況確認と防災グッズでも出すくらいしか思いつかなかった。


呆然としている先輩をソファーへ座らせ、一応窓を塞ぐように棚を移動させ、社長とそれぞれ室内を見て回った。


色々落ちたり倒れたりしていたが、三階から地下一階まで異常なしを確認。

だが、やはりどの階の窓から見ても外は薄暗い森だった。


心配症な社長のおかげで、地下の備蓄倉庫には飲料水や保存食、卓上ガスコンロに替のガスボンベ、ポータブル電源なんかの"万が一の備え"が呆れるほど備蓄してある。


その昔、社長が自然災害で大変な思いをして以来、過剰なまでに備えているらしい。


それに、倉庫内に二つ置いてある200リットル冷凍庫には、春人と社長が獲った獲物の肉もパンパンに詰まっているので、三人で立て籠もってもかなりの日数大丈夫そうではある。


「・・・とりあえず、引き篭もって様子見。しかないよね?」


「うーん、どうしたらいいんですかね・・・」


「・・・」


この異常事態の中、三人とも沈黙が辛いのでぽつりぽつりと途切れない程度にローテンションで会話を続けていたが、そのうちに予備電源が落ちて店内が暗闇に包まれた。


2階の部屋から引っ張り出してきたアウトドア用の太陽光蓄電ランプと店にあった懐中電灯を応接テーブルの上で点灯させ、とりあえず出来そうなことを話し合っていた時--ー


コン、コン・・・コン、コン


と、入口のドアがノックされた。


突然の訪問者に、三人ともビクッと身を強張らせて顔を見合わせる。


「今の・・・ノック・・・だよね?」


「ノックですよね・・・、どうします?俺、確認しましょうか・・・?」


「やめた方がいいよ!絶対良くない!」


ソファーから立ち上がろうとした俺の腕を、先輩が泣きそうな顔をしながら掴んで引き止める。

掴んだ手の震えから彼女の怯えが伝わってくる。


その手をそっと退け、ソファーから立ち上がった。


「とりあえず、覗き穴から確認だけします」


なんとなくコソコソとドアまで近づき、そっと覗き穴を確認。


「ごめんくださーい。こんにちはー」


(日本人・・・?)


ドアの外に立ってノックしているのはどっからどうみても日本人のお爺さんだった。


薄い白髪頭に、深いシワの刻まれた風貌からするに、歳は70~80といったところか。服は上下ともグレーの作業着姿。


外の様子はおかしいが、やっぱりここは日本なんだろうか。

だとしたら、さっき射掛けられた矢はなんだったのか。


「しゃ、社長、普通に日本人のお爺さんがいます!」


「ええ⁉︎じゃあ景色が変なだけ?」


「わかりませんけど、返事していいですか?」


「・・・ま、まかせるよ」


警戒感MAXでソファーの後ろにそろそろと逃げている社長をチラ見して、チェーンをかけたまま、ドアを薄く開ける。


ふわりと、森の香りが流れ込んでくるとともに---


「ごめんください!いやー開けてくれてよかったよかった!漢字書いてある表札見て嬉しくてねえ!」


ドアの隙間から満面の笑みでお爺さんが覗き込んできた。軽くホラーだ。


「こ、こんちには・・・」


「こんにちは!私は猪狩武と申します!日本人です!そちらも日本人ですよね⁉︎」


「は、はい。僕は矢絣春人と申します。そうです。いきなり地震が来て気がついたらこんなことになってたんですが、ここはなんなんですか?」


「いやあ災難でしたねえ。ここは日本じゃないみたいなんですよ。私も半年前に迷い込んだきりです」


「・・・日本じゃない」


「とりあえず、詳しく現状もお話ししたいもんで、開けていただけると嬉しいです」


「・・・わかりました」


ドアチェーンを外し、謎の老人猪狩を招き入れた。


いや、どーもどーもと頭をぺこぺこ下げるいかにも日本人ムーブで入ってきた猪狩を見ると、そんなに警戒しなくても良い気もしてきた。


とりあえず四人でテーブルを囲み、猪狩の話を聞く。


猪狩の話によると、やはりここは日本じゃないらしい。


この森はダークエルフという狩猟を主な活動とする原住民達のテリトリーであり、見たこともない怪物や魔法も存在する、想像を絶する世界だという。


矢を射て来たのもそのダークエルフ達らしい。

彼らは彼らで、突然現れた未知の存在にもの凄く警戒して臨戦態勢で監視しているようだ。


猪狩はダークエルフ達の騒ぎに野次馬に来てみたら元いた世界の建物があり、GUN&AMMO立花の表札が出ていたので自分と同じように日本人が迷い込んできたと確信して戸を叩いたそうだ。


「私は罠猟やってまして。罠の見回りで山歩いてたら道に迷って、疲れ果てて木の根本で寝てたらいつのまにかここに連れてこられてましてね」


「罠猟師さんでしたか。僕も銃猟やってるんですよ。始めたばかりですけど」


「おー、お若いのにねえ。そうですか。ここ、銃砲店さんですもんねえ」


いやー、奇妙なこともあったもんですなーなんて、わりと平然としている猪狩は、すでにここに来て半年以上経つらしい。


諸々話を聞いたが、未だににわかには信じられない話ばかりで現実味がまだ薄かった。


「ああ、そうだ、これ渡しておきますよ」


そう言って猪狩は作業着のポケットから東南アジアのお土産みたいな、何かの記号が刻んである石が数珠つなぎになっているネックレスを取り出してきた。


「これね、色んな言葉がわかるようになる魔法の首飾り。これつければ外の彼らとしゃべれるようになりますんで。後でもう2つないか聞いて来ますわ」


どうぞ、と猪狩がテーブルの上に差し出して来たが怪しすぎて誰も手を出さず躊躇う。

その空気を察したのか、


「私もつけてますんで。大丈夫ですよ。本当にこれつけてないと喋れないんで、便利なもんです」


「あ、ありがとうございます。とりあえず、社長どうです?」


「えー、俺実験台?」


「失礼だよ」


美奈がピシャリと社長を叱る。彼女も少しずつ落ち着きを取り戻して来たらしい。


とりあえず春人君つけといてと社長に押し付けられ、結局俺が身につけておくことになった。

身に着けたところで、今のところは何も変化を感じることもない。


「じゃあ、私は一旦帰って彼らと話しときますよ。受け入れてくれるようにね。猟できるから多分大丈夫だと思いますんで」


「お願いします。てか、猟出来ることがそんなに重要なんですか?」


「ええ、さっき話したとおり、彼らは狩猟民族ってやつでしてね。獲物を獲れるか獲れないかはかなり重要みたいなんですよ。私は罠でシシ獲ってみせて受け入れられましたんで。最初は死にかけの年寄りへの情けで置いといてくれたみたいでしたけど」


「な、なるほど・・・猪狩さんだけに・・・」


ダークエルフ。漫画やアニメなんかでよく出てくるファンタジーな存在しか知らないが、実際そう呼ばれている存在はどんな人達なのか。今のところ春人達には不安しかなかった。


「建物ごと来ちゃったからにはここを放置するのもアレでしょうし。よくよく話しときますから」


じゃあ、また。

と言って猪狩はドアから出て行った。

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