53 ミアのステータス
ミアとアルが落ち着くのを見計らって俺は声を掛けた。
「さて、次はミアの番かな?」
俺は先程リノアが持って来てくれたメモ帳を片手にミアへと微笑む。
「うん、あなたよろしくねぇ〜♪」
ミアは嬉しそうに頷くと俺の目の前まで歩いて来た〝近くに来る必要はない〟と言いそうになったが、なんと無くそれを言うと危険を伴いそうな気がしてグッと堪える。
「そ、それじゃ見るよ!」
不意に先程の黒い何かを思い出し、俺の声が上擦る。ミアは首を傾げながらも笑顔で頷いていた。
俺は目の前のミアへと意識を集中させていく…。
【名前】リュノミア・フォン・コンノ(26)
【Level】35
【性別】女
【種族】人族
【状態】良好
【職業】冒険者 公爵夫人
【体力】572/572
【魔力】649/649
【力】61
【素早さ】58
【防御力】59
【魅力】83
【スキル】片手剣lv3 盾術lv2 火魔法lv1 身体強化lv2
名前の欄を見ると頬が自然と緩む、俺はご機嫌に握っているペンをさらさらと走らせていた。
いたのだが…ある一点に視線が向いた瞬間急にそれはぴたりと止まる。
ミアの方が俺よりレベルが高いだと!?
俺は結婚したんだなという穏やかな気持ちから一変、ほんのりと嫉妬心が芽生える。
うん、俺の器のサイズはチロルチョコ一個分位かもしれない。
ただ、こうして自分以外の人の魔力を見てみるとやはり俺の魔力はおかしい、ついでにオヘイリア男爵もあんな奴ではあるが…やはり貴族だったのだろう、魔力量は優秀な方みたいだ。
(ふむ、しかし取り敢えずレベル上げだ!嫁に負けたままでは駄目だ!)
俺はロダンの考える人の様なポーズを取りながら思考を巡らせる。皆不思議そうに首を傾げる中リノアだけは何がおかしかったのか大笑いをしながら記念撮影を始める。だが今はそれどころでは無い!俺のチロルチョコの様な器が騒ぎ出す。
キリッとした表情を作り何かを決意した様に俺は声を張り上げる。
「取り敢えずレベルあげじゃぁぁ!!」
俺の大声にリノア以外の皆の肩がビクッと震えたのがわかった。リノアは何故かガッツポーズ。
「もぅ、あなた〜いきなりなんなの〜?」
ミアは頬を膨らませ、軽く俺の背中を叩く。
リノアはとても悪い顔をしながらニヤニヤと口元を緩めると〝よし〟と呟いで再度ガッツポーズを決める。
「うんうん、そっかそっか!パパも大変だねぇ♪」
リノアはニヤリと意味深な笑みを浮かべる。俺は明らかにバレている事に勘付き黒目が泳ぎ出す。
「な、何をいってるのかな?」
ミアはまだ気付いてはいないようだが興味津々に座っているソファーから身を乗り出すと唯一理解していそうなリノアへと尋ねる。
「リノアちゃん何か分かったの?」
「あのね、ママ…」
答える直前、リノアはニヤニヤと腹黒い笑みを浮かべ揶揄う様な視線を俺へと向けてきた。
「くっ…。」
リノアがミアへと耳打ちを始めた直後もう一つ嫌らしい笑みが増えた。さすが母娘。
「あらあら、うふふっ♪大丈夫よ、そんなの関係なく愛してるわよ?あなた❤︎」
「えーっと何のことかな?」
俺は更に黒目が高速で動き始め、額からも多量の汗が噴き出す。
「あらあら❤︎」
ミアは俺の頭を優しく撫で始めた、それはまるで愛しい我が子を想う母のように。
