魔王の光ちゃん
どこかで見たことあるような使い古されたネタです
闇を収縮したかのごとき黒く腐臭を放つ地獄の雷を切り裂き、光を束ねた勇者の聖剣が今魔王の胸元に突き刺さった。
「がはっ!!」
魔王の口からどす黒い血液が吐き出され、勇者の身体へと降り注いでいく。
「お前の負けだっ!!」
叫び声と共に呪文を唱える勇者の手の内に、虹色の輝きが生まれる。
「これほどとはな……女の身でありながら実に見事だ……」
「正義を成すのに性別など関係ないっ!!」
「は、ははは……しかし、まさか我が破れるとはな……」
逃れられぬ死が間近に迫りながらも、魔王は不敵に笑って見せる。
「しかし我は死なぬ、例えこの身が滅びようとも人の心に闇がある限り我は再び蘇るであろうっ!!」
その言葉には強い力が込められており、負け惜しみなどではないと勇者ははっきりと悟った。
「だとしても、世界に光がある限り新たな勇者が現れ必ず貴様の野望を打ちのめすっ!!」
それでも勇者の瞳に絶望はない、人だけではない世界の素晴らしさを信じているためだ。
「ふふふ、果たしてそう上手くいくかな……次こそは魔王の名に懸けて次こそは必ず世界を闇で染めて見せようぞっ!!」
「ならば私は勇者の名を賭けて宣言しよう、必ず貴様の野望は打ち砕かれ世界は光で満ち溢れるのだっ!!」
互いの高らかな宣言の後、勇者の手から極彩色の閃光が放たれ魔王城の全てを塗りつぶしていく。
そして世界から魔王という脅威は取り払われ、平和な時が訪れたかに見えた。
しかし共通の敵を失った人類は己の欲の下領土の拡大をはじめ、新たな戦乱が生まれることとなる。
そこに勇者の姿はなかった、まるで何もかもを見限って消えてしまったかのように。
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記憶があった、意識があった……なにも忘れてなどいない。
(ははは、長かった……しかしついにこの時がきたのだっ!!)
記憶を回想しながら魔王だったモノは生まれる時を待ちわびていた。
人の心から生み出される闇が凝縮されて、今まさに魔王は復活せんとしていたのだ。
(さあ人々を絶望の渦へと誘い、世界を闇が支配する混沌へと引きずり込んでくれるっ!!)
その瞬間を今か今かと待ちわびながら、魔王はついに膜を破り外の世界へと飛び出した。
(さあ畏怖と驚嘆のもとに我にひれ伏すがよいっ!!)
「おぎゃーーーーっ!!」
生れ落ちるなり高らかに叫んだつもりの魔王の口から、可愛らしい鳴き声が上がる。
「おめでとうございます、可愛らしい男の子ですよ」
最初に聞いたのはそんな言葉だった、どうにも魔王に脅えて媚びているようには聞こえない。
(何が男の子だっ!! 我こそは世界を闇へと誘う魔王であるぞ頭が高いわっ!!)
「おぎゃーーーっ!! おぎゃーーーっ!!」
「よく頑張ったなお前、すごく元気に泣いているよ……俺たちの子供はきっと立派に育つぞ」
次に聞こえたのはそんな言葉だった、どうにも魔王に恐怖して震えているようには思えない。
(なんだ貴様ら、我を誰だと思っておるっ!?)
「おんぎゃぁーーーーっ!?」
「ふふふ、実はもう名前は決めてあるの……人を明るくできるよう眩しく育って欲しいって意味を込めて光というの」
「ああ素晴らしい名前だ……お前は今日から光だよ」
最後に聞こえたのはそんな言葉だった、魔王はとてつもなく嫌な予感がした。
(き、貴様らーーーっ!! 我こそは闇の中の王、魔王であるぞ――――っ!!)
「おぎゃあーーーーっ!! おぎゃあーーーーっ!!」
「気に行ったみたいだね」
「ふふふ、元気にまっすぐいい子に育つのよ光」
こうして魔王は予言通りこの世へと舞い戻ったのだった……別の世界で人の子として。
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(下らぬ、実に下らぬっ!!)
