74 戦ってはいけない相手
キングボアの調理の話を訊こうとアンヌを求め家へ帰り着くといきなりアルから不機嫌なオーラが滲み出ていた。
時折俺へとジト目を向けてくるのだが…。
一瞬何故だかさっぱりワケが分からなかったのだが原因が間違いなく俺にある事をすぐに思い出した。
「いやーアル。俺助かっちゃったなー!」
「…………。」
チラチラッと横目でアルを見るが、その額には明らかに怒りマークが浮かんでおり、全く口を聞いてくれなかった。
「そ、そうだ。リノア、リノアは何処に行ったのかな?」
「お嬢様ならユンナと一緒に身体強化の訓練中ですけど?」
俺は機嫌を窺うようにアルの大好きなリノアの話題を出してみるが、やはり話だけでは効果は薄いらしくまだブスッとしたとても不機嫌な表情で返事を返して来た。
「悪かったって!本当にごめん!怖かったんだよ、分かるだろ!」
俺は自分が悪いにも関わらず、思わず声を張り上げた。
「えぇ、分かりますとも分かりますがあんまりじゃ無いですか!」
アルは捲し立てる様に俺にそう告げるとじわりと目尻に涙を浮かべていた。
「わ、私だって…私だってあんな…あんなに怖い〝お話〟をするのはもう嫌なんですよ!私何もしてないのにドンドンドンドン心の中に黒い何かが入ってくる感じがするんです!時折〝あらあら、うふふっ〟と言う笑い声が奥様がいらっしゃらないのに聞こえてくる気がするんです!怖いんですよ!」
そう叫んでから、床へと蹲り泣き始めかけた所でミアとアンヌがリビングへとやって来た。
俺が一瞬ミアへ視線を向けた瞬間、既にアルは立ち上がっており、ビシッとした姿へと戻っていた。
俺が驚愕の表情をアルへと向けているとアルはそれを気にした様子が全く無くテキパキとお茶の準備等をアイリス達へと指示していた。
…マジかよ。お話やべぇ。
俺はこっそりとアルの側へと近寄って行くと小声で囁いた。
「アル、本当悪かったよ。何かごめん。」
更にお詫びの印として以前剥ぎ取っておいた力のバングルをそっとアルへと握らせる。
アルは溜息を吐きながらもそれを嬉しそうに腕へと付けていた。
俺はそんなアルの姿を尻目にまた何かあった場合は身代わりをお願いして適当な贈り物で済ませよう等とそんな下衆極まりない事を考えていた。
リビングへと戻ってきた俺は早速キングボアの話をアンヌへとする事にした。
「アンヌちょっと良い?」
俺がアンヌへと話しかけると座ってお茶を飲んでいたミアも興味深く、その様子を眺めていた。
「閣下如何なされましたか?」
「あのさ、昼食なんだけど軽めにして夕飯早めに食べる事って可能かな?」
「はい、それは勿論可能ですが、何か合ったのでしょうか?」
「いや、実はさ…。」
俺は説明も兼ねてキングボア討伐の流れを冒険者の一件の事は端折りながら説明して行った。
しかし話を進めて行くうちにアンヌの表情に影が差し始め、説明を聞き終えた時にはアンヌの顔には絶望の色が浮かんでおりそのまま床へとへたり込んでしまった。
「ど、どうした?」
俺は全く意味が分からずオロオロとミアへと助けを求めるような視線を送る。
しかし、ミアは面白そうな笑みを浮かべ、全く助ける気は無さそうだった。
本当に他人が困る事大好きだよねミアは…。
するとへたり込んだまま肩をプルプルと震わせ始めたアンヌは小さく呟いた。
「私はまた…またオークキングの時同様に王同士の聖戦を見逃してしまった…。」
「は?」
うん、この娘は何を言っているのだろうか?俺王様じゃないからね?
