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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
73/79

73 屋敷建設始動

冒険者ギルドへと依頼を出しに行った日からもう二週間が経過した。


実はあの日、家に帰り着いてすぐちょっとした事があった。


あの犯罪者予備軍のギルドマスターの口へ柿ピーを入れる事が出来なかった俺は今後その様な事がない様に押し入れボックスの整理をしたのだが…。


整理をするその事自体には別に問題は無かった。


しかし、リノアの前でやったのが不味かった。

実は押し入れボックスは非常に俺にとって都合が良く出来ており、無論、考えただけで出し入れできるのは勿論の事、これなんだっけ?と言う様な忘れている物も一括で頭の中へ映像が送られて来る実に性能に優れたモノなのだが、その整理中に俺の頭の中にある箱の映像が浮かび上がって来た。


俺はその箱を何食わぬ顔顔で放置すべきだった…しかし、俺は判断を誤り事もあろうにリノアの前でそれを出してしまったのだ。


中から出て来たのは、緑色の粉に塗れたドーナツの姿だった。

そう、丁度ユンナの話を大人達だけでやった日にお土産として買っておいたアレだ。

あの日は色々あって、すっかり忘れてしまっていたのだ。


俺はそれを見た瞬間、有りとあらゆる言い訳を披露した。


しかし、そんな事はリノアには全く関係なく、大激怒を起こしたリノアは、ドーナツに謝れと何故かユンナと一緒に騒ぎ始め、あまりの剣幕に大人しく謝ってはみたが全くなんの効果も得られず聞く耳を持って貰え無かった…。

結局俺は一週間毎日ドーナツを買いに行かされる羽目になったのだ。


だが、最初は大興奮で喜んでいたリノアだったが流石に一週間毎日ドーナツを食べ続けたリノアとユンナはもう、ドーナツに未練がなくなったようで今ではあの有様である。


「たこ焼き、たこ焼きランララーン♪」

「たこ焼き。たこ焼き。らんららーん。」


リノアとユンナは昨日俺の持って帰って来たお土産のたこ焼きをレンジでチンしてから寝室まで来るとたこ焼きを掲げながらずっとあの歌を歌い続けている。


甘いもの食べ続けていると塩分の強いモノが欲しくなるよね…。


「はぁ〜。やれやれ。」


俺は溜息を吐くともう一眠りしようとベッドに潜り込むが、今度はアルが俺に用事でもあるのか寝室を覗き込んでいた。


「アル、用事かぁ〜?」

俺はベッドに横になったまま気怠そうにアルへと声を掛ける。


声を掛けられたアルは申し訳なさそうに俺の問い掛けに答えた。


「か、閣下申し訳ありません。木材が不足しておりまして…その私では加工までは不可能でした。」


「はいはい、今から行くよ、棟梁にそう伝えといて。」

俺はベッドから腕を出すとそのままヒラヒラと腕ごと左右に振りながら答える。


「わかりました、伝えておきますね!」

アルは安堵したような声を発するとその足は軽やかに頭領の方へと向かっていく。


「あいつそんなに遠慮してたのかよ。ふぁぁっ…眠い。」

俺は欠伸と共にベッドから出ると、スウエット姿のまま玄関のサンダルを持ってリビングの方へと向かう。


実は冒険者ギルドに依頼を出して、三日目にはラッタが冒険者と大工数人を引き連れこの森の家までやって来てくれた。


ただ俺は日本で仕事中だった為、最初の顔合わせには立ち会う事が出来なかったのが非常に残念ではある。


後からミアにその事を伝えられてあまりにも早い行動に驚いていると、冒険者を集めるのは意外と簡単なのだと言う。

特に今回は貴族の依頼で報酬も金貨で支払われるともなればすぐにでも集まるとミアとアンヌが笑いながら教えてくれた。


ラッタが集めてくれた冒険者は全部で六名、そのうちの二名がラッタのお仲間だと言うが、俺は時間の都合もあり、まだその二名には会っていない。


大工のメンバーとは、家の設計のこともあり、その日の夜の内にアルが棟梁と数名の中心メンバーを連れて来てくれた。


その際、思い掛けない嬉しい提案を棟梁の方からして来てくれたのだが、アルの表情見るに最初に提案をしてくれたのはアルだろう。大感謝である。


森へ出てすぐタバコに火をつけているとミア、ラッタ、アンヌ、リーザ、アイリス、ファルネの六人がこの間TVでやっていた明らかに可笑しな体操を真剣な眼差しでやっていた。