イライラを隠そうともせずに魔王は一人、魔王城の建設に掛かっていた。
せっかく復活したというのに誰一人として彼のことを魔王と呼ぶものはいなかったのだ。
それどころか……
「光君、みんなと一緒にお遊戯しましょ?」
「我を光と呼ぶなっ!! 我こそ闇の中の闇の化身であるぞっ!!」
「も~困った子ねえ光君は……」
「光ではない闇だっ!! その身をもって味わうがよいっ!!」
正反対の性質で呼ばれて魔王は腹立たしさが収まらず、反射的に魔法をたたき込んでやろうと呪文を口にする。
幾ら人の身で生れ落ちたとはいえ魔力は健在だ、当然詠唱の元に魔力が集まり……魔王の身体に激痛が走る。
「ぐうぅうっ!?」
脆弱な人の身体で、まして未成熟な体なのに魔王クラスの魔法など耐えられるはずがないのだ。
「また変なこと口走って、あんまりそんなことばかりしてると痛々しい青春を送ることになっちゃうよぉ~……私みたいに……」
魔法の発現には失敗したが何故かダメージを受けたらしい保育士の姿に少しだけ機嫌を治した魔王は、改めて魔王城の建設に取り掛かろうとした。
「なっ!?」
しかしそこには無残に散らばる魔王城の残骸、もとい積み木が崩れてばらばらになってしまっていた。
詠唱時に僅かに発生した旋風が元々無茶なバランスでくみ上げていた積み木をあっさり吹き飛ばしていたのだ。
「くぅうう……ま、またしても魔王城がぁ……」
遊んでいるわけではない、ある程度形をくみ上げたら魔法で実現化させるつもりだったのだ。
最も周りから見れば積み木が崩れて嘆いている一幼児でしかない、その姿は微笑ましい限りだ。
「ほら積み木も崩れちゃったし、光君もあっちでお遊戯しましょうね」
「断るっ!!」
「我儘言わないの、愛ちゃんを少しは見習ったら?」
保育士が視線を向けた先では、別の保育士の言葉に大人しそうに従う幼女の姿がある。
「ふん、何故我があのような惰弱なる幼子を参考にせねばならぬのだっ!?」
「そういう言い方やめなさい、お隣さんでしょ~幼馴染の異性なんて将来的には最高の裏山ポイントなんだからね……私にもいればなぁ……はぁ……」
やっぱり勝手にダメージを受けている保育士の姿に付き合いきれないとばかりに背を向けて、魔王は再度積み木に取り掛かる。
その眼差しは真剣そのものなのだが、やはり周りからみれば可愛らしい限りだ。
「よしあとは……ここをこうして……」
「へへ~ん、返してほしかったらこっちこいよ~」
「なっ!?」
不意に巨大な足によって魔王城は粉砕されてしまう、最も相対的に巨大と感じただけであり実際には幼子の足なのだが。
顔を上げた魔王が見たのは、悪戯っ子がこちらを見ようともせずに飛び跳ねている姿だった。
「貴様、よくもぉおおおおっ!!」
「な、なんだよお前、女の味方すんのかよっ!?」
「黙れ、貴様の愚行は万死に値するわっ!! 喰らえ破滅呪文ダークネぐぎゃわああああっ!!」
「え、な、なんなんだよお前っ!?」
またしても反射的に魔法を唱えようとして全身に走る激痛に身もだえする魔王を見てドン引きしている悪戯っ子。
その隙に保育士がさっと悪戯っ子の手から女物のリボンを取り返してしまう。
「また悪戯して~、可愛いからって女の子に意地悪しちゃ駄目でしょ?」
「そ、そんなんじゃないやいっ!!」
保育士の言葉に顔を赤くして悪戯っ子は去っていった。
「ふふ、しかし何だかんだ言って光君たらやっぱり愛ちゃんのこと気にかけてるのね」
「光と……呼ぶな……」
苦痛をこらえながら起き上がった魔王の手に保育士はリボンを握らせるとそっと背中を押して、近くまで来ていた愛という幼子のもとへと誘う。
「あ……ありがと……」
(何だこの茶番は……)
魔王としては正直付き合いきれないと背を向けたいところだが、気が付けばにやにやと保育士達や同年代の女子達に注目されている。
もう面倒になってさっさと終わらせたくなった魔王はリボンを髪に巻き付けてやるのだった。
(何の因果で我が……魔王である我が女子供の髪を結わわなければいかんのだ……)
何だか無性に空しくなった魔王だが、お隣同士の付き合いでどんくさい幼子のお守りをやらされている内にこの手の作業に慣れてしまっていた。
「これで……良いな」
「う、うん……い、いつもごめん、ね……」
「ふん、わかっておるのなら次からは我の手を煩わせるでないぞ」
「が、頑張る……っ」
これでようやく魔王城の再建に取り掛かれると思った魔王が振り返れば、ニマニマと彼らを見つめている保育士と目が合った。
「全くツンデレなんだからぁ~」
「黙れ、万年男日照り女」
「ぐはぁっ!? な、何でそんな酷いこと言うのっ!? 私と愛ちゃんで態度違いすぎないっ!?」
「黙れ、青春を無駄にした女」
「ひ、光君のばかぁっ!?」
半泣きで立ち去った保育士が後ろで愛にいい子いい子されていることも確認せずに、魔王は積み木へと向き合うのだった。
