9 とりあえず買い物
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101号室に戻った俺は直ぐに今まで誰にも頼れず1人で頑張って疲れきっているであろう、リノアをゆっくりと眠らせてあげたいと思った。
背に抱きかかえているリノアは、驚くほどに軽く、バーレリアでの過酷な生活環境が伺えた、おそらく食事も満足に取ることが今まで出来なかったのではないだろうか?
そんな小さな体で頑張ってきたリノアをいざベッドに横たえさせようとした瞬間、問題が発生した。
そう、俺の部屋にはお客さん用の布団など存在しない!有るのは普段おっさんが使っているベッドだけなのだ。
ただ、隣の102号室には置いてある、念のために友人や家族が止まる事になった時のために布団がありませんでしたじゃ困る事になるので一応準備はしてある、ただ何故か新品のままだ。何故か新品のままなのだ!
(クッ、すまん、一瞬だ、一瞬だけ我慢してくれ…すぐだ、すぐに布団を準備する!)
心の中で謝罪をしながら俺はリノアをゆっくりとベッドへと寝かせ、軽くファブ◯ーズを振った。
すぐさま俺は猛ダッシュで102号室へと向かい、乱暴にドアをこじ開け、靴も脱がずにすぐ様中に入ると押し入れをこれまた乱暴にひき開け…大声で叫んだ。
「悲しみの未使用布団どこ言ったんだよ!!!他にもプリンター用紙やら、色々押し入れに入れてたのに…よく考えたらフスマ開けたら…異世界じゃねーか!あんまり読んでない漫画も全部行方不明だよ…。あ、ゲーム機もなくなってんじゃねーかよ…。」
(くそ、俺まだ何気にドリー◯キャ◯トやってたんだぞ!サ◯ラ大戦できねーじゃねーか!)
俺は四つん這いになり右手で拳を作ると悔しさを隠しきれず涙を流しながらフローリングの床を何度も叩いた。
「ぐぬぬぬっ返せ返せ!俺のド◯キャス返せよ〜!!」
更に俺は鬼の形相で右手を握りしめ唸りに唸っていた。
すると…ぽとっ。
何故だかよくわからないが目の前にド◯キャスが出てきたのだ、俺の視線がその一点だけに集中して固まった後、間の抜けた声が漏れた。
「へ?」
「いやいやいやいや、無い、無いから!俺職業マジシャンじゃなくて営業マンですから!」
とは言うものの明かに目の間にド◯キャスがある…俺は半信半疑ながらももう一度同じように右手を握りしめ、今度は漫画本返せと頭で考えながらまた『ぐぬぬぬっ』と唸ってみた。
ドサドサドサッ…
今度は大量の漫画本が山積みになって出てきたのだ。
「……いやもうさ、今日は異世界だけで俺お腹一杯なんだけど…」
そう思いながらも更に試してみると、コピー用紙にプリンターの替えのインク、何かの引き出物の数々、押し入れに収納しておいた有りとあらゆるモノが出てきたではないか。
勿論悲しみの布団もちゃんとカビ臭さを残したまま出てきた。
ただ、何度も繰り返している内に何処から出てきているのかがハッキリと見えた。
ばあちゃんの形見の指輪から押し入れのモノが出てきているのだ。
「これ、収納ボックスやアイテムボックスだわ…押し入れボックスってとこか…このアパートもばあちゃんの遺産だし、指輪も元々ばあちゃんのだし、なんと無く考えないようにしてたんだが、こればあちゃん完全に関係してるよね!!」
溜息をつき、周囲を見てみると片っ端から出した物のせいでゴミの山が出来上がっていた。難しい事を考えるのは後回しにして取り敢えず片付けようと重い腰を上げ目の前にあった漫画を何冊か纏めて掴み(これ消えねーかな)と願って見た。
「うん、やっぱりね…おしいれぼっくすさいこー」
俺はもういちいち驚く事に疲れ果て、ハイライトの消えた瞳で淡々と片付けていった。
ただ黙々とロボット掃除機の様に片付けていると俺はある重大な見落としをしている事に気付いてしまった。
俺の瞳は見る見るうちに生気を取り戻していき一目散に自分の部屋へと駆け出していた。
部屋に戻るや否や俺は寝て居るリノアを確認しまだファブ◯ーズの残り香が周囲に満ちている事に安堵した。
「…………スースー…」
俺はすぐさま押し入れボックスから悲しみの新品布団を取り出し、それにもファブ◯ーズを振りかけると、汚らしいおっさんのベットからリノアを抱き抱えて寝かし直した。
「ふぅー危なかったもう少しで俺の汚らしい匂いが移る所だったな…感謝しろよ、リノア!」
任務遂行に感動しつい大声で言った。
「………ン〜…ウルサイ……zZzz…」
「あ、すんません……」
寝言で怒られた。
俺はリノアの寝顔を見ながら、今夜は寝てしまった為に仕方がなかったとは言え結局何も食べさせてあげられなかった事にかなり後悔していた。
子供にご飯を食べさせないなど父親失格である。
「よし、朝はちゃんと食べさせよう!絶対そうしよう!おぉー!」
つい決意を声に出してしまった事をうちのリノアに謝罪をしてから食材の残りを確認する事にした。
冷蔵庫を開け、異臭の元っぽい黒い何かを捨てレトルト食材を入れておく棚を開け、カチカチで緑に塗れたパンだったものを捨てる。
(うん、何もない……カップラーメンすら無いじゃないか!)