その光景はシュール過ぎてなんとも言えなかった。


きっとミアから強引に付き合わされてる差し詰め〝体操被害者の会〟と言った所だろう。


俺は欠伸を洩らしながらミア達へと近づいて行く。


「ミア、おはよう。」


「あら、貴方おはよう。」

ミアは額に汗を掻きながら軽やかにその場でスキップでもするかのように太腿をお腹の辺りまで上げ、両手を頭上より高く挙げてからパンッと叩いている。


うん、何この体操…。


俺が挨拶をするとミア以外の被害者メンバーが全員体操を一旦止めアンヌが声を掛けて来た。


「閣下おはようございます。コーヒーをお持ちしますか?」


アンヌは汗一つ掻いておらず涼しい顔をしながら俺へと聞いてくる。その際体操で乱れていたはずのメイド服の乱れを瞬時に直す。プロである。


「いや、今から用事があるからいいよ。」

俺はタバコを吸いながらボケーッとした顔で答える。


「畏まりました、ご一緒した方がよろしいでしょうか?」


「うーん。大丈夫かな。アルも一緒にやるだろうし?」

一瞬アンヌの眉がぴくりと反応を見せるが笑顔で頷いていた。


「「「おはようございます!」」」


「公爵様。おはようございます!」


俺とアンヌの会話を邪魔しないように他の体操被害者メンバーは挨拶を待ってくれていたようだ。

しかし、アンヌ以外のメイドの面々は肩で息をしており、メイド服のも乱れたままである。まだまだだな。

ラッタは流石冒険者と言うべきか涼しげな表情を窺わせている。


「うん、おはよう。皆元気だねぇー。」


俺がそう声を掛けると、アイリスがフラフラの足でにへらと笑っていたが、その足は明らかに限界を迎えている様に見えた。


同じ事をやっていた筈のリーザやファルネはそこ迄の疲労は見せていないのだが何故だろう?

俺が不思議そうにアイリスを見ているとラッタが口を開いた。


「アイリスは足に力入れすぎよ!あはは。」

カラカラとラッタが声に出して笑う。

それに釣られた様に、リーザ、ファルネ、ミアが笑い声を上げる。


「えぇーっ!皆さんと一緒ですよ!」

プクッと頬を膨らませアイリスは唇を尖らせる。


そんなやり取りを見ながらアンヌは小さく溜息を吐くとアイリスの側へと駆け寄っていった。

「はぁー。アイリスいいですか?こうやるのですよ?」


アイリスはいじけたままの表情でアンヌへと視線を向ける。


するとアンヌは先程の体操を踊り始めた。

踊りそのモノは何とも言い難い感じのアレなのだが、アンヌ自体の動きは舞っている様にさえ見え和装のメイド服と相まってその袖の部分をゆらゆらと揺らし神秘的な感じを漂わせていた。

鈴でも持っていれば手を上げた瞬間〝シャンシャン〟と鳴り響きとても絵になるんだろうなとそんな事を思いながら俺はついつい見惚れてしまっていた。


「「「おぉー。」」」

パチパチパチパチッ!

アンヌが踊り終えると、周囲の皆も同じ事を思っていたのか、感慨の声を上げると拍手喝采が起こっていた。俺も思わず同様に拍手を送る。


するとそれに気付いたアンヌは恥ずかしそうにもじもじとしていた。


しかし、そんな様子をただ一人面白くなさそうな眼差しで見つめていたアイリスがキリッと表情を引き締めて声を上げた。


「わ、私だってやれますよーだ!」


そう言うや否やアンヌに対抗心を燃やしたその瞳はメラメラと燃え上がり、決意を込めたような一歩目を踏み出す。その後、二歩目、三歩目と踏み出したそのスキップはまるで老婆の様なリズム感ゼロの様相を見せ始めた…。

おまけにその一歩、一歩の踏み込みはまるで闘牛の様な力強さを見せ、更には手を挙げ、打ち鳴らすタイミングも完璧にズレており、その様子は完全にコントにしか見る事が出来なかった。


「「あははは。」」

何処からともなく笑い声が聞こえ始める。

この声は間違いなくミアとラッタだ、俺は溜息を吐きながら周囲を見回した。

するとリーザもファルネも自分たちの手を抓っており、必死に笑いを耐える姿が視界に入って来た。

アンヌも明らかに緩んだ表情になっており、そんな皆の様子を見ながらアイリスが涙目になっていた。


俺はアイリスの側へと近寄って行くと慰める様に頷きながら、ポンポンと軽く叩いてあげた。


「ご、ご主人様〜!!」


結果、アイリスを俺が泣かせる事となってしまった。あれ?