俺は益々恥ずかしくなったが、ミアが可愛すぎて思わずそのまま撫でられ続ける事にする。
ミアも同じ事を考えているのか口元の緩み具合が進行しており、最終的にはほっぺたまで撫で始めた。
結局イチャイチャし始めるとリノアの大きな溜息が聞こえてきた。
「はぁ〜っ。あのね、仲が良いのは皆分かってるから!パパはレベルどれくらい負けてたの?」
リノアが今の俺にとって即死となり得る呪文を唱えやがった。
「ぐぬぬぬっ…言いたくない!」
「別にそれくらい、いいでしょー!」
俺が悔しそうに唸っていると、リノアがニヤけ顔で駆け寄って来て、俺の隣へと座り指先での脇腹攻撃を開始した。
「あふん。」
「………。」
思わず変な声が洩れる、リノアは気持ちが悪そうな表情をすると静かに俺から離れ、アルが用意したタオルで手を拭っていた。
自分から仕掛けて来ておいて酷い、あんまりだ…。
「それで閣下、レベル上げと仰られておりましたが、一体何を為さるおつもりですか?」
俺が涙の海に溺れそうになっているとアンヌが気を利かせて話を振って来てくれた。俺は感動からお前がレスキューかと期待に満ちた眼差しをアンヌへと向ける…だがそこに飛び込んできたのは必死に下唇を噛んで笑いを耐えようとする仕草だった。
この世に救いの神はいないのか…。
俺が絶望に打ち拉がれているとリノアが更に笑みを黒くしながら話しかけて来た。
「それで〜いくつ負けてるのよ?」
コイツは将来絶対に悪い政治家になる、俺は直感でそう感じた。
「・・・・・・・n…な」
逃げられないと悟った俺は自ら自白する事に決める。
「すみません、閣下もう一度お願い出来ますか?」
アンヌが小首を傾げながら真顔で追い討ちをかけて来る…アル、お前もこんな気持ちだったんだなぁ。楽しそうに毎回笑って悪かったよ。
「きこえなーい♪」
リノアはどこかの部族の様に楽しげな踊りを披露しながら大声で俺へと指摘してくる。皆はそのダンスを微笑ましそうに見守っているが俺には呪いのダンスの様にしか見えない。おのれリノアめ、完全に調子に乗ってやがる。
「ぐぬぬぬっ……なな、7だよ!」
俺はもう完全に開き直り、リノアと一緒に呪いのダンスを披露する、しかしここで気がつく、踊っているのが俺一人だと言う事に…。何この羞恥プレイ。完全に黒歴史確定である。
恥ずかしさで死んでしまいそうな気持ちを誤魔化す為、一旦ソファーへと座り何気ない顔で黒歴史を封印する儀式の様にタバコを吸い始める。どうせ罵声が色んな箇所から飛んで来るんだろう?そう思いながら俺は周囲を確認した。
しかし…おや?俺の考えとは反し全く罵声が飛んで来ない、それ所かいつの間にか俺は蝋人形館へと足を踏み入れていたらしい。
俺は注意深く、リノアのほっぺを〝ツンツン〟と突っつく、だが全く反応がない。
「……………。」
皆が全く復活の兆しすら見せない事に俺は痺れを切らし不貞腐れた様な声で語りかけ、面白くなさそうに目を細めるとソファーへと凭れ掛かる
「あれだけ聞きたがってたのに…何か言えよな!」
「え…あ…申し訳ありません。しかし閣下…あんなにお強いのにまだLv20代なんですか!?」
アンヌが驚きのあまり手に持っていたハンカチを床に落としていた。そのハンカチ笑いを噛み殺すのに使った訳じゃないよね?
