56 武器屋
防具屋を出た後、俺たちはすぐに武器屋へと向かったのだがかなり入り組んだ場所に店が存在していた為ミアとアンヌが居るにも関わらず迷ってしまった。
二人に話を聞いてみると、どうやらここ最近出来た店なのではないかと言う話で、ミアやアンヌもこの武器屋に行くのは初めてだと言っていた。
しかし…この場所は流石に無いだろうと思う、完全に街中から外れており、おまけに店の入り口以外はほぼ外壁に囲まれていてハッキリと言って一人だと辿り着けていないだろう。
外観も先程の防具屋とは全くの真逆で、木の柱と言えばいいのか、骨組みが剥き出しになっており、物置のような小屋と工場。それ以外の言葉が見つからなかった。工場からは煙が上がっておりカンカンと金属を叩くような音が響いて来る、きっと作業の真っ最中なのだろう。
俺が作業の音に耳を傾けているとアンヌが声をかけて来た。
「閣下着きましたよ。」
「よし入るか!」
店内は色々な武器が飾られており、すぐに俺の目を愉しませてくれた。
ただ、剣と言うよりは刀と呼んだ方がいいと思われる形状の物が数多く見受けられ槍やナイフ、片手剣も数はそれなりに置いてはあったのだが…残念ながら値打ち物いわゆる業物的な物は置いてはいないように思えた。
この店の雰囲気や立地的に隠れた名店みたいな感じに業物が一つくらいあるのでは無いかと密かに期待してしまった為思わず落胆の溜息が洩れた。
その時、奥の方から先程も外で聞こえていた金属を打ち鳴らす音が店内にも響いて来た。カンカン…カンカン…。
俺は気になってカウンターの奥の方を覗き込んでみる。どうやら小屋のようなこの店と工場は中で繋がっているようで更に視線を奥の方へと向けていくと、そこには頑固そうな黒髪の男が何か作業をしている姿が見えてきた。俺は作業自体にも興味を惹かれてしまい近くまで行き声をかけて見る事にした。
作業中の男に近づくと、その周辺の熱気は凄まじく、男は座りながら額に汗してハンマーを一心不乱に振り続けていた。職人とはまさにコレだろう。俺は近くにあった炉にも視線を向けてみる。炉の中にはドロドロに溶けたまるでマグマのような何かが煮えたぎっていた。見るからに高温のそれは〝ジュッジュッ〟と俺の声を遮るようにずっと鳴り響いており、どうやらこの音で店内からの俺の声は聞こえなかったのだろう。そのまま視線を男へと向けて見ていると、男は炉の中に鉄だろうか?それを突っ込むと引き抜きまた叩く、それを繰り返しており俺は益々面白くなり少し邪魔かもしれないと思ったが当初の予定どおりに声をかける事にした。
「作業中すみません…槍と剣、後は…短剣も見せて欲しいのですが。」
すると男は振り返って、俺の頭の天辺から足の爪先まで確認する様に視線を這わせて来た。
「ふん、何だか中途半端だな…お前貴族か、それとも平民かどっちだ?」
そう質問して来た男は何だか鍛冶屋というよりは武士の様な威厳に溢れた男だった。
「中途半端って…一応貴族だけど、それがどうかした?」
「ふん、じゃあ帰れ!」
ピクッ…
「は?何でだよ?いきなり帰れは無いだろ。」
「ふんっ」
馬鹿にした様な顔をして鼻を鳴らすと男はそれ以降俺を視界にも入れずに作業に戻った。
ピクピクッ…
その後は俺が何を言ってもこの武士のようなオヤジは一切の反応を見せずまるで透明人間にでもなったのでは無いかと錯覚してしまう程だった。
流石に俺もムッとしてしまい、明らかにその感情が表情にも出てしまっている事だろう。
(何なんだ、この頑固オヤジはよ!!)