その後アンヌは、何やらブツブツと一人で呟き始めたかと思うと、急にガバッと立ち上がり、俺へとグイグイと前のめりになりながら捲し立てるように質問をしてきた。
「そ、それでその敗者の遺体はどこにあるのでしょうか?閣下がお持ちでしたら是非に一度見せて頂きたいのですが!キングボア…成る程、そう言う事でしたか!だから昼食を軽くと仰ったのですね、敗者を喰らうとは流石です閣下!」
「…はい。」
俺はあまりの勢いに気圧されてしまい、それだけしか答える事が出来なかった。そんな俺をミアは愉しそうに笑いながら近づいて来るとギュッと腕に抱きついて来て早く見せろと催促してきた。
俺は料理を頼む事になるのでアルを含めてメイド達にも声をかけて一緒に外に出る事にした。
「そういやさ、リノア練習してるんだよな?」
「えぇ、今頃家の裏手で張り切ってやってるんじゃ無いかしら?でもリノアが魔法の練習をするなんて夢のようだわ♪」
ミアはリノアの魔力が増えた事が本当に嬉しいようで、この話をするといつも満面の笑みで答えてくれる。
「お嬢様は最近アルキオスと格闘の練習も為さっておいでですよ。」
アンヌも早速解体作業に入るつもりなのか、ナイフ等の確認をしながら嬉しそうに話してくれた。
「アル、リノアどうなの?頑張ってる?」
「はい、とても頑張っておられますよ!それに何だか最近また魔力が上がっておられるような印象を受けました。」
アルも頷きながら時折練習風景を思い出すような瞳をすると口許を緩めていた。
「ふーん。それじゃまた見てみようかな?レベルは如何なんだろう。」
「そこまでは分かりませんが、動きが素早くなっているように感じる時があります。」
「へぇー。」
皆でそんな話をしながらリノアの頑張りを見るために家の裏手の方へと俺たちは回った。
しかしそれが間違いだった。リノアは修行などせず、草の上に寝転んでたこ焼きを頬張りながら漫画本を読んでいた。
間違いなくアレは俺の分だろう。
ユンナはリノアを守る使命からか真面目に特訓に励んでおり、その落差がさらにリノアの印象を最悪なモノへと映し出していた。
あ、これリノア死んだわ。
そっとミアの顔色を窺ってみると、案の定ニコニコの度合いが途轍も無い事になっており、俺はそのまま気づかない素振りをして家の中へと戻ろうとするが、ミアに腕を掴まれたまま全く体を動かす事が出来なかった。
リーザとアイリスは瞼を閉じており、何も見なかった事にするようだ。
ファルネは、リノアの事が心配なのだろう、その事から判断を誤りミアの顔色を窺ってしまい固まっていた。
アルは一瞬咳払いで教えようとするが、ミアに微笑まれ、その直後死人のような表情をして全く動かなくなった。
アンヌは最初から助ける気がないのか大きな溜息をつくと「お嬢様、流石にこれは自業自得です。」と既に諦めている。
「あなた少し静かにしててね。」
ミアは微笑みながら俺にそう告げた。直訳すると〝声を出したら殺す〟と言う意味だろう。
俺はミアから引き摺られるように半ば強制的にリノアの側へと連れて行かれ、近づくに連れて変な声が洩れていることに気が付く。
「ぶふっ!あはははは。」
リノアの笑い声だ。このアホな娘は今から起こる惨劇など全く考えておらず、面白いページに行き当たる度に声を大にして笑っており、笑い終わるとたこ焼きを頬張るを繰り返している。
お前馬鹿だなー。
すぐに後ろまで行き俺は溜息を洩らしそうになるが、殺されたくないので必死に堪えた。
ユンナの方は相変わらず真面目にやっており実に関心である。
そして俺はこっそり後ろからリノアのたこ焼きを少しずつ食べ始めた。
更に観察を続けていると、漫画本を読みながらこのアホな娘の手がたこ焼きのパックへと伸びて来た。しかし残り6個だったはずのたこ焼きは既に俺が完食済みであり今は空のパックへと成り果てていた。
「あれ?いつの間にか全部食べちゃった?」
「ユンナ〜ごめんね。間違えてたこ焼き全部食べちゃった。」
「気にしないでいい。問題な_____」
折角頑張っていたユンナが息を切らせながら僅かに口角を上げ振り向くとその口角を上げたまま固まった。
ユンナのこう言った顔は貴重である為、俺は思わず声を洩らしかけ、ミアから口許を押さえつけられる。
「ちょっとどうしたの?ユンナ?ねぇーユンナってば!」