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「ついに……ついにこの時が来たっ!!」
「そうだね、やったねっ!!」
高らかに叫びをあげる魔王に窓の向こうからパチパチと拍手を送る愛。
家が隣同士で部屋も向い合せということもあり、窓を開ければこうして顔を合わせることができるのだ。
「ふっふっふ、貴様にもようやくわかったようだな……そう今この時より我は偉大なる存在へと返り咲くのだっ!!」
「うんうん、楽しみだね小学校、私たちもう小学生だもんねっ!! 大人の仲間入りかな?」
「そうついに我も小学生に……って違うわ―――っ!!」
「ふぇぇっ!?」
買ってもらった新品のランドセルを背負って喜んでいた愛に思わず突っ込みを入れてしまう魔王。
「我が喜びの源はそのようなちっぽけなことではないっ!! 見よ我が魔力をっ!!」
叫びつつ呪文を唱えると魔王の周囲を暴風が渦巻き、室内を荒らし尽くす。
「ふははははっ!! 流石にまだ痛みが伴うがついに我は魔法の力を取り戻したのだっ!!」
「あーー光ちゃんいけないんだーー、部屋でそんな暴れたらまた怒られちゃうよっ!?」
「ええい、魔力を取り戻した今何を脅える必要があろうかっ!! 後光ちゃんと言うな魔王様と呼べっ!!」
せっかく見せつけた偉大な力に駄目だしされて、憤慨する魔王であったが……
「光っ!! あんたまた部屋で暴れたのっ!! まだ説教されたりないのあんたはっ!!」
「だ、黙るがよいババ……母君よ、いくら我を生んだ功績があろうとも我に指図する権利は……」
「いい加減言葉遣いも治しなさいっ!! またご飯抜きにするわよっ!!」
「なぁっ!? ひ、兵糧攻めとは卑怯であるぞっ!!」
部屋にやってきた母親に怒鳴られると押され気味になってしまう。
何だかんだで育ててもらった恩義もあるし、何より三大欲求のうちの食欲を満たす手段が現時点では母親に頼るしかないのだから逆らいにくいのだ。
「卑怯も何もないでしょっ!! ごめんね、愛ちゃんこんなうるさいのが隣で……」
「う、ううん……私は光ちゃんとお話しするの好きですから……」
「ああ本当にいい子だね……あんたも愛ちゃんを見習ってしっかりしなさい」
「だから何故我が女子供を見本にせねば……」
「ご飯までにこの部屋きっちり片付いてなかったら本当にご飯抜くからね……」
「ま、待たれよ母君っ!!」
無情にも立ち去った母親の言葉にげんなりしながら、しぶしぶと片づけを始める魔王。
その姿には哀愁すら漂っていて威厳など欠片も感じられなかった。
「怒られちゃったね……もうあんなことしちゃだめだよ?」
「あんなことだと……魔王の偉大なる魔法に対してよくほざいたな」
「偉大なまほー? ならお片付けもまほーでやっちゃえば楽に終わるんじゃないの?」
「……そのような器用な魔法は使えん」
「もうやっぱり役に立たないじゃん……手伝おっか?」
「……我が領域へ干渉することを許可する」
「りょうい……? かんしょー?」
「……片付け手伝ってください、お願いします」
「うんわかった、今そっち行くねー」
ぱたぱたと駆け出した愛の後姿を眺めながら、魔王は何故か妙に泣きたい気分になった。
だけど我慢しました、だって腐っても魔王ですから。
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「ひ、光ちゃん……」
「魔王様と呼べと言っているだろう……それで今度は何を忘れたのだ?」
おずおずと魔王の席へとやってきた愛、既に見慣れた光景とやり取りだ。
「あ、あのね……み、水着……」
「……あれほど前日のうちに用意しろといったであろうが」
「ご、ごめんね光ちゃん……ど、どうしよう?」
「だから魔王様だ……教員に事情を説明し許しを請う他あるまい」
「そ、そうだよね……で、でも私前にも忘れたから……その……」
言葉を待たずして席を立った魔王は、愛の手を取って歩き出す。
「わかっている、一人では言いずらいのだろう……付き添ってやる」
「あ、ありがとう光ちゃんっ!!」
「だから魔王様と呼べと何度言えば……はぁ、まあいい……」
そして何度目かになる職員室へと入り、担任に頭を下げる魔王。
「すみません、また忘れ物をさせてしまいました……」
「ご、ごめんなさいっ!!」
「また君たちか……流石に少し忘れ物が過ぎるぞ」
「おっしゃる通りです……」
「大体何で君が付き添ってくるんだ? 何度も言うけどそんなことじゃ社会じゃ通用しないよっ!!」
「まことに申し訳ありません……」
愛の前に立って少しヒステリックなところのある担任の叱咤を前面に受け止める魔王、頭を下げて許しを請う魔王。
(くっやはり我は選択を誤っているのではないかっ!?)
