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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
61/79

61 レベリング


ベッドの上で寝返りを打つ…珍しく邪魔臭い光よりも先に自然に意識が覚醒する、頭はとてもスッキリしている、だけど身体が重い…。俺はその場で思いっきり手足を伸ばす。


「うぅーん!はぁー。今年になって見なかったのになぁー。」


久しぶりにばあちゃんの夢を見た、よく分からなかったが、何かを話しながらとても悪い笑みを浮かべて居た。


俺は重い身体をベッドから起こす。普通ならダイニングに向かうのだが…今日は寝室でタバコを一服した後で向かう事にした。


そこまで身体がキツいと言うわけでは無いが、頭と同様に身体もちゃんと起きてから向うべきだと判断したからだ。


リノアとミアのベッドへと視線を向けて見る。二人とももう起きて、ダイニングか、リビングに向かって行った様だ。


「子供って何故か休みの日に起きるの早いよなぁ〜。」


欠伸を噛み殺しながら俺は押し入れボックスからタバコと灰皿を出し、箱から一本取り出すと、口に咥えてから魔法で火を付けた。


タバコを吸いながら枕元の目覚まし時計で時間を確認して見る。時刻は7時19分だった。もう少し眠っておけば良かった。少しだけ後悔はしたが今日は念願のレベルを上げに森に入る日である。俺のチロルチョコ並みの器が唸る。


そんな馬鹿な事を考えながらタバコを吸っていると身体の方もいつもの様な状態へと戻って居た。

疲れているのだろうと俺は結論付けると適当に、タンスからジーンズを取り出してそれに着替えることにした。その際、もう面倒くさいので、着替えを全て押し入れボックスへと片付けて行った。上着も白のニットセーターだけを残し全て収納しておく。


「最初からこうやっておけばタンスが一つ浮いたのにな。」


俺は自分の頭の悪さに嘆きつつ、ダイニングへと足を向けた。


ダイニングに着くとアンヌが朝食の準備を始めていた。


「アンヌおはよう!」


俺はアンヌへと軽く片手を挙げながらいつも通りの挨拶を交わす。


「あ、閣下おはようございます。」


アンヌもいつも通りに笑顔で答えてくれる。

今更ながら、ダイニングの席は座る場所が決められている。

102号室(ダイニングルーム)の玄関から平行にテーブルが置かれており、玄関側に二人対面に二人両サイドに一人ずつの計6人掛けのテーブルだ。

 玄関を背にアル、アンヌの順で座り、アルの対面にリノア、アンヌの対面にミアが座る。俺の席はミアとアンヌ側の1人掛けの席になっている。


いつも通りに自分の席へと腰掛けると早速アンヌがコーヒーを持って来てくれた。


「ありがとう。」


俺は礼を言いながら、目の前に置かれたコーヒーへと口を付けた。

アンヌは了承する様に微笑んだ。


「それで、リノアやミアはどこに居るの?」

俺は周囲を見回しながらアンヌへと問い掛ける。


「奥様とお嬢様でしたら、森の方へ行かれてますよ?朝の体操を為されているはずです。

アンヌはそれだけ答えるとすぐに朝食の準備へと戻って行った。


それからスマホを確認して見ると須藤からLIN◯が届いて居た。

『先輩、今日のデートの時のお勧めのお店知らないっすか?』


お勧めのお店ってなんだよ?飯か?

俺は首を傾げながら、思った通りの返信をしておく。


『メシ?』

すると1分もせずに既読が付いた。

コイツ待機してるのかよ、俺は頬杖を突きながらそのままスマホの画面を見つめる。


『そうっす!』


『オシャレなお店とか求めてるなら聞く相手間違えてるぞ!』


『了解っす!ファーストフードとかだと機嫌悪くなるんすよね。』


『ふーん。意外だな。まぁ頑張れ。』


『朝からすみませんっす』


俺は内心〝本当にそうだよ〟と呟き、今のやり取りの事を少しだけ考えていた。


(しかし、さゆりんファーストフードで怒るって意外だな。)


