77 カオスな日常
アイスクリームをお土産に買って帰ってから数日の時が過ぎていた。
その間、日常生活の方も特に変化は無く、リノアやユンナに毎朝揶揄われ我慢が出来なくなった俺がそれに反応をしてしまい、結局、遅刻ギリギリの時間帯に家を出るという事を幾度と無く繰り返していた。
かく云う今日も、俺は毎度の如く羞恥心を振り解きながら必死に会社へと向かう為、額に汗して走っているのである。
会社に到着したにも関わらず、結局俺を迎え入れてくれたのは会社までの道のりと変わらない、周囲の人間からの奇異の眼差しだった…。
実際問題、朝からこんな汗だくで出社してくる人間が居れば俺自身もそんな視線を向けてしまうだろう…仕方がない。
全くもって自業自得である。
「ふぅ〜。」
だがギリギリとは言え遅刻を免れ、俺はそんな事には一切気にも留めず安堵の息を洩らしていた。
安心したのも束の間。
ウチの会社には遅刻をした訳でも無いのにギリギリだった事を許さない人間が約一名だけ存在、在籍している事を営業課のドアノブを回すまで俺はすっかり失念してしまっていた。
「げっ!」
その人物を見てみると案の定、こっちへ来いと右手で俺へとアピールしており、思わず鬱陶しそうな表情と同時に心の声が洩らしてしまった。
俺の表情を認識したその人物は明らかに不快げな視線を俺へと向けて来ており、俺は内心舌打ちをしつつも何処か諦めた表情をしながら係長のデスク前まで行く事となった。
いつもの事ながら本当について無い。
そんな事を考えながらトボトボと気落ちしながら係長のデスクの前へと近づいて行く。
到着後すぐに機関銃の様な小言と嫌味に晒されていたのだが、最近幸せスキルがMAXな俺は脳内でボーッとふわふわする様な会議を繰り広げながらその小言を回避するすべを身につけていた。ちなみに議題は主にリノアへ買って帰る本日のお土産についてである。
そんな事を考えながらふと壁に掛けてある時計へと視線を移す。
おおぅ!もう10分間も小言続いてたのかよ…。
更に係長へと視線を戻すとどうやら俺を使った朝のストレス発散に成功したらしく『シッシッ』とまるで犬猫を追い払うような手つきで終了の合図を送ってきており、心無しか説教前よりも肌艶がテカテカしている様に思えた。
あ、違う。脂肌なだけだわ…。
対照的に俺の方はと言うと足早に自分のデスクへと戻った直後にグッタリとしながらまだ何の仕事の準備も出来ていないデスクへと倒れ込む様に頭を埋めていた。
すると背中越しに何やらそんな状況を愉しそうにしている声が響いてきた。
「あはは。先輩お疲れっす!いやぁ〜相変わらず嫌われてるっすね。」
俺はその声に反応を示すと、ゆっくりと声のした方向へと視線を向けた。
「いや、お前はなんで人の不幸な姿を見ながらそんなに嬉しそうな顔をしてるわけ?」
俺は余りにも嬉しそうな須藤の姿に少しだけムッとした表情を作ると頬杖を付きながら更に須藤へとジト目を送った。
すると須藤はどこか演技掛かる様な表情を作るとキリッとした顔をしながら無言で人差し指を突き出しその指先で俺の視線の誘導を始めた。
俺はその指先を見ながら、コイツ逆剥けが酷いな…等とこの状況に全く関係の無い事を考えながらその指先の誘導に素直に従いながら視線をそちらへと向けて行った。
すると丁度この部屋の中央辺りのコピー機付近を指し示しており、そこには複数の男性社員に囲まれながら笑顔で話しているさゆりんの姿があった。
何だ、嫉妬か…。
俺が面倒臭そうに視線を須藤へと戻そうとした時だった。
ある男性社員とのやり取りに俺の中の何かが引っ掛かった。
それは髪の毛に付いているゴミをさゆりんが取ってあげる姿だった。
傍からみていると特に何とも無い普通の姿。
だが…。
「うーん。」
俺は悩ましげな表情をしながら思わず唸り声をあげた。
自分でも正確には把握出来ないが引っ掛かる…。
「何が?」と聞かれれば、「何かが…」としか答えようが無いのだが…。
「な、何すか先輩!冗談っすよ?何シュールストレミングの匂いを嗅いだみたいな顔してんすか?」
須藤は自分の鼻を片手で摘むと空いた方の手で何度も自分の顔の前を仰ぐ様にヒラヒラとさせた。
えっ!何言ってんのこいつ酷く無い?俺悩んでる顔してただけだよ?
