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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
54/79

54 結婚報告


「いきなりですが俺は今日の土日からレベル上げに行きたいと思います!」

表情をキリッとさせてまるで勇者のような雰囲気で全員に告げる。


皆一斉に俺へとジト目を向け〝は?何で?別にいかなくてもいいだろ、もう十分だろ!〟とその瞳が雄弁に物語っていた。


「別に皆で一斉にそんな顔しなくても良いじゃんか…」

唇を尖らせながらこちらも負けじと全員にジト目を向ける。


「パパ、申し訳ありませんが本を読んでいるので少しだけ静かにしてください。」

リノアは漫画本を〝パタン〟と一度閉じると何故か敬語で注意して来た。


「ぐぬぬっ…すみませんでした…。」


俺の謝罪を聞くと〝ふん〟と鼻を鳴らし又漫画に戻って行った。


(おのれ〜敬語になる程ハマってんじゃねーよ!)


「ねぇ〜あなた別に行かなくても良いんじゃない?もう十分よ?」


「そうですよ、閣下もう十分でしょう?」


「さすが閣下!私も是非お供させてください!」


「ちょっとアンヌ何言ってるの?ちゃんと止めないと駄目でしょ〜?」

ミアは震え上がるような笑顔をアンヌへ向けると優しい口調で注意をしながら無言の圧力を振り撒いた。


「は、はい!も、も、申し訳ございませんでした!」


アンヌはまるでリスやハムスターのようにブルブルと震え出した。俺はそんなアンヌへ小動物を愛でるようにそっと柿の種を押し入れボックスから取り出し、優しく手渡した。


それからは口々に〝閣下は既にバケモノですよ!〟〝人間辞めなくても別にいいじゃなの〜?〟〝閣下は最初から人間ではありませんでした!〟等と好き放題に言い始めた。


そんな皆の心無い言葉を受け、最初は怒りから真っ赤だった顔色も段々と青白くなっていき、気がつくと膝を抱えソファーでは無く床に座っていた。

瞳はどんどんと湿り気を帯びて来ており下唇を噛みプルプルと震え出す。

あと一度瞼を閉じるだけで決壊してしまう、そんな所まで来ていた。


もう、泣いて楽になってしまおう、そう思った時だった…。


「はぁ〜っ。本当にうるさい!」


リノアが眼を細め怒りの声を上げる。摘まれたポテトチップスはリノアの怒りを体現するかのように粉々に砕け散る。


その声を聞き何故だか俺の中の変なスイッチが入ってしまう。


もう、最初の頃のように森に出かけて行くだけで泣いて心配してくれる愛娘は何処にも存在しないんだな…そう感じてしまった。


俺は先程までの我慢がまるで無駄だったかのように大粒の涙をボロボロと溢れ出していた。


俺が完全に本気の涙を流し始めたので周囲はドン引きしていたが逆にリノアはニヤケながら指摘して来る。


「なによーパパそんな顔して、どうせ前はあんなに心配してくれたのに…とか思ってるんでしょ?」

リノアは揶揄うような口調と表情でそう告げると新しいポテトチップスを俺の目の前でヒラヒラさせながら笑い出す。


「…うっ。」


「それに、パパどうせ行けないでしょ?武器はどうするの?前に男爵の所の門番の人にあげたままじゃないの?」


「あっ!」


リノアはため息を吐いてから、ゆっくり俺に近づいてきて俺の横にちょこんと座った。


「大体、魔力があんなに高いパパを心配するだけ無駄でしょ?」

肩を竦め〝ヤレヤレ〟とでも言いたそうな表情で俺を見つめる。


そうか、心配しなかったのはそれだけ信頼されてるって事なのか…先程の悲しみが嘘の様に引いていき何だかとても嬉しくなった。


俺はリノアの頭を撫でながら「ありがとな」と笑顔で呟いた。


リノアも「うん。」とだけ返事をするとまた漫画へ戻って行った。


リノアは今まで不自然な程良い子過ぎた、正直俺は心配だった。

明かに俺の子供の時とは違い過ぎる。だが零民の話をちゃんと聞いた辺り位からだろうか…段々と自由な行動が増えて来た、今もそうだ、俺の前ではもっと自由にして欲しい、もっと子供らしくして欲しい、もっと甘えて欲しい。