そんな事を考えていると、リビングの方から二人が戻って来た。

二人はまるで何処かのアスリートの様な格好をしていた。


「見た目が良いと何着てても様になって羨ましいよ。俺がその格好だときっと朝からパチンコに行く人か、ニートにしか見えないよ。」


俺がそう呟き肩を竦めていると、ミアが声を掛けて来る。


「あら。あなたおはよう❤️汗掻いちゃったから着替えて来るわね。」


「おはよう。もう朝食出来るみたいだよ。」


ミアは俺の言葉に軽く頷き、寝室の方へと姿を消した。俺はそれを確認するとすぐに視線をリノアへと向ける。


「おはよう。リノア、体操どうだった?」


「おはよう!パパ!今終わったよ。」


そう告げたリノアは今までやっていた体操を披露し始めた。


「ふー。ほー。はぁー。」

リノアはまるでどこぞの中国拳法の達人の様な動きを見せ始める。


俺は思わずコーヒーを吹き出す。

「ぶほっ!ゲホゲホッ!」


リノアは呼吸を整えて一度瞼を閉じた後、ゆっくりとその瞼を開く。それと同時に話し始めた。

「パパ、汚い!」


「いや、それさ、体操って言うか太極拳じゃん。」


「そうそう、ネットで見つけて今ママと二人でハマってるの!」

ふふん♪と鼻を鳴らし目の前に対戦相手でも居るかのような動きを見せ始めた。


「やぁーっ!」

リノアはその場でジャンプするとクルクルと回し蹴りの様なポーズを見せる。


「お前のそれは体操じゃねーよ、演武だろうよ。」

俺はそれだけ呟くと今のリノアは見なかった事にしてコーヒーを飲み続けた。


しかし、子供って本当に凄い。昨日あれだけミアから怒られても次の日にはケロッとしていられるんだな。

ただ昨日のリノアはウサギがどうだと可笑しな事ばかり口走っていた。さっさと謝れば良いのに、要領の悪い奴である。


そんな事を思っているとアルもダイニングへと顔を出した。


「アル、おはよう。」


「あ、閣下。おはようございます。」

アルはやはり昨日怒られた事が尾を引いているのか何処か元気がない。

うん、普通はそうだよ。


「アル、おはよう、元気無いけど何かあったの?」

ケロッとした顔でリノアが問い掛ける。


「あ、いえ。お嬢様おはようございます。」

やはり何処か元気の無いアルを見ながらリノアは小首を傾げる。

リノアの中ではもう昨日怒られた事等、無かった事になっているらしい。


それから直ぐにミアが合流し、アンヌが作ったものをアルが配膳する。いつもの食卓風景である。


だが、今日は少しだけ違う。俺はレベルを上げに約束通り森へ行ける事になり、実はこっそり朝から張り切っていたのだ。


皆が揃っているので丁度良いと思った俺は一緒に行く人がいないか一応念のために聞いて見る事にした。

たが、一様に皆の反応はあまり良くは無かった。ミアは日本の事を知りたいらしく、自分で色々な場所へ行けるようになる為に日本語の勉強をするとの事だった。


リノアはミアの勉強に付き合うと言うし、アンヌは強引について来ようとしていたが祖父に何かあった場合に備え、連絡の付かない場所に行かない方がいいとミアが何とか説得をして渋々諦めていた。


因みにアルはいつも通りにリノアの護衛がありますのでとそれはそれはとても嬉しそうに答えていた。


「はぁ、仕方がない今日は諦めて一人で行くかな…。」


そう呟いた俺はキッチンへと向かうと押し入れボックスの中にペットボトルのお茶2ℓ6本入りをダンボール2箱、カロ◯ーメイト、他に腐りそうにない缶詰、あとは救急キット等を適当に詰め込んだ。


更にここで一つ実験をして見る事にした。この押し入れボックス余りにも便利だが、時間の経過は如何なのだろうかと言う事だ。


そう思い立った俺は調べる為に、やかんに水を入れ火にかけお湯を沸かす事にした。最初魔法でお湯を入れてしまおうかとも考えたがまだ他に準備もあるのでお湯を沸かしながらその間に別の用事を済ませて行く事にした。


早速お湯が沸く時間を利用して何か他に持っていくものが無いのかを考える。


武器はミスリルの槍がある。防具は昨日買ったばかりの黒いコートにブーツ、救急キットも入れた、魔力や体力ポーションもベルトは使わないが押し入れボックスに五本ずつ入っている。残りは家族用に家に置いておく。


他に何か忘れ物がないかを考えていると一つだけ持って行った方が良い物がある事に気がついた。


俺はすぐにアルへと了承を得て、104号室(アルの部屋)へと向かい押し入れを探し始める。


「確かここに入れておいた筈なんだけどな…。」


俺は目につく周囲のよく分からないダンボール箱を外へと運び出す、何度かそれを繰り返していくうちに、目的のナイロンの袋を発見した。その奥にはもう一つ小さめの袋もあったので一緒に引っ張り出してみる事にした。


「あった、あった。でもこの小さい方の袋何だったっけ?」


大きめの袋の方は見覚えがある。以前、付き合いで購入する事になった一度も使った事がないテントである。もう一つは正直見覚えがなかったのだが、取っておいた自分を褒めてあげたい。


「あ〜これ寝袋じゃん、使えるな!」


流石に一度も使っていないのでかなりカビ臭さは漂っていたが、無いよりはマシだろうと早速押し入れボックスへとしまう。ファブリ◯ズは三本くらい入れてあるので問題無いはずだ。