ミアが肩を竦めながら、溜息を吐く。
「いや、それはないわよねぇ〜?」
「いや、俺28だぞ?レベル。」
「「「えぇぇー!」」」
俺はあまりの大声に両手の人差し指を耳の穴へと突っ込んだ。
「そもそも閣下に教えて頂くまでレベルと言うモノが存在すると言う事自体知りませんでしたが、閣下のお話では私でもレベル46なのですよね?そんな私を簡単に捕まえる事が可能な閣下がレベル28って少し可笑しくは無いでしょうか?」
するとアンヌが落としたタオルを拾い上げながらアルが口を開く。
「閣下もしや魔力量の差でしょうか?」
俺はニヤリと口角をあげ、笑みを浮かべる。
「さすがアル、黙っていると思ったら考えてたのか。ただそれだけじゃ半分だけかなぁ…50点いや、60点ってとこかな?」
「60点ですか…それはそれは。」
アルは残念そうに肩を竦める。
「それで閣下その魔力量の差とは具体的にどれ程離れているのでしょうか??」
アンヌがチラッと視線をアルへと向け人の悪い笑みを洩らす。その笑みは〝所詮お前は60点の男だ〟と雄弁に物語っており、一瞬アルの左眉がピクリと反応を見せた。
えっ?仲間内で刃傷沙汰とか止めてよね?
俺は面倒臭い事になりそうな気がして瞼を閉じ考え事をしていたので見てなかったよ?と言う態で行く事にした。
すると横から柔らかい笑い声が聞こえて来る。
「あらあら。うふふっ❤︎そういうあなたも好きよ❤︎」
俺は気まずくなり腕を組んで真剣に考え込んでいる演技を続ける。
今度は逆隣から溜息が聞こえて来た。
「いや、そう言うの要らないから?」
リノアが氷の様な眼差しを俺へと向ける。
俺はもうアンヌの方にしか視線を向けられなくなり強制的に話を続ける事にした。
「そ、そうか…うーん。教えてもいいけどショック受けるなよ?」
「はい、と言いたいのですがそれ程に差があるのでしょうか?」
アンヌが不安そうに問い返して来る。
「結構あるかなーというか俺の魔力量おかしいからな…ちなみにアンヌは自分の魔力量覚えてる?」
「勿論です、以前教えて頂いた数値は確か869だったと記憶していますが…。」
俺は頷いてから自分の魔力量を発表した。
「俺の魔力量は24892だな。」
「「「「は?」」」」
全員の声が揃った。
「いや、パパそれはおかしいでしょ?ヘンタイでしょ?」
リノアは呆れ顔を通り越して気持ちの悪い者、そう露出狂にでも会ったような視線を俺へと向けて来る。お前最近反抗期だよな?
「あらあら、あなたさすがねぇ〜❤︎」
ミアは納得するような嬉しそうな暖かい笑みを俺へと向けてくれた。
うん、先程のダメージが癒される。
「いやはや、閣下。」
アルがこめかみを押さえ即座にマッサージを開始した。
「私より24000も多い…流石です、閣下!」
アンヌはショックを受ける所か〝とろん〟とした表情へと変わり崇拝するような瞳を俺へと向けて来ていた。
「それで私は60点しか取れませんでしたが他のお答えをお聞きしても宜しいでしょうか?60点でしたが…」
アルが何度も視線をすまし顔のアンヌへと向けながら60点を強調して来た。その唇は完全に窄められており、既にイジケモードに突入していた。
俺はかなり面倒臭くなってしまい、ジト目でアルを睨むと思わず深い溜息を吐く。
アンヌはすまし顔から一変満足そうな恍惚とした表情でアルを見つめる。アンヌはドS過ぎるだろう。
「はぁ〜っ。じゃ説明するけどもう1つは身体強化の魔法のレベルだよ。」
「スキル自体のレベルでしたよね?それはそんなに変わるものなのでしょうか?」
俺は少し考えてからアルに提案した。
「口で言うよりもそうだなぁ〜…アル一度強化して見て。」
「はい、畏まりました、早速行いますか?」
「いや、一度アルの素の状態をメモ帳に書き写すけどいい?」
「ええ、それは構いません。」