リノアの呼びかけにユンナはその顔のまま固まってはいるものの何とか指先だけ動かす事に成功し俺らの方を指し示す。この状態で動けるとは驚愕の精神力である。
リノアは首を傾げながらユンナの指先に誘導されるようにこちらを振り返る。
「マ、マ、マ、マ…。」
リノアの瞳に映ったソレはきっと死神だったのだろう。
唇は既に紫色になっており小刻みに震えている。
まだ何も言われていないにも関わらず既にその瞳からは多量の涙が溢れ出しており、リノアの視界には俺は全く存在しておらず、只々その死神から目が離せなくなっていた。
「リノアちゃん、練習大変そうね?少しママとお話ししましょうね。」
ミアが満面の笑み洩らすと周囲の草花まで凍りついているのではないかと思うほどの大寒波が俺の全身を刺すように襲って来た。
リノアはもう気絶してしまいそうになっており流石に可愛そうになった俺は横から口を出してみる暴挙に出ることにした。
ふとリノアと視線が交じり合う。俺は安心させる様に力強く頷く。
それを見たリノアの瞳はキラキラと輝き始め、まるで特撮のスーパーヒーローでも現れた様な期待に満ちた眼差しを俺へと向けてくる。
俺は更にもう一度ゆっくりと頷き、ミアに威厳を持って声を掛ける。
「おい!ミアいい加減_____」
「あらあら。うふふっ♪どうしたのあなた?」
ミアに笑顔を向けられた瞬間俺の心臓は完全に凍り付いた。先程までの勇気がどんどんと萎んでいく、駄目だ、世の中には絶対に逆らっちゃいけない人がいるんだ。
何と言う事だ、全く俺らしくなかった。
リノアへと視線を向ける、心配そうな瞳で俺を見つめて来る、だがまだその瞳には希望の光を灯したままだった。
俺はゆっくりと再度頷く。リノアもそんな俺へと頷き返す。
俺は大きく息を吸い込み再度口を開く。
「おい、ミアいいかげん…かんのかぎはあけといてね」
その言葉を聞いた直後、リノアの顔が変な顔になる。
だって、仕方無いじゃないか!
「あらあら。うふふっ。そんなあなたも大好きよ❤」
ミアは今までとは違う暖かい満面の笑みを俺へと向けていた。
リノアの瞳には何の色も浮かべておらず物凄いブサイクな顔で引き摺られるように連行されて行った。
「リノア、世の中には絶対に戦っちゃういけない相手もいるんだよ。覚えておこうな。」
そう呟いてから俺は満足そうな笑みを浮かべ雲一つ無い青空を眺め続けた。
〜〜〜〜
部屋からはリノア泣き叫ぶような声が聞こえているが俺は耳を餃子の形に変えると何事も無かったような表情でキングボアの死体を井戸の近くへと出した。
キングボアの死体はほぼ無傷の状態で首だけが捻れた猟奇的な死に様だった。
「まぁーこれなんだけど気持ち悪い死に方だけど美味しいらしいよ?」
「か、閣下これはどうやって仕留められたのでしょうか?」
「うーん、頭を掴んで、こう…一度持ち上げてから地面に叩きつけた。」
俺は掴んで投げるまでの一連の動作を身振り手振りで説明していく。
そんな説明を受けアンヌとユンナ以外の三人のメイドは目をパチクリとさせていた。
ユンナはリノアが心配なのか時折玄関の方を眺めておりハッキリ言って俺の話など聞いてはいない。
アンヌは平常運転でいつも通り、信者の眼差しを俺へと向けて来る。
「それで解体なんだけどさ…どれくらい掛かるかな?昼食は俺が何か適当に買ってこっちへ持って来るよ。」
「そうですね、普通なら閣下に昼食の準備などお断りする所なのですが…時間があまりないので申し訳ありません。」
「いやいや、俺が勝手に決めて来ちゃったからねぇー逆にごめんね?俺も一緒にやるから悪いんだけど皆も手伝ってねぇ。」
「「「「はい!」」」」
「うん。」
俺が申し訳なさそうにそう告げると皆は元気に返事をしてくれた。
ユンナだけは返事をしながらもリノアの事を心配そうにずっと扉の方を眺めていた。
〜〜〜〜
それから俺たちはテキパキと解体作業を進めていき、なんとか3時30分には解体作業を終えることができた。途中弁当を買いに抜けたりはしたが一応最後まで俺も手伝った。
しかし、弱くてもキング。かなりの量の肉が取れた。
「しかし、これは想ったよりも残りそうだな。」
「そうですね、宜しければ明日王都へと売りに行って来ましょうか?祖父の所へも出向くつもりですので。」
「うーん、じゃさ。一緒に明日王都へ行こうか?ついでにパムにも肉持ってってよ?」
「はい!ありがとうございます。是非お願いします。」