そんな事をやっていると一頻り笑い満足したミアから声が掛けられた。

「それよりあなた、思ったより起きるの早かったのね?」


「朝からアルがチラチラ見てくるもんでさ…今から木の加工やってくるよ。それにリノアが変な歌を歌って…いやこれはいいや…ミアも付き合わせるの程々にしとけよ〜。」

ミアが何か言っているがそれを聞き流し俺は棟梁の元へと足を向ける。



「おはよう棟梁。」

俺が挨拶をすると見るからに人の良さそうな小柄で頭の低い男が早速俺の元へと駆け寄ってきた。


「公爵様態々申し訳ありません。」

目の前の男は元から低かった頭を更に低くするとニコニコと笑顔を浮かべながらそう告げる。


ふむ、普通なら全く侮れない。こういう人間こそ成功者の良い例であろう。

アルの友人であの話を聞いているから信用できるがそうで無ければ要注意人物筆頭である。


〜〜


初めて会った時、俺は心底度肝を抜かれた。大工の棟梁という位だから俺のイメージでは頑固で職人気質な人物を想像していた。

でも実際は低姿勢でいつもニコニコとしており、冒険者達との護衛の話し合いの時にも何を言われても全く怒らないのだ、それどころか笑みすら浮かべている。言葉遣いも凄く丁寧であり全く偉そうではなかった。だからこそだろうか、大工仲間からの信頼も厚く何より彼自身も仲間をとても大切にしていた。

