60 ラビぴょん
私はとあるおもちゃメーカーに勤めておりイベントの企画担当を生業としている。主に宣伝の仕方を考えたり、企画部の人達と新作のおもちゃのネタになる様な情報を集める為、子供達を招き欲しいものや流行物のリサーチのお手伝いをしたりが主な仕事内容だ。
その日も軽い気持ちで、現場と言うか自社ビル前へと顔を出していた。今日はここで親御さんを交えての小さなアンケート調査の様なものがこれから行われる。いつもの様に子供達へと配る風船やお菓子のチェックをこなして行く、特に問題は無い。
私は全ての物品のチェックを終え、ビルの中へと戻りかけた。
「チーフ大変です。」
その時一人の女性社員から声が上がる。
私は戻りかけた足を止めて、声を上げた彼女へと視線を送る。彼女は見るからに慌てており、何やら問題が発生したことは傍目から見ても想像に容易かった。
彼女は必死で何かをチーフへと伝えていた。周囲の皆も気になったのだろう。軽い人集りが出来つつあった。
私も気に掛かり、その人集りへと近づいて行く。
耳を澄ませて話を聞いてみるとどうやら着ぐるみ担当の人が急に辞めてしまったと言うのだ。
全く大事なイベントでどうせアルバイトでも雇っていたのだろう。そこで小さく溜息が私の口から洩れた。
更に詳しく話を聞いてみると、その急に辞めた人はどうやら160cm程の痩せ型の女性だったらしい。
私は周囲を見回してみる。このイベントのチームには痩せ型の女性は私しかいない、皆太っているわけでは無いがポッチャリとしている。しかも私は身長162cmである。
その事に気付いた時嫌な汗が私の背中を伝って行くのを感じた。
私は自分の持ち場では無い為、早々にこの場から立ち去るべきだった、しかし気づいた時にはもう遅いどうやら決断をまた間違えてしまった様だ。
現場は騒然となっていく。皆口々に困ったと告げる。今日の所は宣伝目的な為大きなイベントではない、しかし、このラビぴょんは当社のマスコットキャラクターであり、決して欠員させるわけにはいかない。
解決方法はある…。ただ皆口にしないだけ、それでも視線は私へと突き刺さってくる。
私は巻き込まれない様に必死に視線を逸らし続けた。何か少しでも反応を見せてしまえばそのまま流されてしまうだろう、だから私はまるで女スパイの様にその場に紛れつつ、離脱を試みる。
しかし…先程チーフと呼ばれていた男性の社員が完全に視線を私へと固定しながら話しかけて来た。
もう逃げられない、私はこの時に全ての事態を把握しこれから私に降りかかって来る厄介ごとに絶望を禁じ得なかった…。
「話は聞いていたよね?申し訳ないんだけどラビぴょんの中に入っては貰えないかな?」
口では申し訳ない等と言いながら、断れない事もまた同時に彼は理解しておりその表情には明らかに喜色を浮かべていた。
「…わかりました。」
私は結局この理不尽な圧力に早々に屈し諦めたながら頷いた。
「いやぁーそうかい。助かったよ。悪いけど準備急いでね。」
チーフのその喜びに満ちた声音を皮切りに周囲の人間もホッと胸を撫で下ろして行く。それはまるで伝染病の様に周囲の人間の表情を笑顔へと変化させて行った。しかしどうやら私にはその喜びウイルスは感染しなかった様で対照的に私の胸にはモヤモヤとした何かが居座り続けた。
そんな事を考えていると私の元へ先程慌てふためきながらチーフへと報告を行なっていた女性社員が現れた。彼女の顔にも安堵の色が漂っており、私は思わず厳しい視線を彼女へと浴びせてしまう事になった。彼女も理由は分かっているのだろう、特に何も言わずただ苦笑いを浮かべ続けていた。それでも〝助かった〟そう表情が物語っていた。
結局そうなのだろう、誰かが犠牲になる自分じゃなければそれで良い、単純明快である。
その後すぐに私は控室へと案内を受けた。