アンヌは満面の笑みを浮かべると嬉しそうに頷いていた。俺はそんな嬉しそうなアンヌを見ながら、視線を解体した肉へと移し〝こんなに肉が入るビニール持ってたかな〟と全然笑顔とは関係ない事を考えていた。
解体した肉をBBQ様に切り分ける作業はアンヌ達へと任せて俺はBBQのコンロを探す事にした。
「うーん。アレ何処に仕舞ったっけ?」
俺が考え込んでいるとファルネが興味深そうに俺へと視線を向けて来る。
「ファルネどうかした?」
「あ、いえ。次はご主人様何を為さるつもりなのかと思いまして。」
そう言うと自分にゲンコツをする素振りを見せ舌をペロッと出した。あざとい。
「いやー。あっ!思い出した。」
俺はファルネのあざとい姿を見ながら何故かコンロの場所を思い出す。
「ファルネ悪いんだけどさ、一度俺と一緒に105号室に戻ってくれない?」
「はい、構いませんけど、本当にどうされたのですか?」
「まぁーいいから、いいから。」
〝要領を得ない〟正にその言葉がピッタリな表情をしながらファルネは歩き始める。
俺とファルネは皆に一度部屋に戻る事を伝えるとすぐに105号室へと向かった。
「あ、またユンナだわ…。」
脱ぎっぱなしのパジャマを見つけて、ファルネが溜息を洩らす。
「まぁ、自室なんだし普通なんじゃない?そう言えば家が出来れば個室とまではいかないけど二人部屋になると思うんだけど、多分ユンナとだぞ。なんか面白そうだし。」
俺は悪い顔をしながらファルネへと告げる。ファルネはこれからもユンナの世話をする自分の未来を想像したのかガックリと肩を落とした。
「まぁ、ちゃんと面倒は見ますけどね…。」
「あはは。」
俺は笑いながら押し入れへと手をかける。
「それじゃ探しますかね。押入れ開けるからね。」
「はい、大丈夫ですよ。そこは全く使ってませんので。」
「まぁ〜こんなに荷物置いてちゃ使えないよね。」
ファルネの言葉に苦笑いを洩らす。
取り敢えず押し入れの中身を一つ一つ出して見ることにした。
注意して見てみると本当に要らないもので溢れかえっていた。
「コレなんだっけ?」
押し入れの中にある、緑色の箱が目に止まる。持ち上げてみるととても軽く明らかに貴重品では無さそうだった。箱を開けてみると中にはあまり趣味のよろしくない花柄のタオルが4枚程入っており少しカビ臭い微妙な匂いがした。
「なんだ、タオルじゃん。」
「ご主人様色々お持ちなのですね?」
ファルネは興味深そうにタオルを見つめている。
「ん?ファルネタオル欲しいの?コレあげよっか?」
「え、いいんですか?凄く高そうですけど…。」
「ふむ、鑑定してみよっか。面白そうだし。」
俺は悪戯っ子の様な笑みを浮かべると早速鑑定を始める。
◆タオル
【概要】 マイクロファイバー製の花柄のタオル
【価格】 銀貨1枚銅貨16枚
「鑑定結果は…このタオル1枚が銀貨1枚と銅貨16枚でした。日本円にして6,600円か、タオルにしてはめちゃくちゃ高いな。ファルネおめでとう!」
「え?え?本当によろしいのですか?」
俺が箱ごとタオルを全て渡すとファルネは明らかに動揺を見せる。
「別に問題ないけど?あ、でも洗濯はしてよ?カビ臭いよそれ。」
俺は表情を崩し、タオルの箱を人差し指で指す。
「あ、ありがとうございます!」
「あはは、タオルくらいでそんな大袈裟な。」
その後もコンロまでの道のりは遠く、扇風機や恐らく百均のプラスチックの籠、全く使ってない殺虫剤5本にお茶碗と湯呑みのセット三点、DVDプレイヤーに土鍋など多種多様に様々なゴミが出てきた。
「うわぁーこれ全部ゴミじゃんか…。」
「えっ?これお捨てになるのですか?」
「うん、だってゴミだよ。使わないでしょう?」
「ご、ご主人様お待ち下さい!すぐに奥様とアンヌ様をお連れ致します。」
俺がポカーンとしたマヌケ顔を晒していると返事も待たずに大急ぎでファルネは部屋を駆け出していった。
「…あ、はい。」
誰も居なくなった部屋で独り言のように俺は返事をした。
待っている間に更に奥の方も引っ張り出していく、漸く見つけたかと思えば、真っ黒い口の部分をガムテープで止められた物とまだ一度も使っていない箱に入ったままの新品の物、二つもコンロを発見してしまった。網なども一緒に入っており、箱の方は間違いなく今回探していた物なのだがこのビニールの方はばあちゃんのだろうか?