俺自体が別に汚物でもなんでも無いんですけど!!
何、自然な流れで汚物認定してくれちゃってんの?
「はぁー。まぁ良いや…それであれを見せてどうしたいんだよ?」
「あぁー。いや…何でも無いっす。嫉妬っすよ。」
須藤はそう言うとカラカラと笑い声を上げた。
俺はそんな須藤の姿を見ながら呆れたような表情で見つめ揶揄ってやろうかと考えたがグッと耐える。
「…はぁ〜。いや、本当にどうしたんだよ?何か有るならちゃんと話せよ?」
俺が普段とは何処か違う須藤の姿に若干の違和感を感じながらそう告げると、須藤は笑いながら軽く首を横に振るとお礼を言いながらすぐに自分のデスクへと戻って行ってしまった。
俺はそんな姿を見て気にはなったが今日はどうしても外せない病院へ新薬の説明に向かう予定になっていたので、当たり前だがそちらを優先させる事にした。
今から向かう病院は営業車より、電車の方が早い為、徒歩でまずは駅へと向かう事にした。
課を出て行く時に何故か上田さんと視線が合ってしまい、妙にぎこちなく弱々しい微笑みを俺へと向けて来た。
その余りに不自然な微笑みにいつもの上田さんらしく無いなと、考えていると自然と小首を傾げてしまう。
その様子を見た上田さんが馬鹿にされたと感じたのか若干イラッとした表情を覗かせていた。
しかし、いきなりあんな顔をされても俺には自然にそれを笑みで返すようなイケメンスキルなど持ち合わせていないのだから仕方が無いだろう。
そう言うのは何処かのイケメンの貴族辺りにお願いします。
あ、イケメンでは無いが一応俺、貴族でした…。
ただ上田さんのその表情が実に親しみ易い印象を受け、俺は思わず扉を潜る時に自分でも頬が緩んいる事を感じた。
〜〜〜〜〜
それから真っすぐに約束の有る病院に向かったのだが、俺の予想よりも大分早くに到着してしまった。
どうしたものかと考えながら腕時計を再度確認した俺は自然と病院の敷地内にある、大きな木の見えるベンチの方へと足が向いていた。
すると偶然にもそこで珍しい人物を発見してしまった。
茶色い毛並みをしたゴリラだ。
あぁ、これで時間潰しに困る事がなくなりそうだと俺は内心で小躍りしつつ喜んでいた。
暇つぶしも兼ねて早速揶揄って遊んであげようかと思いたった俺は意気揚々と近付いて行っていく。すると何やらゴリラの様子がおかしい…。
何処か落ち込んでいる、そんな風に俺の目には映っていた。
うーん。これじゃ全く揶揄えないじゃ無いか!