俺はすぐにアルを鑑定してメモ帳にステータスを書き出した。
「よし、書けた。」
俺が記入したモノを即座にリノアが受け取ると翻訳してアルへと渡していた。流石です。
【名前】アルキオス(47)
【Level】38
【性別】男
【種族】亜人種 人狼族
【職業】護衛官
【体力】1334/1334
【魔力】694/694
【力】121
【素早さ】288
【防御力】179
【魅力】81
【スキル】格闘術lv3 護衛術lv3 身体強化lv2 索敵lv2
「人狼族は基本ステータスがたけぇな」
「おぉ、これが私のステータスというヤツですか、こうやって見るととても分かり易い。」
リノアも自分の物と見比べアルの凄さを実感したのかキラキラとした瞳を向けていた。ミアも自分の物と見比べている。
「へぇ〜アルってば本当に凄いのね!」
「いえ、その様な事は…恐縮です。」
俺もアルが護衛なら安心だと思い〝うんうん〟と頷いているとアンヌが一人寂しそうにしていた。
アンヌの分をメモ帳に書き出していませんでした…。
「も、勿論、アンヌも後でな?」
俺は大慌てでアンヌへと話を振った。
「私もよろしいのですか?」
「一人だけ仲間外れになんてしないよ?」
アンヌはその言葉を受け満面の笑みで頷く。
「さて、それじゃアル身体強化をお願い。」
俺がそう言うとアルは1度頷いてから身体強化を使った。
「今の状態はこんな感じに見えてるんだよ。」
俺はアルの先程のメモ帳を受け取ると、身体強化使用後の数値を書き足して行く。
【名前】アルキオス(47)
【Level】38
【性別】男
【種族】亜人種 人狼族
【職業】拳闘士 護衛官
【体力】1334/1334
【魔力】694/694
【力】121(+138)
【素早さ】288(+138)
【防御力】179(+138)
【魅力】81
【スキル】格闘術lv3 護衛術lv3 身体強化lv2 索敵lv2
「成る程。」
アルがメモ帳を見ながら納得した様に頷く。
「それさ、身体強化のスキルレベルが1上がる度に総魔力量の約10%様になってるぽいんだよ。本来なら138.8なんだけど小数点以下は切り捨てなのかな?」
「どう言うことでしょうか?」
アンヌがよく分からないのか不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「アルの魔力量は約700だろ?んで、身体能力強化のレベルが2、レベル1毎に10%だから、アルの場合は20%で、700の20%だから140なー。」
アルは何度も頷いており、時折アンヌへと視線を向けると先程のお返しなのだろうか?ニヤニヤと笑みを浮かべている。
アンヌは全く相手にしていないと言うか視界にすら入れず、しっかりと俺の説明を聞いていた。
男の方が絶対器小さいよね…。
ミアは何とか分かったみたいで嬉しそうにしてる。
ちなみにリノアは飽きたのかカフェオレを飲みながら漫画を読み出していた。
とうとう漫画デビューですか、いつかやるだろうとは思ってたが、思ったよりずっと早かったな!
「閣下?」
「いや、俺はまだ大丈夫!」
アンヌが不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。俺はそれに答えるようにサムズアップしておいた。
「はぁ?それで閣下は一体幾つ身体強化であがるのですか?」
「あー俺?約12500かなー。」
「それ程閣下と差があったのなら私が簡単に捕まるはずですね。」
「流石あなたねぇ〜❤︎」
「閣下ご説明ありがとう御座いました。」
アルはお辞儀をした後すぐにリノアの後ろへと控えて立つ。
そのリノアはもう完全に飽きており漫画の方が大事らしく〝さすがさすが〟と言いながら漫画にポテトチップスをプラスしている始末である。
(ぐぬぬぬっ、いつか見てろよ!)