いや、分かってはいたんだよ?
自分の家だし?
だって、俺ほぼ外食だし?
家で食べる時もホット◯ットだし?
冷蔵庫の中ビールと黒い何かしか入ってなかったし?
いや、本当寝てくれていて助かりました…。
(さて、どうすっかなー流石に明日の朝も無いとかあり得ないよな〜)
俺はとりあえず、タバコを咥えながら考えていた。
一瞬、朝からピザ頼めば良くないか等というフザケた考えが過ぎってしまったが、ダメだとすぐ買い物に行く決意をする。
初日からそんな事をしてしまえば俺は恐らく育児放棄をするだろう…。
腕時計を確認すると深夜1時を回っている。
正直この時間帯のコンビニにはあまり近寄りたくは無い、近寄りたくは無いがご飯が無い、それにリノアを部屋に一人残して出て行くのも心配だが、それでもご飯が無い、そうご飯が無いんだ…。
俺は自分を納得させる様に何度もご飯が無いと呟きながら、寝取られ現場へと足を運ぶ決意を固めた。間違えた、コンビニでした。
ただ、なんだろう、今まではきっとこんな時間に買い物とか面倒くさいだけだった筈なのだが、何か明日リノア喜ぶのかなとか考えるとニヤケそうになる。
(うん、気持ち悪い。)
_________コンビニ前
コンビニ前に着くと俺はすぐ様周囲の確認を行った。
(仲良しカップルの気配無し!)
店内に入って直ぐ俺はカゴを手に取りながら必要な物を考えていた。
(とりあえず、言葉の問題もある筈だから数日分の食料はいるよなー。後は何だ、飲み物に…あ、着替えか!服は別に買いに行くとして、下着に後は何だ…んー取り敢えずはこの位でいいか?)
俺は考えを纏めると、パン類や、オニギリ、レトルト食品、カップ麺にお茶、ジュース、Tシャツや、下着、お菓子にデザート、アイス等を大量に買い込み会計を終えた。
会計の時レジにいた店員さんがパンパンに膨らんだカゴを見ながら『え?こいつこんなに買うの?』っていうなんとも言えない視線を向けてきていた。
(きっとレジ打ちが面倒だと思ったのだろう。俺ならきっと思うからな!しかしこの買ったもの見るとピザとそんなに変わらない?それに通販や、チケット購入以外でコンビニで万単位使ったの初めてだわ…)
コンビニを出て直ぐ、駐車場付近にいた不良少年2人とギャルが1人ニヤニヤしながら近づいてきた。
(やっぱり1時だよ、この時間のコンビニは呪われてるんだって!買い物してる時から、何か変な視線感じてたんだよなぁー)
「おい、おっさん!何かメチャ買い物してんじゃん!」
ショートで茶髪のイケメン少年がニタニタしながら声をかけてきた。
「はぁーまぁー…」
(何コイツ!悪者のくせにイケメンとかムカつくな!)
「ねぇー可哀想じゃん、もう良くない?いこ?」
声の方へ視線を向けるとスマホを弄りながらギャルは帰りたそうにしていた。
だが、そんな事はどうでもいい。
俺はギャルのある一点に目が釘付けになった。
(コイツ、足ふっとぉ〜!!!いやいやいやいや、太すぎだろ!体は痩せて見えるのに何でよ?しかも顔は普通に可愛いんだけど…)
俺はギャルの体型と足の太さのアンバランスさに驚きのあまり固まり凝視してしまっていた。
「つか、コイツさっきから黙ってんだけど、もしかして、もうビビっちゃった?」
金髪のゴリラ顔が何か言っているが俺はそれどころではない。
(あと、お前の顔は正しい、GJ!…やっぱ原因は夜遊びで規則正しくないからむくんでるとかかな?)