控室までの道すがら彼女は私のご機嫌伺いをしきりに行って来た。
可愛いと思いますだの、きっと似合いますだのと正直耳障りだった、そこまで言うなら自分が着ればいいのに、そう言う視線を腹いせに向けてやった。彼女のプロポーションでは無理なのだろうが、何故だろう。今回に限って全く勝った気がしないのは…。
案内してくれた女性は私の怒りを感じ取ったのか、部屋の前まで来ると足早にこの場から立ち去っていった。
その姿を見て私は複雑な気持ちにはなったが、アルバイトを起用したのは彼女か少なくとも何かしらの関係者である事に間違いはないのだろうと思い立ち、同情の気持ちは全く湧いて来なかった。
早速控室の中を覗き込んでみる。
中にはラビぴょん…ピンクのウサギの着ぐるみが長テーブルの上に置かれており。頭、動体、手袋、靴に分かれていた。
「冬場で助かったわね。」
見るからにふわふわの毛並みの着ぐるみを見ながら私はそう呟いた。
このまま立ち尽くしていても仕方がない為、私は着替える決意をする。
「仕方が無い、大事な仕事。仕方が無い、大事な仕事。」
自分に言い聞かせる様に何度も私はそう呟く、その時ふとある人の顔が私の頭を過ぎる。
「そう言えばいつもこうやって言い訳してたなぁ〜。」
思わず私の口許が緩む。
私は思い出を振り払う様に一度頭を揺らすと、目の前の着ぐるみに袖を通した。
着て見て気付いたのだが、中は身体にピッタリとフィットする様に作られており、どうしてこれをアルバイトの人に合わせて作ったのか正直理解に苦しんだ。
そこで私はハッとした〝辞めた〟そう聞いた時には簡単に辞める決断を下すなんてアルバイトだろうと勝手に決め付けていたがもしかしたら社員だったのかも知れない。
それに簡単に辞めたと言うのも私が勝手にそう決め付けただけだ。やむを得ない事情が何かあったのかも知れない。そう考えて私の口から乾いた笑みが洩れた。
「なんだぁ。私も皆と同じか。」
〝誰かが犠牲になる自分じゃなければそれで良い〟
結局自分がハズレクジを引いてしまったから被害者顔して、笑顔になる皆を妬んでいたが、自分が当たりを引いていれば同じように笑顔を浮かべていただろう。
しかも辞めたのがアルバイトだ社員だと気にも留めなかった筈だ。
余計な事に気が付いてしまい自分の言葉が自分自身に思わず突き刺さってしまった。
それから私はラビぴょんの頭を持ち上げ、醜い心を自分の中から押し出す様に深い溜息を吐いた。
準備を終えた私は自社ビル前へと戻っていた。
チーフからラビぴょんとしての話し方や、子供達への接し方、特に頭を絶対に取ってはいけないと言う説明や注意事項を受けた。
その後私はイベント様に張られたテントの方へと移動して頭の中でラビぴょんの話し方を何度か復唱していた。
すると男性社員が近づいて来て宣伝用のプラカードを渡して来た。
「それを持って周囲を歩いて来てくれってさ。」
それだけを告げると男性社員はテントから出ていってしまった。
帰り際、テントを出てすぐに自分じゃ無くてよかったと他の社員の人達と話している声が聞こえて来た。
しかし、私はそんな事よりも聞きたい事がまだあったのだ。
「周囲って一体どの辺りまで歩けばいいのよ?」
思わず今現在自分がラビぴょんである事を忘れてしまい、素の言葉が洩れる。
ラビぴょんに成りきる為の道のりはまだまだ険しそうだ。
〜〜〜〜〜
それから私は自社ビルの住所や今後行われるイベントの日程、時間などの書かれたプラカードを手に持ち言われた通りに周囲を歩く事にした。
すると『うわぁぁぁぁっ!』と言う地鳴りにも似た物凄い叫び声が私の耳に直撃した。
私はその叫び声にビクッと全身で驚き、何事かと周囲を見渡した。すると道路を挟んで向かいの路地、ミス◯のある方にとてつも無い人集りが出来ていた。