そんな気持ちが瞳にも宿ってしまっていたのだろうか?耳元で「パパがもう少し大人になったらね♪」そう呟いてから舌を出して微笑んだ。


「ごもっとも」

俺は肩を竦めリノアの頭を〝ポンポン〟と叩く。

お互いに視線が交わり合いどちらからともなく笑い声が洩れた。


しかし、この感情はどうやら俺とリノアだけにしか伝わらなかった様で他の三人は不思議そうに俺とリノアを眺めていた。


残念な気持ちになりながらも俺は説明するのが何だか勿体無いと思ってしまい、そんな感情を誤魔化す様に皆を宥め、レベル上げの件の説得を始めた。


その後説得に10分程時間を要したが説得は何とか上手く行き、レベル上げには行ってもいいが今日は武器を用意して戦闘は明日からという事で了承を得た。


先ずは、ジャズ君にあげた武器の代わりを手に入れるために今日の所は王都の武器屋にミアとアンヌ二人を連れて行くことにした。

リノアは今話しかけるなと言うオーラをビシビシと放っており行くかどうかの確認すらしていない。


「ミア丁度いいからさ、急で悪いんだけどマーロンに会えるかな?」


「あ、大丈夫じゃない?あなたありがとねぇ❤︎」

ミアは嬉しそうにしながら出かける準備をすると言って一度寝室の方へと姿を消した。


「それでは閣下私も一度自室へと戻らせて頂きます。」

アンヌもミアの後を追いかける様に自室へと戻って行った。


ミアの嬉しそうな表情が気に掛かり、アルから話を聞いてみると何でも階級が上の人間が例え嫁の実家だとしても階級が下の人間の家にその事で態々挨拶に出向くなど、バーレリアでは絶対にしないそうだ。


やはりこう言った部分にはまだまだ慣れそうにもない、正直違和感の方が全然強い。


俺はアルに家の事やリノアの事を頼み先に家を出る事にした。玄関を出て井戸に腰掛けながらタバコに火を付けようとした時不意に後ろから声が掛けられた。


「お待たせ、あなた❤︎」


俺が後ろを振り返るとそこには盾を持ち剣を腰に携えた、初めて出逢った時と同じ冒険者姿の凛々しいミアが立っていた。


「相変わらず美人だな〜それに全然時間は経ってないのに懐かしい感じもするな。」


俺が笑いながらそう告げると、ミアも笑い返してくれた。


「でしょ?また相談事聞いちゃおうか〜?♪」

胸を叩き戯けながらミアが言う。


二人で笑い合っているとアンヌも準備ができた様で家の中から出てきた。


「お待たせして申し訳ありません。」

アンヌは何の準備をして来たのかいつものメイド服姿だった。


俺は一瞬首を傾げそうになるが色々あるのだろうと思い直し、一度頷いてから出発の確認をする、二人とも問題がない様で直ぐに頷いてくれた。


出発してから5分くらい経った頃、俺は敵の気配を察知した。


(うーん、ゴブリン2匹かな)


「2人共、後300m先くらいでゴブリンが2匹いるから注意してな。」


「あなた、距離もわかるの?」

ミアが驚いた顔をする。


「成る程、だからですか…閣下は扉を開ける前にもう私たちの敵意に気付いて居られたのですね。」

アンヌが納得しながら頷く。


(ふむ、襲撃してきた時のことかな?)


「ああ、何か敵意?害意?みたいなものを含んだ魔力はねっとり絡みつく感じがするんだよ、距離はなんかわかるとしか言えん。アンヌは索敵スキルでわかるんじゃ無いの?」


「いえ、私のは密閉された空間でしかよく分からないみたいです。」


「逆にあなたは何で分かるのよ?」


「うーん。おれもよくわからん。そう言う探査系スキル持ってないんだけどなぁ。」


「閣下、鑑定の効果じゃありませんか?」


「うーん。そうなのかぁ。なんか纏わり付くんだよねぇ。」


そんな話をしているとゴブリンを目視できる距離まで近づいていた。


ゴブリンが見えた瞬間。


「あなた〜ここは私たちに任せてねー!」


「閣下行って参ります。」


そう言うや否やミア、アンヌは視線を交わせ一度頷きあってからミアは右、アンヌは左のゴブリンへと駆け出して行った。


俺が〝あっ〟と思った瞬間にはアンヌが短剣をゴブリンの胸部に突き刺し、ミアは盾でゴブリンの顔面を殴りつけそのまま首を切り飛ばしていた。


(怖っ!容赦ねぇーな…。)