〝怪しい〟彼に対する最初の印象は正にそれだった。絶対に裏では貪欲な出世欲があるはずだと…しかし、俺のそんな懸念に勘付いたアルが笑いながら説明してくれた。


「あははは。流石閣下。そういう反応を示されますか。」


「うーん。要注意人物筆頭だよ彼は。」


アルは俺の言葉に何度も頷いた後表情をキリッと引き締め直し口を開く。

「ご安心ください、彼はあの状態が素なのです。」


「いやいや。それは無いから…本当に?」

一瞬俺は否定から入ってしまうが、あまりにもアルが真剣な表情の為、自分の懸念に確信が持てなくなる。


何でも彼は以前、貧民街が火事に見舞われた際自分の私財を投げ打って、その火事に会った被害者達に簡素ではあるが家を建てプレゼントして回ったらしい。


その出来事が起こるまでアルも彼の事を〝怪しい〟〝胡散臭い〟人物だと認定していたそうだ。


「うーん。でもなぁ。」

それでも渋っている俺にアルが更に続ける。


「その火事の際借金をしており、まだ払っているのですよ?」


俺は唖然とした。

「何それ…そんな人絵本の中くらいにしか居ないだろう。」


あまりの衝撃に俺の口から思わず言葉がこぼれ落ちてしまう。

それを偶然にも拾ってしまったアルは本人や大工仲間達の目の前で大笑いをしていた。

そんな普段絶対に見せないようなアルの姿に皆が驚いて目を見開くという一幕があった。アルは俺たち家族以外の前では微笑む程度にしか笑わないのだ。


〜〜〜〜〜


そんな事を思い出していると棟梁が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「あ、あの公爵様?」


「あぁ、悪い、それじゃ加工してくるよ、棟梁…いやピット。」


「はい、よろしくお願いします。」

ピットは満面の笑みで答える。


「いや、俺の資金のためなんだから当たり前だよ。」


実はローンを組んでしまおうと考えていたのだが、先程話した嬉しい提案と言うのがこの事である。


と言うのも、この辺り一帯は森であり、俺が伐採加工まで行う事により、木材費やそれを加工する人件費を大幅にカット出来る事が分かったのだ。


俺は大喜びでその提案を受け入れ、材料が無くなる度に、木材の伐採から加工までを担当させて貰う事にした。


そのお陰で金貨500枚で家を作る事が可能となった。



ピットと二人笑い合っているとアルが慌てた様子でやってくる。

「閣下、遅くなって申し訳ありません。今から作業でしょうか?」


「あぁ、丁度今からだよ。」


「良かった、それでは参りましょう。」


俺たち二人は話しながら森の奥へと姿を消した。早く終わらせてたこ焼きを食べよう。



約2時間くらいで全ての作業を終えた俺とアルは、家の前の井戸に座りながら話し込んでいた。


「しかし、バーレリアの建築作業ってめちゃくちゃ早いよね?」

俺は日差しを遮るように額の前に掌を掲げ、作業風景を見ながら呟く。


「そうなのですか?日本だともっと時間が掛かるのでしょうか?」


「そうねぇー俺も詳しくは無いんだけど木造建築で2、3ヶ月かかるんじゃない?」


「そんなにですか?」


「うん、かかると思うよ?まぁ、魔法の存在が大きいよね。」


「そうかもしれませんね。」


ハッキリと言ってバーレリアの建築風景は異常だった。


重機など勿論存在していないので全て人力である、数人で身体強化を使い柱を抱え、屋根付近にもジャンプを繰り返し登っていく、基礎工事などは土魔法で平に固めてしまい、十分程度で終わらせてしまった。まさに何でもありである。


「あら、あなた。もうピットの方は終わり?」


俺とアルがボーッとしながら作業風景を眺めていると不意に背後からミアの声が聞こえて来た。


「あーうん。今終わった所だけどミアはどうしたの?被害者の会は?」


「あらあら、うふふっ❤️被害者の会って何かしら?」


しまった!?緩い感じで会話をしてたのでつい口が滑ってしまった。


「あなた、どうかしたの?」

「い、いや別に!?」


ミアの声音が明るくなるにつれて俺の額からは多量の汗が噴き出し始めその黒目はうろうろと散歩をし始める。


ゴクリ…不意に生唾を呑み込んだようなそんな音が響いて来る。


ふとその音の方へ視線を向けると同じように恐怖に顔を引き攣らせたアルが視界に飛び込んで来た。


「ア、アルだよ。アルがミアの体操に参加してる人をそう呼んでたんだよ!」

俺は井戸から立ち上がりミアの横に行くとビシッとアルを指差しながら告げる。


「か、閣下…ひ、酷い。」

俺からまさかの裏切りにあったアルはもう既に泣き出しておりその顔には死相すら浮かび上がらせていた。


俺の言葉を聞いた後、ジッとアルを見据え続けながらミアが笑顔で口を開いた。


「あらあら、アルゆっくりとお話しましょうね?」


「い、いやだぁぁぁっ!か、閣下!かっかぁぁ!!」

ニコニコとしたミアに襟首を掴まれて引き摺られるようにしてアルは家の中にへと消えていった。


「すまん、骨すら拾ってあげれそうに無いが勘弁してくれ…ありがとう。」

俺はシワとシワを合わせながらゆっくりと瞼を閉じ、アルへと心から感謝をした。


〜〜〜〜〜〜


それから近くの木の上に登り太い枝に寝転びながら昨日の事を考えボーッと空を眺めていると、叫び声が聞こえて来た。


『ま、魔物だ!魔物が出たぞ!』


俺は寝転んだまま気配を探る。

反応は四つほどあり、どれも大した事なさそうだった。


「まぁ、ラッタ達もいるし問題無いだろう…だけど聞いちゃったし行かないとまずいよなぁ。」

そう呟いた俺は徐に立ち上がるとスウェットに付着した木屑を落としてから、叫び声が上がった場所へと向かった。


近くに行くと通常のワイルドボアより巨大な猪と対峙しており、周囲にはゴブリンの死骸が三体転がっていた。


流石冒険者!俺がそう感心しながらラッタ達へと視線を向けると明らかに全員の顔色に絶望の色が浮かんでいた。俺は首を傾げながら、取り敢えず冒険者に話しかけて見る事にした。