それから寂しそうなアンヌを鑑定してメモ帳に書き写す事にした。
「さて、それじゃアンヌの鑑定もやってみますかね。」
「あ、はい。お願いします。」
アンヌも見える形でやはり欲しかったらしく、身体全体から嬉しさが滲み出ておりその背景にはキラキラと瞬く星が散りばめられている様にすら見えた。
うん、一人だけ仲間外れは嫌だもんね。
ウンウンと俺は何度も頷き早速鑑定をかける。
【名前】アンヌ(27)
【Level】45
【性別】女
【種族】人族
【状態】良好
【職業】メイド アリヒトの信者
【体力】799/799
【魔力】971/971
【力】85
【素早さ】79
【防御力】61
【魅力】78
【スキル】短剣lv5 火魔法lv1 身体強化lv2 回避lv2 索敵lv3 投擲術lv2
鑑定後すぐに俺は遠い目をしながらタバコを吸い始める。
「か、閣下如何致しました?」
「いや〜?今日も良い天気だと思ってさ。」
「か、閣下しっかりなさって下さい!今は夜ですよ!奥様、閣下が閣下が!」
アンヌが大慌てでミアの名を呼びながら助けを求める。
「あらあら。うふふっ❤️あなたきっと素敵なモノが見えたのね。良かったわね♪」
ミアは相変わらず人が困っているのが大好物な様で助ける素振りすら見せない。
それからタバコを一本吸い終わる間に何とか覚悟ができ、信者の部分だけは書かずにアンヌへとステータスの書いたメモ帳を手渡した。
メモ帳を見ながらアンヌがワナワナと震え出す。俺は信者の部分は消した筈なんだけどなと不思議に思いながら視線をアンヌへと向ける。他の皆も同様の様で、皆顔を見合わせながら小首を傾げていた。
するとガバッとメモ帳から顔を上げたアンヌが凄い勢いで俺へと詰め寄ってくる。
「か、閣下!閣下!こ、これ、これをみて下さい!」
アンヌはそう言うや否やメモ帳を俺の顔に貼り付ける様に押し当てて来た。
「うおっ!アンヌ、アンヌ悪いけど見えない!」
俺はアンヌの肩を掴むとそれ以上突っ込んで来ないように押さえつける。
「あ、ああ。申し訳ありません。動揺してしまいました。」
恥ずかしそうにアンヌが視線を足元へ向けると、面白そうな顔をしたミアがアンヌの側へと寄って行く。
「アンヌがそんなに取り乱すのは本当に珍しいわね?一体どうしたの?」
ミアが声を掛けるとアンヌはミアへと視線を移し手に持った、メモ帳をミアへと渡した。
他の二人も気になったのか、ミアの元へと寄って行く。リノアはしっかりと漫画の続きが分かる様に、チョコボー◯の箱をページの間に置いてから来ていた。いやもう新しいお菓子食ってたのかよ。
「アンヌよく分からないんだけど、どこかステータスでおかしな所あったの?」
ミアが不思議そうにメモ帳に目を通しながらアンヌへと尋ねる。
「いや、信者の部分は消した筈だけど?」
するとミアとリノアが嬉しそうに黒い笑みを向けてくる。
俺は二人からの視線を受けてもイマイチ理解し切れていなかったのだが、アンヌの言葉で滝の様な汗が額から流れ出す事になった。
「閣下、あの…信者とは一体何の事でしょうか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべながらアンヌが聞いてくる。
「あ、ああ、違う。間違え。間違えた!暗殺者の部分は消えてたのに何かあったの?って言いたかったの!しかし職業って消えるんだねぇーふーん。あはは。」
「あなた…無理があり過ぎるわよ…。」
ミアがボソッと呟くが俺は聞こえないフリに徹する。リノアも肩を竦め、アルもしっかり聞こえてたのだろう、こめかみを押さゆっくりと首を左右に振っていた。
