防衛戦線異常なし
風呂から出てまたエルク達に送ってもらいながら帰路に着く。
風呂から立花銃砲店の建物までは15分ほどの道のりだった。
こうして客観的に見るとこの建物の存在は異常そのものだ。自分達のテリトリーにこんなモノがドンと現れたらそりゃあダークエルフ達もめちゃくちゃ警戒するに決まってる。
「明日またここにくる。それまで待て」
「今日は疲れただろうからね。ゆっくり休んで待っててくれ。明日はきっと歓迎の宴だよ。本当に、獲物がとれてよかった」
入口よりか少し離れた所で、今日のところはお別れのようだ。
「あー、なんていうか、とりあえず今日はありがとう。お疲れ様でした。あ、そうだ。明日呼ばれた時何か手土産的な物あった方がいい?」
「・・・あれば皆喜ぶかもしれないが。まあ別に無理して何かを提供しようとしなくてもいい。お前は既に糧をもたらしているからな」
「了解。とりあえず何かは出せると思うから、なにか用意しておくよ」
「そうか。ではまた明日」
そう言ってエルクは踵を返してスタスタ行ってしまった。
「じゃあね」
とサンバーが小さく手を振ってそれに続く。
「ハル、夜はあまり出歩かない方がいい。ここは一応我々の領域だけど、村の外だから魔物がうろつく事があるからね。それじゃあまた明日!」
「ああ、また明日ね」
最後にターミンが忠告を残して帰路に着く。基本的にはみんないい奴そうだ。まだたったの1日程度の付き合いだけど。
「ふぅー・・・」
3人が去って更にどかっと疲れがきた。森から出た時以上に感じる。今日はよく眠れそうどころか、明日目覚められるか心配なレベルだ。
ヘロヘロになりながら店の入口まで行き、頑丈そうなガンメタルカラーのドアをノックする。最初はインターホンを何度か押したが、そういえば電気がないという事に気づいた。疲れすぎて頭が回ってない。
「シャッチョー!パイセン!帰りましたよー」
ドンドンとドアを叩いて待つ。しばしの間の後ロックが2つ外れる音がしてチェーンの長さ分ドアが開き、社長が隙間からちょっと遠目に覗き込んできた。
「ホントにハル君?」
そんなに警戒しなくてもってくらい警戒されている。まあ社長はビビリなところあるし、こんな状況じゃ仕方ない。
「僕ですよ。許可証とか見せましょうか?」
「うーん、いや大丈夫。今開けるねー」
一旦ドアがしまり、チェーンの外れる音と共にドアが開いた。嗅ぎ慣れた珈琲と機械油の匂いを仄かに感じてホッとする。帰ってきたんだ。やっと、無事に。
「いやぁ無事でよかったよー!処刑でもされちゃったかと思ったよ!」
店に入るとすぐ、愛銃のウィングマスターを片手にさっさとドアをロックする社長。見れば出入口付近に雑多な物で簡易バリケードを築いているし、腰には弾帯を巻いて12ゲージの弾をばっちり装備してある。籠城戦仕様だ。
「キツかったですけど、なんとか獲物とれてオッケーになった感じです。明日また呼びに来るそうで」
「また来るのか嫌だなぁ。・・・とりあえずコーヒー淹れるからソファで休んでなよ」
「パイセンは?」
「昨日眠れなかったみたいだし、多分寝てるんじゃないかな」
とりあえず荷物を下ろしてアウターやら何やら装備を全部外しソファに沈む。一瞬で寝落ちしそうだ。
キャンプ用のLEDランタンとオイルランプをいくつかつけてなんかムーディーな感じになっている店内に、濃いめのコーヒーの香りが満ちてきた。