取り敢えず一つより二つの方が良いだろうと、二つとも部屋の入り口の方へ移動させる。
戻る時ふと出した物が視界に入る。
「…どう見てみゴミじゃんか」
俺は思わず独り言を呟く。
それと同時だった。
ガチャガチャ。
「あなた一体どうしたのよ?」
ミアが珍しく怪訝な表情をしながら部屋へと入ってくる。
「いや、俺もよく分からん。なんかゴミを捨てようと思っただけなんだけど…」
そう言いながら俺は視線をゴミの山へと送る。
ミアはそれを見ながら〝ははぁーん〟と何か分かったような表情で頷く。
そんなやり取りを繰り返しているとアンヌとファルネも部屋へとやって来る。
「なるほど、これはファルネが慌てるはずですよ。」
「え??」
アンヌの納得顔に俺は思わず声を洩らす。
「あなた、これ鑑定かけて見なさいよ。」
「いいけど…絶対ゴミだぞ?」
俺は首を傾げながらミアが手渡してきた物に鑑定を掛ける。
◆湯呑み茶碗
【概要】 一般的な磁器 割れやすい
【価格】 銀貨10枚
「は?これ銀貨10枚だってさ。」
「これがファルネが慌てて私たちを連れてきた理由よ。」
「うーん。俺ゴミだと思って、色々前に捨てたちゃったぞ…。」
「馬鹿ねぇ。ちゃんと鑑定してから捨てなさいよ。」
肩を竦めながらミアが笑う。俺がガックリ肩をを落としてからすぐに視線をファルネへと向ける。
「あぁ、そうだ。ファルネ、ありがとう。じゃはい、これ。」
「ふぇ?」
「お礼お礼!」
つい先程鑑定した湯呑み茶碗をファルネへと手渡す。
受け取ったファルネは視線をミアとアンヌへと送る。
「ファルネやったわね、貰っておきなさい。」
ミアがウインクをファルネへと送り、アンヌは黙って頷いている。
「それじゃ鑑定していくかぁ…あっファルネ悪いんだけど、入り口に箱とビニールあるでしょう?あれに今回BBQで使う物が入ってるから持っていって炭の準備しといてくれない?」
「あ、はい。ご主人様ありがとうございます。」
「こちらこそ。」
ペコリと頭を下げるファルネに笑顔で返事をする。
「もしやり方分からなかったら…リノアは…。」
チラリと視線をミアへと送る。ミアは静かに頷く。
「復活してるみたいだから、タブレットで調べさせてよ、肉の為だって言えばすぐやるよ。」
俺は可笑しそうに笑う、ファルネもアンヌもそれに釣られたように笑い出し、ミアだけは溜息を洩らしていた。
それから俺たちは鑑定をかけていき、ゴミとそうでない物にまず分けて行った。
DVDプレイヤーや扇風機は電気が使えないバーレリアでは完全にゴミなので緑色の袋へとさっさと捨てていく。
他にもタオルや洗剤などが出てきたのでそれはウチで使うことになった。
ただ、驚いたことにゴミもやはりそれなりにはあったのだが…銀貨1枚以上のものが二十点以上出てきた。
茶碗、ティーカップ、スプーンフォーク、土鍋、昔何故か買った夕焼けの海のパズル、他にも色々俺にはゴミにしか思えない。
「取り敢えず片付けは終わったとしてこれどうしよっか?」
「そうねぇ…お父様のところにはもう砂糖下ろしてるからあまり優遇すると恨まれちゃうかもね。それにコップも下ろすかもなんでしょう?」
「であれば、他の商会を探しますか?」
「うーん、俺何か商人の知り合いがいた気がするんだけど…。」
「あら?そうなの?」
「うん…駄目だ全然思い出せない。」
呆れたような視線をミアから向けられながら俺は取り敢えず押し入れボックスへと色々と片付けていく。
