前編
ちょっと書いてみたかったので、ごめんなさい。
皆は幽霊という存在を信じるかな?
肯定派、否定派、きっとどっちも居るはずだ。どこかで何かを体験してしまったという人や、人生で一度もそんなものに出会った事もない、答えとしてはそんなところだと思う。
ちなみに、ぼくは肯定派だよ。
理由は簡単。だってさ、ぼくがその幽霊になってるんだから……。
それは、ほんのひと月ほど前の事だったんだ。
ぼくは、彼女である幼馴染の加奈に呼び出されて、喜んで彼女の家に遊びに行ったんだ。鍵は開いてる勝手に入って来て、と言われていたので勝手知ったる幼馴染の家。普通にドアを開けて、玄関へと入って行った。靴を見ると、彼女の物と、男物の靴が並んでいた。おじさんの靴かなーっと思いながら、ぼくは階段を上り、二階にある彼女の部屋へと向かった。
最悪だった。
部屋に入る前から、彼女の喘ぐような声が聞こえ、何だ?とは思ってはいたんだ。でも、思い切って部屋のドアを開けたら、そこにはベッドに裸で寝転がる彼女と、その彼女に覆いかぶさる男の姿があった。
そこからは酷いものさ。彼女と男はぼくの方を一瞥すると「こういうことだからさ、お前はもう用済みだ」的な事を言い出した。そして、当てつけるかのように、彼女はぼくとその男を比較するようなこと喘ぎながらも何度も何度も声に出した。何が起こっているのか、あまり理解が出来なかった。いや、しようとしなかったのか?ただ、ぼくは彼女に裏切られたという事だけは目の前の淫靡な光景からは確かに伝わった。
そこからの記憶は曖昧だった。ぼくは気が付いたらどこかの建物の上に居て、どうやら飛び降りたらしい。元々、それほど気も弱く、打たれ弱いメンタルであったのだから仕方がなかったのかもしれない。
ドサリーー。
自分の身体が地面に到着したのが分かった。分かってしまった……ぼくは、どうやら打ちどころが悪く、すぐには死ねなかったようだ。
どうしてこうなったんだろう? ぼくは、精一杯加奈のことを愛していた。デートに行く時は、何時も下見をして絶対に楽しんで貰うんだと頑張った。プレゼントだってしたし、いっぱい好きだとも伝えた。
でも、結果はこれだ……はは、辛いな……痛いな……。
今わの際というのだろうか、ぼくの考えはただ『辛い』『痛い』この二言だけに支配されて行った。段々と。身体が冷たくなっていくのが解る。あぁ、ぼくはやっと死ねるんだ、とそう思い全てを諦めかけたその時だった。
『憎い……!』
突然、ぼくの中にそんな気持ちが芽生えた。憎い……そう、ぼくはあいつらが憎いんだ……!
『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺してやる』
芽生えた気持ちは、一気にぼくの全てを支配していく。冷たくなっているはずの身体が、燃え上がるように熱くなった気がした。
しかし、やはり死には抗えないのだろう。ぼくは最後の最後まで『憎い』という言葉に支配されながら、その意識は闇に引き攣り込まれて逝ってしまったのだった。
と、ここまでが回想になる。
これが、ぼくが幽霊になっちゃったまでの経緯だ。
良くはわからないが、ぼくはあいつらを憎む余りに幽霊、それも悪霊の類になってしまったのだろう。なんとなくではあるが、今自分に出来ることというのが理解できてしまう。
悪霊になったと落ち込んでるのかだって? そんな訳がないだろう? これで、この力があればぼくは奴らを恐怖のどん底に陥れた上で呪い殺してやれるんだ。悪霊になったからと、落ち込むわけがない。嬉しいんだよ、ぼくは!!
「ヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」
これは、きっと神様からの思し召しに違いない。あの屑共と殺せと、地獄にまで連れてこいということに違いないんだ!
