55 防具屋
商会を出てすぐに俺は周囲の視線に気付く。
「なぁー何かめちゃくちゃ見られてない?」
「それはそうよ?あなた日本の服じゃない?私もそうだけど…あなたのは目立つもの。そもそもジャケット羽織ってる次点で明らかに平民には見えないもの。」
俺は自分の着ているジャケットを一度脱ぎ、ジャケットの両肩の部分を掴むと目の前で広げまじまじと観察する様な視線を向ける。
「やっぱりコレ目立ってたのかよ!」
俺がそう呟くと今更なのかと可笑しそうにミアが笑っていた。
「でしたら閣下、まずはこちらの服を購入為されるのは如何でしょうか?」
アンヌが思案顔をしながらそう提案をして来る。
「うーん。俺あれはやだよ?男爵みたいないかにも貴族って感じの服…。」
俺がそう呟くと思わずアンヌから笑いが洩れる。
「ぷっ。だ、大丈夫です。普通の冒険者の服に致しましょう。」
アンヌは絶対に俺には似合わないと思ったのだろう、確かにそうだが…。
「それじゃ一度防具店を見に行く?ここから近いわよ?」
俺たちは全員で頷き合い、先に防具屋で服を購入する事に決めた。
日本でバーレリアの服が目立つように逆にバーレリアで日本の服も又目立つ事は分かっていた。貴族だと思われたく無い場面でもスーツを着ていればバレるし、カジュアルなジャケット姿ですら今のような現状なのだ。
防具屋はマーロン商会を出てすぐ左手側に歩いて行くと5分くらいのところにあり、ミアの言う通り本当に近かった。
目的の防具屋は俺の想像していた様な建物とは違い、ベージュがかったクリーム色の壁に前面だけでも高い位置に三つは窓が着いており光が差し込みやすそうな明るい作りになっていた。
軒下を含め全ての屋根が赤色で統一されその屋根からは茶色い煙突が顔を覗かせている。
更にその軒下には休憩用のベンチに、小さなテーブルが一つとその外観は防具屋というよりも現代の花屋やケーキ屋を思わせる。そんな可愛らしい外観をしていた。
「へぇー思っていたお店と違うかも。」
興味深く外観を眺めながら俺は目の前のモスグリーンの扉のドアノブへと手をかけて回した。
カランカラン。
それはまるで喫茶店のような音だった。
思わず俺の頬が緩む。
内装も外観のようにやはり可愛らしい物だった、カウンターなどには明らかに売り物ではないピンクのカウンターマットのようなものが敷かれその端には黄色い小さな花を生けたコップが飾られていた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
カウンターの方へ視線を向けるとお店の奥さんらしき人が声をかけてきた。
俺はその声の主へ一度視線を向けるとそのまま店内を見回す、あまりにも俺が周囲を確認する為、奥さんらしき人物は心配そうな眼差しを俺へと向けてきた。
「あの〜…何か失礼な事でもありましたでしょうか?」
「あ、いや、違うよ。そうじゃ無くて可愛らしいお店だったもので思わずね、こちらこそジロジロ見回すような真似をしてしまってごめんね。」
俺がそう返事を返すと、店員の女性は嬉しそうに笑みを洩らした。
「成る程、そういう事だったのですね、気に入って頂けたのでしたら私も嬉しいのですけど。」
どうやらこの人はやはりここの店主の奥さんの様で、毎日毎日、無骨な冒険者の相手をしている内に、女性の冒険者も結構な人数いることが分かり、殺伐とした危険な冒険者家業でも店内にいる間だけでも綺麗で可愛いものを見て欲しいという思いからこう言った内装に変えて行ったそうだ、以前は面白みの無い普通の店内だったと笑いながら答えてくれた。その延長線上で外観も色を塗ったりして変えたのだと言う。
「成る程、とても良い趣味だと思うよ。」
俺の言葉を肯定する様にミアとアンヌが笑顔で頷く。
「ありがとうございます!男性のお客様にそう言ってもらえたのは初めてです。」
奥さんもとても良い笑顔を見せてくれた。
「それで今日は一体何をお探しでしょうか?」
「実は軽装の物に出来れば服も含めて一式欲しいんだよね。あと出来れば盾も見せて欲しいかな。」
「はい、服の方は…失礼ですけどお客さんはお貴族様では?」
奥さんが少し遠慮がちな視線を向けて来る。
「?あぁそうだよ?」
「あの〜申し上げにくいのですが鎧に関しては其れなりに御座いますが服に関しては仕立て屋の方へ行かれた方がよろしいのでは無いでしょうか?ウチの店には冒険者向けのコートやスボン類しか取り扱っておりませんが?」
お腹の下あたりに両手を組み申し訳なさそうに奥さんが告げる。
「いや、通常の冒険者向けの服でお願いしたいから大丈夫だよ?」
俺は首を横に振り更に安心させるように笑顔を向ける。