「え、何あれ?芸能人か何か来てるのかなぁ?」
私はそう呟くと、少しだけ個人的に応援している芸能人が来て居ないか等と心を浮つかせながらその人集りの方へと行って見ることにした。
しかし、その人集りは思いの外手強く、着ぐるみ姿の私では後列から中の様子を覗き見する程度が関の山だった。
しかし、こんなに凄い人集りを作ってしまう芸能人は一体誰なのだろうと好奇心を抑えきれずに、その雪崩のような人混みの中へ私は身を投じていった。
「はぁはぁ…こ、これで見えるでしょう!」
何度か挫折しそうに成りながらも何とか中列のポジションを勝ち得た私はラビぴょんの頭の内側でとんでも無いドヤ顔を晒しつつ人集りの中心部を覗き込んだ。
しかし結果は…落胆、その一言だった。芸能人でも何でも無く執事服を着た人が皆から写真を撮られている姿しかそこには無かったのだ。
「なぁーんだ。コスプレイヤーの集いだったかぁ。」
着ぐるみの上からでも分かるほど私は肩を大きくと落とし、トボトボとその場から立ち去ろうとした…その時だった。
凛として透き通る様な声が私の耳元へと届いた。
「自己紹介が遅くなり申し訳ございませんでした。私リノア・フォン・コンノと申します、コンノ公爵の第一子にございます。」
ドキリと心臓の跳ねる音が確かに聞こえた。それからすぐに私は中心部へと視線を再度向ける。
中には先程の執事の人の他に五歳か六歳位の女の子の姿があった。
「あの子が今話した子だよね〜。」
理由は分からない、だけど目が離せなかった。私は気が付くと最後尾まで押し戻されていた、それでもしっかりと彼女の姿だけは確認することが出来た。
それから10分位だろうか?人集りが段々と減り始めたのだがその間、彼と彼女はずっと呆然と立ち尽くして人数に圧倒されている様に見えた。
私は圧倒されてしまうのならあんな貴族風の言い回しをして煽らなければいいのにと思わず彼女のお茶目な部分に勘付き、クスリと笑みを洩らした。
色々な意味で彼女に興味を持った私は彼女とどうしても話したくなってしまい思いきって声をかけて見ることにした。
どうやって声を掛けようか、いきなり声を掛けるのは不自然じゃ無いだろうか…。
私は思わず頭を抱え…られなかった。私は今ラビぴょんだったのだ。
それに気付いた時、同時に話しかける方法も思い付く、思わずウサギの頭の内側でニヤリと笑みが洩れる。きっと物凄く悪い顔を私はしている事だろう。
「お嬢ちゃん大丈夫ぴょん?辛かったんじゃ無いぴょん?」
「ひぃぃっ!!」
私は方法が見つかった事に、はやる気持ちを抑えられず思わず彼女の背後から声を掛けてしまう。
彼女はまだ呆然としたままだったらしく、変な声を洩らしていた。きっとかなり驚かせてしまったのだろう。
失敗したとは思ったが私はこのままラビぴょんとして接触を試みる事に決めた。
私は出来るだけ不審にならない様に可愛らしいウサギの演技を心掛けた。
「あはは、ごめんぴょん?心配だっただけだからそんなに怯えなくても大丈夫ぴょん?ほら、こっち見るぴょん怖くないぴょんよ〜?」
ウサギに見える演技とは何か…一瞬の閃きが私に訪れる。そう、私はウサギの様にその場で飛び跳ねた。
しかしどう言うわけか振り返った少女はあからさまに訝しむ様な眼差しを私に向けて来た。あれ?私ウサギっぽく無い?可愛くなかった?
そんな時だった目の前の少女は彼とは似ていない…そう感じてホッとしている私がいる事に気が付いた。
内心複雑な状況の私を他所に彼女は更に言葉を続ける。
「昼間からウサギの真似をしている変質者はお断りさせて頂きます!パパに怒られてしまうのでごめんなさい!」
彼女は右手を前に突き出しながら私に対してそう言い放った。
そこでまた色々な感情が私の中で交錯する。
顔は似ていないのに何処か似ている気がする。それに変質者って私のことだよね?