そう思ってからのぼくの行動は早かった。早速彼女の家に向おうとーー。
「お前、新入りか?」
した矢先に、そんな声が掛かった。そちらを見ると、ぼくと同じような姿……まぁ、死んだ時のままのちょいグロな姿をした男の人の姿があったのだ。
「え、えぇ……そうですが、その、あなたは?」
悪霊が何言ってんだかと思われるかもしれないが、なんだか怖いので恐る恐る聞いてみる。
「おれは、十年ぐらい前から幽霊やってる者だよ。つまり、先輩って訳だ」
男の人は胸を張ってそう答えた。つまりは、幽霊の先輩という事らしい。そんな人が、ぼくに一体何の用なんだろうか?
「お前さんは、悪霊っぽいな……大方、死んですぐに復讐に行く最中ってとこか、いや復讐を止める訳じゃないぞ?悪霊に成るにはそれに相応しい理由があるからな、存分にやっちまえ。しかし、しかしだ……お前さん、そのまますぐに向かっちゃ、憎しみの余りに即効殺して終わりになっちまうぞ?」
ニヤリと笑みを浮かべつつ、男の人はぼくの肩に手を置きそう言った。まぁ、片目が無いのでちょっと怖かったが、しかし彼の言う事にも一理はある。きっと、ぼくはこの身から溢れんばかりの憎しみで、あいつらをすぐにでも殺して地獄に引き摺り込んでしまう事だろう。
「そこでだ……生前はホラー映画ファンであり、サメ映画評論家を自称していたこのおれが、お前さんに恐怖のずんどこというものをレクチャーしてやろうと思うんだ」
サメ……?まぁ、そこは良く分からないが、ようするにぼくに奴らを恐怖の底に沈ませる方法を教えてくれるという事か?
「えっと、少しでも長く奴らを苦しませる方法を教えてくれるってことですか?」
「ざっつらい!その通り……おれの事は、これから師匠と呼んでくれ。いや、長く幽霊なんてやっていると娯楽にも飢えて来てな……映画館無料ひゃっほーっとか最初は言ってたんだが、最近はなんというかあまりぶっ飛んだ作品もなくてなぁ」
ようするに、暇つぶしらしい。しかし、それでも良いとは思う。このまま行っても、ぼくに出来ることは奴らを縊り殺すことだけで、それではすぐに終わってしまう。それは、ダメだ。ぼくが全然愉しくない……。
「お、いい顔するじゃねぇか……お前さんは悪霊なんだ。思いっきり暗く、沈んで行こうぜ!」あ、沈み過ぎて地獄にまで行ってまわないようにな!がははははは」
おっと今のは幽霊ギャグって奴だ。鉄板ネタだから、覚えといて損は無いぞ。と、ちょっと良く分からない事を男の人は言っていたが、しかしぼくは男の人について行く事にした。
今日から、この男の人がぼくの師匠なのだ。
そして、四十九日の時が流れた。幽霊にとっては、絶好のデビューの日付けらしい。ちなみに、悲しくなるだけだから家には一回も帰ってはいないし、これからも帰る気はない。
その間に、ぼくは師匠に色々なところに連れて行かれた。主に、ホラー映画の鑑賞会だ。そこには、様々な悪霊達が知恵の限りを尽くし、怨敵や自分の領域に踏み込んできた馬鹿共を虐殺していく爽快なシーンが流れていた。ぼくなりに考えた悪霊にとって必要な要素は、まずは『印象的な登場シーン』『じわじわと相手を追い込んで行くシーン』そこから、『途中、わざと一安心させてからの振り返ったらそこにドーン!』大切なのはジャンプスケアという手法なのだ!