「そうですか?そう言われるのでしたら此方にございます、どうぞ。」
少し悩みながらもしっかりと答えてくれた奥さんについて行くと店の奥の方には結構な量の服が並んでいた。
(ふむふむ、結構数あるじゃんか。)
中でも目を引いたのは黒のレザーコートだった、話を聞くと軽装の部類に入るらしく、コレならちょっとした胸当てを付けるだけで済むと言うので、コートはコレを買うことにした。
そしてパンツを選んでいると不意にミアが声をかけてきた。
「ねぇ〜あなた、パンツは別に買わなくてもいいんじゃなの〜?」
俺が不思議そうにみているとミアは俺のパンツを指差しながら店のパンツと見比べる。
「だって、上着のジャッケトが目立っちゃってただけじゃないの〜?」
「あーそうかも!」
「でしょ?だったら今着てるそれでいいんじゃない?」
そう言われて、俺は今穿いているスリムパンツを指で摘み引っ張りながら考える。
確かに素材もこちらが良く色もカーキ色でそんな目立つ色でもない…購入予定のコートとも問題がなさそう。
「確かにこれでいいな、ミアありがとな。」
「ううん❤︎」
「悪いんだけど服はコートだけお願い、後は盾とブーツそれに何かカバンが欲しい。」
俺の話を聞いて奥さんは両手いっぱいに商品を持ってきてくれた。
「ミア、盾は良くわかんないから好きなの選んでよ?」
「わかった、アンヌは何か要らないの?」
「そうですね…私と言うよりは誰でも使えるポーション瓶のベルトなんてどうでしょうか?」
「あぁ、それは必要ね、アルなんかも護衛するのにあった方がいいかもね。」
それから二人はあーでもない、こーでもないと必死に買い物をし始めた、こうなってしまうと俺はもう居ない者として徹した方が利口というモノで有る。
盾はミアがラウンドバックラーと言うものを選んでいた。
◆ラウンドバックラー
【概要】 通常のバックラーと違い鋼で製作されたもの。
その為強度や耐久度が高い。
【値段】 銀貨10枚
俺は普通のロングブーツを購入した、ショルダーバックも買おうか考えたのだが、指輪があるので全くの不要だとミアに指摘された、確かにそうだけど雰囲気的に欲しかった…。
ちなみにショルダーバックは2つ購入してウチに置いて置けば何かに使えるだろうとい話に収まった。ポーションベルトは瓶を差す丸い収納部分が五つ付いてる物をこれも二つ購入した、選んだのはアンヌである、正直どれも一緒に見える。
アンヌにはメイド服直用事でも履けそうな茶色のロングブーツを購入した、因み速度上昇の効果が付いていた、特殊効果の付いた装備は珍しいらしく、ダンジョンか何か強力なモンスターの素材を使用して作った際に稀に付くことがあるそうだ。
コート金貨2枚、バックラー銀貨10枚、ブーツ銀貨3枚、バック銀貨1枚と銅貨15枚それを2つ、ポーションベルト銀貨2枚、ロングブーツ金貨一枚、お会計の際念のために俺は鑑定をかけながら見ていた。
その際コートに鑑定を掛けたのだが唖然としてしまった。
◆ブラックドラゴンのコート
【概要】 黒竜の革で作られた最高級品。
火魔法や斬撃への耐久度を上げる。
【値段】 金貨200枚
俺はこれをどうするべきかと迷った。正直金貨200枚なんて払えない、しかし、相手は金貨2枚だと思っている、おまけに鑑定を掛けましたがそれ金貨200枚の代物ですよ等と言って鑑定スキルを持っている事を自らバラすのも馬鹿げている。
そこで俺はこのコートの由来みたいな物を聞いてみることにした。
「質問いいかな?このコートの由来とかは分かったりしちゃう?」
「あぁ、それはですね、冒険者の方から借金の代わりに主人がもらってきた物ですよ?金貨2枚くらいの価値しか無さそうだって渋っておりましたので良く覚えています。」
呆れた顔をしながら奥さんが答える。
「そうか、わかった、変な事を聞いて悪かったね?」
「いえいえ、ではお会計ですが…金貨3枚に銀貨19枚銅貨30枚になります。」
支払いはアンヌがすることになるので、アンヌに耳打ちをして金貨5枚を支払わせた。
店の奥さんは大変喜んで何度もお礼を言っていたが、俺は居た堪れなくなり〝また寄らせてもらう〟とだけ伝えるとさっさと店を出た。
店を出て少し歩きながら、さっきまで着ていたジャケットやスニーカーに先程購入した物を押し入れボックスへと仕舞うと俺はコートの事を皆にバラした。
思った通り二人とも驚きと申し訳なさを感じていた。だが、鑑定スキルの事をバラさずに説明する方法が思いつかなかったと言うと納得してくれていた、だが俺は見逃さなかった、ミアが〝ラッキー♪〟と呟いていたのを…うん、俺も同じ気持ちです。