【名前】ゴブリン

【Level】13

【性別】オス

【種族】魔物

【状態】死亡

【体力】0/102

【魔力】0/78

【力】38

【素早さ】35

【防御力】22

【スキル】ぶん回しLv1


ちなみにゴブリンを鑑定するとこう見える。


俺がゴブリンを鑑定しながら何とも言えない気持ちで見ていると、二人が清々しい笑顔を振りまきながらこちらに近づいてきた。


俺はさっきの二人のゴブリンと戦う姿を思い出してしまい、一瞬表情が引き攣る。


「あらあら、あなた変な顔してどうしたの?」

ミアが剣に付着した緑色の液体を振り払いながら笑顔を向ける。


「閣下如何でしたか?」

アンヌも同じ様に短剣の付着物を布の様な物で拭きながら問い掛けてくる。


「う、うん、二人とも凄くカッコ良かったです。」

俺は何故か敬語で答えていた。


不思議そうに見てくるアンヌと楽しそうなミアの笑顔を背に俺は王都への歩みを進めた。


その後は特にこれといって問題もなく、時々現れるシャドーウルフやゴブリンを退治しながら王都へと到着していた。



【名前】シャドーウルフ

【Level】18

【性別】オス

【種族】魔物

【状態】死亡

【体力】0/274

【魔力】0/142

【力】55

【素早さ】61

【防御力】31

【スキル】噛みつきLv1 威嚇Lv1


ちなみにシャドーウルフのステータスはこんな感じである。


勿論それ以降の戦闘には俺も参加したが残念ながらレベルアップには至らなかった。


森の奥の方には強力な魔物が数多く生息しているみたいなので今度そちらへ行ってみようかと思っている。


王都の門番は俺とアンヌに理不尽な目に合わされた彼だった、俺たちを見ると何故か彼は泣きそうな顔になっていた、理由を聞こうと思ったのだが、面倒臭くなってやめた。それに彼はもう顔パスで通してくれるのでそのまま挨拶だけ済ませるとマーロン商会へと向かう事にした。



〜〜〜〜〜〜〜


商会へ着くとすぐに以前助けた執事の人が出迎えてくれた。


「これはこれは公爵閣下、ようこそいらっしゃいました。それにお嬢様お帰りなさいませ。」

執事の人が俺へと綺麗なお辞儀をして来るが俺は名前が思い出せず何だか気持ちが悪い、ここまで出掛かっているのに…。


俺は気の弱そうな小柄な執事をじっと見つめ喉を摩りながら思案していた。


「ルーアン、ありがとう。ところでお父様かお母様いるかしら〜?」


俺は思わずポンッと柏手を打つ。


(おぉ、そうだ、ルーアンだった。)


そんな俺を横目にミアは口許を押さえながら笑っていた。


(絶対忘れてたのバレてる…)


俺は咳払いを一つして誤魔化した後、簡単ではあるがルーアンと挨拶を交わし、マーロンは今商談中との事で奥の客間へと通された。


客間についてすぐに、俺はインテリアへ目を奪われた。


そこには重厚感たっぷりな豪華なアンティークな家具が並べられていた。


振り返ってみると異世界に来てちゃんとした屋敷に入ったのはここ以外には男爵邸だけで有り、男爵邸に至ってはリノアとミアを苦しめた敵としか見ておらず、家具や調度品をゆっくりと見る心の余裕が全く無かった。敵殺すべし敵滅ぼすべしの精神だった。


しかし、これは全然日本でも通用するのでは無いだろうか…いや、通用するどころでは無い、明らかに高値で売れるだろう…。俺が座っているソファーも張地はベルベッド生地なのか、それは日本でも有るだろうが、フレームの部分は曲線的な作りになっており更には細かく花や蝶などの金の装飾が施されて明らかに日本で俺が座れるような物ではない。


