宴の始まり2
広場の中央に据えてある舞台に数名の人影が姿を現した。1人は老齢のダークエルフの男。その後ろに猪狩の爺様。そしてエルクだ。
あれが族長だよ。とターミンが教えてくれたが、まあ敢えて言われなくても一目瞭然と言った風体をしている。黒い獣の毛皮を羽織り、派手な鳥の羽の頭飾りをつけ、首から胸元には獣の爪やツノを加工した装飾品がこれでもかとぶら下がっている。
老齢そうではあるが、その赤い瞳は眼光鋭く、猛禽類の様な凛々しい顔立ちの男だ。その隣に立った猪狩の爺様がこちらに気づいて軽く会釈してきた。見慣れた日本人ムーブである。
「皆静かに!ムース族長から話がある!」
エルクが気合の入った声を張り上げて全員の注目を集め、群衆のざわめきがサッと静まった。とうとう俺たちの行く末を決めるイベントが始まるようだ。おっかない。
舞台の上から周囲を一瞥し、族長が口を開く。
「みな、今日はよく集まってくれた。知っての通り我々の村に新たに異郷の人間が3人現れた。イガリと同郷の者達だ。ここにいるからには食い扶持は自分で狩れねばならん。そこで試しをした。その結果がこれだ」
そう族長が言うと、後ろから布のかかった担架の様なものが運ばれて来て族長の前に置かれた。
おおよそシルエットから想像できる中身だが、徐に族長が布を外し、皆んなに見える様に開帳する。
そこに鎮座していたのはもちろん昨日獲って解体したデカ鹿だ。綺麗に精肉され肉がデンと積まれ、その隣には皮を綺麗に剥がされ骨と角だけになったスカルが鎮座している。
「この鹿は以前このエルクが仕損じたものだった。それを人間の青年、ハルト・ヤガスリが撃ち倒した。人間でありながら狩の腕前は確かであったとエルク、ターミン、サンバーより報告を受けた。このイガリの推薦もある。よって、とりあえず当面は仲間として受け入れようと思っている。---何か意見はあるか」
一拍置いて、族長が民意を問うた。
その族長の問いに、ダークエルフ達の間でほんの微かにざわめきが起き、すぐにまた静かになった。
「それでは、仲間として迎えよう。ただし、何かあれば即刻この私が責任を持って処断する。みなは彼らに色々教えてやってくれ」
どうやら族長OKが出たらしい。思ってたよりもスムーズに事が進んだ。
「よかったねハル。これからよろしく」
改めてターミンが言い、手を差し伸べてきた。