「テメェ〜聞いてんのか?何とか言えよコラ!!」
俺が何の反応も示さなかったので茶髪イケメンがキレた様だ。
(しかし、こいつ本当イケメンでムカつくな!あ、そうだむくみを取るストレッチとか良いんじゃないだろうか!進めてみるか?)
その間もずっとイケメンとゴリラはゴチャゴチャ言っている。
俺は茶髪がイケメン過ぎる事と足太事件の邪魔をしてくる事に対してイライラしていた。
(いや、あの足は俺にとってはマジ事件ですわ。顔可愛いのにもったいねぇー!むくみを取る入浴剤とかあった気するんだが…あ、むくみが原因じゃない可能性もあるのか…どうする!?)
「オイ、テメェーマジでシカトしてんじゃねーぞ、コラ!あんま舐めてっとやっちまうぞテメェー!何とか言ってみろや!」
そう言いながら茶髪イケメンは俺に軽くビンタをしてきた。
プチン………。
何かが頭の中で切れた音がして俺は叫んでいた。
「コイツ、足だけ太過ぎてバランスがおかしすぎるだろ!!!顔可愛いのにどうなっとんじゃ、コラ〜!!」
あ、間違ったと思った瞬間、周囲を見渡した。
辺り一帯を静寂が包み、3人ともに揃って目をテンにして唖然……。
しかし、ゴリラ君の顔が見る見るうちに真っ赤へと染まり怒りの形相を浮かべていた。
「俺の女に何か文句あんのか、コラ!!!!」
それを聞いた瞬間、俺は間髪入れずに反応してしまった。
「ゴリラの女かよ!!!」
ゴリラ君の顔がさらに憤怒の表情に変わり思いっきり殴りかかってきた。
(あーやっちまった、死んだわ、俺…………「へっ?」パンチおっそ!!)
あまりにパンチが遅すぎて驚きのあまり変な声が漏れた。
さっきの買い物袋を3つ手に持ったまま、余裕で躱せてしまっている。
「はぁはぁ、くっそ、何だお前、つぇーじゃねーか!!」
ゴリラ君の息が上がりパンチが大振りになった。更に額には多量の汗を流しやはり相当に疲れて来たのか、先ほどよりもずっと遅く退屈にすら感じ始めてしまった。
必死に攻撃を続けるゴリラ君の姿をイケメンとギャルの2人は大きく口を開け信じられないモノでも見るような顔をし唖然としていた。
(一体どういう事だ?自分で言ってて悲しい事だが俺がこんなに強いはずがない。そもそも、ケンカで勝った事など無いし、数えるほどしかケンカ自体経験が無いぞ。)
考え事をしながら回避を続けていると大きな声が聞こえてきた。
「こら、お前たち、そこを動くな!!」
「ふぅー。」
俺は小さく息を吐き、単純に助かったと思った。
誰かが警察に通報をしてくれたみたいだ。
「チッ……テメェ覚えてろよ!」
「やばっ、ケンタいこっ!!」
ゴリタ君とギャルは一緒に逃げていった。
一体何を覚えておけばいいのだろうか……
茶髪イケメンは気づいたら既にいなかった。
(あいつ、逃げ足おかしいだろ!!)
その後俺は警察官に事情を説明して、直ぐに帰れることになった。
一応買い物をしてる間にも視線を感じていて狙われていたと思われる事を伝えた。
通報してくれたのはどうやら、コンビニの店員さんみたいでお礼を言ってから帰路についた。
(レジ面倒くさいんだろ?とか思って本当ごめんなさい。)
家についた俺はリノアの寝顔を確認してから、何事も無かった事に安堵した。
それから実験というかこれから異世界を往復する生活をしていく上で、どうしても気になる事があったので直ぐに調べて見ることにした。
それは時差である。
バーレリアと日本での時差をこれから生活していく上で知っておくべきだと考えたのだ。
結論から言うと全くズレがなさそうだった。
腕時計を2つ用意して、5分後に音が鳴るようにアラームをセット。
1つは隣の部屋にもう1つは自分で持って異世界側へ行き確認することにしたのだが、同時に音が鳴り始めた。
とりあえず、フスマの先を抜けると時間がおかしくなる様な事もなく、少し安堵した。
(はぁー何だかまだわからない事が多いけど1つ1つだな…)
それから俺はちょっと好奇心で異世界を見たくなり窓から覗いて見たのだが、真っ暗で何も見えなかった。
(うん、分かってた。)
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