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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
71/79

71 冒険者ギルド


俺達は今、王都レテリアへと四人のメイド達も含め全員でやって来ている。


ユンナの話から既に一週間が経過しており、あれから他のメイド達にも今までの生活の事を詳しく聞いてみた。

皆似たり寄ったりだが流石にユンナほど酷い扱いを受けた者はいなかった。

安心した反面、ユンナの両親に対して沸々と怒りが湧いて来たのは言うまでも無い。


そんな俺の精神的状態を顧みてなのか、以前よりも計画していた屋敷建設の為に冒険者ギルドへ依頼を出しに行くのを今から行こうと急にミアが言い始めた。

それならばと気分転換やこれからの生活に必要な物を買おうという話になり、全員で王都へと出かける事にしたのだ。


王都までの道すがらは途中休憩を挟んだり、お弁当を食べたりしながら特に問題も無く愉しかったのだが、レテリアへ着いてから少しだけ問題が発生した。

新人メイドの四人が身分証を持っていなかった為、門を通過する際、簡単に通る事が出来なかったのである。


この門番は初めて見る人物で俺自身も黒コートで貴族っぽい見た目でなかった為、冒険者だと扱われてしまい、いつもの様に顔パスで通過する事が出来なかったのだ。


その為、四人には少し嫌な想いをさせてしまったが、一応は公爵パワーを発揮し門を通過する事はできた。


ハッキリ言って便利である、係長にも効果があるようにならないだろうか…。


ただ、自分たちが零民で身分証を作っていなかった為に主人に迷惑をかけてしまったと新人メイド達は俺たちの様に通れたから別に問題ないと言う風には考えられない様だった。


「結局ご主人様に恥を掻かせてしまった。」

ガックリと肩を落としアイリスが呟く。


「身分認証なんてお金の無駄だって言われてたもんねぇ〜。」

ファルネも同じ様に肩を落としながらトボトボとアイリスの横を歩く。


「ご主人様、私達のせいで、恥を掻かせてしまい申し訳ありません。」

リーザも何処となく元気なさ気に頭を下げてくる。


「リノアお嬢様、身分証見せて。」

ユンナはリノアから身分証を受け取ると空に掲げながら僅かに口許を緩め愉しそうにしている。


しかし、こうなって来るとやはり四人とも身分証が欲しいのかも知れない。


「アンヌ、四人の身分証を俺たちが冒険者ギルドで依頼の話をしてる間に作って来てよ?」


「畏まりました。」


「よろしくね。」


アンヌは俺がそう言い出すことが分かっていたのか、軽く微笑んでからすぐに了承してくれた。そんな俺とアンヌの会話を新人の三人は驚きの表情をしながら見つめていた。


三人は集まって円陣を組む様にしながら何かをコソコソと話した後、リーザが代表者に選ばれたのか申し訳無さそうに俺へと視線を向けて来た。


「あ、あのご主人様、本当に身分証まで宜しいのでしょうか?」


「え、だって身分証はこれから必要だし、あったほうが便利でしょ?」


「便利。」

ユンナは既に受け入れており、無表情だが何処か嬉しそうにリノアの横を歩いている。


しかし、三人は今ひとつ自分たちには勿体無いそう言った表情をさせていた。長い間ずっと蔑まされてきた弊害なのかも知れない。


そんな三人を見兼ねたリノアが口を開く。


「あのね、パパこんな感じだから、ユンナみたいにしておけば大丈夫だよ?」


すると三人の視線が一斉にユンナへと向く、しかしどう言う訳か三人の表情が驚いた顔になったり呆れ顔になったりころころと変化して行くのが見て取れた。


「お、お嬢様。私達にあれは難易度が高過ぎます。」


ファルネがユンナの方を指差しながらリノアへと視線を向ける。


「えっ?」