テーブルは装飾は綺麗だがしかし他の物に比べると至って普通だなと思い軽い気持ちで鑑定をしてみる…テーブルそのものが大理石でした。ここやだ、怖い。



俺が驚いていると今度はメイドさんが挨拶と給事の為に表れたのだが、以前助けたメイドの人とは違う様だった。


俺が以前のメイドさんと違うんだなと、何となくそのメイドさんを見ていると、横から声がかけられた。


「あらあら?あなたそんなにメイドの女の子を見て、一体どう言うつもりなのかしらねぇ〜?」

ミアはバックに色とりどりの花々を咲き乱れさせる様なとても素敵な笑顔を向けて来る、しかし、その花々が徐々に黒いナニカに浸食されて行っているのがすぐに分かった。


俺の頭の中にある危険察知のアラームが一斉に鳴り始め、これは絶対に死んでも逆らってはいけないヤツだと瞬時に理解した。


「いえ、特に何でもありません!」

気がつくと俺は大声でハキハキと敬語で返事をしていた。


突然ドアのノック音が聞こえて来る。

コンコンッ。


俺は咄嗟に視線をミアへと移す、するとミアは優しく微笑んだ後頷き、口を開く。


「誰かしら?」


「リュノミアお帰りなさい。私ですよ。」


ドアの外からは温和で優し気な声が聞こえて来る、その声を聞いたミアの表情は見るからに綻ぶ。


「お母様!どうぞお入りください!」


そのミアの声に反応したルーアンが軽く一度頷きすぐにドアを開ける。

開け放たれたドアからは美熟女そう呼ぶに相応しく優雅でどこかミアに似た面影を宿す人物が入って来る。更にその美熟女は入って来るなり、ミアへと駆け寄り思い切り抱きしめた。


「あらあら。お母様。」


「あーリュノミア。本当に御免なさい!色々苦労を掛けてしまいましたね。」


「いいえ、今はとても幸せですもの。リノアが居てそれに…。」

ミアの視線が俺へと向かう、その視線に釣られるようにミアの母親が俺へと視線を向ける。

ミアの母親はすぐにハッとした表情を浮かべ、居住まいを正すと話し始めた。


「公爵様、ご挨拶が遅れてしまい、誠に申し訳ありません。私はサンチェス・マーロンが妻、マデルラと申します。」

ミアの母親元いマデルラは、艶美な微笑みを浮かべ流れる様な美しいカーテシーを見せた。


俺はソファーから立ち上がり、ゆるい口調で自己紹介を始める。

「これは御丁寧にどうも、アリヒト・フォン・コンノ。公爵やってます。よろしく〜。」


その後更に俺が握手を求めるとマデルラはポカーンとした表情を浮かべ視線を俺へと固定する。

ミアは自分の母親のそんな表情を愉しげに眺める。


俺が首を傾げ、差し出した手を引っ込めようとすると、マデルラは失礼だと思ったのか慌てて握り返して来た。


「公爵様、重ね重ね申し訳ありませんでした。」


「え?何が?握手の事?それなら全然問題無いけど?」


「いえ…その、それだけでは無く…あまりにも失礼な態度を先程から何度も見せてしまい。」

マデルラはしょんぼりとした表情で俯くが、俺はよく分からずに腕を組み唸る。


「うふふっ。お母様。ウチの人はこの程度じゃ全く怒ったりしませんよ?それにそもそも何を謝られているのかさえ、分かっておりませんよ?でしょ?あなた。」


「ごめん。全くその通りなんだよね。」

俺は堪らず苦笑いを浮かべる。そんな俺を見ながら可笑しそうにミアが笑い声を上げる。


「うふふっ。やっぱり。」


そんな俺とミアの姿をマデルラは目を点にして眺めていたのだが、すぐに活動を再開し始める。


「あ、あなた今…公爵様の事をウチの人って言ったの?」


「えぇ、言ったわよ?」


ミアは誇らしげに、左手薬指の結婚指輪をマデルラや使用人たちに見せびらかす様に(かざ)した。


「いや、そんな頭上から見せびらかさなくても…。」

俺がボソッと呟くが今のミアには全く聞こえておらず、おまけに周囲を見回すとマデルラを始め使用人達は跪きそうになっていた。

いやいや、俺、旅行好きのじーさんじゃ無いからね?


そんな感じでマーロンよりも先にマデルラさんに報告してしまった訳だが、よく考えてるとマデルラさんもマーロンだし別にいいかと考えるの放棄した。



それから少しの間、マーロンの商談が終わるまで出してもらった紅茶とケーキを楽しませてもらった。


正直に言えば、日本の紅茶やケーキの方が味は美味いのだろうが、雰囲気に当てられたのか、贅沢感と言うのか高級感と言えばいいのか…すごく美味しく感じ何より楽しかった。


紅茶の方は味の違い等詳しく俺に分かるはずもない、普通に美味いのか不味いのかくらいしか分からない。


だが、ケーキの方は驚いた。


正直何の変哲もないカップケーキみたいな物を想像していたのだが、薔薇などの装飾したデコレーションケーキが出てきた。


驚いてミアに少し聞いてみるとこう言うデコレーションケーキは普通にあるらしい。


バーレリア舐めてました。


その後、マーロンが来るまで、執事のルーアンに世間話という名の質問をしながら過ごした。

ちなみにここでは今、武器は置いてないらしい、残念だ。


ミアは久々の母親と嬉しそうに話をしていた、只、マデルラさんがリノアが今日は来ていない事を知るとこの世の終わりの様などんよりとした寂しそうな表情を晒していた。


今度必ず連れて来てあげよう。


既にそこそこの時間が経過しており話題を模索しているとマーロンが部屋にやってきた。


俺は何となく日本人の習慣としてソファーから立ち上がり挨拶をしようとしたのだが、アンヌから直ぐに止められた。


貴族は平民に対してその様な態度を取るべきでは無いと言う事だった。


因みにメイドさんにもケーキや紅茶のお礼と感謝を伝えたのだが大変驚かれた。


これもアンヌやミアに後から言われたのだが、そもそも使用人にお礼を言う習慣自体が無いのだそうだ。


うん、もうね、日本人には驚きの連続ですよ?


