村へ【2】
ターミンが指さした先は、鬱蒼としたこの森の中で更に森が濃い場所だった。もっと正確に言うと樹木や蔦が絡まり合い、壁のような物を形成している。もし元の世界で見かけたら不気味な上に通れなさそうだから近づこうと思わないだろう。
「あの中が僕らの家がある場所だよ。ほら、あの門が入口なんだ」
言われてターミンの指刺した先を見ると、樹木の壁の根本に門があり、門番的な人達もいた。
「・・・今更だけど、本当に入って大丈夫?」
肉だの酒だのの入ったバックパックを背負ってよろよろついて来ている社長が本当に今更なことを言い出し、先輩も不安そうな顔をするが、とりあえず腹を括ってもらうしかない。
「大丈夫ですよ。多分だけど」
「もちろん大丈夫ですよ。我々が皆さんに危害を加えることはありません。族長が招待した以上、同じ村の者が危害を加えるなど許されません」
ターミンも今更と思ったのか、多少の苦笑いだ。
「・・・とりあえずなんかあったら頼むよターミン」
「もちろんさ」
そうこうしているうちに村の入口まで着いた。背中の弓矢に加え、腰の短剣2本に槍まで装備した重武装の門番的な人が2名、割と険しげな目つきでこちらを睨め付けている。あまり歓迎されてないようでとても居心地が悪いというか、緊張感が一気に上がってきた。
「ただいま。連れてきましたよ。我々のお客さんなんだから、そんなに威圧しないで貰えるかな」
「族長の決定は村に入れて会う事だけだ。存在を許すかはまだ決まっていない。我らを脅かす異邦の者よ。心せよ。怪しい動きがあれば即座に排除する」
「まあまあ、とりあえず村に入りますよ」
さあ、とターミンに促され、グダグダ言っている門番をスルーして門をくぐる。門から入ってすぐの正面の所はまたちょっとした防壁があり、門からの侵入者に備えているのかその上に数名武装したダークエルフ達が立ってこちらを見下ろしている。
---その防壁を迂回して入った先、彼らの居住区は外とはまるで景色が違っていた。
まず明るい。村の中は森のように鬱蒼とした木々の枝葉が空を覆っておらず天が見えていて、さっき潜ってきた樹木の高い外壁が丸く村を囲み、外界を遮断している。防壁の形状は国立競技場のように上が多少窄まるような、浅い壺のような形状のようだ。
立ち並ぶ建造物は基本的に木造で、可愛らしい山小屋のようなものが建っていたり、樹上にツリーハウスがあったり、木をくり抜いて造ってあったりと割とフリースタイルな感じ。
「結構広いんだね。正直、森の中にそのまんま住んでるんだと思ってた」
「大昔はそうだったけどね。とりあえず、ようこそ我らの家へ!気を楽にして寛いで!」
「お、お邪魔します。さっきの人結構物騒なこと言ってたけど大丈夫・・・?」
ビビり気味な社長はまたちょっと小さくなっていた。先輩は相変わらず青白い顔して黙りこくっている。
「大丈夫ですよ。さっきも言いましたがあなた方は族長が招待した客人です。ただ---」
「遅い!遅いぞ!」
ターミンが何か言いかけた時、聞き覚えのあるイラついた声が飛んできた。
「う、来た・・・」
思わず心の声が漏れた。異邦のモノを見ようと集まり出した野次馬を掻き分け、一際目立つおっかない女。彼女の声に社長と先輩もビクッとなっていた。
「エルク、そんなに慌てるような時間でもないだろう?まだ日の光もある。それに、初対面の2人はまだ君のことを知らないんだ。まずは挨拶からだよ。挨拶」
常識的なターミンに諭されたのも気に食わなかったのか、キッとターミン睨め付けて、ついでにこっちも睨んでくるエルク。不良かよ。
「私はエルク。深森のダークエルフ。ワピチの娘」
「あ・・・どうもジュンゾー・タチバナです。よろしくお願いします」
「・・・・・・・・・・えっ・・・ミナ・イサカです。よろしくお願いします」
2人ともド緊張しているのが伝わってくる自己紹介だ。
「フッ、ハルト1人に命運を預けて籠っていた腰抜け、か。まあいい、族長の判断だ。ハルトのもたらした獲物は確かに我が村の糧となった」
「エルク!失礼だぞ!申し訳ない。エルクはあまり外部の種族と接点がないのです。失礼を許して頂きたい」
「え、ああ。大丈夫・・・ですよ?」
単純に呆気に取られている社長が適当に返事を返す。まあ、エルクと初対面したらそうなりますよね・・・。
「はぁ・・・。とりあえず行きましょう皆さん。さあ、こちらです」
「はぐれずついて来い。余計なマネをしたら即刻殺す」
「僕が阻止しますので大丈夫です。安心してください」
昨日以上にバーサーカー状態のエルクと、それに比例して心労が積もっているであろうターミンに導かれ、ワラワラと集まり出した褐色白髪赤眼の野次馬達に見守られなが村の中を進んでいく。