このような屈辱に耐えかねて衝動的に魔法を放ってしまいたい衝動に駆られる魔王だが、後ろで脅えて震えている愛を見て何とか堪える。
魔王として周りのことをまるで考えずに生きてきたがために、規模の大きい破壊魔法しか使えないのだ。
こんなところで放てば確実に愛を巻き込んでしまう。
(たかが女子供の身を気遣わねばならぬとは……)
しかしながら魔王もこちらの世界に生まれてきて色々と見聞きした今では、かつてのように暴れまわるのは得策ではないと悟っていた。
魔法の打ち合いなら勇者を除けば負ける気はしない魔王だが、科学が発展しているこの場所でまだ完全に成熟してない身で世界を相手に戦いきる自信はなかったのだ。
(堪えよ我、今は雌伏の時なのだ……)
魔王はひたすらに心を殺して教師の罵声を聞き流す。
そしてチャイムの音と共にようやく職員室から解放されるとほっと一息ついたのであった。
「失礼しました……ほら、教室に急ぐぞ」
「ぐすっ……う、うん……」
教師の執拗な説教で半泣きになった愛の手を引いて教室に向かう魔王。
勿論ここまで愛を庇うのは理由がある、長年の付き合いで色々と弱みを握られているのだ。
(特に我が直接魔法を使うところを見ているのはこやつだけ……何とか懐柔して我が成熟しきるまで情報を漏らさぬようにしなければ……)
そのために必死で恩を売っているだけであり、決して可愛いからだとか見てられないだとかそういうわけではないのだ。
だから当然周囲に流れるおしどり夫婦だとかバカップルだとかいう噂に気分を良くしたりしていないのだ。
(ふ、いずれ万全になった我が世界を支配した暁にはこのような小娘なぞ……そういえば次の授業は課題が出ていたな?)
「おい愛よ、算数の宿題プリントはしっかりやって持ってきてあるな?」
「あっ!? きょ、今日だっけ……あぅぅ……っ」
「……我のプリントを渡すから名前を書き替えて提出するがよい」
「えっそ、そんなぁ……」
「貴様に我の言葉に逆らう権利はない、よいなすぐにやるのだぞ」
廊下を走って怒られぬよう急ぎ足で教室に向かう魔王と愛であった。
(全く、目が離せんではないか……どうしてくれようこやつ……)
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「ふはははは、我が偉大なる魔力に世界はひれ伏すのだっ!!」
「ひひひひひ、拙者の大いなる科学力の前にこそ全世界は管理下に置かれるのだっ!!」
「我だっ!!」
「拙者だっ!!」
教室の一角で怒鳴り合う魔王とメガネをかけて白衣を着こんだ男、その二人から少し離れたところで恥ずかしそうに見守る愛とクラスメイト数人。
「ねえ愛ちゃん、いい加減あんなの放っておけば?」
「で、でもずっと光ちゃんと一緒に帰ってるから……」
「だって恥ずかしいでしょあんなのと一緒じゃ?」
「う、うーん恥ずかしいけど、でも光ちゃんお隣同士だし……」
「中学生にもなって今更そんなことで一緒に登下校する奴なんていないよ、嫌ならはっきり断ったほうがいいよ」
「べ、別に嫌じゃないよ……恥ずかしいけど」
「ええい、そこうるさいですぞっ!!」
「黙らぬか、我は今重要な話をしておるのだぞっ!!」
叫ぶ魔王とメガネ白衣の男、一体全体何故にこのようなことになっているのか。
簡単に言えば中二病であるメガネ白衣の男が件の野望をぶちまけたところ、魔王の琴線に触れてしまい耐え切れず己の意志を暴露してしまったのだ。
そこからは件の言い合いである、まるで子供じみたやり取りだが本人たちからしてみれば本気である。
(くそっ!? こいつら全員魔法で吹っ飛ばしてやろうかっ!?)