「みんな大丈夫ー?」

そのあまりにも緊迫した場に削ぐわない気の抜けた俺の声にラッタ以外の冒険者の舌打ちが聞こえて来る。


「チッ…これだからお貴族様はよ…こんな奴のどこが良いんだミアちゃんはよ〜。」


そう告げたのは大き目の斧を担いだ冒険者の男で男の表情を見るに彼がミアをどう言う対象で見ているのかが手に取るように明白だった。


ミアちゃん…追い討ちを掛けるようにその言葉は俺に途轍もない苛立ちをもたらす。

俺の眼が徐々に鋭さを増して行く。


ラッタは俺の表情や雰囲気の変化に気付いたのか完全に顔色を青ざめさせていた。


「あ〜お前名前何つったっけ?」


「あん?何でお前に名乗らなきゃいけねーんだよ!?貴族つってもこの状況で何が出来るんだよ?巻き込まれて死んじまったことにしてもこっちは構わないんだぜ?」


男のその言葉に男を含めた三名の冒険者が下卑た表情を見せる。


「ふーん。まぁいいや。ラッタ何でそんなに慌ててるの?」


「はっ、じ、実は目の前に見えるあれは____」


ラッタが答えようとした瞬間先程の冒険者がニタ付きながら口を開く。


「おいおい、この公爵様は頭だけじゃなく目も悪いらしいぜ!ぎゃははは。」

バカの笑い声に反応してその原因である特大の猪が俺へと向かって襲いかかってくる。


俺は横目でそれを確認すると、目の前の冒険者に対する苛立ちから身体強化を全力で発動。


〝ダンダンダンダンッ〟と足音に合わせたように砂煙が舞い上がる。その猪の歩みは地面を大きく揺らし一直線に俺へと突き進んで来た。猪突猛進。さすが一文字使われているだけ有り、全くその通りである。

その巨大な猪は俺へと近づく直前にもう一段階速度を上げると、そのままの勢いで頭から体ごと俺へと突っ込んで来る。


「ブヒヒヒィ!」

ドーン!

物凄い衝突音の後、俺の周囲はそのあまりにも大きな衝撃で砂煙で完全に隠れてしまう。


「こ、公爵様!」

「ぎゃはははは、見ろよあいつ轢かれやがった!」

その後ラッタの叫び声とバカの笑い声が辺り一面に響き渡る。


しかし、それはすぐに異様な沈黙へと姿を変えて行く。

砂煙が徐々に晴れていき、周囲の冒険者の目に飛び込んできたのは俺が左手のみでその巨大な猪を押さえつけ、更に握り潰すようにそのまま猪の頭部へと5本全ての指先を突き入れていた姿だったからだ。


「なっ!」

誰れが発した声なのかは分からない…だが確かにそんな声が周囲へと響く。



「おい、猪…いやキングボア、お前キングと付いててもオークキングとは全然違うよな?見てみろよ。お前のせいで俺笑われちゃったじゃない?」


キングボアは俺の殺気に押されて、眼を泳がせるがそれでも賢明に俺を吹き飛ばそうと必死にその四本の足へと力を送りグッと地面を踏み締める。


「…ギュオギュオ!」


「なんだ、お前必死だな。」

そう呟いた俺は突き刺さった左手の指を引き抜くと今度は両手でキングボアの頭部を掴みそのまま抱え上げると力任せに地面へと叩きつける。


「うおぉぉぉりゃぁぁっ!!」

ズダーーーン!!

キングボアは凄まじい衝突音と共に地面へと叩きつけられピクリとも動かなくなった。

近づいて確認をしてみると頭部を掴まれ力任せに叩きつけられた反動で、その首は捻じ曲がっており完全に息絶えていた。


俺は周囲が唖然とする中、先程の冒険者の連中へと近づく。


「おい、お前、もう一度聞いてやる名前は何だ?」


「…ボルンです。」

ボルン名乗った冒険者の男は顔色を青白くさせており、その膝はガクガクと震えていた。


「そうか、ではボルン選べ、侮辱罪で死か護衛の仕事をこれまで通り()()()()で受けるのかどっちがいい?もしお前が無料での護衛の方を選べば俺を笑った…お前とお前も同じくタダ働きだ。」


「そ、そんな…。」


「文句があるなら今死ね。」


「あ、あの公爵様、俺たちは笑って___」

「いや、笑った、最初に名前を聞いた時バカにしたような顔してたろ?」


「くっ…。」


「タ、タダで護衛の任務引き受けさせて頂きます。」

ボルンという男はそう言うと震えながら地面に額を擦り付けていた。


「君たちはどうする?こういう結果になっちゃったんだけど…?辞めちゃってもいいよ?ただその時は冒険者ギルドには苦情入れさせてもらっちゃうよ?冒険者続けられるといいね?」