リノアはそんなユンナや他の二人に対して不思議に首を傾げた後、その指先に誘導される様に視線を動かしていきその意味を漸く理解する事が出来た。


ユンナはアルの尻尾が気になるのか、何度も尻尾を触ろうと手を伸ばしており、その度にアルは揶揄いながら尻尾を動かす事でそれを避けていた。


「ユンナ!私今凄く良い事言ってたんですけど!」

リノアはそれを目撃するや否や、頬をプクッと膨らませその場で地団駄を踏み始めた。


「お嬢様?ごめん?」

ユンナはキョトンとした顔でリノアへと謝罪の言葉を掛けるがイマイチ理解していないらしく小首を傾げていた。


「ぷッ…あはははは!あぁーもう駄目、我慢出来ないわよ。」


そんな二人のやり取りを見てミアが突然大声で笑い始めた。

そのミアの笑う姿を横目でみながら何故かアルはドヤ顔を決めている。


それから一頻り笑った後で、ミアが目尻に溜まった涙を拭いながら、笑顔で口を開いた。


「ふふっ。でもね、真面目な話、この人に任せておけばいいのよ?あなた達はコンノ家の人間なんですからね?家の者を守るのは当主の役目よ?」


ミアのそんな言葉に三人はお互いの顔を見合った後、嬉しそうに微笑むと元気よく答えた。

「はい!」


「あ、そうだアンヌもそうだけど普段の服はあるの?」


「はい、私は奥様に買って頂きましたので問題ありません。」


「それじゃリーザ、アイリス、ファルネ、ユンナの普段着も何か選んでやってくれない?」


「はい、分かりました。」


「それから俺は、そう言うのあんまり気が付かないから何か必要なものがあったらそれも選んでやってよ?」


「ふふっ♪分かりました、お任せください。」


「「「ご主人様ありがとうございます!」」」

「ご主人様、ありがとう。」


「おう、苦しゅうない苦しゅうない!」


照れ隠しにそう返すと、リノアやミアは嬉しそうな顔をして四人を見ていた、きっとリノアの事と重なって見えたのだろう。

そう言えばあの一件以来アンヌが俺やミア、リノアに対する話し方でユンナに何かを言う事はなくなった。

俺が不思議に思い尋ねてみると、気持ち的に俺を軽視した行動で無いのなら家族については除外する事にしたそうだ。…何かアンヌの基準があるのだろう。


それにアルもそうだ、明らかにユンナに対して激甘になっている気がするのだが…。


「リノアとミアは?洋服いらない?」


俺がそう二人に聞くと二人とも首を横に振りながら今着ている日本の服を指先で摘んで見せて来た。そう言えばこの二人バーレリアの服着なくなってる…。


「アルは平気かぁ〜?何かあれば全然買っていいからな?」


「閣下、ありがとうございます。私の方は普段の服は大丈夫なのですが、執事服をもう1着お願い出来ないでしょうか?」


俺はアルの執事服へとふと視線を送った。

「あぁー。確かにアルの場合は力仕事なんかもその服でやってるんだよなー。作業着的な物買う?」


俺の言葉に対してアルは即座に首を横に振ると口を開いた。

「いえ、出来れば、全ての作業をこの服で行いたいのですが…」


俺はキョトンとした視線をアルへと向けると口を開く。

「よく分からないけど、そう言うもの?」


「執事とはそう言うものですね。」

アルは満足そうに頷きながら答える。


「ふーん。あっ、必ず必要なものは全然俺に言わないでリノアに注文して貰っていいからな?」


「ありがとうございます。それでは戻り次第、リノアお嬢様お願い出来ますか?」


「はーい!」


今迄の話を訊いていたのだろう、リノアはユンナと手を繋ぎながら愉しそうに返事をしていた。

そんな二人を周囲の皆は微笑ましそうに眺めていた。


それから、少し歩いた先の屋台から何やらカレーのような匂いが漂って来た。

その匂いを嗅ぎ分けるようにリノアは鼻をピクピクと動かしてとても興味深そうな視線を屋台へと向けていた。ユンナやアイリスも同じようでチラチラと屋台を気にしている事が一目瞭然だった。