「何かこういうのはこれからも出てきそうだから商人の人雇いたいよね。」
「商人というよりもそう言う商談や領地経営専属の執事が欲しいわね。」
「うーん。確かにそうですね。」
「まぁ、全部後で考えよっか?取り敢えず肉食おう肉。」
俺の問いに二人とも笑顔で頷き、105号室を後にした。
森の方へと出てみると、ラッタやその仲間達も集まってきており、ピット達、大工の皆も続々と集まって来ていた。
「公爵様この度は___」
「あーもうラッタは堅いからね?リラックスリラックス。」
俺は笑いながらラッタの挨拶を遮る。
「公爵様、ありがとうございます。」
「本当にキングボアの肉なんて食べれるんですね。いやぁ〜この仕事受けて良かった!」
「こ、公爵夫人。これまでの無礼な態度、お許しください。」
ミアはきょとんとした顔をしてボルンの態度を眺める。
ボルンは頭を下げながらも視線を俺へと向けてくる。しかし俺と視線が交じり合うとすかさずサッと逸らす。
何と無く状況を把握したミアが可笑しそうに口許を緩める。
「うふふっ。あなたウチの人怒らせてよく生きてたわねぇ。」
「…は、はい。その申し訳ありませんでした。」
「えぇ、良いわよ。今日は楽しんでね。」
ミアの返事を聞きボルンはホッと胸を撫で下ろす、ミアは視線を俺へと向けると可笑しそうに微笑んだ。
コンロの方へ近づいて行くと何故かやたらと張り切ったリノアが場を仕切っており、俺が近付いて来るのが分かるとあからさまに嫌そうな顔をした。
「な、なんだよ。」
「煩い、パパの裏切り者!」
どうやらリノアはまだ先程の事を根に持っているようでプリプリと怒りを顯にしている。
「いや、あれは仕方が無いだろう!怖いだろう!」
俺の言い訳を聞き更に怒り心頭のリノアはコングを振り回しながら大声を上げる
「煩い!パパのヘタレ!」
「あ、バカ!あんまり大声出すと___」
「あらあら、リノアちゃん。何を大声出しているの?お話足りなかったかしら?」
困ったような笑みを洩らしながらミアが俺の後ろから現れる。
「だ、大丈夫!ね?パパ、仲良くしてただけだよね?ね!」
「そ、そうなんだよ。リノアはお手伝いして偉いなーって話してただけだよ!ホントホント!」
「そ、そうだよ!ほらコレコレ。」
リノアは慌てて俺の話に乗って来ると手に持ったコングを必死にミアへと見せる。
「うーん。ホントに?」
ミアは視線を一番近くにいたリーザへと向ける。哀れにも巻き込まれたリーザは高速で首を縦に振り続けた。
「はぁー。しょうがないわね、今回だけよ?」
そう言うとミアはラッタの方へとまた戻って行った。
「「はぁーっ。」」
「危なかったな、気を付けろよな?」
「う、うん。危なかった…。」
「な?分かるだろう?」
「うん、仕方ないよね。ごめんね…パパ。」
「いや、良いんだよ。分かってくれれば…。」
「パパも大変なんだね…。」
「まーな。」
俺とリノアは乾いた笑みを洩らし合い意図せずして絆を深める事となった。
巻き込まれたリーザはそんな俺とリノアへジト目を飛ばしながら人知れず小さな溜息を洩らすが、それは誰にも気付かれる事は無かった。
こうして、俺たちのBBQは終わりを迎えるまで賑やかな感じで過ぎて行った。
ちなみにキングボアの肉はめちゃくちゃ美味しかった。
こんな感じで、建築の方も問題無く進んでいき、このBBQから約1ヶ月後、俺達はとうとう念願の屋敷を手に入れる事となる。