「俺たちもタダでやらさせて貰います。」

俺をバカにした二人もガックリ項垂れて、諦めたような表情をしていた。


俺は既に此奴らから興味を失っており、ラッタへと視線を向ける。

「ふーん。別にどっちでもいいけど。あ、そうだ。ラッタのお仲間じゃないよね?」


「は、はい!全然違います。全く関係ありません!私の仲間はこの二人です。」

ラッタは何度も首を横に振り、自分の後ろに立っている者達に視線を向ける。


「公爵様、はじめましてユリクスと申します。」


「お初に目にかかります。ラコステと申します。」

紹介されて出てきた二人は軽く微笑みながら右手を差し出してくる。


ユリクスと名乗った方は二十代前半くらいの見た目で片手斧を二つ所持しており二刀流使いなのだろう。

ラコステと名乗った方は俺と同じくらいの年齢でとても大きな盾を一つ所持していた。

二人ともとても感じの良い爽やかイケメンである。


「あ、どうも。アリヒト・フォン・コンノです。公爵なんかやってます、よろしくー。」


「あはは、凄い!本当にお嬢様の言った通りだ。」

俺が差し出された手を握り返して行くと、ユリクスが嬉しそうに口元を綻ばせた。


「本当にな、リノアお嬢様の言った通りだったぞ。」

ラコステも同じように喜んでおり俺は不思議そうに首を傾げる。


「あぁ、申し訳有りません。実は、リノアお嬢様とお話しした時に公爵様のお話になりまして、お会いした時に緊張したらどうしようみたいな事を話した事があったんですよ。」

恥ずかしそうにラコステが告げる、その後を引き継ぐようにユリクスが口を開く。


「それでお嬢様が握手を求めれば『これはどうもどうも。』とか言いながら握り返してくるよって言ってたのでドキドキしながら握手求めたんですよ。いやー怒られなくてよかった。」


「お嬢様は100%怒られないって仰られてたんですけど、お貴族様相手ですので私も緊張しました。」

ユリクスとラコステは〝緊張したよな〟等とお互い言い合いながら笑い合っている。


「あははは、何だそんな事があったんだ。いやぁーこれからもリノアと仲良くしてやってよ。」

俺は笑顔でポンポンっと二人の肩を叩く。すると二人も笑顔で返事を返してくれた。

そんな俺たち三人の姿を胸を撫で下ろしながら、ラッタが見つめていた。


いや俺いきなり暴れたりしないからね?


「あ、忘れてた。ボルン君。次ミアって呼んだら殺すから?ちゃんと公爵夫人って言わないと駄目だよ?」

ボルンは俺の殺気を浴びて股間に水溜りを作りながら何度も必死に頷いていた。


「だから公爵様の前でミアの事は一切言うなって忠告したのに…それにアンヌさんが居たらあなた死んでたわよ。」

ラッタは自分自身を思い出したのか一度ブルッと身震いをしてからそんなボルンの姿を眺めていた。


「あ、そうだ。ラッタこれ食べた事ある?」

先程のキングボアを指差しながら聞いてみる。


「キ、キングボアなんて食べた事ないですよ!」

必死にラッタは首を横に振る。

他のメンバーも同様のようで視線を向けると皆一様に首を横に振った。


「うーん。美味しいのかな?」


「噂でしか聞いた事ないですがめちゃくちゃ美味しいらしいですよ?」


「へぇ〜じゃあ後で皆で食べない?見回り終わったらウチにおいでよ?」


「よ、よろしいのですか!?」

ラッタは驚いて聞き返してくるが、ユリクスとラコステは既に食べる気満々でハイタッチを決めている。


「え、だって多いし、それにコレ元々ラッタ達の獲物だよ?」


「えっーっと私達は逃げて大工の皆や公爵様達に危険をお知らせするつもりでしたので、どっち道討伐は不可能でした。」

しょんぼりと肩を落としながら申し訳無さそうにラッタが告げる。


「うーん。そう言ってもあの大きさ見なよ?アレを(ウチ)の家族だけで食べ切るのは不可能だって。」

俺はキングボアの死体を指差しながら告げた。


それでも何かを渋るようなラッタを見兼ねて、ユリクスが声を掛ける。

「ラッタ行こうぜ!あれ絶対うまいって!」


ラコステは既に口許がにやけており確実に一人でも来る気なのだろう。


少し悩んだ素振りを見せてからラッタは一度頷くと話し始めた。

「それでは僭越ながら御相伴に預からせて頂きます。」


「あははは。堅い堅い!リラックスしておいでよ。あ、そうだお前らも来いよ?」

ボルン達へ視線を向けると嬉しそうに何度も首を縦に振っていた。


「それじゃこれは俺が回収して、調理しておくからね!」

俺はその姿に満足そうに頷いてからキングボアを押し入れボックスへ片付けるとさっさと家へ帰る事にした。

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