気付けば俺の足は止まっており、観察する様な視線をゴリラへと向けていた。
ゴリラは…いやこう言う場合はケンタと呼んでやろう。
おほんっ!ケンタは芝生に囲まれた大きな木の根元にあるベンチに座り込みあからさまに肩を落としながら自分の足元へと視線を固定していた。
気落ちしていると言うより泣いている様にすら見え、完全に揶揄う気持ちでは無くなってしまった。
「はぁ〜。全くどうしたんだよ。全然揶揄って遊べる雰囲気じゃ無いじゃないか…。」
ガシガシッと後頭部を乱暴に掻くと何だからしくない様子に思わず以前獲得した称号〝YOKEINAOSEWA〟が疼き始め声を掛けようと再び歩き始めた時だった。
「紺野さん、こんにちは。」
背後から俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
俺は振り返りながらその人物へと視線を向ける。
そこには白衣を着た、スラリとした背の高い細身の五十代くらいの男性が立っていた。
彼こそが今日会う予定だった人物である。
「こんな所でどうしたんだい?」
「いえ、実は…思ったよりも早く此方へと到着してしまった為、約束の時間になるまでこの辺りでゆっくりとさせて頂こうかと考えておりました。」
俺の言葉を聞くにつれ、はじめは少し不審そうな表情をしていた彼も納得がいったのか、数度頷いてから口を開いた。
「あ!じゃぁ丁度良いからさ、今からやっちゃおうか?私も実は少し時間持て余してしまっていたんだよ。」
「えぇ。是非ともよろしくお願いします。」
そう言いながらニコリと微笑む彼に俺も同じ様な笑みを貼り付ける。
俺の言葉に気を良くしたその彼はここの医師でありそのまま俺をミーティングルームへと案内し始める。
俺自身も気持ちを切り替えるとこれは適当な対応は出来ないとケンタには申し訳ないが仕事を優先させてもらう事にした。
その医師と一緒に内科病棟へと移動した俺はその中にある、ミーティングルームへと通され、一時間程仕事の話をした。
話自体は順調に進んでいき、ウチの新薬のを試しても構わないと色良い返事をもらう事ができた。
しかしその後、慌てて先程のベンチの場所へと向かってみたのだがそこにケンタの姿は既に無く、誰も座っていないベンチを眺めながら先程のケンタの姿が脳裏にチラつき少しだけケンタに対して申し訳ない気持ちにさせた。
「ケンタには悪い事しちゃったなー。」
俺の呟きは誰にも聴こえる事はなく、風に乗って葉音と共に流されていった。
そしてそのまま駅へと向かいその歩みを進めた。
〜〜〜〜〜〜
会社へと到着してすぐにLIN◯の着信音が胸ポケットから鳴り響く。
すぐさま確認をするとそこにはファミレスのハンバーグセットの画像がデカデカと送られていた。
更にピコピコっと他の画像が連続で送られてきた。
クリームソーダの画像や、フライドポテトのドアップの画像である。
「はは。今日はファミレスかよ。」
きっと騒がしくしているんだろうなぁと思わず笑みが洩れた。
しかし、その笑みもすぐに引き攣った笑みへと変わってしまう。
最後の画像には何故かソファーの上に立ち上がり、ハンバーグをフォークに突き刺しそれを高々と頭上へと抱え上げ今にも「とったどー!」と叫び出しそうなユンナの姿が映し出されていたからである…。
「はぁ〜。コイツ本当になにやってんだよ…。」
これは早いうちに国籍の方をどうにかしないと絶対に不味い事になると俺は思わずその場でスマホを握りしめたまま頭を抱えてしまった。
『あまり目立った行動は控える様に!!』
俺は祈る様な気持ちでLIN◯に返信をした。
〜〜〜〜〜
社内はランチの時間帯だと言うこともあり、至る所に人の和が出来上がっており俺も課に戻る前に昼食を済ませてしまおうと食堂へと足を向けた。
1分くらい歩いていると何やら須藤が上田さんと白山さんと三人で歩いている姿が見えた。
これは関わり合いになる前にさっさと退散してしまおう…。
そう思った時だった、上田さんの手元から何か布の様な者が落ちてきた。
しかし、上田さんはその事に気がつく素振りすら見せずに三人で談笑しながら歩を進めている。
「げぇ〜。あの三人の中に入っていくの俺やだなぁ〜。」