絶賛プチパニック中である。ウサギの内側の私の更に内側では緊急会議が開かれる事態に陥っていた。どれから片付ければ良いのか分からない、そんな私を他所にまたしても彼女はどんどんと展開を進めて行く。今度は既にこの場を立ち去ろうと歩き始めてしまったのだ。
それだけは阻止しないと彼女と話せなくなってしまう。
「えっ。ちょっと待って、待つぴょん違うぴょん!考えてるような人と違うぴょん!」
そう考えた私は緊急会議を一時中断させると慌てて彼女の後を追いかける…そして転んだ。
「痛〜っ!」
自分の右足に左足が引っかかってしまうと言う初めての経験だった。
だがこれは幸運だった。
彼女は優しい娘なのだろう。転んでしまった私を心配してくれたのか、立ち去ろうとしていた足を止めて呆れた様な表情をさせながら待っていてくれたのだ。
「ハァハァ…ま、待ってくれてどうもぴょん。」
彼女はやはりジトッとした眼差しを私へと向けて来た、そうなるだろうなぁとは考えてはいたが怪しいとは思いつつ待ってくれるこの娘に思わず心配から苦笑いが洩れた。ウサギの頭の内側だから大丈夫、失礼じゃ無いはず。うん、バレて無い。
「はぁー。それでどう言ったご用件でしょうか?」
「偶然見掛けて何か困ってたみたいだったぴょん。それで気になったぴょん。」
私は半分嘘を付いた、偶然見かけたのは本当だけど、心配で声をかけたと言うのは嘘だった。
それから着ぐるみを最大限に利用して彼女の事を注視した。
良かった、やはり思った通り顔は全く似ていない彼の子供では無いはず、そう考えて少しだけ落ち込む、今更そんな事を考えてどうすると言うのだろうか?それに年齢を考えてみても、彼の子供の訳がない。どうやら私は自分で思っているよりも冷静さを欠いているのかも知れない。
それから私は彼女と予定通りに色々と話をした。彼女と言うよりも執事の方はコスプレイヤーでは無く本物の執事さんだった。どうやら彼女は演技であれをやっていた訳では無く本物のお嬢様だと言う事になる。
本物のお嬢様と執事ならあの騒動になっても仕方が無いのかと私が笑っていると彼女は声を掛けて来た。
「あの、やっぱりパパがいうように日本には貴族はいないのでしょうか?」
「いないぴょんよ?君のパパはなんて言っていたぴょん?」
「日本には、庶民しかいないって言ってました。」
「また大雑把なお父さんぴょんね、まぁー間違ってはいないぴょん!」
また彼の顔がチラついてしまい思わず頬が緩む。今回はそれだけには留まらず笑い声まで上げてしまった。
だが次の質問に嫌な汗が背中を伝って降りて来た。
「あの…もう1ついいですか?私達が困ってそうなので声を掛けてくれた事は分かったのですが…そのどうして心配してくれたんですか?」」
お嬢様って皆この年齢でここまで賢いのだろうか?やはりお金があれば教育も行き届くのだろうか?どう見ても彼女は五、六歳だ。私がこの年齢の時は〝助けてくれてどうもありがとう〟位にしか間違いなく思わなかっただろう。
言える訳がない単純にあなたに色々と興味が出て、接触する事で自分を安心させたかった等とは…。
私はラビぴょんである事を一瞬忘れてしまい、額の汗を拭おうとしてウサギの頭のを落としそうになる。
内心またパニックの私に彼女はどうしても知りたいと詰め寄って来た。私はどうしようかと決め兼ねていたが口を開かずをえなくなった。
「君は、リノア・なんとか・コンノちゃんって言うぴょんよね?日本だとこんのリノアちゃん。」
リノアちゃんは静かに幸せそうに頷いた。そんなリノアちゃんを見て羨ましい、私はそう思ってしまった。そして気が付いたら私はその感情を誤魔化す様に自分をラビぴょんだと名乗りその場で飛び跳ねていた。
そんな私をリノアちゃんは一瞬イラッとした表情で見て居たが、もう私が話す気が無いと感じ取ったのだろう。すぐに平静を装い挨拶をして来た。本当に聡い子だと思う。
それに対して何て私は無様で情け無いのだろう…自分自身が本当に嫌になる。
その後も少しだけ話を続ける事にした。だがその直後思いもよらなかった光景が私の視界に飛び込んできた。
いつの間にか手放していた宣伝用のプラカードがバラバラに砕け散っていた。一体いつだろう、人の雪崩に飛び込んだ時かな、私はウサギの頭を抱えながら思わず蹲ってしまった。