「何これ?カレー?」

俺が匂いに気付きそう呟くと、リーザが少し考える仕草をしてから答え始めた。


「おそらく日本で言うカレーと似たようなものだと思います。ボアの肉を香草やワインなどで煮込んだスープですね。」


「ふーん。これ食べたい人?」

何気無く聞いた俺を爛々と瞳を輝かせながら、女性陣は全員が、力強く腕を空へと伸ばしていた。


「はいはい。それじゃアンヌ、女性全員分お願い。」

アンヌは嬉しそうに頷くとすぐに屋台へと向かって行った。他の皆もアンヌに続く様に嬉しそうにしながらその後をついて行っていた。


俺はアルは何も食べないのか聞いてみようと思い立ち視線をアルへと向ける。

するとアルの視線はその屋台の先にある、とある物を見据えていた。


「アルはあっちがいいんでしょ?」

俺はもう一つ先の屋台で売られていた、お好み焼きのような物を指差す。


「はい!私はあれの方がいいですね。」


俺の言葉にアルはブンブンと尻尾を振り始める。明らかに大好物なのだろう。


「それで、あれは何?お好み焼き?」


「そうですそうです!ご存知でしたか!」


アルは自分の好物を俺が知っていた事に大興奮すると、いかにお好み焼きが素晴らしいのかを語り始めた。


「いいですか、閣下。そもそもお好み焼きと言うのはですね…。」

俺はそんなアルが珍しくて思わず、止める事も忘れて見入ってしまった。


「しかし、バーレリアにもお好み焼きあったんだな、それに驚いたよ。」

俺が可笑しそうに肩を竦めて笑うと、アルが目を見開いて固まった。


「おーい?」

俺はアルの顔の前で手をヒラヒラとさせてみるが、全くアルは反応を示さなかった。


チャンスとでも思ったのだろうか、アンヌに付いて行った筈のユンナが戻って来るとてくてくとアルへと近付き、背後へと回ると思いっきりその尻尾を鷲掴みにした。


「ふぎゃぁぁぁぁぁっ!!」


アルの叫び声を訊き満足したのか、ユンナはポンポンと花を撒き散らすと、無表情のままアンヌのところへとまた戻って行った。


「あいつ何がやりたいんだよ…。」


そう呟きながら心配そうな視線をアルへと向けると、別に痛くて叫んだ訳ではなく驚いただけのようだった。


そんな感じで待っていると、屋台へと向かったメンバーが俺の側へと戻って来ていた。

アンヌはどうやら俺のスープも買って来てくれたみたいで俺はお礼を言うとそれを有り難く受け取った。

ユンナも何事も無い様にスープを手に持っており、俺は思わずジト目をユンナへと向ける。

するとユンナは俺の視線の理由に気が付いているのかそうで無いのかよく分からない表情を一度見せるとずっとスープの肉を睨む様に見つめていた。


リノアなんかはもう既に食べる場所を確保に向かっており、俺たちもその姿を追いかけ、一緒に近くのベンチへと向かう事にした。


カレーの匂いを漂わせていたスープは食べるとビーフシチューぽい味がするというとても不思議な食べ物だった。


ユンナは余程美味しかったのか口の周りをスープだらけにして何度も満足そうに頷いていたが、口を拭いて回っていたリーザが物凄く気の毒だった。


リノアは俺のスープの中から、肉だけを選んで、隙を見てはスプーンを忍ばせて来ていた。

いや、別にいいんだけどね?


因みに、アルが固まったのは日本にもお好み焼きがあると言う事を知らずに驚いただけだった。しかしバーレリアのお好み焼きはどちらかと言うとチヂミの方が近いような薄さだった。


どうやら、アイリスやファルネもアルにひと口貰ってからこのチヂミのようなものが気に入ったらしく、食べたそうにしていたので、アンヌへと言ってお金を渡すと物凄い勢いで二人して買いに向かっていた。

その姿を見ていると今日来て良かったなとしみじみと思ってしまった。


食べ終わってから少し歩くとすぐに冒険者ギルドの建物が見えてきた。


ギルドの建物は特に何か装飾や模様が施されたりしているわけではないが丸み掛かったオレンジ色の屋根に石材や煉瓦で作られた外壁がとても頑丈そうで綺麗な建物だった、入り口前にも何か掲示板の様なものが置いてあり、冒険者らしき人だかりができとても賑わいを見せていた。


「へぇー何か思ってた建物と違うなー。」


「そうなの?どんなの想像してたのかしら?」


「うーん、ギルドには申し訳ないけど少し汚い感じをイメージしてたかな。」


「あ、閣下、私もそうでした冒険者になる前はそういうイメージを持っていました。」


俺がミアの質問に答えていると、アンヌは俺と同じイメージを持っていたことが余程嬉しかったのか身を乗り出しながら自分を指差し、同じですアピールを繰り返していた、彼女は本当に何処を目指しているのだろうか…。


「あらあら♪」


ミアはそんなアンヌの姿を楽しそうに笑いながら見ていた。

そんな時だった、後ろからいきなり亜人族の女性がミア目掛けて飛びついて来た、俺は咄嗟に叩き潰そうとしたが何故か嬉しそうな顔のリノアから止められてしまった、アルやアンヌも俺が動かないと分かると瞬時に様子を見る方へと切り替えた様だった。


「ミア〜!あんた無事だったの??よがっだぁ〜!」


「あらあら♪相変わらずねぇラッタ♪」


【名前】ラッタ(23)

【Level】40

【性別】女

【種族】亜人種 猫人族

【状態】良好

【職業】冒険者

【体力】1167/1167

【魔力】601/601

【力】131

【素早さ】256

【防御力】101

【魅力】69

【スキル】両手剣lv5 格闘術lv1 身体強化lv2 回避術lv4 索敵lv3


目の前の人物はミアやリノアの友人の様だが、念の為鑑定をかけておく事にした。


「へぇーアンヌくらい強いんじゃないの?」


俺がそう呟くとアンヌの左眉が一瞬だがピクッと反応するのがわかった、俺はそれを見ながら、アンヌの肩をポンポンと叩くと次の訓練には是非一緒に連れて行ってあげようと誓っていた。