俺が呟くと同時だった。俺のすぐ横を男性社員が小走りで駆け抜けていった。
おぉう!気が付いたか、ラッキー♪
彼はすぐ様その落とした物、ハンカチだろうか?を拾っていた。
その様子に俺は内心助かったとホッと胸を撫で下ろした。
しかし、彼がそのハンカチを渡そうと上田さんの肩を叩いた時、それは起こった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁッ!!!」
周囲を凍り付かせるような悲鳴がその場一帯に響き渡り、ランチタイムの穏やかな社内の空気を一変させた。
叫ばれた男性社員は全く意味が分からないのだろう、拾ったハンカチを握り締めたまま只々固まっていた。周囲の人間も興味の視線を須藤たちへと向けていた。
須藤も焦りながら上田さんに何度も呼び掛けている。
白山さんも同じく心配そうに上田さんを抱き抱えていた。
俺も流石に異様さを察知しすぐに三人の元へと駆け寄る事にした。
「上田さん、大丈夫っすか?どうしたんすか?」
「メグちゃん大丈夫よ?彼はハンカチを拾ってくれただけみたいよ?」
俺が近付くと、二人して上田さんを落ち着かせている最中だった。
「須藤、後ろから見てたんだけど大丈夫か?」
「あっ、先輩!俺達もよく分かんないんすよ!」
俺は須藤の言葉を聞き、白山さんへと視線を向ける。
しかし彼女はそんな俺からそっと顔を背けた。
どうやら、白山さんは理由を知っているようだが…。
しかし今はそんな事を言っている場合では無いと思い直す。
俺たちが何も出来ず手を拱いていると、上田さんが深呼吸をして話始めた。
「本当にごめんなさい!!いきなりで驚いてしまって変な声を出してしまいました!」
凛とした声がその場にいる者の耳へと一直線に伝わっていく。
『なんだ、驚いただけかよ!』『ビックリした〜。』『驚かせやがって。』
そんな声が周囲から聞こえ始めその中には笑い声も混じり始める。それと同時にいつもの日常の社内の空気へと戻って行く。
「な、なんだ。そ、そうか…あっ。はい、これ落としたよ。」
彼はハンカチを手渡すとお礼も聞かずにその場から逃げるように立ち去ってしまった。
「お礼言えなかったっすね。大丈夫っすか?」
「うん、心配させてごめんね。急に驚いちゃって、悪い事しちゃったなぁー。」
「メグちゃん、大丈夫よ。次会ったときにお礼を言えばいいと思うわ。」
俺が三人のやり取りを見ていると上田さんが視線を俺へと向けて来る。
「紺野さんもすみませんでした。心配掛けてしまって。」
「いや、偶然居合わせただけだから、特に何もしていないし気にしないでよ。」
軽く会釈をする上田さんへ俺は手を振りながら答える。
あれがただ驚いただけでは無いことは一部始終を見ていた俺や須藤は気付いていた。
しかし、上田さんの雰囲気が〝何も聞いてくるな〟そう言っているような気がして結局俺たちは何も聞く事が出来なかった。
全く関係がないがメグちゃん…確か上田恵と言う名前だったか。
俺があだ名等と言うどうでもいい事を考えている時、上田さんの様子を見てニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている人物がその場に約一名いた事を俺はこの時完全に見逃してしまっていた。
その後は特に何事も無く、会社での1日は終わりを迎え、俺は帰宅の途へと就いた。
しかし、結局、LIN◯に返信は一切無かった。俺は嫌われているのだろうか…。
心配になった俺は途中、皆へのお土産として、ドーナツを買って帰る事にした。
〜〜〜〜
家に帰り着くとアイリスが出迎えてくれた。
「あ、ご主人様お帰りなさいませ!」
「よーアイリス何メイドみたいな事やってんだよ?」
満面の笑みで出迎えてくれたアイリスを揶揄うように俺は言った。
「酷いです!私これでも立派な公爵家のメイドなんですからね!」
そんな俺の軽口に心外ですっと抗議するようにアイリスはプクッと頬を膨らませながら腕を組みつつ軽く睨みつけて来た。
「あははは。悪い悪い。」
俺はそんなアイリスの様子が可笑しくなり笑い声をあげているとリーザとファルネも玄関先へと顔を出してきた。
「あ、ご主人様出迎えもせず申し訳ありませんでした。」
リーザはどこか申し訳なさそうに顔を伏せながらお辞儀をする。