あれ弁償になるのかな…。そんな事を考えているとリノアちゃんが小首を傾げていた。私はリノアちゃんに心配をさせない様に何でもないと軽く手を振ってから話を振って見た。
その後お父さんの話になり自分の醜さを思い知る事になる。
なんとリノアちゃんのお父さんはリノアちゃんに嫌われたと勘違いをして泣き出したと言うのだ、私はすぐに面倒くさい父親だなと感じてしまい、そのままの感情をリノアちゃんに伝えてしまった。
「えーっ。泣いちゃったのかぴょん?じゃあ本当に面倒臭いなって感じなのかなぴょん?」
私の言葉を聞き、リノアちゃんはきょとんとしながら私を見つめていた。
私はリノアちゃんの表情の意味が全くわからなかった。だからストレートに聞いてみた。
「リノアちゃん、どうかしたぴょん?」
「いえ、なんと言っていいのか分からないんですが、きっとラビぴょんが思っている面倒臭いって言うのとは違うと思いまして…。」
だがリノアちゃんの答えを聞いても益々私には分からなかった。
「えーっとですね、面倒臭いけど、嫌じゃ無いと言うか…。」
ここまで言われて私はやっと気がつく事が出来た、リノアちゃんと話していると本当に自分が醜いと感じてしまう。
「あ、何と無く分かったぴょんよ。わたしの面倒臭いには嫌だな嫌いだなって言うニュアンスが確かに含まれちゃってたぴょん。ごめんね?リノアちゃんはパパが大好きなんだぴょんね。」
「はい!世界で一番大好きです!」
リノアちゃんは瞳をキラキラさせながら真直ぐに好きだと答えた。あぁ、そうか…きっと私にはこのキラキラが無かったから間違った選択をして一番大切な人を失ってしまったのか。
「そっか、本当に素敵な人なんだね、リノアちゃんのパパは…本当に御免なさい。」
勿論、子供と大人その純粋さは全然違うだろう。それでも失ってはいけないモノも確かに存在し、私はいつの間にかそれを失って居たのだろう。
本当に私はいつも間違える。
「ごめんね、リノアちゃんわたしお仕事行かないと、また何処かで会えるといいぴょんね!」
私はこれ以上自分の醜さを直視するのが怖くなってしまい無理してサムズアップをすると逃げる様にその場を走り去った。
〜〜〜〜〜〜
それから私は自社ビル前に戻り、集まってくれた子供たちに風船とお菓子を配って回った。
リノアちゃん相手にラビぴょんをやっていたせいか、何と言うか何故あそこ迄嫌がっていたのか自分でも分からないくらい簡単だった。それに子供たちの相手をしていると先程改めて気付いてしまった自分の心が洗われていく様なそんな気持ちになって来る。
今回はステージなども無く親御さんとお子さん二人への簡単なアンケートと風船やお菓子を配るくらいのモノだったのですぐに終えることが出来た。
私は着替えに戻りたかったが来場者が捌けるまで念の為にテントの方で待機しておこうと中でゆっくりしているとチーフが手揉みをしながら満面の笑みで近寄っ来た。
「あ、藤川さんお疲れ様。君、ラビぴょんうまいね!コレからも続けてくれないかな?」
「えぇ、別に構いませんよ?」
「本当に?いやぁー助かるよ!君以外もう出来ないって皆も言ってたからさ〜。何ならネーム付けといてもいいよ?」
「あ、皆もお疲れ、お疲れ!」
私が何か答える前にチーフは周囲に挨拶を飛ばしながら上機嫌でテントから出て行った。
私はそにまま15分くらい来場者が捌けた事を確認してからラビぴょんが置いてあった、更衣室別にと戻り着替えを済ませた。
着替えてすぐにスマホから着信を告げる音が鳴った。
間宮龍太、彼氏からの着信だった。
私は何故有人を裏切ってこんな男と付き合っているのだろうか?
そんな事を考えながら通話ボタンをタップした。
「もしもし?」
「あ、愛子?明日休みだろ?今日店終わってから家こねぇ?」
「うーん。店終わりって事は1時か2時でしょ…今日は疲れちゃって無理かな?」
「良いじゃん、会いたいんだよ!」
「…分かった。」
「お?マジで?じゃあよろしく!」
ツーツーツー…。
私が疲れていようが関係が無いらしい。
あまりの身勝手さに逢いたいのでは無くヤリたいの間違いだろうと思わず口に出してしまいそうになった。
彼は有人とは全然違う…何が違うとかじゃ無く全てが違う。
だけど付き合ってる。結局一人が寂しいから。
私はいつも間違える。大事な人さえ間違える。