思わず呪文を唱えそうになるが何とかこらえる魔王、まだまだ身体が成熟するには時間がかかる。
最も既に何の障害もなく魔法を放てる程度には育っているのだが、こちらの世界での成人が二十歳と聞いて律儀にそれまで我慢することにしたのだ。
しかしだからといって世界征服などと聞けば黙ってはおられない、それは闇の中の王である魔王がやらねばならぬことなのだから。
「……でね、光ちゃん昔っから自分の名前が嫌いで魔王様って呼べって言ってたから恥ずかしいことは恥ずかしいけど今更そこまで気にならないっていうか」
「うわぁ、痛い痛い……よく愛ちゃん付き合ってられるね?」
「えっあ、そ、そんなつ、付き合うなんてわ、私たちただの幼馴染だしっ!?」
「ああそういう意味じゃなくて……というか愛ちゃんさ、はっきり言ってうちの学校でもトップクラスに可愛いんだからあんなの捨ててちゃんとした彼氏作れば?」
「あ、あんなのって……そ、そりゃあ色々と痛々しいけど光ちゃんは優しいんだよっ!? す、すっごく優しいんだからねっ!!」
「へぇ……だってさ優しい魔王様っ!!」
「ほう、そんなに始末されたいか小娘……っ」
やっぱり呪文をぶっぱなしたくなる魔王、それでも耐えているのは野望の為であり決して愛を巻き込みたくないからではない。
「と、とにかく光ちゃんそろそろ帰ろうよっ!!」
「しかしだな、この身の程知らずにはっきりと立場というものをだな……」
「……今すぐ帰れば今日の特売間に合うよ? そしたら明日のお弁当にお肉いっぱい入れられるんだけどなぁ……」
「くっ!? 仕方あるまい、勝負は預けたっ!!」
プライドを捨てて愛の元へ駆け寄る魔王様、威厳も欠片もない気がするが気のせいだろう。
「ひひひひひ、全く何処が魔王だプライドはないのか、雌犬の尻にひかれ……」
「今なんつった貴様ぁっ!! 誰が雌犬だとマジで殺すぞあぁんっ!!?」
「ひぅっ!?」
すさまじい魔王の迫力にビビるメガネ白衣、半泣きで少し股の部分が湿っているように見えるのは気のせいにしておこう。
「も、もう光ちゃんたら……いいから行こっ!!」
「ぐっ……わかったからそんなに強く引っ張るな」
そんな魔王だが愛に引っ張られると抵抗することもなくあっさりと教室を後にする。
「マジ切れだよ魔王様……ちょっとでも愛ちゃんにケチ付けたらこれだもんなぁ……」
「どんだけ大事に想ってるんだか……てか愛ちゃん口ではああいったけど地味に喜んでなかった?」
「まあ、ほら……おしどり夫婦ですから」
やれやれとため息をつくクラスメイト達の存在に気づくことなく、魔王と愛は帰路へつくのだった。
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「魔王殿、聞いておられますかな?」
「黙れ、我は忙しいのだ……」
「いいえ黙ってなどおられませぬ、偉大なる魔王様の参謀であるマッドサイエンティスト岳学の話より大事なことがありましょうか?」
机の隣でワンワンとがなり立てる校則違反の白衣を着こんだメガネの男の言葉を無視するように魔王はノートのコピーを制作し続ける。
「まさかまた奥方様の為に作業をなさっているのですか……というかマジであんた甘やかしすぎっすよ」
「いきなり素の口調になるでない、あと別に我は結婚も婚約もしてはおらん…………甘いのは自覚している……」
ぼそっと本音を呟く魔王様、中学時代好き放題やり合ったためか何だかんだでお互いに素の自分を曝け出せる関係になっていたのだ。
最も普段は中二病のような会話ばかりで、高校生にもなって魔法科学同好会を作り上げる程度には成長していないのだが。
「やれやれ……んで肝心の奥さんどこ行ってんの?」
「だから妻じゃないというか付き合ってもおらん……下駄箱にラブレターが入っていてな、相手に会いに行ったよ」
「はぁ……いい加減告白すればいいじゃないっすか、あんたがそんな煮え切らない態度だから可能性あるかもーって男子は告りに行くし愛さんはいちいち断って回るはめになってんすよ」
「いや告白って……我魔王だし……ただの幼馴染だし……愛可愛いし……我では釣り合わないし……」
「おいヘタレ魔王、殴っていいか?」
「だ、黙れ……そ、それより貴様の話はなんだっ!? ちょうど手も空いたところだ寛大な気持ちで聞いてやろうではないか?」
「ふぅ……実はですなぁ本日なんと転校生なる異物が拙者たちのクラスにやってこられるようなのですよ」
露骨に話をそらした魔王をジト目で眺めていた学であったが、コホンと咳払いして普段の調子で話し始めた。
「ほほう転校生か……」
「しかもですなぁ男はおろか女も見ほれる超絶美人だとか前の学校で大暴れしたとか、天使の生まれ変わりだとか様々な噂が流れておりましてなぁ……これはぜひとも拙者らの同好会に入っていただきたいと思わせる逸材だと思われませぬかな?」
「ふむ悪くはないが、しかし天使の生まれ代わりなどというものに我らの偉大なる世界制覇の夢が理解しうるものかな?」
「ふふふ、その際は拙者たちの手で闇に染め堕天せしめるのが……」
「もう、朝からまたそんな話してるの?」
気が付けば愛が戻ってきていて、呆れた様子で魔王と学を見つめている。
「お、おう愛よ、よくぞ戻った……今日は科学のノートの提出日だが準備は出来ておるのかな?」
「うっ!? いつもいつも申し訳ございません魔王様……」
「はっはっは、わかっておったとも……さあ我が闇の誘惑に従いこのノートに契約の名を記すが良いっ!!」
「はぁ……どうして私忘れちゃうんだろ?」
「いやまあ……我の弁当だとか晩飯だとか部屋掃除とか色々やっておるからな、忙しくて忘れても仕方あるまい」
「……訂正するっす、あんたらどっちも甘すぎ」
付き合いきれないとぼやきながら自分の席に戻る学に構う余裕もなく急いでノートに自分の名前を記入する愛。
「あーそれで……愛よ、その……なんだ……」
「……3組の吉田君、サッカー部の……断ったよ、好きな人が居るからって」
「あ、ああ……そ、そうであるか……ま、まあそのなんだ、恋愛事情に関しては我もアドバイスは出来ぬからな……」
「わかってるよ光ちゃん……わかってる……」
ノートから顔を上げずに呟く愛、その言葉が妙に冷たく感じられて魔王なのに冷や汗をかいてしまう。
「そ、そうか……し、しかしそなたのような美しい女性ならば必ず恋は実るであろうな」
「その言葉……信じてもいいのかな?」
そこではっきりと顔を上げて魔王をまっすぐ見つめる愛、その視線の重さに耐えかねて顔をそらすのが魔王様。
(な、なんなのだこのプレッシャーは……こやつ本当に人の子なのか……っ!?)