本当に慌てて駆け付けて来てくれたのだろう、心無し髪の毛が乱れている様に感じた。
俺のそんな視線に気が付いたのか、リーザは軽く頬を蒸気させながらそそくさとその乱れた髪を手櫛で直し始めた。
「あ、ご主人様お帰りなさいませ!着替えてからすぐにリビングに来てもらってもいいですか?」
ファルネはそんな様子を気にも止めずにボサボサに髪を振り乱したまま挨拶もそこそこにパタパタと足音を立てフスマの部屋をアルの部屋経由で抜けて行きリビングへと姿を消した。
リーザも再度会釈をしてからすぐにファルネの後へと続いた。
俺はそんな二人に姿に小首を傾げつつも、フスマの部屋を抜け、自室へと着替える為に歩みをすすめた。
アイリスも俺からバックや上着を受け取ると一緒に部屋まで同行するも、手荷物を片付け終わると、誰もいないアパートの方が気になるのか、すぐにフスマの部屋の方へと戻っていってしまった。
するとリビングにいるのだろうか、リノアの大声が俺の部屋へと響き渡る。
「パパ〜お帰り!こっちこっち!」
「あなた、お帰りなさい、悪いんだけどリビングに来てくれない?」
更にはミアまでもが珍しく大声でしかしどこか困ったような声音で俺へと告げる。
一体何だろうかと首を傾げながら着替え終えた俺はリビングへと向かう。
するとそこにはボロボロにされたアルがソファーへと横たえられていた。
「ちょ、お前これどうしたんだよ!誰にやられた!?」
俺は驚きから思わず叫び声を上げる。
するとアルは悔しそうに、一瞬俺を睨みつけると、ある人物へ無言で指を指し示した。
そに先にはアンヌが仁王立ちした姿があり何処か誇らし気に胸を張りふふん♪と鼻を鳴らしていた。
「え、お前らまさか…。」
何んだよ、ケンカかよ…。面倒くせーな…。
そんな考えに浸っているとトテトテとリノアとユンナが俺の前に来てニヤリと笑みを洩らしながら告げる。
「勝者♪」
リノアはアンヌを指差しながら満面の笑みで宣言をした。
「敗者。」
ユンナはつまらなそうにアルを指差し呟いた。
俺がその宣言を茫然と聞いていると二人はどこから引っ張り出して来たのか、折り紙で作った輪っかの首飾りをそれぞれが持っていた。
一つは金色の折り紙で作られた星がメダルの様に取り付けられており中央には〝勝〟の文字が描かれている。
もう一つの物には白い紙がただ単に正方形におられた物で〝負〟の文字が描かれていた。
二人はそれを其々が宣言した方の首へとかけていく。
「お嬢様、ありがとうございます。大切に致しますね。」
アンヌはリノアへとそう告げるとドヤ顔でアルへと見せびらかせ、アルはプルプルと肩を震わせながら血涙を流す様に睨みつける。
しかもトドメを刺す様にユンナはアルの肩をポンポンと叩きながら呟いた。
「次は頑張れ。」
理由は分からない、分からないが…。
「お前ら鬼か!」
俺の叫び声と同時にアルが声を荒げる。
「か、閣下!!ずるいですよ!アンヌばっかり魔力上げないで下さいよ!」
アルは完全にガチ泣きしソファーから飛び起きると俺の肩を揺さぶりながら訴えかけて来る。
「ちょ、アルやめろ!魔力って、俺別に何もしてないだろ!」
俺はアルの顔があまりにも近すぎてそれを引き剥がしながら告げる。
だが更にアルは泣きながら話を続けた。
「だ、だってこのままじゃリノアお嬢様にも魔力が抜かれてそんな護衛は要らないってアンヌが言うから…うぅぅぅっ…。」
アルはソファーの前に座り込み顔を埋めまた再度泣き始める。
そんなアルの頭をフィーレアが苦笑いを浮かべつつも赤ん坊をあやす様に撫で始めた。
リノアとアンヌは何に満足したのか、お互いに微笑み合うとハイタッチでパンッと音を打ち鳴らした後、ポッキ◯をナイフのように見立てて、アンヌの戦いの様子を再現していた。
ミアは困った様子でそれを眺め、リーザはアルの頭を撫でるフィーレアを羨ましそうに見つめていた。
ファルネはせっせと、タオルを洗っては交換しており、最後の方は面倒くさそうに3枚ほどアルの頭へと乗せていた。
仕事から戻ってすぐにこのカオスな空間は一体なんだと俺は思わず溜息を洩らしふとリビングの入り口を見てみるとアイリスが仲間になりたそうにジッと扉の影からこちらを見ていた。