だって今回は四人と知り合えたからいいが、一人は寂しい…。

アルは自分との比較結果が知りたいのか俺の事を終始チラ見して来ていたが、教えると面白くなさそうだったので悶々とさせておく事にした。


そんなちょっと下衆な事を考えていると、リノアがラッタに声をかける所だった。


「ラッタさん、こんにちは♪」


「は?リノア、ちょっとミア、ミアなんでリノアが外出歩いてるのよ!危ないでしょ!こんな所に出て来て大丈夫なの?あの変態に何かされるんじゃないの?リノア、これ、これを被りなさい!」


ラッタと言う女性は自分のショルダーバックから、フード付きのポンチョの様なモノを取り出すと大慌てでリノアへと被せ始めた。その様子を見る限り、この女性は本当にリノアやミアを大切に思ってくれているのだろう、そう思うと少しだけ俺は口許が緩むのを感じた。


「あらあら、ラッタ落ち着きなさい?」


「ラッタさん落ち着いてわたしはもう大丈夫だからパパが助けてくれたから!」


「そうよ?旦那様が助けてくれたからもう大丈夫なのよ?」


「そ、そうもう大丈夫なのね?本当に良かったね、リノアちゃん、そうパパが…そうミアの旦那が…え?だ、旦那?ミアのだ〜ん〜な〜??」


ミアもリノアもわざとラッタを混乱させようとしているのでは無いだろうか?悪意にも近い何かを感じるのだが…チラリと二人の様子を見てみると、落ち着かせようと慌てている様に見えるが何故か口角が少しだけ上がり、とても楽しそうな表情をしていた。俺はその表情を見てこれ以上深く考えることを放棄した。


それから約15分程二人が色々と説明して漸くラッタは落ち着きを見せた、ただ、異世界の事や俺が公爵である事などは説明をしていないみたいだった。


早速挨拶をしようと三人の輪の方へ近づいて行くとその中からラッタさんだけが俺の方へ近づいて来て値踏みをする様に頭の天辺から足の爪先迄舐め回す様に視線を這わせて来た、少し居心地が悪い感じはしたが今までの会話を聞いていると二人には優しい人の様だしグッと我慢して右手を差し出し握手を求めた。


「アリヒトって言うんだけど、話は聞いてるよ、ラッタさんと呼んでも問題ないかな?よろしく。」


すると彼女は馬鹿にした様な視線を俺に向けてくると俺が差し出した手を〝パンッ〟と叩き落とし胸ぐらを掴みながら大声を張り上げた。


「はん?こんな弱そうな黒コートの怪しい奴がリノアちゃんやミアを助けられるわけが無いだろう!この()()()野郎!」


彼女がその言葉を発した瞬間、場の空気が凍りついた。


アルは完全に目を細め敵を見る様な目つきに変わっており、いつもニコニコと笑みを絶やさないミアでさえ全く笑っておらず無表情と化していた、リノアは悲しそうな顔をして俯いているし、メイドの四人はそんなリノアの事を寄り添う様に囲んでいる。だが俺は完全に忘れていた、こんな事を絶対に許すはずがない人物が一人、俺の側にいる事を…。


バンバンッと何度か地面を蹴る様な音が辺り一帯に響き渡り、その刹那、ラッタの背後にいきなり現れたアンヌはその首目掛けて何の躊躇いもなく右手に持ったナイフを突き刺す様に振り下ろしていた。


俺はラッタに胸ぐらを掴まれたままの状態で身体強化を全力で使いアンヌに怪我をさせないようにナイフを振り下ろした手首ごとそれを受け止めた、その瞳を覗き込むと完全に怒りに染まっており放っておくわけにもいかず身体強化を解くと、軽くアンヌの頭にゲンコツを落とした、そしてそのまま頭を撫でつけると表情を緩めながら口を開いた。


「全くしょうがない奴だな、アンヌは。でも俺の為に怒ってくれてありがとな?」


「い、いえ閣下、アレをお受け止めになられるとは流石です❤️」


アンヌはゲンコツが痛かったのか涙目を浮かべてはいるが頬を蒸気させ、もじもじくねくねと身体をくねらせながら嬉しそうにしていた。


そんな俺とアンヌのやり取りが終わるとタイミングを測ったかのようにラッタは腰を抜かしその場にぺたりと座り込んで茫然としてしまった。


「はぁ〜っ。ラッタさん大丈夫?」


しかしラッタは全く反応を示さなかった、すると笑みの戻ったミアが近づいてきてラッタの頬を思いっきり叩いた。


パシンッ!