「は……はっはっは、どうであろうなぁ……何せ我は魔王っ!! 適当誤魔化し何でもござれの悪党であるぞっ!!」
「……バーカ」
「な、わ、我を侮辱するとは……い、偉大なる魔王に対し何たる無礼であるかっ!?」
「ふん……知らないもん」
プイっと顔を背けてしまった愛であるが少しだけ空気が和らいだ気がして魔王はほっと胸を撫でおろすのであった。
(しかし学の言うことも一理あるな……い、いい加減我も覚悟を決めるべきか? しかし我は本当に魔王であるからして恋愛などにうつつを抜かしてよいものか……)
思い返すのは勇者に向けて堂々と言い放った言葉である。
(魔王の名に懸けて次こそは必ず世界を闇で染めて見せようぞ、とまで言っておきながら彼女を作ってイチャイチャするのはどうなのだろうか……いやまあこんな中二病全開の痛々しい男が愛に告白したところで振られる可能性だって十分あるわけなのだが……何せ好きな人が居るというだけで誰が好きとは言ってないわけで……)
年頃の男子らしく色恋沙汰に悩むその姿からは、かつての魔王の栄光は欠片も見受けられなかった。
「せきにつけー、てんこうせーをしょーかいするぞー」
(妙に気が抜けておるな? 酒でも飲んできたのか?)
担任の言葉で現実に立ち直った魔王であったが、何やら態度が変に感じられた。
「光ちゃん、先生何かおかしくない?」
「うむ確かに……」
ひそひそと話している二人の目の前でドアが開き転校生が入ってきた。
「おぉ……っ!?」
「す、すっげぇ……美人っ!?」
「う、うわぁ……なんか眩しいっ!?」
「はぁ……これは担任がおかしくなるのもわかるわぁ……」
途端に一気に教室中が騒がしくなる、それほどに転校生の容姿が優れていたのだ。
「ひ、光ちゃんすごい美人さんだよっ!? あんな人がいるんだねっ!? 同じ人間とは思えないよっ!?」
愛も又興奮したように話しかけてきた、前評判通り男だけではなく女までも魅了される美しさであった。
しかし魔王は愛の言葉にすら反応しようともせず、ただじっと転校生を見つめていた。
「始めまして私は闇子と言います、今日からこちらで……っ!?」
鈴の音のような可憐に響き渡る声で自己紹介していた闇子であったが、ふと魔王と目が合うなり顔が引きつり固まった。
その変化に皆が息を飲み一瞬教室を沈黙が支配した次の瞬間、魔王は立ち上がると高らかに笑い声をあげた。
「ふ、ふはははっ!! まさかこのような形で再開することになろうとはなぁ……ええ、勇者よっ!!」
「やはり魔王かっ!! 本当に蘇っているとは流石に驚いたぞっ!!」
闇子は鞄から竹刀を取り出すとびしっと切っ先を魔王へと突き付け不敵に笑って見せる。
「しかしここで私と出会うとはな……やはり正義の前に悪は散りゆく定めのようだな、覚悟してもらおうっ!!」
勇者の言葉に魔王もまた不敵に笑って見せる。
「はっはっは、いつぞやのように遅れをとるとは思うなっ!! 我はあの時より遥かに強く……強くなった……わけではないが……ええと……そ、そうだよく見れば聖剣を持っておらぬ貴様などに負けはせぬわっ!!」
(勢いで立ち上がってしまったがこの場所で魔法をぶっ放すわけにもいかぬし……そもそも勇者があの時の強さのままなら聖剣抜きでも今の我ごとき瞬殺されかねないぞ……土下座したら見逃してもらえぬかな?)