しかし、俺はそんな事は気にせず〝ありがとう〟〝ごめんなさい〟は必ず言ってやろうと心に誓っていた。


俺の考えが読まれたのか背中越しにミアの溜息が聞こえた気がするが、俺は気にしない!お礼を言われて嫌な気分になる人間は異世界だろうが日本だろうがいるはずが無い、多分!


ただ作法だけは忠告通りに俺はソファーに座ったままマーロンを出迎えた訳だが、マーロンも特に気にした様子すらなく普通に声をかけてきた。


これ慣れちゃ日本でぼっち街道まっしぐらだね、絶対に注意しないと…。


「公爵閣下、態々ご足労頂きまして有難うございます。」

マーロンは微笑みながらお辞儀をした。


「いや、気にしないでよ?此方こそ急に押しかけて迷惑じゃ無かった?商談中だって聞いたからさ、悪かったかなーってね。」


俺の家での様子を少しは知っているマーロンも今は使用人の目もある為、何所か余所余所しい感じの返事を返して来る。


「いえ、とんでもございません。それで今日はどの様なご用件でしょうか?」


俺は居住まいをを正し視線をマーロンへと向ける。

「実はリノアを娘にするだけでは無く俺とミアも正式に夫婦になる事にしたんだ。」


マーロンは俺の言葉にソファーから立ち上がり、確認するような視線をミアへと向ける。

ミアは嬉しそうに左手を差し出し黙って頷いた。


「そうですか…閣下になら喜んで娘を嫁がせることが出来ます。閣下ならば必ず娘は幸せになれると信じておりますので…。」


ここまで言うとマーロンの表情が曇った。


俺が不思議に思いながら見つめていると再度話し始める。


「しかし、その閣下にとっては良かったのでしょうか?勿論任命魔法を否定するつもりは毛頭ございませんが、親の気持ちと致しましては、娘はその…一度不本意な婚姻だったとはいえ、他家へ嫁いでおります。それに離縁もされております。」


マーロンは自ら説明をしながらどんどん苦虫を噛んだ様な表情へと変わっていった。


ただ、俺が怒るとでも思ったのかリノアの事だけは一切口にしなかった。


「ちょっとあなた!」

マデルラがマーロンに対して問い詰めるような口調で声を荒げる。


「マデルラ、これは大事な事なんだよ?閣下にとって、とても大切な事だ。分かるよな?」


「…はい。」

マーロンの気迫と正論にマデルラは何も言えなくなってしまい俯く。


俺は納得する様な笑みを浮かべ軽く頷いた。


「なんだ、そんな事を気にしていたのか?そんな事は全然問題無いぞ?これからよろしくな義父殿。義母殿。」


マーロンもマデルラも驚いた顔を一瞬したが、すぐに憑物のとれた様な爽やかな笑顔になった。


「えぇ。此方こそ、よろしくお願い致します、閣下。」


マーロンがそう俺に告げると本人やマデルラ、使用人も含めて深々と頭を下げた。


「きゃぁぁ〜❤︎あなたのそう言うとこすごく好き〜❤︎」


今のやりとでスイッチの入ったミアが抱きついてきた。


胸が気持ち良かったです!ありがとう!


それから、余りに興奮したミアをアンヌが必死に止め、それを他の使用人が何とも言えない顔で見ていると言う一幕はあったものの、それから先は平和に過ごせた。


少し仕事の話もした、砂糖はすぐに90k完売してしまったらしい、最初の10kは自分たちで使っているとの事。


また武器屋についても聞いてみたが、やはり以前串焼き屋の『お兄さん』に聞いたところが1番腕がいい様なのでこの後行ってみたいと思う。


昼食に招待されたが、俺は武器屋とは別にもう何件か行きたい場所があるので、丁重にお断りを入れさせてもらった。


それから俺たちはマーロン商会を後にして武器屋へと向かうことにした。

帰り際次はリノアを連れて来るとマデルラに約束しておいた。

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