そのままミアは目を大きく見開き驚きを隠せないラッタさんに笑顔を振りまきながら告げる。


「あらあら、生きててよかったわね?旦那様に感謝しなさいよ?あなた今死にかけたのよ?」


「へ?死にかけた?」


「やっぱり気付いてすらいなかったのね、あなたが旦那様を詐欺師呼ばわりするからうちの頼れるメイドさんが始末しようとしたのよ?」


ミアの発言の直後、ラッタは怯えるように瞳を震わせ、恐る恐るアンヌへと視線を向けた、アンヌはラッタとは対照的にまるで氷のような冷たく鋭い視線をラッタへと向けていた。


「ひぃぃっ!」


「ラッタ様、次に閣下を馬鹿にする様な発言をなさる時はそれ相応のお覚悟をお願い致します。」


アンヌは溜息が洩れそうな程美しく綺麗なカーテシーを見せるが、今のラッタには全くの逆効果であり、その美しさは恐怖の対象でしか無かった。更に顔色を青ざめ無言でコクコクと頷くラッタにミアが語りかける。


「あのね、アンヌはウチの人の為ならきっと喜んで死んじゃうわよ?そうよね?」


「はい、リュノミア様の仰る通りです、閣下の為ならば私は何でも致しますし、喜んでこの命くらい捧げます。」


ミアの普通ならあり得ない発言に嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら自らの死を喜びいっぱいに肯定するアンヌ…俺はその異様な光景を目の当たりにしながら軽くこめかみを押さえ、僅かな溜息を洩らす。


「はぁ〜。誰かリノアとユンナの時みたいに俺が悲しむって言ってよ〜。」

俺がガックリと項垂れると、リノアがポンポンと肩を叩いてサムズアップを見せていた。

すると何処からとも無く笑い声が響いて来た。


するといきなりラッタが大声を上げた。


「何で?何であんな___っ!」


また俺に対して何かを言おうとしたラッタへ今度はアルが殺気を叩き付けていた。


「私はアンヌ程盲目的に閣下に忠誠を誓っているとはとても言えませんが、ですがそれでも私の忠誠は閣下ひいてはリノアお嬢様とリュノミア奥様に捧げさせて頂いております、これ以上閣下を侮辱するような御発言をお続けになられるようでしたら、私も流石に、お二人のご友人と言えども見過ごす訳には参りませんよ?」

そう言った直後ギラリとアルの眼が細められた。


今にも泣き出しそうなラッタを尻目にアルは殺気を解くと、何事も無かった様に俺の後ろへと控え、いつも通りの笑みを浮かべていた。


それを見たミアは本当に可笑しそうに笑い、ラッタへと言葉を続ける。


「あらあら、ラッタまた死にかけちゃったわね?ふふっ❤️」


「くっ…。」


「それにまだ分からないの?ウチの人はあの二人よりももっと強いのよ?さっきもアンヌの攻撃に誰よりも先に反応して止めてくれたのは誰だったかしらねぇ?」


「えっ?」


ミアに言われてから気がついたのか、ラッタはこれでもかと言うほど瞳を大きく見開くと、すぐさま俺へと興味の視線を向けて来た。俺は肩を竦めいい加減に本題に入り、さっさとギルドの中へ行きたそうな表情をミアへと向ける。


ミアは一度頷くとラッタと何やら二人で話し始めた。


10分位してから戻ってきたラッタは何故か理由はよく分からないが俺へと土下座をしながら謝罪をしていた。


その姿を見るとアンヌもアルも満足そうに頷き、ミアはいつも通りニコニコとし、リノアは友人の土下座姿には動揺している節はあったが、それでも先程の様なピリピリと緊張した空気ではない事を感じ取ったのか、何処か嬉しそうにしていた。


俺だけが不可解な視線をミアへと向けると、ミアは全て話したと笑いながら答えてくれた。

俺が公爵である事、そのお陰で助けられた事、今はリノアも自分も公爵家、コンノ家の人間である事、今日はあの森へ屋敷を建てる為に、護衛の仕事をラッタとその冒険者の仲間たちに依頼にきた事、そして次に俺を馬鹿にした発言をすれば確実にラッタが死ぬ事、そのすべてを話したと胸を張りながら言っていた。

俺はそれを聞き、別に馬鹿にしたくらいでは死んだりはしないと言い掛けたのだが…アンヌへと謝罪をするラッタを見ながら、そうとも言い切れない自分に複雑な感情を抱いていた。

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