内心ガクブルである魔王、プライドはどこへ行ったのだろうか。
「ぐっ!? も、持ってないわけではない銃刀法違反で没収されただけだっ!! それにそんなものがなかろうと剣道を習った私はあの時より遥かに強くなってるのだ多分……っ!!」
(しまったそうだ聖剣抜きで勝てるのか私は……魔法だってこんな場所じゃ使えないし、そもそも魔王があの頃の強さのままなら剣道以外で身体を鍛えてない私に勝ち目なんかないぞ……泣いて謝ったら見逃してもらえないだろうか?)
内心ビビりまくっている勇者、プライドはないのだろうか。
そんな思いを悟られるわけにもいかず、とりあえずお互いににらみ合いを続ける二人。
(これからどうしよう……っ!?)(こっからどうしよう……っ!?)
「ひ、光ちゃん……知り合いなの?」
愛に袖を引かれる魔王だが、目をそらすわけにもいかずそのまま口を開く。
「ふっ……奴こそ我にとっての宿敵、前世から連なる因縁で結ばれた運命の相手よ」
「ぜ、前世っ!? 運命の相手……っ!? そ、そんな……う、嘘だよね……?」
まるでハンマーで殴られたようにふらつき顔面蒼白にしながら、救いを求めるように勇者へと視線を投げかける愛。
「残念ながら事実だ、こやつと私は血で血を洗うまさに赤き鮮血の糸で結ばれた生涯の相手なのだ」
「あ、赤い糸っ!? しょ、生涯の相手……あぅうぅぅ……」
「ど、どうした愛よ何を苦しんで……」
「光ちゃんの……ばかぁっ!!」
大声で叫んで教室を飛び出す愛、途中で勇者を一睨みすることも忘れない。
「ま、魔王よあのような可憐な少女に何をしたのだっ!? な、泣いておったぞっ!?」
「くっ!? よ、よくわからんが勝負は預けたっ!!」
「あっ!? こ、こらまてっ!!」
反射的に愛を追いかけて勇者の制止を振り切り飛び出す魔王、というかもはや青春している一般人の光君。
「な、何がどうなっているのだ……誰かあの二人のことに詳しい者、特に魔王と親しい人間は誰だっ!?」
「そこの岳学君が魔王様と一番仲いーでーす」
「具体的には魔王の参謀だっていってましたー」
「ちょ、ちょっと待ってほしいのですが皆さまがたっ!?」
「ほほう、魔王の側近か……ちょうどいい貴様なら勝てそうだ、存分に叩きのめした後で洗いざらい話してもらうぞ」
「は、話す……話しますからぼ、暴力反たぁあああああっ!!?」
などという会話が後ろから聞こえてきたような気がするけれど、あえて聞かなかったことにして光は全力で愛の後を追うのでした。
「うぅぅ……追ってこないでよぉっ!! あの人と仲良く遊んでればいいでしょっ!!」
「な、なにを言っているのだ貴様は……っ!?」
廊下を全力で走り抜ける二人だが、流石に男女の差もあり何とか光は愛を捕まえることに成功する。
「はぁ……はぁ……も、もう逃がさぬぞ愛……な、何故泣いているのだ?」
「うぅぅ……もう、放っておいてよぉ……っ」
「我が今まで愛を放っておいたことがあるかっ!? 今更放置などできるかっ!!」
「だ、だってぇぇ……ひ、光ちゃんあの人が好きなんでしょっ!? だったら私……」
「ないないないないっ!! あいつは敵だっ!! 勇者だぞあいつは魔王の我の宿敵っ!! 我はあいつに殺されたのっ!! 剣ぶっ刺されたのっ!! やせ我慢してたけど物凄く痛かったのっ!! 本当に心の底から欠片もあんな奴好きではないっ!!」
愛の言葉を遮ってやけくそ気味に叫ぶ光君、当時の痛みを思い出したのか涙まで滲んでます。
「ほ、本当……し、信じていいの?」
「当たり前だっ!! 我が今まで愛に嘘をついたことがあるかっ!?」
「…………ない、かなぁ?」
「何故疑問形なのだっ!?」
「だ、だって普段から魔王だの世界征服だとか言ってるし……ほ、本気ならそれはそれで痛いかなぁって……」
さすがに愛に正面から痛いと言われて、光君は本気で泣きそうになってしまったのでした。
「えー、おほん……そろそろいいかな、混ぜてもらっても」
「あっ!? せ、先生……」
「HR中に許可なく教室を飛び出す、廊下でかけっこ、大声で叫んでの授業妨害……とりあえず指導室行こうな二人とも?」
「……良きに計らえ」
もう抵抗する気力もなく二人は指導室に連行されていくのでした。
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「魔王よっ!! 今日という今日こそ覚悟してもらおうっ!!」
「ふははははっ!! 何を言うか勇者よ、その言葉そっくりそのまま返してやるわっ!!」