先程出したダンボールを押し入れへと片付けてキッチンへと戻る。

〝シュンシュン〟とかなり大きな音が部屋中に響いていた。俺は慌ててやかんへと駆け寄るとコンロの火を消す。やかんの口からはかなりの量の白い湯気が立ち昇っていた。


俺はすぐにそのやかんを押し入れボックスにへと入れる。


これでお湯のままだった場合時間は止まると考えてもいいだろう。


「しかし、火を使うのに部屋を移動しちゃダメだったな、誰かいると思って油断してた。」


そんな独り言を呟きながら最終確認をするように周囲を見渡し、頭の中でもう一度忘れ物が無いかチェックをした後、納得したように頷き準備の終えた俺は早速出掛ける事にした。


「それじゃ行って来るからな〜。」


しかし、なんの反応も無い。皆何処に居るのかと周囲を見回すが見つける事が出来無かった。

寂しを感じつつも、俺はリビングから森へと出て行く。


すると如何やら皆外にいた様で、俺が出掛けると気付き、バタバタと色々な場所から集まり始めた。大袈裟だと思いながらも何だか嬉しくなり思わず口許が緩んだ。


「閣下行ってらっしゃいませ、リノアお嬢様と奥様のことはお任せください。」


「閣下ご一緒出来ず、申し訳ありません。祖父が完治次第、次こそは絶対にご一緒させて頂きます。」


「パパ、気をつけてね!無理しないでよ?」


「あなた、本当に気を付けてよ?危なくなったら逃げなきゃ駄目よ?」


皆、何だかんだ言って凄く心配そうな表情をしていた。


だから俺は安心させるように微笑みながら「行ってきます!」と大声で告げてからら森の家を後にした。


〜〜〜〜〜


出発してから二十分程経っただろうか、その間、ゴブリンにしか襲われる事はなかった。俺はこのレベルアップの仕組みがよく分かっていないのだが、仮に経験値と言うものがあったとして、レベル差があり過ぎるとゲームの様に経験値が貰えなくなるとか言う仕組みだとゴブリンを討伐する事は全くの無駄だと言う事になってしまう。


「ふーむ。もう少し強くて、レベルの高い魔物を狙うべきだよな。あんまり行きたく無いんだけどなぁ。」


そう呟いてから俺は森の奥の方へと進んだ。


それから更に15分後、余り良いイメージの無い場所に俺は立っていた。


「この木絶対あの時傷がついたんだよな…。しかし、この辺りに来るのもあの狼の時以来だな。」

俺は周囲を警戒しながらそんな懐かしさを口から洩らす。


するとすぐに大きな反応が幾つか探知に引っかかった。その反応はいつもの数倍は気持ちが悪くネバネバと纏わり付いてきた。


今回の目的はレベル上げなのだから好都合では有るが、この場所のせいだろうか、少し憂鬱な気持ちにもなった。


注意しながら反応のあった先へ向かうと、そこには豚のような顔をした魔物がおり、更に建物の様なモノも確認する事ができた、もしかしたら集落なのかも知れない。


いきなり未知の魔物の集落は不味いかもと考えたが取り敢えず鑑定を掛けて見る事にした。



【名前】オーク

【Level】59

【性別】オス

【種族】魔物

【状態】良好

【体力】2582/2582

【魔力】1385/1385

【力】451

【素早さ】296

【防御力】388

【スキル】性豪Lv5 絶倫Lv5 槍Lv1


「これがオークか…レベルは59。それがいち、にい、さん…六匹ねぇ、身体強化を使えば普通にやれそうだな…ミスリルの槍も使ってみたいしなぁ。」


俺は腕を組み少しだけ考えてみた。もう以前の狼戦の時の様に何も分からない状態では無い、それに身体強化を使えば明らかに敵では無い…。


「ふむ、よし!殺ろう!」


そう決断した俺は素早く押し入れボックスからミスリルの槍を取り出し、身体強化を身に纏うと迅速に敵へと向けて駆け出した。


俺の接近に一応はオークは気づけたが急襲を受け完全に不意を突かれ無防備を晒す。


チャンスとばかりに俺はミスリルの槍の柄の部分へと魔力を通す。

『うおっらっ!』

ブンブン!

両手で握り締めたその槍の柄を振り回すようにしながらオークの顔面へと叩きつけた。

バキバキッ!