ここで俺よりも更に怒り心頭の人物から不意に声が掛かる。
「閣下、もう我慢できません、此処で死んでもらいましょう!!」
その声のトーンは驚く程に低く、俺至上主義のアンヌは最早我慢の限界だったのだろう、既にナイフを抜いておりその瞳には怒りの炎を宿らせ、周囲の大気を震わせるほどの殺気をその身体からは放っており直ぐにでも斬り掛かってしまいそうな状況だった。
俺は頭を抱えて大きく溜息を吐く。
その直後、視線をミアへと向けるがその表情は完全に愉しんでいる様だった。
「あらあら。アンヌも短気ねぇ♪」
ミアは口許を押さえ笑みを洩らす。
「お〜っ!」
ミアの全くブレないその精神力に思わず感嘆の声を上げる。
武器屋のオヤジへ視線を向けると、アンヌの事など眼中に無いのかどこ吹く風と受け流し一心不乱に作業を進めていた。
正直この状況で作業を進められるオヤジにも驚愕ではあるが驚いてばかりもいられない、このままでは武器屋のオヤジが死んでしまう。
俺は取り敢えずアンヌを止めておく事にした。俺しか止める人間が居ないのだから仕方が無い。
「はぁー。アンヌ落ち着けって!無視したくらいで殺すとかないから、短剣抜くのはやり過ぎだから!」
俺はアンヌを後ろから押さえつける様に羽交い締めにして止める。
しかしアンヌは完全に頭に血が上っており身体を肩ごと揺らし必死に振り解こうと暴れる様に抵抗を図る。
「閣下!お離し下さい!あの無礼者を斬れません!」
アンヌはグッと更に力を込め短剣を握り締める。
「アンヌ、コラッ!暴れるな。斬らなくていいから!落ち着けよ!」
3分くらいアンヌと格闘していると、やっと冷静になってきたのか、急に振り解こうとする力が弱まって来た。俺は小さく息を吐くとアンヌから手を離す。
アンヌはだらんとナイフを握り締めたまま両手を下げシュンと項垂れた。
「オヤジ、部下が迷惑かけちゃったね、さすがにやり過ぎだった、本当にごめん。」
俺は両手を太腿の横に添え斜め四十五度で頭を下げる。
「・・・・・・・」
オヤジは無言で値踏みでもする様に只じっと俺を見つめる。
「閣下、頭に血が上って申し訳ありませんでした。」
アンヌは申し訳なさそうに自分の足元へと視線を落としながらお腹の前で両手を組んでその指をもじもじと動かしていた。
「はぁー。お前後でゲンコツな!」
俺はジト目をアンヌへと向ける。
「そ、そんな〜〜!!閣下のゲンコツって絶対普通じゃありませんよね?」
「今のはアンヌが悪かったから仕方がないわねぇ〜♪」
そんなやり取りを三人でしていると何故だかオヤジの眼つきが険のある物ではなくなったような気がした。
オヤジは急に立ち上がり、一度奥の方へと引っ込んでしまう。
俺達三人は互いに顔を見合わせながら首を傾げあった。
すると1分くらいで戻って来たオヤジはその手に一本の槍を抱えていた。
オヤジは無言で槍を俺に手渡して来る。
「オヤジ?」
俺が不思議そうな視線を向けるとオヤジは話始めた。
「今は剣と短剣はいいものがない、今日は槍だけにして又来い。」
「いいのか?槍」
「理由はまぁ、あれだ、言ってもお前らにはどうせわからん。だが俺は貴族の偉ぶった態度がどうも気に入らんタチらしい、悪かったなぁ、嬢ちゃんの大事な主人に失礼した。」
オヤジは視線をアンヌへと向けると軽く会釈をする。
「いえ、こちらこそ、申し訳ありませんでした。それと閣下へ槍をお売り頂きましてどうもありがとうございます。」
アンヌはお腹の辺りに両手を組むと斜め四十五度の角度で綺麗に頭を下げた。
「うふふっ、みんな仲良くしないとねぇ〜♪」
「ああ、そうだな!オヤジ槍助かった!ところでこれいくらだ?」
武器屋のオヤジはニヤリと口角を上げると愉しそうに口を開いた。
「逆にお前はそれにいくら出す?」
「うーんそうだな…」
◆ミスリルの槍
【概要】 希少鉱石ミスリルで作られた槍
通常の槍より魔力の伝達効率が高い。
【値段】 金貨70枚
(うお、マジかよ、これミスリルじゃん!)