「良し、お前に教えることはもうあんまりない!自信を思って憎む相手の呪ってこい!」
「ほんと、頑張ったわよね。同じ悪霊として、応援してるからね!」
この四十九日間、短いようで長かった修行の期間ではあるが、その間にぼくは様々な人達(幽霊や悪霊)と出会った。みんな、心に何か闇を持つ人達であったが、でもとても親切にしてくれた人達であった。
「ありがとうございました!ぼく、皆の事を決して忘れません。あいつらを呪い尽くして殺してやった後、きっとここに帰ってきますね!」
ぼくは涙ながらに皆に別れの挨拶をした。皆、そんなぼくを微笑ましそうに眺めていた。なんて、気持ちの良い人達なのだろう。見た目はグロいけどーー。
そして、ぼくは遂に決戦の場へと赴くのだった。
そして、時間は深夜。
「遂に、遂にこの時が来た……さぁ、ここからはずっとぼくのターンだ。イヒ、イヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
同業者以外には聞こえはしないので、ぼくは遠慮なく夜空に向かい嗤い声を響かせる。ちなみに、同業者も大概は似たように嗤っているので、誰も気にする人は居ない。
「さぁて、あいつらはどうしてるかな……」
向かう先はラブホテルという場所だ。どうにも、奴らはそこで相変わらず乳繰り合ってるようだ。
「はぁはぁ……今日も良かったわ。博♪」
「お前も相変わらずいい女だぜ、加奈」
うん。乳繰り合っていた。
「そういや、あいつが死んでからもうそれなりに立つか? いやぁ、死んだって聞いたときは大笑いしたぜw」
「もう、わたしの方は大変だったのよ? 幼馴染だから、何か知らないかとか、あんたら恋人だったんだから何か知ってるでしょとか……まぁ、居なくなってくれて、わたしも清々したけどねw」
おぉ、中々の屑っぷり。安心したよ……変に改心なんてされていたら、コロシニククナルカラネェ……。ニタァっとぼくは笑みを浮かべ、早速行動を開始することにした。
「それじゃ、続きと行きますか♪」「もう、一体何度わたしをイカせるするつもりなのよぉ♪」
--ブツン。
その瞬間に、部屋の明かりが突然消える。元より、外からは見えないようにしている部屋だ。全ての明かりが消えてしまえば、そこは闇に閉ざされる。
「な、なんだ!? 停電か?」「きゃっ……もう、なんなのよ、これからって時に……」
二人は不満そうな声を上げる。が、まだ目が慣れていない暗闇の中、無暗に動きことも出来ず、ただベッドの上でじっと待つしかない。
「こう暗くちゃ、電気のスイッチを入れ直すもの無理か……」「いいじゃない。ねぇ、たまにはこんな暗いところでってのも……ね?」
最初は驚きはした物の、慣れてくればそれはそれでいい物だと、加奈が博を誘う。その顔は、もうぼくの好きだった加奈のものではなかった。
そして、二人の屑共が再び行為を再開しようとしたその瞬間。バチンッ!という音が部屋に響く。バチンッバチンッバチンッと、何回もだ。
「お、おい何の音だよ。やばいんじゃないのか!?」「ひっ」
二人が慌て始める。そして、ここでテレビの電源をスイッチオン。
--ブゥゥゥゥン。
というテレビの電源は入るときの独特な音と共に、画面からは光が溢れはじめる。ザ、ザザ、ザザザザアアァァァァァァァァァ溢れるのはテレビの番組などでは無く、ザッピングという奴だ。砂嵐とも云うかな?
「つ、次はなんだよ!?」「なんで急にテレビが!? わたしリモコンなんて触って無いよ!?」
よし、二人がテレビに注目した。ここで、映画で勉強をしたあのシーン!
ぼくは、テレビの中に入り、少しずつその姿を鮮明にしていく。重要なのは、敢えて色を消すことと、逆に鮮明に輪郭を現し過ぎないこと、何よりも目力が大切なのだ!
『ア゛、ア゛アアアアアア……!!』
腹から声を出せ!師匠にそう言われ、散々発声練習をさせられた、悪霊っぽい唸り声。幽霊の腹筋とか肺活量とかあるのか必死に悩みつつも、ようやく合格点を貰えた、その唸り声を披露して行く。君達に届け、ぼくの呪いの歌声!!
「ひ、ひいいぃぃぃ、なんだよ、何なんだよ!?」「いやああぁぁぁっ!!テレビに、テレビに何か映って……!?」
さぁ、ここからだ……さっき、ふと思い出したようだけど、もっともっと思い出してもらうよ? ボクノコトヲサ。もう大丈夫、君達が地獄に堕ちるその時まで、ズットズットソバニイテゼッタイニワスレサセナイカラネ?