「ブフォー!」


避けることも身構えることもできず無防備な状態で顔面に全力の魔力を纏ったミスリルの槍の柄をまともに受けたオークは聞くに耐えない叫び声を上げるとそのままぴくぴくと痙攣を始め、口からは白い泡を噴きだし絶命していた。その身体からは顔を歪めてしまう程の悪臭を漂わせていた。


俺は思わず鼻を摘みながら叫んだ。

「オークって滅茶苦茶くせぇ〜!」


その後すぐに仲間と()()叫び声で襲撃に気づいた別のオーク共が各々、槍や棍棒等を手に俺へと襲いかかって来た。どの武器も単純に太めの枝や木を簡単に削ったモノに尖った石や少し丸みを帯びた大きめの石を取り付けただけの様な簡素な作りだった。俺が武器に鑑定をかけていると1匹のオークが行動を開始した。


俺の頭部を目掛け、重量感の溢れる音が響いた。


ブンッ!


「うわっ!あぶねーだろ!」

バゴンッ!!

俺はその振り下ろされた棍棒を槍の石突き部分で砕く。


そのまま反撃に転じようとしたがすぐさま別のオークが槍の矛先で力強く突きを放って来た。

「ブヒヒヒヒッ!!」

シュッ!


「おっと!」

ガキンッ。

俺は両手に持った槍の柄の部分でそれをいなし、いったん距離を置くように後方へと回避した。


「ふーっ!さすがにゴブリンみたいにはいかないなぁー」


視線だけでオークを観察してみるが、どのオークも俺を殺すことだけしか考えていない様な血走った眼で睨み付けていた。


一瞬ぶるりと悪寒の様なものを感じたが、俺は意識を戦うことへと集中させる。


その場に槍を構え重心を落とすと更に〝ブンブン〟と音を響かせる様にしながら槍を何度も右手で振り回す。


挑発されたとでも思ったのか四匹のオークが良く分からない奇声に近い声を発しながら〝ドスドス〟と足音を響かせながら俺へと走り寄って来る。


俺はその近寄ってきた先頭を走るオーク目掛けて遠心力のたっぷり乗った重い一撃を叩きつける様に解き放った。


「はぁぁぁぁっ!!」

バキバキッ。グチャグチャ。


「グホォォォォォッ!!」


俺の放ったその槍はオーク顔面を捉えて一気に目の前のオークを吹き飛ばす。


吹き飛ばされたオークは頭部の半分を失いながら更に後ろの二匹を巻き込みその後ぴくりとも動かなくなった。


俺はすぐ様、巻き込まれた二匹のオークを追撃すると、未だ起き上がっていないオークの首や胸を目掛けてミスリルの矛先を突き入た。


ザシュッ!

「グゴォォォッ!」

グチュッ!

「むほぉぉぉおっ」


首や胸を貫かれたオークは最初こそ動き出しそうにビクンビクンと体を震わせていたが徐々にその動きも無くなり、最後には完全に沈黙していた。


「もう一匹どこかな…」


そう呟いた俺はすぐさま残りの一匹の居場所を把握すべく、すぐに周囲の確認に入った。


残りの一匹はまるでその場で踊る様に飛び跳ね、先程俺が槍を振り回していた辺りで威嚇する様に棍棒を地面へと叩きつけていた。


ダンダンダンッ!


俺はその様子を確認すると両足へと思い切り魔力を込め、空を駆けるかの如く木と木の間を足場にしながら目的のオークを目指した、そして相手の頭上に到着するや否や、どこかの竜騎士のように、槍の矛先を自分の足元へ向けそのままオークの頭へと突き刺した。


ブシューッ!

「プギャァァァッ!!」


突き刺した直後奇声にも似た叫び声を残し、そのオークは命を散らした。だが勢いをつけたミスリルの槍はオークの頭部を貫くとその勢いのまま身体ごと真っ二つに切り裂いていた。


「うわ、グロい…。」


一瞬目を背けた俺の頭の中に久しぶりに声が響く。


『レベルアップ、レベルが31になりました。槍スキルのLvが6に上がりました。』


「おー3も上がったのかよ!あと4でミアに追いつくじゃん!」


レベルアップした事につい頬を緩め喜んでいるとふと違和感に気付いた。


(そういや、6匹いなかったっけ?あと1匹どこ行った?)


だがいくら周囲を確認してもその残りの1匹は周辺では確認する事が出来なかった。


(ふむ、逃げた…?)


嫌な感じを拭きれない俺は、念の為に警戒は解かずにそのまま先程のオークから魔石を取り出す事にした。


押し入れボックスへと魔石を直そうとした時、やかんの事が頭を過ぎる。


「あーやっぱり水に戻ってる…時間は過ぎていくみたいだなー残念。」


時間が過ぎるという事に内心舌打ちをしつつそれでも一点だけ良い点にも気が付いた。


「お?水自体は溢れてないっぽいな。そのまま猪本君入れても血塗れにならないで済むかも知れん。」


確認を終えると俺はやかんを押し入れボックスへと仕舞いそのまま周辺を歩いてみる事にした。


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