「んー金貨70枚くらいかな?」
オヤジは一瞬驚いた顔をしたがすぐに膝を叩いて笑い声を上げた。
「あはははは。そうか!お前はちゃんとモノがわかる奴か!」
そう言いながらオヤジは俺の背中をバンバンと何度も力強く叩いて来た。
ミアは〝お前どうせ鑑定つかったんだろ?〟というジト目を向けて来た。
その視線に耐えきれず俺はサッと逃げる様に逆を向くがそこで偶然アンヌと視線が交じり合う。
アンヌはいつも通り「流石です閣下!」と何度も呟きながらうっとりとした視線を俺へと向けて来ていた。その視線にも結局耐えることが出来ず諦めた様に俺は視線をオヤジへと固定した。
それから少しオヤジと世間話をして店を出たのだが…どうやらオヤジは嫁と娘、それから今は一緒ではないが息子さんの4人家族だと寂しそうに言っていた。
その時のオヤジの悲哀の色を浮かべた瞳が訳アリであろう事を物語っており、今日知り合ったばかりの俺が踏み込むべき領域では無いと考えそこには触れないでおいた。
〜〜〜〜〜
店を出た俺はすぐにある事が気になりアンヌへと尋ねてみた。
「アンヌ、今ウチに金貨って大体どれくらいあるのかな?」
「そうですね〜。今日の分差し引きまして男爵からの慰謝料分位でしょうか?」
「ふむ。こりゃ全然金貨が足りないなぁ。」
「大丈夫では無いでしょうか?砂糖やコップ、最悪魔物を大量に討伐して魔石を売ってしまえば全く問題はありません。」
「あなた、お屋敷の代金なら実家で借りられるわよ?」
「いや、それは止めておこう。お金はアンヌが言っているみたいに何とかするよ。それに他にも日本製の物で売れる物があるかも知れないしね。」
「そう?あんまり無理はダメよ?」
「あぁ、分かった。ありがとう。」
やはりお金の問題は関係を崩しかねないので極力人に借りたくは無い、ローンは別だけど…。
「そうだ、二人ともポーションを見てみたいんだけど、道具屋に行けばいいのかな?」
「ポーション?あなた何で早く言わないのよ!」
ミアは小さく溜息を吐く。その姿を見て俺はピンっと閃く。
「あ、もしかしてマーロンの店にあった?」
「有るわよ。しかも大量にね。」
「よし、戻ろう!」
「はぁ〜。」
ミアは物凄く嫌な顔を晒すと深い溜息を吐いた。
俺はそんなミアをなんとか宥め、マーロン商会へと戻る事にした。
〜〜〜〜
マーロン商会へと戻ると、従業員の人達が何故か心配そうな表情を浮かべていた。
その心配そうな従業員の中から妙齢の女性が一人近づいて来る。やはりその女性の表情も優れない。
更に女性は近くまで来ると勇気を振り絞る様にしてエプロンの端を掴みながら俺へと声をかけて来た。
「あ、あの公爵様何かあったのでしょうか?」
「えっ、どうしたの?」
俺は質問の意図が全く理解できず、キョトンとした顔を晒す。
するとミアが溜息を吐きながら前へ出ると声を掛けてきた女性を含め従業員を見渡しながら声を掛けた。
「皆さん、安心して下さい。別に問題が起こった訳では有りません。ウチの人がポーションを買い忘れていただけですよ。」
ミアはそう告げた後、皆を安心させる様に微笑む。それを見た従業員は心底安心した様な表情をしてホッと胸を撫で下ろしていた。
「アンヌ、買い忘れってこんなに一大事になるの?」
俺は全く理解できずアンヌの耳元で呟いた。
「いえ、こんな事にはならないと思うのですが…。」
アンヌもよく分からない様で思わず二人して首を傾げあった。
するとミアが横へやって来て俺へとジト目を向けて来た。
「な、なに?」
「多分、これ貴方だからよ。貴族、しかも公爵家の人間がトンボ帰り…なんて普通殆どやらないわよ。だから何か良くない情報を持って来たか、もしくは自分達に何か不手際があったのではないかと心配したのよ。」
「何その理由…。」
俺は理不尽だと項垂れながら従業員の一人がポーションを持って来てくれたので早速見せてもらう事にした。
ゲームに良くあるような初級や中級や上級などには別れておらず体力、魔力ともに一種類しか存在しないと言う話だった。値段は体力、魔力其々に値段が違っており、魔力の方が銅貨10枚、体力の方は銅貨15枚だった。魔力の方が安いのは正直意外だった。
両方とも20本ずつ購入を済まして今度は忘れ物がないかとしつこい程ミアから注意喚起を受ける羽目になったのだが…俺が忘れていたので仕方がないと諦めて受けておいた。
それから店を出るとすぐに俺は視線をアンヌへと送るとある提案をして見る事にした。




