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「……え? お父様、今なんと仰いましたか?」


 黒い髪の女性――サラサ・ライトブルが、テーブルを挟んで座る両親に尋ね返した。二人は顔を見合わせると、少しためらいがちに父親――アントン・ライトブルが口を開く。


「ついさっき、ヒルトン商会の一人息子、つまりお前の従兄にあたるレイ・ヒルトンと婚姻を結んできた……両家の親が代理でな」


「ど、どういうことですか⁉︎ ヒルトン商会と私たちのライトブル商会は、昔から仲が悪かったじゃないですか! あの家の息子とは付き合うなと、お父様も散々仰って――」


「仕方なかったのだ! 我がライトブル商会は、深刻な経営難に陥っている。このままだと、屋敷まで売らなければならなくなる! だが私の母――つまりお前の祖母であるマーガレットの遺言に書かれていたのだ。ヒルトン商会の一人息子とお前を結婚させたら、遺産のありかを示すヒントを与えるとな」


 白髪混じりの頭を揺らし、父親が俯く。

 母も大きくため息をついた。


 サラサは、ライトブル商会の一人娘だ。

 全盛期はこの国に沢山支店をもっていたライトブル商会だが、現在は他の商会たちの勢いに押され経営難に陥っている。


 両親が日々の経営に頭を悩ませていたのは知っていた。


 大変な状況のライトブル商会だが、決して負けられない商会があった。

 それが父アントンの弟である、サムス・ヒルトンが経営するヒルトン商会。婿養子に入った先の家が商会をもっており、継いだ形となる。


 父と叔父は、理由は分からないが昔からとても仲が悪かった。偶然にも、ともに商会経営者になってからは互いをライバル視するようになり、サラサも幼いころから叔父やサラサと同じ歳の一人息子――レイ・ヒルトンの悪口を散々聞かされてきた。


(それなのに……マーガレットお婆様は何を考えているの⁉ レイと私を結婚させろなんて……)


 俯くと黒髪が頬に流れ落ち、サラサの表情を隠す。


 先日亡くなったマーガレット・ライトブルは、国でも有名な魔女だ。

 真っ赤な髪がトレードマークで、≪赤の大魔女≫という二つ名で呼ばれていた。あらゆる事象を操り、自国だけでなく他国からも頼りにされていたが、息子たちの不仲はどうにもできなかったらしい。


”はぁ……全くお前たちの父親は……これはあたしが、何とかしなきゃいけないねぇ……可愛い孫たちのために……”


 お見舞いに来たサラサをベッドの上で迎えながら、いつも口癖のようにぼやいていたのを思い出す。


 ちなみにマーガレットの遺産、とは、彼女が生前様々な依頼や冒険を経て得た財宝のことだ。しかし彼女が亡くなった時に確認したのだがどこにもなく、恐らく生前に様々な施設に寄付して無くなったのだと結論付けられていた。


 その矢先に、例の遺言である。

 サラサは思わず声を荒げた。激しい怒りが沸き上がる。


「昔、お父様と叔父様が不仲だと知らず、レイと仲良く話していただけで、あんなやつと口を聞くなと怒鳴り散らしたのはどなたでしたか? ずっとヒルトン商会の悪口を聞かされてきたというのに、今になって、レイと結婚しろなど勝手すぎませんか⁉」


 父親が黙って頭を下げた。

 それが、答えだった。


 家のために、

 祖母がもっている遺産を得るために、


 いがみ合っていたレイと結婚しろと。

 いや、


「結婚しろではない。もうお前たちは、法的に夫婦なのだ。だから――」


 父親の顔が、今まで以上に渋いものへと変わる。


 嫌な予感がした。

 そして予感は、的中する。


 続きを言えない父に変わり、母が口を開いた。


「今からあなたには、マーガレットお婆様が用意した部屋で、レイと子作りをしてもらいます」

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