高らかな宣言と共に二人はしゅばっと右手を相手の顔面に向かって突き出した。
当然その手に握られた答案用紙がお互いの目に留まる。
「ば、ばかなっ!? せ、正義が破れたというのかっ!?」
「はっはっはっはっ!! 見たかこれこそ偉大なる魔王の力よっ!!」
あれ以来毎日のように細かいことで争っては優劣を競っている自称勇者と元魔王の取っ組み合いは、もはやクラスの風物詩となりかけている。
今回は現国のテストの点で言い合う二人を白けた目で見つめる愛。
「ねえ、あの二人やっぱり仲良すぎるよね……絶対仲良いよね……」
「もうどうでもいいっす、それより愛さん一桁は不味いっすよ」
「……だって補修になると光ちゃん勉強教えてくれるんだもん……独り占めできるんだもん」
「おいら付き合いきれないっす……」
さっさと自分の席へと戻ろうとする学、転校初日にフルボッコにされて以来中二成分も抜けて今では四人の中で一番まともになっている。
「くぅう、こうなったら学よ正義の軍門に下った貴様の力をよこすのだっ!!」
「何をっ!? 学は我の右腕よ、すなわち学の得点は我の得点であるっ!!」
「あっやめてほしいっすテスト用紙破れちゃうっ!? あとで復習するんだからもっと丁寧に扱って……あぁっ!?」
「くっ!! 魔王め、貴様のせいでまたしても哀れな犠牲が生まれてしまったぞっ!!」
「なっ!! 勇者が、貴様の愚かな行いのお陰で余計なゴミが増えてしまったわっ!!」
「おいらの答案……(´Д⊂グスンっ」
「こうなったら愛よ、貴様の力を我に……っ!?」
「待ていっ!! いつまで愛殿を誑か……っ!?」
涙目でびりびりに破れた答案を拾い集める学をしり目に愛のところへ向かった二人だが、答案にでかでかと記載された一桁の点数を見て固まる。
「えへへ、恥ずかしいなぁ……光ちゃんまた勉強教えてくれる?」
「あ、ああわかった……勇者よ、すまないがしばしの間休戦といこうではないか」
「そ、そうだな……そうしよう、うん……」
さすがに休戦条約を結んだ勇者であったが少し首を傾げながらまっすぐ学のところへと向かう。
初日から暴れて近寄りがたいこと、あまりに美人すぎて近寄りがたいこと、魔王と同レベルの中二病で近寄りがたいこと、以上のことから皆勇者には近寄りがたいようで彼女は孤立しつつあったのだ。
最も本人は全く気にしていない、というか全部魔王の陰謀だと思っているので必然と会話が必要な際は魔王から解放したと思い込んでいる学に話しかけるのだ。
「学よ、愛殿は前からあんな成績だったのか?」
「うぅぅ……赤点ギリギリだけどもうちょいましだったっす」
「うむむ……やはり魔王の悪しき力に汚染されつつあるようだな……」
納得したように自分の席に去っていく勇者を学は半笑いで見送ることしかできなかった。
そうしていると今度は魔王が近づいてくる、こちらも普段から魔王だのなんだのと公言していることと勇者とバカみたいな喧嘩していること、何より皆からおしどり夫婦と言われていた相手の愛を蔑ろにしているように見られてしまい孤立しつつあったのだ。
最も本人は全く気にしていない、というか全部勇者の策謀だと思っているので必然と会話が必要な際は未だに同類だと思い込んでいる学に話しかけるのだ。
「愛は前はもう少し勉強ができていたはずなのだ……きっとあの勇者が何か企んでいるに違いないのだが何か知らんか?」
「まあ考えようによっては闇子さんが来なければこうはなってないっすけど……」
「やはりか……やはり勇者は早い段階で何とかしなければならないようだな……」
納得したように自分の席に去っていく魔王を学は半笑いで見送ることしかできなかった。
「……もういやっす、おいらひとりになりたいっす」
魔王と勇者から話しかけられ、少しヤンデレが入りかけている愛から相談を持ち掛けられ、また少し前まで中二病を気取っていた傷跡もあって学は孤立しつつあったのだ。
最も本人は気にしていない、というか頼むから一人にしてほしいと心の底から願っていた。
「非日常に憧れて中二病を気取っていた昔の自分をぶん殴りたいっす……欲しいのは平穏、普通になりたいっす……」
残念ながらその願いが叶うことが永遠にないことを、学はまだ知らなかった。
終わりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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