「ま、まぁいいじゃん。それよりアンヌは一体何をそんなに慌ててたんだよ?」
「そう、それよ!一体どうしたの?」
ミアは絶妙のタイミングで手助けをしてくれる俺いじりのプロか何かだろうか…。
「あ、ああ。そうでした。ここをみて下さい。」
アンヌはミアが持っていたメモ帳を受け取ると、文字が書かれている方を皆に見せるようにしながら左手で持ち魔力の欄を右手で指差した。
「魔力がどうかした?」
「うーん。」
「あっ!」
「ふむ、成る程。」
俺とミアが考え込んでいると、リノアとアルが気が付いたのか、同じようなタイミングで声を上げる。
「アル、今のはわたしの方が早かったよね?」
「そうでしょうか?お嬢様と同じ位だったと思いますが…。」
勝ち誇った表情でリノアが告げるとムッとした表情でアルが言い返す。
「あーもう。どっちでもいいんだよ!」
俺は焦ったくなり間に割って入る。
「「そんなに気になるなら(御自分で)自分で(お考え下さい)考えれば?」」
「お前ら仲良しだな!」
ミアは肩を竦めアンヌへと向き直る。
「それで、アンヌ魔力がどうかしたのかしら?」
「そうか、アンヌに聞けば良かっただけじゃん。」
俺は右手でグーを作ると逆の掌をポンッと叩く。
「はい、実は魔力が上がっております。」
「え?本当に?」
「アンヌがさっき言ってた数値は間違い無いのよね?」
「はい、閣下に教えて頂いた数値を間違える筈が有りません。間違い無く869でした。」
俺とミアはステータスの書かれたメモ帳を覗き込む。
「上がってるわね。しかも102も…。」
「アンヌレベルは上がってないんだよな?」
「はい、全く上がっておりません。」
「うーむ。」
俺は腕を組み唸る。ミアもさっぱり分からないと言うようにお手上げのポーズを取っている。
結局何も浮かばないまま俺はドサッとソファーへ腰かけるとズルズルと埋もれるように凭れ掛かる。
「リノアとアンヌの共通点って何だ?アルは全く上がってなかったし、俺は…。」
【名前】アリヒト・フォン・コンノ(32)
【Level】28
【性別】男
【種族】人族
【状態】良好
【職業】公爵家当主
【体力】369/369
【魔力】25012/25012
【力】51
【素早さ】47
【防御力】32
【魅力】51
【スキル】鑑定LvMAX 槍Lv3 火魔法Lv1 水魔法Lv1 身体強化Lv5 格闘Lv2
「あー皆さん。俺も上がってるんですけど、どうしたらいいですか?」
皆一斉に視線を俺へと向けて来る。その瞳は〝お前はもう上がる必要はないんだよ〟と雄弁に物語っていた。
そんな中ポリポリと言う音が聞こえ出す。リノアが今度はポテトチップスに戻っていた。なんだ、まだ残ってたのかよ。そう思ってみてみると、ポテチ、チョコ、ポテチ、チョコと交互に食べ始めた。え、何あの高度な食べ方…。
俺が驚きのあまりリノアを凝視しているとアンヌから声が掛かる。
「あ、あの私とお嬢様と閣下だけが魔力が上がったのですよね?」
「うーん正確にはミアはまだ分からない。が正しいかな?アルは上がってないんだよね?」
「はい、残念ながら私は上がってはおりませんね。」
リノア以外の全員が唸り出す。
「俺とリノアとアンヌの共通点って何だ?」
「何でしょうか?もしかしたらそこに奥様も入られるのですよね?」
「あぁ、魔力が上がればそうなるねぇ。」
大人組が。考え込んでいるとリノアが口を開く。
「取り敢えずママの結果が出てから考えればいいんじゃない?」
それだけ告げるとまた幸せそうに交互に食べ始めた。
いや、お前って本当に自由人代表みたいな奴だよ。
俺たちは何と無く全員で頷き合うとリノアの意見を採用する事にした。