万感の想いを込めて、ぼくはそのテレビの中に姿を現した。姿は死んだ当時のままだが、はっきりとぼくだと判るはずだ。
「あ、あああぁぁぁぁぁっ、あいつだ……あいつの姿じゃないか!?」「う、嘘……孝之……?」
どうやら、無事に伝わったようだ。いやぁ、苦労したよ、はっきりと姿を見せずに、しかししっかりとぼくだと伝わるようにするのには……。
『ア゛、ア゛アアアアアア……!!ガナ、ナンデナンデエェェェェェェ!!!』
テレビの中でぼくはそう叫んだ。今となってはどうでもいいことだが、死ぬ直前まではそれだけで頭がいっぱいだったのは確かだ。
「ひっ!?」「あ、あぁ……ゆ、許して、許して孝之ぃ……」
二人はベッドの上でガタガタと震え、声にならない声を上げることしか出来ない。
『ユルザナイ……ゼッタイニユルザナイ……ゼッタイニゼッタイニゼッタイニゼッタイニゼッタイニゼッタイニィ!!!!!!』
--ブツンッ
そこで、テレビの電源が切れた。ついでに、電気の明かりも復活させた。
部屋の中は完全に元通りになっていた。まるで、何事も無かったかのように、今までの出来事が全て白昼夢であったかのように
「な、何だったんだ……?」「博、早くここから出ましょう!?変よ、ここ!!」
流石に、行為を続ける気にはならないのであろう、二人はさっさと着替えてホテルから逃げ出して行った。もちろん、ぼくもその後を追う。
「はぁはぁ……一体なんだったんだよ、アレ」「アレは……うぅん、そんなはずがないわ……あるはずないわよね……?」
その後、二人は人の多い喫茶チェーン店を選び、その店内に入ってから椅子に座り、先程のことを話あっていた。
「あのホテル、幽霊が出るなんて話聞いたことも無かったぞ」「そ、そうよね……もう、あそこは使わないようにしましょ?」
と、そんな話をしては居るが……少なくとも加奈、お前は気付いているよな?
「ねぇ?お祓いとかした方がいいんじゃない?なんとなく、なんとなくなんだけど、このままじゃまた何か出てきそうな気がするの」
屑男に遠慮でもしているのか、加奈は先程の姿がぼくであったとは言わないようだ。その上で、二人でのお祓いを勧めている。そりゃそうだろう、見えたのがぼくだったのだから、確実に標的はお前らなんだからな。
「そ、そうだな……もし取り憑かれてたりしたらヤバイしな」「……う、うん」
意見が纏まったのだろう。二人はどうやら近所のお寺に向かうことにしたようだ。そこで、住職さんに訳を話し……もちろん、どこで遭遇したかはぼかしていたが……そのまま、本堂でお祓いをしてもらうようだ。
まぁ、無駄なんだけどね。住職さんが何言ってるのかもよくわからないし、そもそもぼくはまったく満足なんてしていない。それで成仏なんて出来るわけがない。よく霊能者が取り憑いた霊にあれやこれや言っているシーンがテレビで流れているが、実際に当事者になったらあれだね、こいつ何綺麗事だけ並べてんの?お前、おれがなんでこう成ったかほんとにわかってんの?わかってんなら、赤の他人にどうこう言われたくらいで成仏なんかするわけないことくらいわかんだろ?って感じだ。
しばらくその様子を眺めていたが、ようやく終了したようだ。二人が住職さんに頭を下げながらお寺から出てくるのが見えた。
そこから、今日はお開きという事になったみたいだ。二人は別れて互いの家へと帰って行く。すぐにでも家に帰りたいのだろう、送って行くとかそんな話にはならなかったようだ。さすが屑男。怖がる彼女を優先とかいう思考は無いらしい。
さて、どちらに向かうか……加奈はメインディッシュ。先に、あの屑男からにするか、イヒヒヒヒ。悪霊らしい笑みを浮かべ、ぼくは屑男の後に憑いて浮遊を開始した。
んー。怖い話を書くのは難しい……。
https://ncode.syosetu.com/n6269gh/
ラブコメ作品も練習中です。よければ見てやって下さい!
ただ、相変わらずの素人まるだしの乱文ですが(汗